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第33話 英雄を殺した男

 「うぉおお内臓を破裂して溺れじねぇ!」


そしてその直後。


ボン!


肺の内側から水が“爆ぜた”。

まるで肺そのものが弾けたかのように、呼吸の一瞬が爆発した。


「ッぐぉおおおおおッッ!!ヴォ!」


ガルシドュースの口から血と泡が混ざった塊が滝のように噴き出す。


 気管は完全に満たされ、胃も腸も水で膨れ上がる。


これが神術の恐ろしさ。

変化したガルシドュースの体の強度はすでに、人間離れ、いやそれすらも遥かに超えている、超常と呼ぶべきであった。

もはや器官の全てが特殊体質を超えている。

例えるなら、ムハノの砕き肌、いや、ベックオのような焼結骨すら超えている。

彼が今の状態!気管はベックオの気圧管以上!骨はその焼結骨以上!まさに人間を超えた存在!怪物と言うべきか。

しかし。しかし。しかーし。


なのに破裂するほど、いとも簡単に形を歪められては膨らむ。


 迎える結末は見えてくる、体内からの溺死。


いや、これはすでに自然現象ではない。自然には起きない、合理的でない。非合理だ。あまりにも非合理だ。

だが神術に合理を求めてどうする。


 「ゔぁゔぁばば!」

神術によって生じた水。外だけでなく、肺の中からも産出されている!


 本来、空気を交換する肺の膜を、神術が作り出した水滴の侵入でそれは、肺を覆い被して、ジュグ=ガへべスの体を覆う膜のようになる。


水の膜は水をどんどん吸い寄せては、息すらも通さないように厚くなる。

やがて呼吸ができなくなり、体の中を気体が充填するのではなくなる。

そのまま水分だけになり、強制的に拡張させられるように、呼吸のたびに体が膨らむ。


 「ゔわー」

顔の皮膚が裂ける。

皮膚下の毛細血管が、内部の、その血液などの液体が、煮沸されたかのように泡立ちしては膨らむ。


(水が生成されてしまう。体そのものを水にされてしまっている!)


そう錯覚するほどに、ガルシドュースの体は勝手に水を作ろうとしていた!

「うゔぁゔぁゔぁ」

(水が水が、上がってみず)


ズチャアァッッ!!


限界に達したか、破裂音がしたのと同時に、ガルシドュースの背中から大量の血が吹き出る。


否!

意図的に、背中の皮膚を破り捨てたのだ。

人工的に破裂を避けるための空間を作り出している。


 水が、気道を通って沈んでいくのなら、体外へ別ルートを開くしかない。


 「ガッ、……オォ……ッッ、グヴアアアアアア!!」


 水の奔流が、背中から逆噴射する!血肉混じりで赤くなっていた。


 飛沫の圧力から見るに相当な、いや、恐ろしいほどに水がガルシドュースの体内で生成されている!



 体の筋肉、特に背筋群を使って、主体的に背中をぶち破り。

絞るように圧縮しそれで裏側から水を絞り出している。


しかし破裂を避けられたとしても、肺が膜に覆うわれているには違わない。

呼吸すらできないし、超常的な肺の容量で溜め込んでした空気も、ジュグ=ガへベスが水の膜を操って肺から剥がした。

ここで火の神術を使えば抵抗できる。

だがアスフィンゼに影響を及ぼしてしまう。


(どうする!どうする!)

(呼吸はできない。肺がまだ膜で封じられている。

体内には、生成された水がまだ残っている。

そう圧を感じる。

もうどうしようもない、俺ができることは。)


ガルシドュースは動かなくなった。死んだように、痛みすらも感じなくなったかのように。

息もしていない。


 「死んだか...」


 ガルシドュースは、呼吸を完全に止めていた。

張り裂けた背中の外傷よるものではなく、内側からもう動かない。

自身の意思で肉体を停止させた。


 呼吸をやめた、それだけではない。

 肺の筋肉から何まで全てを完全に弛緩させ、内部圧力が限界まで下がる。

それに連動して、心臓の拍動をも自律的に遮断する。


血流が止まる。


「なんだ..お前ぇ!」


神術で刺激されて、血を、液体を作り出されたり、水に変えられるとするならば、最初から作られないような、死体みたくなればよかった。


いくら増幅しても死体は反応しない。

そして隙間ができる。


肺の内側にできたわずかな空間に微かな空気が溶ける。それだけでよかった。

それを最後の燃料に、再起動するかのよう肺を点火する!


わずかな呼吸の振動を捉えて、肺が避けるように気体を猛速度に走らせては、肺にある血管を破裂させる。

そのことにより肺から胸まで、張り裂けた。


ドドドド!


背中との気圧の差から、爆音のごとく血水が裁断榴の砲弾のように発射されては肺をも、胸骨をも突き破る。


 降り注ぐ大粒の雨も幾ばくかは止められるような勢いの血飛沫。


 ズガアアアアアアン!!!


それに乗って突進を決めようとするガルシドュース。


突進するガルシドュースの右拳には、すでに力はなかった。ならそれごとに爆発させれば良い。

また血が行く。最後の血液の中にある空気を消耗する勢いでやる!


「うぉおおおおお!」


「やぁ.....れガルシド...ぅす」


 ズン!


拳はすでに潰れていた。

 指は骨ごと折れ、前腕は内部かかけて変形する。


残った血液と筋肉の奥深くに潜んでいた極微の空気に対し、破裂が起こっている。それに高速な血の濁流の威力が足された結果。ガルシドュースの肉体すらも崩壊させる威力を発揮する。


一瞬で右腕の内部が、完全に砕け散る。

皮膚は残った血液と一緒に裂け飛び、骨は反動で前方に飛び出す。


 「……!?」


 ジュグ=ガへベスは気づいた。

 膜が自分の意志ではない場所から、わずかに波打っている。



 その瞬間。


 水膜の一部が、まるで滑ったかのように、攻撃の軌道を導くかのごとく、神術の防御膜が逆に流れとなる。


ガルシドュースの攻撃が当たる。


「はぐぅー!」

 手触りはあったが、殴った感触どうも空洞で、軽かった。


 「……はあ、はぁ、ぐふっ……ッ!」


 喉の奥から漏れる息は、もはや音にならない。

 ガルシドュースの右腕は、ただの肉片だった。骨は粉砕され、筋は断ち切れ、神経は爆ぜた。


 だが確かに、当たった。


 ガルシドュースは震える眼で前を見る。

 そこには、膝を突いたジュグ=ガへベスの姿。頬の肉の一部がへこみ、水膜の波動が乱れている。


「……効いた……」


 殴った手応えは軽かった。それでも当たったことに意味があった。


 息が漏れている。


肺の機能は再起動してもまだ完全ではないが息はできる。気管の奥がズズッと水の重みで揺れている。


 ガルシドュースの胸元に、突然青年飛びかかり、ぶつかる。

 そのまま彼にしがみつき、振動の余波でふたりの体がわずかに弾んだ。


 「……ッ、てめぇ……!?」


 肩口を掴んだその手は、しかし異様に力があった。

 ガルシドュースが息を呑む。

(しかし、なんだこれ...今の一発のせいか?こいつから感じる神術がもう薄い。あるいは今なら魔法を...)


 転がる腫れた目、腫れてほとんど開かない小さな瞳。黒い、金属のようなそれ。


 ジュグ=ガへベスの目、それを見た瞬間、声が、質問が飛んでくる。


「……ドゥリンはどこだ?」


「やかましい、すでに神術はもらったー!」

(儀式をしている暇などない、ここにかける!神術の残り滓全部だッッ!)

「グルグナ ニリマ ドラズ アグナ ヴォルトア!」

汝の血を掴み、新しき時より奪い返さん!


「ガデイルガウン!」

(厝寵桎梏)


ドーン

ガルシドュースは相手を吹き飛ばし、その勢いのままにセオリクに近いて、神術で火をつけて彼の再生を進める。

だが顔は酷くなってうた。

ガルシドュースに思うことがある。

(....どうしてだ...神術がもう薄い、まるで衰えたような感触だった。でないと神術持ちに魔法が通じるわけはない。)

考える。



 ……水平線の彼方には、まだ誰も知らない陸地があると、そう信じていた。

 風は潮を孕み、帆を鳴らし、甲板を叩く波音は冒険の鼓動だった。


 「次の島には、火を吐く鳥が棲んでるらしいぞ!」

 「それよりも、金でできた珊瑚礁って話もある!」


 笑い合う仲間たちの声が、甲板に響く。

 船の名は“ナグルド”。

 大陸の北側に位置する人には珍しく聞こえる、ドルザ語を使用した船名だった。

意味はこうある、鉄拳と。

その中で、もっとも深く海を知る男、それがジュグ=ガへベスだった。

人は彼を呼んで、英雄、ガヘベス。


 輝かしくあることが見える、聞こえる。

男よ、常に、言われる、風を断ち、波を斬り、嵐の中で文字通りに船を立て直す、生きる伝説。

大嵐の中に海に潜っては、沈みかけた船を持ち上げて港まで運ぶ。

海の父が化身。

それが彼についた渾名だった。


「だが彼はあまりにも目立ちすぎていた、いくところあれば領主が眼中の釘となり。汚名を被せられる。」


 そこから人は彼を我儘にあると思い込む。

助けられたとしてもだ。

詩人が言うに「海は常に変わる。助けたとしてもその日の気分で、善であるわけはない。」

やがて、信じられてしまう。


「お前か!言いふらしたやつは!汚い顔面へし折って溺れさせてやる。」

ぶくぶく。


やがて、誰も助けてと彼に言わない。


やがて、彼を愚弄する話が流行り始める。

海を固定しようとすれば溺れるだけだ、そうした逸話がもうたくさんある。

「お前か!海に沈めてやるぞぉ!」

ズドーン


やがて、海の父の娘に恋して、そう泡沫にされる男の話とか、もうたくさんだ。

「お前か!?俺をバカにしやがって!」


「ぎゃー俺の腕が、ぶくぶくに!ボコボコ浮き出し、うわぁぁ。」


 そう信仰された地で、男はなお海すらも止めた。

島を襲う大波すらも止める。

「おい、大丈夫か、ババァにくそガキ。」



 「俺はこれから出る、あの地で宝取ってくる。」


「なに、すぐには帰ってくるさ。そして今度はあのくそ領主のドゥリンも殺してやるぞ。」


「痛った!」


「おい、おい」


声がする、目を開けると声がしてくる。


「おい..」


「おいドゥリンはどこだ。」


「海」

「おい、セオリク!起きてくれ!もう傷は治したはずだ!」


「海...」

 「...ドゥリンはどこだ..」


「だまれぇ!おい!」

(なんでたまにぞくりとするような声がするんだ。あんな傷だらけのやつに俺は怯えたのか?)


「おい」 「海は」 「うっ!?」

「うっ...」

「ここ...は?」

セオリクが目を開けて話した。


 ガルシドュースは血と水にまみれた身体を震わせながら、わずかに安堵の息を漏らす。嫌な声とか、傷によるものもたくさんあったが、助けたかったセオリクが起きてくれたことへの嬉しさもあった。


 「セオリク、聞こえるか? 起きろ、しっかりしろ!」ガルシドュースは声を張り上げ、状況を素早く説明する。

「ジュグ=ガへベス、俺たちはそいつに襲われた。神術で俺を追い詰めた。俺は一撃を入れた。わかるか?」


「大丈夫か?」


 「ああ..」

「続きだ、それが持っている神術の力で魔法を使ってお前を治した。」

 セオリクは弱々しく身を起こし、ガルシドュースの言葉を聞きながら、視線にジュグ=ガへベスへを捉える。

そして目が止まる。

そこには、膝を突き、頬に傷を負う男の姿があった。

 「そんで神術を実は魔法で吸った...ん?セオリク?」

セオリクの視線の先に気がつくガルシドュースであった。


 ガルシドュースは無視されていることの不満か、不安か、心配か、続け様に言葉を投げてくる。先ほどよりも速く、多く、話をした。

まるで気を紛らわせるように。

それでも時折、言葉が止まり、頭を抑える。

「大丈夫か?お...うっ...」

(なんなんだ...また変なのが...あのガヘベスとか言うやつの記憶か...うっ...)


「海に」

「うっ!?」


 「ま...ま」


「海」


「もう聞いてくれよ!敵の前だ!」

声を聞くと泣きそうになっているガルシドュース、ずっと戦い続けて、何日も経って相当疲弊したのか。

相当に精神を削られているようだ。

「セオリク、返事しろ、まさかさっきなんとなく聞こえた、海とか言ってた変な女の声が聞こえているのか!?セオ」

  セオリクの目に映るそれは、幼い頃に叔父上から見せてもらった肖像画とあまり変わらず。

「英雄...」


唯一違うものが目つきだった。

しかしそこだけでもあまりにも違いすぎていた。


ガヘベスの目は、まるで遠くの海を見ているかのように虚ろだった。

「ドゥリン...」


聞いて、セオリクは、セオリクは。動く。

 セオリクはかすれた声で、しかしはっきりと告げるような体で話す。


「英雄ガヘベス…ジュグ=ガへべスよ、私が幼いの頃、よく聞いた名だ。海を制し、嵐を切り裂いた男。人は彼をこう呼ぶ、海の父が化身、ジュグ=ガへべス。」


「俺..を知っている..?」


少し間をおいて。


「だが…英雄よ。かの悪徳極まりない孤島が領主のドゥリンはもういない。十年前、島ごと消え去ったのだ。」

セオリクは辛そうな顔で言う。


  ガヘベスの顔が一瞬凍りつく。「ドゥリン...ドゥリン....十年前…? ば....バカな! まだ三日しか…!」


 彼の声は絶叫に変わり、混乱と怒りが混じる。「三日前、俺はここで」

言葉が詰まる。


 彼のこんなふざけた嘘をよくもと、怒りの視線を視線を向けたが、その先のセオリクに見たものに言葉が詰まる。

 そこには、鷹の首を持ち獅子の体の鷲獅子が刻まれた小さな銀色紋章が身につけられていた。


それは、かつてガヘベスが助けたあの、銀髪の少年が身に着けていたものと同じだった。

「...いやきっと」

他人だ、他人だ、拾っただけなんだ、なんだ、なんだ、なんだ。


 (なんだ、なんて似ているんだ。)

嘘をつこうとしてもつけない、あまりにも顔が似ていた。


「お前…知っているか? ガブ・レンズジを。」ガヘベスの声は震え、過去の記憶が蘇る。

セオリクは静かに頷く。「私の叔父だ。剣を持ち冒険心に溢れる男ぞ。」


「ああああ、声までも。」


 その言葉を後に、ガヘベスの目が見開かれる。


次の瞬間、彼は突然自身の喉に手を当て、水で皮膚を切り裂いた。


「なっ!」

ガルシドュースが叫び、そして叫びよりも速くも、すでに反射的に身構えるが、どうやら攻撃ではない。


 ガヘベスの喉から血と共に小さな刻印された石が転がり落ちる。

彼は手でそれを押さえ、血を吐きながら絞り出すように言う。

「受けとってくれ...十年も後の友人よ...」


「は?誰がお前の友だ。」


「この…ふざけた塔を…潰してくれ。この地を…」

そう言って彼の声は途切れ、力尽きたようにその場に崩れ落ちた。英雄と呼ばれた男の目は、もう何も映さなかった。



「は?」

ガルシドュースは呆然と立ち尽くす。セオリクはゆっくりと立ち上がり、ガヘベスの亡骸の瞼をその手で閉じた。


 ガルシドュースは呟く。「なんだあいつ。この塔…何だ?なんだ。」



ガルシドュースは吐き捨てるように呟いた。

 だがその手は、なお拳を握りしめ、肩が震えている。

 振り返ると、セオリクがガヘベスの亡骸に黙って頭を下げていた。

そして足下がふらつく。

「どうした、まだ回復してないか!」

見るに確かに血色が悪くある。

(ぼろぼろの鎧の中でまだ..傷がいくつもあるな...)


「彼は私の憧れのひとりだったんだ...」

切なそうに言う。

しかしガルシドュースはなにを思ったか、それを無視した。

 「……セオリク、どいてくれるか。」


いや、これは話すらも聞いていなかった。

 「ん……?」


 「ちょうど、よかった、そこで。」


ガルシドュースは崩れ落ちたガヘベスの亡骸の近くに屈み、血まみれの右手を、触れさせて。


 ガルシドュースの背中から、今なおゆっくりと噴き出している血と水が混じった液体。蒸発した。

 神術の微かな残響か、否。死んだガヘベスの神術の力を吸収しているッ!


 「死んでるどうかもわからない。でもこうすれば補給と確認が同時に行える。」


ガヘベス体は火に包まれて、やがて煮沸されたかのように蒸気に包まれる。

最後はぐつぐつに煮込まれたように溶ける。



 「絞り尽くしてくれる!」


 ビリビリ、と血と混じった神術の水が燃え出し、蒸発すると、蒸気がガルシドュースの体に取り込まれていく。


 セオリクが驚く。「貴、貴公……なにを」


「治してやる!」


「お前の内臓はまだくすぶってるはずだ。」


 「ぐぉおおおおっ!!」


 セオリクが絶叫する。

 だが次第に、裂けた皮膚が縮み、内臓の破損が治癒されていく。


 苦しみにもがきながらも、セオリクはそれを見て確信する。


 「……英雄が…………体が……萎んでいる...まさかそれは……吸ったのか?」


ガルシドュースの顔が、笑っていた。いや、笑ってしまっていた。


 「ハハッ……あぁ、吸ったよ。文句あるか?生き延びるためだ。お前を速く治すためだ!」


「なぜ...死を、冒涜する。」


 「あ?」


 ガルシドュースの気配が、一瞬で火のように立ち昇っていく。


「敵に同情するのか?だいたい死ねば全部終わりだ。」


振り返ったその顔には、怒りとも悲しみともつかない、狂気的な顔だった。


 「誰が!誰がお前を助けたと思っているんだッ!!」


 その怒声が塔の内壁に反響し、石が震えた。


 「お前はなぁ、もう死んでいたんだ!胸に大穴開けられて、お前の肺も心臓も、全てグチャグチャだったんだぁ!!」


「なのになんで気が狂ってるやつの味方をしてんだよ!」

「どこにお前を信憑させるものがある?あ!」


何が何処を、彼をこうさせたんだ。

なんでここまでも気を動転させてしまっているんだ。


セオリクは思わずにはいられなかった。

むしろ、誰が見てもそう思うだろうと、セオリクは考えていた。


けれどもそれよりも思うことがあった。

「...不義だ。あまりにも。」


セオリクは、憧れていた英雄がひとりにされたことを許せずにいた。


 「俺はお前に、生きてほしいかったんだ。それだけだ……!」


「なのにどうして、いきなり襲いかかってきたこいつを信じる!?」

声の主ガルシドュースはセオリクに共感してくれない。

その声にセオリクも何も同感を示してはくれない。


両者共に思うことがあり、体も優れなかった。

 そこで思いがぶつかったしまったのがまずかったんだ。きっと。


 なんとなく、気持ち的な、雰囲気的な、ものが両者の中にある。相手の言いたいことがなんとなくわかる。


しかし人間というのは、わかっていても感情に流れるから。


 ガルシドュースの表情が少しずつ冷めていく。

体から出る火を弱める。

「..俺の聞こえ間違いか?なんとか言え。」


弱めた火の音を背景にセオリクは言う。

「火の音ではない..消しても無意味であろうに...もう貴公には失望した。」


シュー

さらに火の勢いが弱まる。音からでもわかる。

同時に。

 火が消えかけたように、ガルシドュース目の光も、弱まっていく。

しかし強い口調の言葉がハキハキして、ガルシドュースの口から出る。

「人を襲う悪いやつ倒して、人を助けた。」

 「……それが、いけないって言うなら━━」

ドッ!







 背を向ける。


あの大きな音はただの足踏みの音だ。


 しかし相当に怒っている。重たく、大きな音をしていたからだ。

(ガルシドュース...なぜだ...)

 「もう……お前とは一緒に歩きたくもない。」

静かに言って、彼は歩き出す。

 火の残滓の灰が彼の足元に伝わり、塔の奥深くある闇に続く道を照らした。 

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