「待てー」
ヴァしゅん!
ガルシドュースの示談を呼びかける声も虚しく。
ンガヴィグ血で出来た幕を切り裂いて、音が鳴り響く。
パン!パン!!ガン!バンッ!!
一斉射撃。雷鳴のような連打。
塔の広間に火花が咲き乱れる。
ガルシドュースは、全く動かない。
そして描写的には正確的だ。
ギィン、ギャァン、バキン!
攻撃がが、彼の肉体に弾かれる。故に彼は少しもずれはしない。
あるいは、時にガルシドュースの体に火がつき。
火が鎧のようにしては、攻撃が空中で蒸発させられていく。
周囲にいた数人の兵が、視界が暑さで見えない。
「目がっ……ぎゃあああ!」
「奴は炎を!神術持ちだッ!」
暑すぎる熱気で目をやられる者まで出てくる始末だった。
「ビドリ小隊長!」
叫ぶ音。
硝煙の音。
バシュウウウ……!!
音だけでなく焦げた蒸気と武器の発射から起きた硝煙が混ざり、視界が滲む。相当混乱する場である。
だが鷲の団の面々はそれでは引かない。
相当に戦いに慣れているようだった。
「火銃を捨てろ!」
全員、武器を捨て──
「二隊、散開!三隊、落雷網!」
ビドリの怒号が飛ぶ。
瞬時に構えられるのは見たこともない形の新たな武器。肩に担ぐものだ。何人もの鷲の団の団員がそれを抱えてたいた。
そして、それの何かの装置を押したかと思えば。
ガンッという音とともに、金属製の網が降ってかかってきた。撃たれたか。発射されたか。かなりの高速であった。
大きさに似合わない速さであった。
何よりも本当に大きくもある。
余裕にガルシドュースを包み込めるほどのものだ。
(速くて大きいな。躱せないわけではないが、一旦攻撃を見てみるか。)
なんとガルシドュースは突っ込むように、これに触れた、次に突如して体は光出す。体表の燃えてる火と違う光を放ち出していた。
「うぉ?!新たなる力の目覚め!!?」
ビリビリ
(いやこれは?)
シュバァアアアアッ!!
大きな音とともに、電気のような弧が飛散してそれがガルシドュースの体を焦がす。
「──取ったッ!!」
地響き。雷撃。爆ぜる火花。
あたりのだいたいが光に包まれた。
鷲の団の全員が勝ったような顔をしていた。
そしてそれを証明するように団員の中から話声が広まる。
「へへ、こいつくっちまおうぜ、肌が白いし、絶対柔らかい肉してんぜ!」
「うううう焼かれてるし、うまそうだぁ...じゅるり」
「生の方が、よかったがな、絶叫がたまらんえぇ!」
「ひひひ、特に女のは。」
「俺は男の肉がすきだぜ!」
「俺は抵抗ないやつ痛めつけるのがすきだ。」
「俺はこいつのた」
団員たちの話が盛り上がる。
これ以上聞いたりしたくないような、そんな悍ましい話を広げては繰り返していた。
だがビドリだけは眉を寄せた。
(おかしい……静かすぎる、撃たれても反応がないなんて...火銃を喰らって傷もない怪物だぞ...)
そのとき。
「ふむ。雷、ね。」
声がして聞こえたのは、網の中からの声だった。
ガルシドュースがいた。
軽く手で紙を千切るように網を引き裂いていた。
焦げたと思った体も叩けば、灰が落ちてすぐに綺麗になった。傷は一切なかった。
まるで何もなかったように、そこにいた。
だが、攻撃の跡として、彼の周囲の石床は溶けていた。
雷を受けて、瞬時の熱圧で地面が液状化しただろうか。
いやそれだけじゃない、足元だけ溶けては、ガルシドュースの踏む場所は溶けていない。
見るとガルシドュースの踏んでいるところだけ火が燃えていた。
「まさかッ!」
「こういうの、好きだぜ。でも、対人には向かねぇな。」
──火の牙が、鷲の団を焼き尽くすような勢いできた。
次の瞬間。
ドガガガガガガガガガ!!!
鷲の団は無事である。
「あれ...外れてる?」
いや塔が傾いているようになっている、壁に当たったのだろうか。
いや──塔ではない。
彼が、空気ごと焼き歪みを産んでいたのだ。
その歪みによりあまりにも高速な回転で火柱と熱風を伴う結果になった。
ビドリが咄嗟に叫ぶ。
「全員、距離を取れ──!!」
遅い。
先に、ガルシドュースの脚が床を砕いていた。
そして────彼は消えた。
正確には──速度で見えなかった。
火の軌跡が一直線に走った瞬間。
一人の兵士の頭部が、消えた。
頭があった部分は蒸気だけ立ち上っていた。
(熱圧だけで蒸発したか、思ってたよりも神術がないやつは弱いな。」
「ひ、ぃ──」
振り返った瞬間、隣の兵士が「溶けた」。
ガルシドュースの攻撃は止まることを知らないか。
次から次へとの連撃だった。
バシュ!ドゴッ!ガアアア!!
柱にぶつかる。
壁に食い込む。
気づいたら、仲間が三人、像になっていた。
焼かれ、固まり、壊れかけた彫像だ。
そしてその像は火に包まれて今、気流を起こしていた。
気流はガルシドュースが先ほど起こした火の軌跡に乗るようになり、やがては最初に引き起こした火柱に乗り上げた。
「……これで十人か。あと二十。」
火の中から声がする。
ガルシドゥースは数えていた。
「化け物が!」
「いや、普通、同じ人を生きたまま食う方が化け物だろ。」
ガルシドュースが大真面目な顔で化け物と言ってきた鷲の団たちを睨む。
(まぁ俺もあれだが。)
「生きるためだったんだ!」
斬ッ
「ひっ!」
「化け物じゃねぇ……自然災害だ……!」
ある傭兵が、つぶやいたその瞬間。
ガルシドュースが背後に立っていた。
「うん、いい表現だな、俺、気に入ったよ。殺すのは最後にしておこうかな。」
「ひったっ、たっ助けてくれ。」
──バシュ。
右手を振る。
それだけで、一人が顔の皮膚を失った。
皮膚が手で紙を引き裂くように切断、いや、消されていた。
「え、なんで。」
左へ振る。
刃物でもない掌が、そいつの胴体から腰にかけて断つ。
熱した刃物で動物の固体油脂を切るほどよりも容易切り込みが入っていく。
「ぐ、あ、あ……ああああッ……!」
「触れただけ、なのに──ッ!!」
傭兵の絶叫が焼け焦げた空気に混ざる。
体の切断された部分から焦げた匂いがして、みると、焼かれたような跡だけで、傷や断面の中身は見えなかった。
「嘘つき...」
兵士は悔しそうになにか言おうとするが、気力もないので後は心の中に置いていくようになっていた。
だが記憶や考えを読めるガルシドュースにだけは通じていく。
(嘘はきらいって)
バタッ
倒れ込む兵士を横にガルシドュースは言う。
「いや、嘘じゃないし、最後にしておこうかなって迷っていたんだが。」
その台詞のあと、ガルシドュースは再び歩き出す。
まるで散歩のような歩調で。
だがその一歩一歩が、爆発のように命を奪っていく。
「シダル!!」
女の声だ。
ビドリのだろうか。
(やはり人間は動揺しやすい生き物だ。)
ガルシドュースはそう思わずにはいられなかった。
しかしビドリの気持ちや動揺と関係なく
傭兵たちの体は、まるで紙のように引き裂かれる。
否、紙のほうがまだ繊維を引き裂く手応えがあるかもしれない。
彼の手が、肩に触れる。
刹那──傭兵の胴が縦に二つに割れていた。
それを見てハッとして我に戻ったビドリが指示をしようとするが、ガルシドュースが一瞬でその口を丸焦げにして唇の皮がくっつくように燃やして。
「んむむうう!」
そしてビドリは全身が焦がれ、最後には灰だけになる。
「──ビ、ビドリ隊長ぉッ!!」
「団長を呼べ!団長、来てくれえぇッ!!」
叫びが虚空に溶ける。
誰もこない。
傭兵たちはなおも抵抗を試みたが、もはやそれは計画的な抵抗ではなく、反射的なものだった。
武器を振るう前に肘が飛び、盾を構える前に肩を殴り消されたようで、やりようがなかった。
焼かれる者がいれば。
皮膚すら裂かれた形跡がない者がいたり、それほどにガルシドュースの威力は高く、証拠に切断は完璧で、出血すらしない。
「化け物!!!!」
「わぁぁ!」
焼ッ!
「なんでこんなことに!」
斬ッ
「やめろぉ!」
「まだ死にたくない!もっと人をく」
「ん?」
ガルシドュースはいろいろ言われたからか、聞く体勢をとった。
「止まっ.....て...お前!よくも!なんでこんなことを!」
「ん?...襲ってきたのはそっちだが?」
──静寂。
床には、今や骨のように焼け焦げた兵の残骸が並んでいた。
ビドリの姿も、どこかに埋もれている。
ガルシドュースは、その場に立ち尽くす。
煙と体の火からくる残光のなか、彼は周囲を見回す。
「……終わり..か。」
小さく、首を回す。
ただ自分と、自分の影だけ。
「ん?」
(いま影が動いた!?)
──その瞬間。
ガルシドュースの背後から、何かが飛び出た。
ズバッ!
空気が裂ける。何処ともなくから現れた刃が、一閃。
見えなかった。
そして、確かに見えるのは。
ガルシドュースの首元──血が、走った。
「イッ!」
(斬られた!!」
「へえ、マジで効いたんだ。やっべ、俺天才?」
その声は、今までにないような、まるで場違いだった。
軽く、鼻にかかった調子。
一見陽気で、しかし乾いた笑いを交えたような、どこかふざけた声だった。
「……なんだ...」
ガルシドュースが、ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは──肩をすくめ、片手をポケットに突っ込んだ、やけに軽薄そうな男。
半身を覆う赤い布。その下の服は、どこか妖艶という言葉を彷彿させる。艶やかさ。色も派手にある。赤い全体に紫の紋様と金の糸が入っている。ところどころ緑の部分もあって、光を反射するような材質で体に密着している。飾りとかいっぱいあってうるさく見える。
髪は後ろに撫で付けられ、十本の指全てひとつひとつに複数の指輪。ひとつひとつが違う刻印を刻んでいて、宝石も飾られている。
「お初にお目にかかります。風流児にして、美女に熟女が友。この鷲の団の主──
そう、この俺こそが鷲の団の団長が...んんむ!ハヒュ・べ。でっす〜」
決めたかのように澄ました顔をする。
動きも踊るように変えては止まり、変えては止まる。
その態度は、明らかにガルシドュースを小馬鹿にしていた。
「クズめ、お前はクズだ、なんだってお前の団員の記憶を読んだがどいつもこいつもクズだった。」
ガルシドュースも挑発をする。
「何が自然災害だよ。せいぜい人間がちょっと火つけて暴れてるだけだろ?」
だがそんな挑発には一切興味を示してくれなかった。
その態度、その言葉、その立ち振る舞いのすべてが、傲慢だった。
だが──。
目が、笑っていなかった。
まるで刃を研いだような瞳。
そして様子がおかしい。
なぜか彼の周囲影は走っていたように見える。
「よくまあ、俺の可愛い部下たちを、ここまで綺麗にぶち壊してくれたよなァ?おに〜さん♡」
「……部下を囮にしたのか。」
「うん♪ だってさ、見るにアンタ強いじゃん。どうせなら真正面からやっても大変なことだし。あいつらも巻き込まれて死ぬだろうし。」
「だったら、どーせ死ぬ奴らだし、もう勝手に無駄に足掻かせて、様子を見て俺が出る。不意打ちもしやすい。それだけ。」
「お前……!」
ガルシドュースの言葉構わずにハヒュ・バは一人でに喋る。
「んん..そもそもあいつら名前も覚えていないし、あっ、あった。」
パン
ハヒュ・バは納得したかのように手を叩いた。
「ビドリ、ね? あいつ根性だけはあったな。あたまの隅に残してやるよ。やらせてくれない石女ッてな。ヒヒヒ、フウフフ。くはじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃはじゃじゃじゃ。」
何が面白いのか気持ち悪いほどに大笑いし出すハヒュ・べ。
「あ、つまんね。」
スッと笑いが止まるハヒュ・バ
(ッ妙なことを言って急にしゅんとなる。気色悪いな。)
「死ねよ。」
──次の瞬間。
影が、全方位からガルシドュースを囲むようになっていく。
「ッ──!?」
(これは神術か!?感じるぞ!まさか影を操るのか!?)
ガルシドュースは咄嗟に分析を行い、今までの影の以上から相手、ハヒュ・バは神術持ちで影を操ると断定する。
それだけ分析したわけではない。心もあった。
チャラついた男だ。ガルシドュースが彼に対する第一印象であった。
それが今変わった。
(この男!かなりのやり手だっ!)
「あんたかなり好みだし、あとでその体...ふひひじじヒ。」
そう言って、ハヒュ・バの体が震えたのが見えた。服がピッたとくっていているから筋肉すらくっきりに見える。
そして体中につけているじゃらじゃらで派手な飾り飾りがうるさい。
「はっ!」
(消えたッ!)
ガルシドュースが気を取られた一瞬、相手は視線から消えた。
ハッとしては周りを見渡すが、見えるのは影だけ。
影が這う。伸びる。交錯する。
そしてガルシドュースの足元が、いつの間にか床ではなく、“闇”だった。
なんというべきかの影に覆われては異常な濃さ。光が飲み込まれていくようだ。
ハヒュ・バを探そうと奔走するも
ガルシドゥースの足音だけが、床に響いていく。
──そして突然、右後方の壁から何かが飛び出した。
ヒュッ!
金属音。何かが掠った音!
しかしガルシドゥースは動かない。
「……そこか。」
振り向かず、右肘を突き出す。
ゴッ!!
肘が何かに当たり、吹き飛ぶ音がした。だが影の中に紛れ、姿は見えなかった。
ハヒュ・バの声が響く。
「うおおッふ……いっっってぇえ!!なにその反射、はぁ?……あ〜、もうやっぱ好きぃ♡そのセンスが堪らん!殺したくな〜い、けどやっぱ殺す♡……っ♡」
声の主は見えない。
柱の影。
倒れた団員の死体の陰。
ガルシドゥース自身の影。
どこからくる可能性もあるが、どこにも見えない。
(だったらッ!火力をッ!)
ガルシドュースが思ったことは視界が足りないことだ。
相手が見つからないのはきっと暗いからだ。
だから火を灯して、光をあげる!
「ばーか、こっちが位置を移動して影つくってんの忘れてんのか?」 ほくそ笑むハヒュ・バ
ガルシドュースが生み出した光の影、そこに潜み出した。
「しっま!」
「ここまでデカい光だと影もデカいから調整しやすくて仕方がねー!」
そう言われてハヒュ・バは消えるように移動してはできてきてたしいぇ、位置が掴めなく。
挙げ句の果てにガルシドュースの周りは謎に影ができて囲まれていた!
見るに天井に無数の傷。
ガルシドュースが出していた光が調整されていた!
「光あるところに影ありってか。」
ガルシドュースの周り至近距離のみが光がある形に変化してしまっている。
「うぉおおおお!オラ!」
ガルシドュースはがむしゃらに連打をする。
ガルシドュースの炎を帯びた拳が、周囲の空間ごと打ち抜いていく。光が炸裂し、熱風が奔流となって走る。しかし、それでもなお“影”は消えない。いや、正確には──
影そのものが生きていた。
「オラぁ!オゥラァ!オラッ!出てこい!ハヒュ・バアアアッッ!!」
轟音とともに、壁が崩れる。柱が砕け、床が割れ、あたりが歪んで軋む。
──だが、その破壊の中心に立つ彼の真下。
その足元の影だけが、不気味に形を保っていた。
「ンッ……」
微かな音。
それが“地面の中”から聞こえた。
(まさか──真下!?)
反射的に飛び退いた瞬間、影から飛び出たのは──刃。
ガルシドュースの腹を掠め、赤い閃光が走る。
「──グッッッッ!!」
わずかに、だが確かに肉が裂けた。手の肉が裂けた。
(速いッ!掴めなかった!)
「ッハァァッァハハハハアアアア!!血!血出た!血ィィィ!!」
「やっべぇマジで興奮する〜♡うわぁんっ♡」
声が壁面のあらゆる“影”から響く。まるで大勢に囲まれている気分だ。
ガルシドゥースが構え直す。いや、最初から構えていた。炎の外套がパチパチと揺れている。
「……速いな、掴めない。」
「おおッ、いいじゃん、なんだっけ?自明の理?」
「いいね、自然災害さん?いや、あんたみたいな強くて感があるの、マジで好きだって♡」
──その時。
真横。壁の影だけ腕が伸びる。
異様に長く、関節がありえない向きに曲がった腕の影が鎖のようにうねって、ガルシドュースの影の首あたりを狙ってくる。
(騙し撃ちだ、あくまで影を伸ばすのが目的だろう。)
ガルシドュースには自分なりに考えることがあった。
相手は影だけで影を潰したり、それで自分に危害は出ないという確信だった。
それを知ったか、ハヒュ・バの声がしてくる。答え合わせのように。
「惜しい惜しい!立ち止まっても死ぬだけだよ。」
無駄に打っても意味ない、泳ぎ回っては、当たらない。
(だが攻撃は浅い、消耗線にできるほどの破壊力はない。こいつには)
足を見ても異変はない、黒い球体。闇の塊のようなそれは、影でできたものだった。
ド
ド
タ
ハヒュ・バの伏兵がそこにあった。
「影に気を取られすぎるなよ!」
ガルシドュースに降り注がれる無数の落石。
(影は俺の注意を引くためだったか。)
無数の石だ、しかし神術を全く感じなかった。
影の神術使いがなぜ石をしたか、自然に疑問が出るほどの落石による攻撃であった。
(いや、違う。これは?)
落石がガルシドュースの周りの光を隠していく。
あたりに散り散りに光が点々とする。
同時にハヒュ・バの声も近づいてくる。
「ふふははは!」
「はー!」
(まずい、近づかれる!)
「なにを」
ズガン! 裂ッ!
足元が崩れる。一斉にだ。
「闇に飲まれろぉ!」
足場が崩れた、密閉した環境で、移動しやすく身を隠しやすい影だけの環境を作り出すのか。
ハヒュ・バの位置を探りつつもガルシドュースは答えを導くために様々な条件を想像する。
結果、今もっとも必要なのは相手を見つけ出すことだと決める。
(足場を壊した、一斉に壊せた。なら近くで高速で畳み掛けたはずだ。)
ガルシドュースはハヒュ・バの今までの威力から攻撃を分析していた。
「そこかッ!」
ずんという音が出るほどにガルシドュースは腕を思いっきりと叩きつけた。
「ざんね〜ん!俺の本体がどこにいるかって?言わないよぉん♡」
「でもぉ〜〜〜ヒントは出すねぇ〜〜?はグゥ!?」
得意げに話していたハヒュ・バにガルシドュースは腕を伸ばして掴んだ。
「んんむぅ!」
(ばッばかなぁ!)
正確無比な表現というべきか。
いや、腕から出ている血管のようなものはあるが、繋がっていない。
(どういうことだ!?)
見るにガルシドュース腕。
見えたのはガルシドュースの腕、腕だけだった、ハヒュ・バの近くにあったものは。
本体とあまりにも腕は遠かった。穴の中に落ちたのを見た。
(こいつ!腕を飛ばしたか!?あの一瞬で腕を引きちぎり、こっちに飛ばしたのか!?クソがああああぁ!)
腕がハヒュ・バにかける圧力は強まるばかり、まるでまだ人体についているかのように、握力は強まる。
「んっんぐっおおお!」
(やってやラァ!この俺だってあ!)
ギギギギギぃー!
(ん、この感覚、手の中にない。潰れた感触も、斬られた感触もない。)
そう、ガルシドュースの方になんの問題や異変もなかった。
おかしかったのはハヒュ・バの方だった。
首が棒切れよりも細くなっていた。
「げっぇー」
やはりきついのか苦しそうに呻き声をあげるハヒュ・バ。
ガルシドュースが即座に反応する。
握り込むようにして、どの角度からも逃げられないように掌の中心から放つ。
──火柱。
燃え上がった熱の螺旋が、天井を貫く!
ズドオォオオォオオン!!!
だが──
「はひゅーはー」
肉が燃えた音はしなかった。あるのは呼吸音
ハヒュ・バはギリギリに脱出した。
「マジでくだばるどこだ。....うっ、ちょっと俺感動しちゃった。」
イラついた顔で軽口を叩くが、込められている感情は憤怒に満ちているように感じる声だった。
(危なかったぜ。最後に首を思いっきり下に引っ込めたから、頭ごといけた。)
思い出すと当時、ハヒュ・バは頭をくねくねとさせては、首をうねうねと動かして、細かい動きを高速で繰り返し。
掌に当たりそうならば、ギリギリに影に捕まり、移動しては、高速の繰り返し移動。
だから何度も当たりそうな場所が変わって、結局は当たらないことになる。
あれだけ掌の中の空間に比べて大きな頭にも関わらず、ハヒュ・べはそこを潜り抜けたのさ。
そして今腕から距離を置いていた。とても遠くに。
決死の脱出、高揚感からくる。
「だが勝った!もう死ね!」
そのことにガルシドュースは一切反応しない、もう言葉を言う気力もないか、または諦めたのか。
ザシュ!
貫く音だ。
「なっなにぃ!」
攻撃を喰らった。
とても痛く。
鋭く
突き刺さる攻撃であった。
それは。
ハヒュ・バが攻撃を喰らった。
避けたと思ったガルシドュースの腕から血管や筋肉が混ざり、鋭く伸びる縄のように彼の体に突き刺さる。
「うぉおおお!」
(引っ張っても剥がれない!千切れないだけじゃない!俺が腕に引きずり落ちる!)
「クソおおお!引きずられる!」
跳ッ!
大穴からガルシドュースは飛び出す。
打ッ!
ガルシドュースの拳がハヒュ・バにぶつかる。
感触はどちらも予期しないものだった。
ハヒュ・バからすればあまりにも重く、自身の今までに経験と違う。
ガルシドュースからすればあまりにも脆く、それてしまうほどだった。
(軽い、弱い、まさかガヘベスのように、長くいて神術が磨耗したのか。だがガヘベスよりはある、時間で変わるのか?)
「ウヴァオアオア!」
倒れ込むハヒュ・バ、直立のガルシドュース。
勝者はもう当然誰が見てもわかる。
あとはガルシドュースが腕をつければ。
「ははは、お前、バカ丸出しだお兄さん。」
「ん?」
ハヒュ・バがなぜか突如喋り出す。
「もう、遅い、いまさら気づかないなんて、鷲の団ってかなりたくさんよね..」
ハヒュ・バは腫れた顔を揉みながら話を続ける。
「ならよ!」
「はっ!」
ガルシドゥースが目を見開いた。
「もっといてもおかしくえねぇよなぁ!競争相手!」
足音、数名ほど!
「くっ」
気づけば、囲まれている、そしてヒュマは影に潜ったのか姿も影もない。
(ふふふ、これで...え?)
きたものたち全てに肉でできた鞭や縄のようなものが貫いた。
ガルシドュースの腕の持つ肉の量では決してできないほどの数だった。
「ちょうど足りた、三十人分の血肉さえあれば。」
蠢く血肉の鞭。中心部には発射されたガルシドュースの腕があった。
(神術と魔法の組み合わせ、知る限り俺が初代だ、これほど大掛かりなやつ...やってみせる!)
構えを取り、片腕の指を動かして、足を舞い。
(不足なし、どれも神術が弱いはずだ、削られたような、消耗されたような神術だ。)
「ドラス・ニリマ・ミルグ・マカエル!(血と肉を創り出す魔法)」
その発言にはまるで何か特殊な力を帯びているようで、どんな武器や儀式よりも、今に繰り出していた血肉のそれは大きく威力を持ちさらには、徐々に増していく。
辺りの血肉が光りだし、ガルシドュースの火の神術と同じ火が次々と着く。
左から右へ、上から下へ。
点々として、星々のようで、やがてはあたり全てを照らすほどの太陽へと変わる。
「ナグ=ラハ・グル=デザラッ!!(棘よ穿て、血肉の王より賜りし呪槍)」
血肉で出来た鞭たちは棘のような形に伸びては爆ぜる、そして全てを貫いていく。
「ミルグドラス=マカエル!!!(血葬棘衝)」
さらに追い討ちのような話出すガルシドュース。
なぜか威力が追加される、もはや火は勢いが止まることを知らずにただ全て焼き尽くす。
長く、長くと燃焼した。
中心部にあった腕が燃え尽きるまでは攻撃は止まずにして。
やがては周辺全ての壁や遮蔽物はなくなっていた。
死体もない、神術の力の吸収どころか、生死確認すらできない。
もっともあの威力だと死ぬのはすでに確定。
「...終わった...」
「痛い...さすがに儀式がために神術で手を切断したから...全然回復しない...」
「うっ...」
(喋るのすら辛いな、神術と魔法を組み合わせた反動か...もう楽に使えない...って)
ガルシドュースは腕を見る。
「...」
(できてもあと一つだし、両腕ないときついからどちらにせよ使わないほうがいいな。それに相手は大抵神術が磨耗している。)
スタ、スタ
(足音?そんなはずが、あたりはもう何も見えない、隠れる場所もなければあれから生きて...)
「なっ、ハヒュ・バに..あれは鷲の団!」
(戦ってきたやつらがいる、なぜだ!?蘇ったか!?)
驚くもガルシドュースは身を隠していく。
(いやおかしい...さっきと同じ動きをして、はっ!?何もない場所に座り込んだだとぉ!)
「ッ...」
思わずに息を荒げてしまうガルシドュース。
(そうか、記憶を読んだ時に同じ行動があった、けどその時には、下に大きな石があった。)
見るに同じような奇妙な動きがいくつもあり、さらには何も所でこけたり、剣を振るものまでいた。
(間違いない、これは、時間が循環している!)
ここまできてまた、ガルシドュースが以前影の姿に推測した時間操作という概念が出てきた。
(どうする、このまま消耗戦に移してもいいことはない。くそ、しくじった、もっと奥の手としてやるべきだった。変身して、速度を上げるべきだった。くそ!くそ!)
ガルシドュースは酷く慌てていた。
無理もない、倒した相手がまたぞろぞろと無傷に出てきたからだ。
これが成立するのであれば、ガルシドュースは無尽蔵に出てくる敵を相手することになってしまう。
(どうすれば。」
「隊長ッ!的だ!」
斬ッ!
ザシュ
声の主が全てガルシドュースに切断される。
(斥候かッ!まずい!殺したが、声が出ていた。忘れていた、こいつらの記憶のあの時間の位置に俺はいるべきじゃなかった。)
「ッ!」
ハヒュ・バの姿を上に見る。
(こいつ、先に出るのか?仲間に消耗)
「ウッ!」
ガルシドュースは考えを続けようとしていたが、いくら常人より反応などが素早くある今の彼でも、同じ神術持ちの相手に、その素早さだけで高を括るには無理だ。
だが反応はできた。
ガルシドュースが手に持つのはハヒュ・バの右足。
「いてぇなぁ...」
「なんだこいつ姿がッ!?」
見ると、ハヒュ・バの足を持っていたその腕は、赤い鱗のように皮膚の表面が変貌していた。
(痛さが嫌で変身しなかったが、神術と組み合わせるとやはり飛躍的だ。)
さきほどと比べ物にならないほどにガルシドュースは早く、正確で、そしてすごい力を持っていた。
だが体は震えていて、止まることを知らない。
彼が経験して、思うようになった痛みの記憶。
それは間違いなくそうであった。
「来いよ、死に損ない奴もが!」
「俺がお前たちに恐怖というものを心底叩きつけて、二度とこの世に未練がないように殺す!あの斥候たちのようにはいかない!」
「撃てー!」
ドドドド
タン
タン
パン
「お前たちがころせよって泣き叫ぶほどに殺してやる!」