目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第34話 鷲の団

「...お前とはもう歩けない。」



ガルシドュースが投げつけた言葉に反応をするセオリク。

「待て..」


 セオリクのその言葉に、ガルシドュースの足が止まる。


 沈黙。

 ほんの数歩、離れただけの距離が、やけに遠く感じられる。


 その声は弱かった。

 だが確かに、迷いではなく、決意が滲んでいた。


 ガルシドュースは振り返りもせず、低く笑う。


「なんだ?やっぱり気が変わったか?」


セオリクは首を横に振り、そしてゆっくりと、地に伏したジュグ=ガへベスの亡骸へと目をやる。


「...彼を運ぶのを手伝ってくれたまえ、この男を外で、眠らせてくれ。」


その言葉に、ガルシドュースは眉をひそめ、声を低く震わせて言う。

「死んで価値がないやつに情があるのか?お前、狂ってるな。」


次の瞬間。


 ガルシドュースの足が地を砕いた。


 ズドン!


 燃えたぎるような火だ。

懐かしいほどの神術の感覚とともに、爆発するような跳躍。

と言うよりもう爆発している。

 足元の石床が吹き飛び、火の奔流を纏った彼の彼の身体が宙を舞う。

同時にガヘベスが落とした石だけを巻き上げていく。

 ガアアアン!!


 壁に巨大な穴が開く。

 神術によって強化された存在が、その存在のガルシドュースの体が開けた。


天井に開いた穴の向こうへ、火の残滓を残しながら、ガルシドュースの姿は消えていった。


 爆風の風圧に、セオリクの銀髪がふわりと揺らめく。

 地にはまだ温かい死体があり、それはかつて英雄とまで呼ばれた、跡形もばく、面影もない、そんな男の骸があった。


 セオリクは。一言、誰にも届かないような声で呟く。


 「……君のような男に、私はなれない。」

誰ともなく、ただ一言いい、熱いその肉塊を掬い上げるようにと、手で抱えるようにと、ひたすら繰り返す。


空にぽっかり空いた大穴。

やがては、そこから火の粉が降ってきていた。

セオリクはそれを避けようともせず。


 ズダダダダ

立ち上がる硝煙の場所。

焼け焦げた石の床に、熔けた金属のような跡が残る。


 「ハッ……ハハハ……ッ!」



 ズガァン!!


まるで岩山を登る猿のように、あるいは海を泳ぐ海獣のように、ガルシドュースは塔を縦横無尽に駆け巡っていた。

雄叫びを上げながら。


重たい足音が響く。


 振動が、床板の下まで伝ってくる。

 まるで巨人が、足を引きずりながら、歩いているみたいだ。

あるいは、龍が体を捩りながら歩いてくるるみたいだ。


重たい響きが、自分の歩みに重なる。

自分の歩み自体が重厚で重たいんだ。


 天井が低い。


 いや、俺がでかくなっただけか?

それとも歩くのが早すぎて、段差とか気にせずにずっと進んでるかもしれない。

 たまに両肩が石壁に当たっては、火花が散る。匂いがする。焦げた匂いだ。


 息が熱い。


 鼻から出るだけで、壁にある赤い根が焦げたのを見た。


 火の神術がとてもいい感じだった。

体中から溢れる力。

初めて魔法で神術を吸ってみたが、うまくやれた。

いい気分だった。

魔法だけでは決してできない。しかしこの神術さえあれば、儀式や贄などなくとも自在に俺がほしいことがやれる。


なんなら。

 下手をすれば、今の俺は空気吸うだけで全てを焼き尽くすかもしれない。




止まらない。


 止まれない。




 歩くだけで、石の床が砕ける。


 爪先が触れたところから、亀裂が走ってる。蜘蛛の巣みたいに。


幸福感?高揚感?

いや....


 達成感だった。


まるで大昔の目的が今やれたみたいに。

おそらくは記憶の一つだったろうが、今はとにかくこの気持ちを楽しみたいから無視した。


速くすぎて、風が起きて彼の身体を切り裂こうとも、火の神術がそれを焼き払い、頑丈に変化させた体にはまったく効かない。


 彼は進む先に道を開き。目指すは、力を試す何か。

 もうその姿は、まるで流星のようだった。高速で音すらも置き去りにする赤く燃える存在。

爆発的な蒸気が上がり、至る場所の水気が沸騰する。

 彼の通り道、いやその付近さえも焦げた匂いで満たされた。

「もっとだ! もっと強い敵を! もっと燃える戦いを!」


「これか…! これが俺を待ってたんだ!」

 火の神術を全開に放つ。もう姿はまるで神話の怪物そのものだった。


「ふははははははは!」


そうしてたくさん暴れ回ったが、上に行くことはまだない。

天井が恐ろしいほどに分厚く、今までとは違う、いや単に気づかないで、今までも、ただ、特定の場所に辿り着きはして、そこが薄かったかもしれない。

(底が薄い場所を探してみるしかないようだ。)


 やがて大きく広い場所に出た。死体は相変わらずにある。

(なんか、最近ずっと変な場所行っては急に大きな部屋出てくるな。)


壁は黒く、ところどころに赤い根があるのは同じだが、ここではかなり光っていた。

根に光が走っている。

ガルシドュースは目を細め、あたりを観察した。


(またなんか奇妙な光とか感覚じゃないだろうな。


彼は神術で視覚を強化し、防御と観測を同時に行う。

そう、神術であれば、暗示や催眠すら効かないのさ。

そこで光が強まる時間を計る。すると、壁の一角で光が一瞬強く輝き、すぐに消えた。

「本当に同じかよ!?」


つい最近までいた白い光が出る部屋に似て、ここの、光もおかしいことが一瞬でわかる。


詳しくみようとするガルシドュース。

死体がそこらに散らばっている。

壁に近づくと、そこには小さな紋様が浮かんでいた。触れようとした瞬間、床から鋭い何かが飛び出し、ガルシドュースの足元をかすめた。

 かすめたと言うよりはガルシドュースが回避したと言うべきだが。

続け様に頭をぶつけてそれを打ち砕く。


勢いに任せてそのまま地面をぶち抜く。



先にあるのは

 煤けた皮鎧に包まれた傷だらけの中年男、呼吸が荒く、視線が怯えている。


 ガルシドュースが火の神術で視覚を研いた目を輝かせて、相手の視覚を奪おうとする。

眩しいほどの光があたりを照らす。



ドサ


目眩しで動かない男を持ち上げ、床に叩きつける。


「うっ」

衝撃で男が気を持ち直す。

  「お前は誰だ?」


 ガルシドュースの目に光が付いていたままだ。

おそらく、次の瞬間、もし気に入らない返答が返ってきたら──この広間を一瞬で焼き尽くすだろう。


男は、痛みからか。恐怖からか、緊張からか、あるいはその三者か。カタカタと歯軋りをしてなかなか、答えてくれない。


「答えられないか?」


催促が来る。

ギリギリの緊張の中で言葉を搾り出した。


 「……金だ。ただの宝探しだ。金目のものがあるって噂を聞いて……来ただけだった。」


 「で、お前一人か?よく死ななかったな。」


「いや違」


 「ならさっさと答えろ!殺すぞ!」

ガルシドュースが男の首を掴んだ。

「ヒェッー!」


「ヒェーじゃない!答えろ!!!」

ガルシドュースの手の指が男の首に食い込むほどに握られる。


ドッ

男を放り投げ、ガルシドュースは言う。

「機会はやる、話せ。」


 「許して、許してください!」


「おい!」


「許してくれー!なんでも」


 「黙れ!だったら俺の言う通りに話せ!」


パンとビンタが飛ぶ。

「ゔうわぁ!どっちふぁんだ!ほぉのすかぁ話さないか!」


「今なんて...」


「えぇ..?」


 「今なんて言った!質問しているのは俺だろうが!」

ドッ!


ガルシドュースが男を蹴り上げる。

只事ではないこれは、いつもならこんなに粗暴なはずではない、感情任せな粗暴さではない。


 「いたーい!ああああ。」


「...チッ。」

(どうした...俺!)

「オラァ!」


グッ!


グツグツ!


燃える音だ。

ぐち、ぐち


 何かが、肉がぼろぼろになる音だ。切られたような、あるいは。


「あああああああ、いやああああああ」


 グツグツ


「ああああああ...あれ?傷が治ってる?もう痛く...」


「さっきは悪かった、もう痛くないだろ。」


「え?え?え?!」

 「落ち着け、落ち着いてくれ。」

(俺が一番に落ち着いてないが。)


「なっ..に?」

「もう痛いのはしないから。」


「え..?」


しばらくして


「落ち着いたか。」


中年男は涙目にして、息もあまり上がらないままに話す。

 「ああ。死んだんだと思った。気づいたら、あちこちに罠があって……気づいたら、黒い根に全身を絡まれて……何日も意識がなかった。目覚めたとき、周りは死体だらけだった。……そして俺はあんた...あなたに起こされた...おこされました。」


 「……起こされた、ね。」


 ガルシドュースは、どこか呆れたような笑いを漏らす。


 「お前、自分が生きてることに感謝してるってんなら、少しは口を利き方もあるってことだよな?」


 男は、びくりとしてぐしゃぐしゃに涙と煤に濡れた顔を上げ、ゆっくりと頷く。


ガルシドュースは顔が引き攣り、冗談のつもりが、通じないことに気づく。

(やっぱ俺...普通じゃないな...)


 「……助けられた、くれた、ありがとう...ございました。」



(だが、怯えてもらった方が都合はいい。よし。)


 「言えたな、それで、なんで俺を襲った。」


 「だって……お前、化け物だろ。」


 その言葉に、一瞬ガルシドュースの顔が止まった。


 「……は、化け物。お前、それ、わかってて言ってるか?」


 「わかってる……よく見た。あの火。あの力。歩くだけで、床が砕ける。声すら、壁に反響する。」


 「……ほう。」


 「いいや、で、なんでここいる。」


 ガルシドュースの目が僅かに細められた。


 「……金か?」


「...金だ、じゃなきゃこんなクソみたいな場所にはいねぇ。」


 「へぇ...詳しく聞かせてもらうぞ。」


 「そ、それは」


 「話さないのか?」


 男は少し言葉に詰まったが、やがて苦笑するように首を横に振る。


「...俺は恐ろしいぞ。」


「...」


「仲間を待っているのか?それで俺を囲んで襲うのもいいぞ、手間が省くし、待ってやる。」

 「……死んじまったよ、そんなのは。」


 静かに響く言葉だった。


 その一言が、なぜか、わずかにガルシドュースの心に引っかかる。



 「名は?」


 「……ンガヴィグ。」


 「クソみたいな名前だな。」


 「うるせぇよ……こちとら家畜みてぇに育って、それっ……ッ」


 ようやく毒の一つでも吐けるくらいにはなって、ンガヴィグの表情も戻っていた。


 ガルシドュースはそれを見て、興味が出たのか、腰を下ろして、体を地に落とし、座して言う。


 「……殺さないでやる、気の大きいやつは好きだ。」


 「そそ……」


「だが、お前の持っている物資を全部置いていけ。」


「そそ、そんな」


「お前、やはり口の聞き方がわからないのか。」


「無理だ!無理だ、そもそもここで死体食っうことだけで」


「あるだろう、身につけてるやつ。」

 「話を聞かないやつは好きじゃない...」


 そう聞いてンガヴィグは焦りながら弁解する。」

「せめて俺にいいことはないのか!頼む!」

「お前」

 「違う、ただ何か言おうとして!助けて!」


「言っただろ?面白いやつだ、気に入った、殺さないでやる。そう話した。」

 「ぅえ..?」

「だが!」

 ガルシドュースが声を低くして言う。


「嘘をつくのは好きじゃない、よくないぞ。」

「うううう...」

「だから、物資がないと嘘をついたのも良くない。」

  「やめろ!くるなぁ!」



そうしてガルシドュースは相手の身包みを全て剥いで出た。

 「肌着だけは残してやった、感謝しろ。」

「いてぇ...せめて優しくしろよ...なんか体にあとできてるし。」

しかしガルシドュースは一向に男の進む方向を塞ぐ。

その間に男が方向を変えても、ガルシドュースはついてくるから、やがて、地面に円の形すらできる。それほどに、ガルシドュースは回っていた。

 「……何があるんだ?なんで..まだ見逃してくれないんだ。」

そう弱音を吐いているが、男ンガヴィグの心の中は強気であった。

(ぶっ殺してやる。お前を食ってやる、あの女のように。化け物め。)


 震える男を隣にガルシドュースの目は、少しだけ遠くを見ていた。


 「お前を先に行かせて、危険を見てもらうに決まっているからだ。」


「なっ!?」

「これはお前が嘘をついた罰だ。」


 「えぇ!?」

「次嘘ついたら、お前を殺す。」

「えぇ!」

「もちろんお前は言ったことも考えてやる。」

「えぇ...?....?」

 「俺からお前に感謝はする、ありがとう。」


 ンガヴィグは息を飲む。

「は?」


 「前を歩け。」


冷たい声が背中に突き刺さるように感じて、ンガヴィグの背筋が凍る。

(いや、凍てはいないが、凍ってる気分だ)


スタ

 歩く。

歩かないといけなかった。


カツ、カツ……と靴音が響くたび、反響が返ってくる。それだけの音が不気味である。


 「……ついてきてんのか?」


ンガヴィグがぼそりとつぶやく。

 答えはない。ただ背後から、火の燃える音がしていた。


 「何がつもりだ……何をしようとしてやがる……」


 ガルシドュースは答えなかった。


 道はゆるやかに螺旋を描いている。途中、折れた柱、半ば溶けた壁、地に沈み込んだ鉄骨。そして変な焚き火のあと。

(なんでこんなのが?外にもあったが、こんな金属の支柱?使うのか?)

いずれにせよこの塔で何者か争った痕跡が、点々と残っていた。


ガルシドュースの考える時に、ンガヴィグは少し様子がおかしかった。

なぜならば。

 ンガヴィグは知っている。ここである。あの男から離れるには。


 (──あいつらはここに目をつけている。)


 彼は立ち止まった。目を伏せ、ゆっくりと息を吸う。

それを見て後ろにいた、ガルシドュースが言葉を吐く

「ん?」

それだけではなかった。

(なんだこれ?)

塔の湿った空気に、微かに違う。匂いが混ざっていた。



 「おい、止まるな。」


 ガルシドュースの声。

 ンガヴィグはちらりと振り返る。


 「……先に行けよ。」


 「お前が先だ。俺は背後を警戒する。」


 「ふん……用心深ぇこったな。ま、わかったよぉ!」


バッ


 ンガヴィグの足が滑るように動いた。

全力で前に滑り込むように飛ぶ。



 ドゴォンッ!!


 煙と音響で視界が一瞬真っ白に弾ける!

 爆音の中、別方向の天井が砕けて落ちた!


 そこから現れたのは──


 武装した二人の存在。に見えるが。死体というべきだろうか。


「...やっぱおかしいと思ったけど、こいつらお前の仲間か?」

 見るに。

 顔を隠した黒装束の男と、裁断榴に似たようなものを構えた細身の女。

二人の千切れた上半身を手に持ちながらガルシドュースは言う。


「くそだなぁ、こんな雑魚が最後の賭けか!?ん?」


そう言ってもガルシドュースの心の中はウキウキしていた。

神術がまだ体を充満していたせいもあるだろうが。

思うに。

 (面白いな、あのンガヴィグとか言うやつ、何をするんだァ〜?)


見ると、ンガヴィクグは

 腰の内側、から何か出した、いや尻のあたりから引き抜いた何かがある。

それを──真下へ放る!

何個かはなぜか遠くまで飛んだが、気にしている暇は、もうンガヴィグになくいのか気づいていない。


 ではこの場でこれに気づいたのは?

それはガルシドュースだ。

肉体の変化と神術の強化のふたつで彼の身体能力はすでに変化なしでも、超常的で、ンガヴィグの動きが鈍く見えていた。


 だが、なぜ見えたのにガルシドュースは止めないんだ。

 それを証明する時間や出来事が起こる時間もなく。

ドーンと音がして、ンガヴィグの真下に窪みが少しでき、ンガヴィグはその穴に匍匐しながら入り込む。

「んん...きっつ、入らない。」

 何個も外したせいだろうに、ンガヴィグは穴に入るのにかなり苦戦していた。

「やれー!」


 女の叫ぶ声が聞こえる、同時に、爆音!


 パンッ! パンパンッ!


それは裁断榴のような爆発音、だが少し音は小さくある。

 反響する。そして何かこちらに飛んでくる。

ちょうどいくつかンガヴィグの上あたりだろうか。


「次ー!」


そうして女が幾度も合図をしては、周りもそれに合わせて、裁断榴に似た武器を構えては音が鳴り響く。


止んだ時にはあたりはすでに煙に包まれていた。


「止まれ!」

全員、一斉に止まる。女の声に合わせて。


練度からするとただものではない。


(ひぃぃ...あの化け物の次にはこいつらかよぉ!鷲の団!)

ンガヴィグの考えからしても恐ろしいものだろうな、すでに。


そう点検に準備や思惑がある、ある、ある、ような中、やがては煙が散る。

 だが、誰の姿も煙の中にいない。


(おかしい、なんで、あの妙な化け物は!)


「バカなッ!破片があるはず!まさかどこか遮蔽に!?」


 「……やはりか。」


 その声が、頭上から聞こえた。


 ガルシドュースだ、ガルシドュースが天井に逆さに張り付いていた。

 まるで蜘蛛のように、壁を這うその姿に、ある。それを見たおそらく鷲の団の存在たちが驚く。

だが彼女、彼らは今ガルシドュースを探していた。


普通の人が上に壁にくっついたまま移動できる人がいるとは思わない。

 「クソッ……やっぱりこいつ、まともじゃねえ……!」


「おい!鷲の団!上だ!」

だがすでにガルシドュースの不思議さを見たンガヴィグは、すでに、彼が上にいるとかなり速く気がついた。


言われた鷲の団は一斉に上を見る。


「うわぁぁ!撃てー!」

またもや轟音。


 しばらくして天井すらボロボロになる程に打ち込まれた。


「すげ...なんて数の火銃だ...やっぱすげ....鷲の団。」

ンガヴィグは驚きを隠せないでいた。

(それにしても、さすがに化け物もやっとくたばりやがったなおい。)

 「おい、そこのお前。」

女がンガヴィグに話しかけてきた。


「あっ俺はンガヴィグだ...ンガヴィグです、ビドリの姉さん!」

 ンガヴィクが指示をとっていた女に向かって早口に話す。

「ん...?」

そうンガヴィグにビドリと呼ばれた女は首を傾げて、仲間に手を振っては一人の男が近いてきた。


「...ソ」  「デ」 「ギ...」



 ゴニョゴニョと音がしている。

これも女の喋りに打ち破られる。

「お前あれか、前にうちの団と協力した、あそこ..ええと」

耳元で何かを言われたようだ。

 「....は!栗の木のところです!」


「そうか...お前、こっちに来い。」


 「はっ、はい!」

元気よく返事をするンガヴィグ。


 「...んん...あと少し...」

返事は元気よくあったが、あまり速く歩けていない。

足を引き摺っているンガヴィグ。

「ずいぶんとボロボロだな。」


 「えぇ、いやまだ」

「おい、お前、こいつに装備をやれ。」


「え?」


 「ただじゃない、あたしらに雇われた代金だと思え、お前には戦ってもらうぞ。」


「はっ!ありがとうございま...うっ!」

    「ありがとう。」

「なっどうした!」


ンガヴィグが急に倒れる。それに女は驚く。


「違います、さっき俺が火薬で作った投げ用の武器で、穴が空いたみたいで」


「お前!?お前!痛く...ぅない...のか!?」


「え?」

 言われたンガヴィグは周りを見てみるが何もない。

だがビドリの顔や声があまりにも強張っていたし、声も震えていたから。思わず周りをなん度も見返した。

いや、いた、一人の男の姿が遠くにいた。


「なっ!ばば化け物!?」


「化け物は酷いだろう。お前。」

 「協力関係? 寝返り?  裏切り? 甘いな、ンガヴィグ。お前のような神術を持たないやつはな、いくら遠くても、好き勝手に思考を読めるんだよ。」


 「本当は、お前のようなカスは考えを読まなくてもわかるが、記憶が読めるのは嬉しい。いろいろ知らないの勉強できた。」


 「化け物!化け物!ビドリ!何を!」

ンガヴィグは助けを求めようと叫びながら自分の周りの小石を下げつける。


「化け物はお前の方だろ平然と嘘ついて。殺すと言っただろ。」


 「ヒドリ!ヒドリ!」


「話が相変わらずやり難いやつだな。」

 「助けて助けて!」


「お前が騙した女もそんなこと言っていたはずだ!」

 「ッ!な!な!」


「化け物!バケモノ!」

 「どうして知っている!?誰も見ていないはずだった。そもそもあいつはどうせこんな場所は生きられない。俺は何も悪くない。とお前思っているだろ。」


 「なッなにを!?」


「まぁいい感じに埋まってくれたし、最後にもう一度言う。俺はお前の考えを読めるようにした。」

 「そしてここまでの先ほどの感謝の言葉たちが触発の鍵だ。」

 ガルシドュースはほかのものたちに反応や質問をできるほどの間隔も与えずに次から次へと喋り出す。

「ここで今っているこれも、魔法を強めるために手段の一つ。」


「撃てー!」

ンガヴィグが鷲の団と呼んでいたものたちがついに反応して、一斉に攻撃を仕掛ける。

 「お前のような屑にわからないだろうが、俺は嘘をつくやつ嫌いだ。自分に嘘をつくのはなおさらだ。」



「魔法の言葉も聞いてくれてありがとう。」


 声と同時に、ンガヴィグの体から血が垂れ始める。

血飛沫が鷲の団の攻撃を防ぐ。

飛んだ血が空中で止まるように幕を張っていたことになっている。


それによりガルシドュースは無傷。

 ンガヴィグも無傷だ。


少なくとも外傷はない。


 しかし体からは血が出ている。


ンガヴィグはそれに痛みや服が湿ったのを感じたか、体を触り始める。顔が引くつく。

すると、あることに気がつく、自分の体に穴が空いていることに。だが鷲の団によるものではないのは明白だった。

腹に大穴が一つ空いていた。


 「う!うゔぁ!」

ドサ 

ンガヴィグが倒れる音。

それに一つの話し声も追うよに出てくる。




 「ンガヴィグ。最後にお前に聞こえるように言わせてもらうぞ...ん?」


「..タスケテ...ワルサシテ..ゴメ...」

ンガヴィグが途切れるような声で話す。

 (懺悔か?)


「アノオン...が悪いんだ!あんな体しやがって!...俺だって...俺だってな!俺だって男だ!」


 「は?」


「あんな格好してたのが悪いんだ!お前!お前!」

(お前も殺してやる!殺して!お前の体だって。)


「そうか、最後まで悪いやつでいてくれてありがとう。」


「うゔぁぁ!」

 ぐっチャー!


(この場合は気持ち悪い方がでかいが。少しましな見た目になっただろう。)



大きな音と共にンガヴィグは体が大きな円形状なものにつぶされたように肉等が飛び散っていた。


これがガルシドュースの言うマシな見た目だろうか。


 「よし、初めて使ったが、ちょうどありがとうの言葉の数と同じだ。」

(認識してもらうぞ、俺の言ったこと。神術使いがいたら、これだけで少し得だ。)

ガルシドュースの思惑を隣に女が言う。

 「化け物...!」


「ん?お前は...確かビドリとか言うやつか....ん、化け物?」


 「違う、俺は魔法使いだ。」


「撃てー!」


 どうやらガルシドュースの話があまり頭に入らず、恐怖と攻撃のことで頭いっぱいだった。


「チッ、こいつも話しできないやつか。」

 「待てー!」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?