赤い龍のような存在を見た。
異様な姿をした赤い鱗に覆われた異形の姿がそこにあった。尋常ならざる力を持ち、周囲の空気を歪ませていた。
「撃て!撃て!撃ちまくれぇ!」
鷲の団の残存兵が叫びながら、火銃を乱射する。だが、弾丸はそれの周囲で不自然に曲がり、まるで熱弾かれるように逸れていく。
撃たれた異形もただ待ち構えるだけでなく反撃に出る。
赤い鱗の腕が振るわれてそのたび、空気が裂け、火花が散る。兵士の一人がその腕に触れた瞬間、肉が溶けるような音と共に消滅した。
「ひっ、ぎゃあぁぁ!」
「なんだこの化け物!」
叫び声が響く中、異形の目は冷たく、しかし内に秘めた怒りが燃え上がっている目つきをしていた。
(キリがない!もう十三回目だ!そして何人いるんだ!毎回違うやつが出てきて、こっから先に進めない!)
どうやらガルシドュースのようで、無尽蔵に出てくる鷲の団たちのようなものたちに苦戦していたようだ。
「グオオオ!」
雄叫びを上がながら彼は一歩踏み出す。その瞬間、足元の床が砕け、爆発のような衝撃波が周囲を薙ぎ払う。
鷲の団の兵士たちはそのままの姿勢で吹き飛び、壁に叩きつけられる者、床に叩きつけられる者が続出する。
だが、ハヒュ・バの声だけが挑発してくる
「ふふふ、すっごいねぇ、お兄さん! でもさぁ、あんた相当に消耗してるね♡」
突ッ!
「バ、バカな....!?」
「もう飽きるほどやったんだからお前のやることなんて分かりきってる!」
ガルシドュースは腕をハヒュ・バの胸に捩じ込みながらに言った。
「しねぇ!絞り尽くしやる。」
そう言ってガヘベスの時のようにハヒュ・バの体は燃え溶けて、ガルシドュースの火の中に入り込む。
「スゥー」
彼は深く息を吸い、両腕を広げる。赤い鱗に覆われている全身を燃え盛り、炎の鎧を纏った。
熱気がさらに増し、周囲の大気が揺らめく。
「燃やせ尽くしてやる!」
彼の体に燃えている炎が、爆発的に広がる。
ドオオオオォォン!!
火柱が天井を突き破り、塔全体を揺さぶる。熱波が周囲を焼き尽くす。
だが休む暇もなくすぐさまに次が見えた。
(まただ、また鷲の団、今度は誰がこの音に呼ばれるんだ...もう残っている最後の腕を痙攣し始めて、骨すら見えている...再生が)
あまりに重なった激戦によりすでにガルシドュースの再生は追いつかなくなっていた。
「うら!」
(違う...戦いによるものではない、たしかに倒すたびにこいつらから奪える神術の量は減るが...違う、まだ神術の残量はある。
「オラ!」
敵を薙ぎ払いながらも推敲は終わらない
(この感覚は、まるで生命力を奪われている...この地に生命力を奪われているというのか!?)
ガルシドュースは呻き声を漏らしながら、焦げた右腕を見下ろす。すでに肉は剥がれ、神経がむき出しになったまま痙攣している。それでも彼は、怒りと執念のこもった目で前方を睨みつけた。
(……終わらせる……この屍の山も、この終わりなき連戦も!)
三十二回目だった。もう精神はとっくに限界を来している。
バキィィッ!!
自らの右腕を、半分ちぎって攻撃に回したそれを少しだけ注目したあと、肩ごと引きちぎるように飛ばした。
それは根本から火がつき、爆発に飛ばされながら発射された。
「グウゥゥラアアァァァ!!!」
その瞬間、千切れた腕から滴る鮮血が燃え上がる。捻じれた皮膚が圧縮されて赤い鱗のような塊となっては、刃のように変貌した。血管は裂けて、伸びる、そこからは炎が猛烈に噴き出す。
あたりを食い散らかす。
「ミルグドラス=マカエル!!!(血葬棘衝)」
ド オ オ オ オ ン !!!
放たれた飛翔物は、目前に展開していた鷲の団兵たちの隊列全員の体に血管や筋肉と皮膚を捻じ曲げて合成した杭をや棘のようなものを突き刺さす。直後、全部の棘からは巨大な炎柱が爆発的に噴き上がり、まるで火山が噴火のように辺りを煙にした。
すべての生物が霧になっていた。
遠くあるガルシドュースよりも下の街道の塔の壁が崩れ、天井が吹き飛び、白熱した閃光で包まれる。
かつて相手した怪物の異形たちもまだ数多くいたが全て焼き尽くされては、一瞬で跡形もなく消え去ったいく。
それを引き起こした張本人のガルシドュースの体は、右肩から先は完全に吹き飛び、反対の左半身は黒く焦げ、肋骨の一部すら見えていた。
(痛い...だが神術で儀式の贄にしていない部分は再生できている...。)
彼が言うのを証明するかのように左半身は再生していた。
そこは神術を使っての魔法の儀式を行っていなく、再生が始まり、うねうねと肉の芽が生え始める。
「うっ」
と呻き声を漏らしてはふらつく。
痛さや痒さなどから体はぐらつき、口元からは血が流れ続けている。
幸い左腕は残っていた。
彼の利き腕は、まだ動いていた
(わざと残したんだがな。最初から右は捨てるつもりで攻撃した...しかし残りはあと一発か...きついな。)
また音が鳴る。コツ……コツ……と階段を上ってくる何者かの足音。炎の海をすり抜け、再び誰かが来る。
「……はっ、もう……何人目だ……」
その声はもう叫びではなく、諦念でもない。狂気と理性の間を漂う、静かなる壊れかけの意思だった。
彼の足元に、ふと肉体の一部が剥がれ落ちる。
ひび割れた体の痛みがある事実を淡々と彼に伝えていた。
(……この地だ。この塔の中……生命力を吸ってやがる……まるで、生きてるような……)
(……再生限界。視界に色がねぇ。耳も遠い。火の音すら聞こえねぇ……)
ガルシドュースは左腕をゆっくりと掲げた。指が震えている。もう“最後の一撃”の合図だった。
周囲には───
数え切れぬ影。
見覚えはある。
神術持ちだっていた。
火柱の中から、煙の海の中から、這い出るようにして現れる無数の鷲の団の兵。兵というにはあまりにもおぞましい異形の塊。
何人かは神術の気配でわかった。
(あれは...ハヒュ・バとかいうやつか。)
どうやら殺しすぎて、吸いすぎて相手にあった力はどんどんとなくなり、形もうまく保てていない。
(悍ましいな、見るにこいるら、精神だけをこの地で這いずり回っている。悍ましいぞ。)
砕けた顔、首がなくても歩く肉塊、手足の数がおかしい者たち。すべてが這い寄るように、四方八方から迫ってくる。
数千……いや、万を超える。
階段、壁、天井、崩れた瓦礫の隙間、火の中、すべての空間から滲み出すように、黒い影が増え続けていた。
黒い影というのは、黒い影というよりも、よく見えないから、影のように朦朧としている。
どれも朧げな姿をしていた。
だからガルシドュースは精神の存在と推測したのだろう。
(..精神か...最初にいた場所は体を化け物にして、こっちはこれ。この場所はどれだけ人を愚弄する...今になってセオリクの気持ちが少しわかった。だがもう話し合う機会もないだろう。)
ドドドド
ダダ
「てめぇはもうしまいだ!」
「誰しもがこの場所から宝を出せると勘違いしやがって!」
(見える……塔の上からも、あそこからも、もう……この場が囲まれちまってる。棋盤が最後のところみたいだ。)
「殺すぜ!」
(こいつら、見た目はともかく、意識がある、復活する以前の記憶しかないみたいだが、俺の破壊に気づいて俺を脅威と思ったのか!?)
敵影の波に包囲された塔の中央、赤く燃え尽きかけた存在が、ただ一人立っていた。
顔はつらそうになっている。
(こうなったら最後の左腕を……飛ばして全部焼き尽くす。それで……終わりだ...誰かに役立つだろう。)
(セオリクが生きているかどうかわからないが....きっとあいつなら俺ができなかったこと、みんなを守れるだろう。この地から...)
ギ
ガルシドュースの動く音。
「来いよ、もっと脅威的かつ驚愕的なの見してやるぜ!」
彼が腕を構えた、睨みつける。その時だった――
ヒュンッ
風を切る音とともに、一筋の光が降りた。
剣。
長大な刃が、ある、それは、まるで滑るようにして彼の足元に突き立った。
(滑る...?)
そして声が、頭上から響く。
「使いたまえ!我が友!ガルシドュースよ!」
「お前は!セオリク!!!」
銀髪が騎士にこの剣、間違いなくセオリクがこの場にいた。
どうやって、戦いが得意じゃない彼が、こんな場所まで来れたか不明だった。
しかしひとつだけわかることと言えば。
「相変わらずに急に出てくるんだな!お前!」
ガルシドュースが嬉しそうだった。
ガルシドュースは、残った左手でその剣を握った。
そして火をつけようとするが、片腕だと刃だけにつけるには少し大変だった。
(こうしよう...)
その瞬間、彼の体から血管や神経が伸びては刃に触れた。
刃を絡みとっては燃やした。
燃え盛る剣を片手にしっかりと持って。
ズンッ!!
「速いッ!」
重い刃が、まるで自分のもう一本の腕のようにあった。神術の流れすらも感じる。
握っただけなのに、まるで自分の筋肉を動かしたかのような感覚が走る。
(――こいつ、動く!? いや、“動かせる”!!)
彼の腕が剣を振った。
ブンッ――ズガァァン!!!
一撃。斜めに振り抜いたその軌道上、敵影が数十体ごとまとめて切断された。
(!?)
足りなくなった、神術が、生命力が、まるで補充されたようだった。
違う、補充されたわけではない、吸収が遮断されたみたいだ。
(だからか、感じるぞ、俺本来の膨大な生命力が戻って来ている!)
ふと感じる、剣先に流れる神術はセオリクから感じている神術の気配はなく、彼、ガルシドュースのものだけであった。
(燃える剣から感じるのは俺の神術、火のみ...)
ならばこの剣はセオリクに力を与えているわけではないのか?
ではセオリクのおかげで、塔から吸収されなくなったというのか?
「ぬっ!」
蹴りを入れる、襲いかかる影を蹴り飛ばした。
「うっ」
(まただ、この感覚、触れれば吸われてしまう!
例え靴越しでもだ!)
セオリクの剣で応戦するガルシドュース。
剣をしっかりと握りしめ、燃え盛る炎をその刃に宿す。
燃え盛る剣は振るうたびに炎の軌跡を残して、空気を切り裂く。
だが、状況は依然として絶望的だった。無数の影が這い寄り、掴まれた部分から塔そのものに生命力を吸い取られる感覚ガルシドュースを締め上げる。
「セオリク! 逃げる準備をしろ!」
ガルシドュースが叫ぶと、頭上から銀髪の騎士の声が返ってくる。
「良い戦術だ!」
(あっ、逃げるのはいいんだ。)
「ぐっ!」
ガルシドュースの剣を握る手に力が込められて、影たちに腕がぼろぼろにされたかのように、生命力が吸われて、皮膚が張り裂ける。
しかしガルシドュースはそれをも利用して左腕の血管と神経で剣に絡みつき、外れないようにする。
けれども多すぎる敵にその血管で出来た固定装置すらも壊されてしまう。
ズガアアァン!!
一閃。剣が描く炎の弧が、這い寄る影の群れを数十体まとめて焼き払う。影は悲鳴のような音を上げ、霧のように溶けていく。だが、それでも新たな影が次々と湧き出てくる。
見ていたセオリクが叫ぶ^_^
「いましばはやく!ガルシドュースよ!脱出するんだ!我の方へと!」
ガルシドュースは歯を食いしばり、剣を握る手にさらに力を込める。だが、片腕だけでは動きが制限される。結果、剣が手から抜ける。
もう片方の腕で掴もうとするが、右腕はすでに失われ、再生も追いつかない状態だ。
彼はハッとなって右腕から血管と神経を伸ばし、剣と完全に一体化させる。
血管は剣の柄に絡みつき、剣を燃やしながら圧をかけて。形を変えていく。
まるで義手のように刃を変えては、表面上には無数の肉の芽がうねり、剣と腕の付け根の境界が曖昧になる。肩しかない腕の断面から生えた肉と血管が剣を包み、やがては義手のような姿だ。
「うおおおッ!」
ガルシドュースは両手を合わせて、炎の爆発を放つ。
ドオオオオォン!!
火柱が影の群れを一掃し、だが、その隙に新たな影が迫る。セオリクの声が再び響く。
「ガルシドュース! 今だ! 私の力を借りて、転倒させる!」
(転ばせる……? セオリクのあれ!)
ガルシドュースは直感で理解する。
「今だっ!」
その隙を逃さず、ガルシドュースは動く。
しかし距離は足りず逃げようとして場所を探すも、高所へ行くにしては、壁を掴むのも困難。
「オラ!」
ズギャギャ!
なんと彼は義手の中から血管のようなものを伸ばし、崩れた瓦礫や壁に絡みつける。肉の芽がうねり、体を支える。
ガガガガッ!
ガルシドュースはセオリクに叫んだ。
「――いまだ! 転ばせろ!」
そう言ってガルシドュースはなんと火を消した。
ただでさえ落ちそうなところで、解体人は動力であるはずの神術を止めた!
(これでいい!)
なんと、ガルシドュースよ、転びそうではないか。
神術を纏えば、セオリクの技が効かないと言うのか。
そんな瞬間、彼が剣を床に突き刺して足元を砕くと同時に、その全身は爆発するように火を吹いた!剣の一部はひび割れていく、あまりに激しい勢いにひび割れた。
同時に彼へと降り注がれるような転ばせる、とでも言うべきそんな力の圧力は消えたように見えていた。
ドゴオオオオオオン!!!!
塔の内部が一瞬で白熱し、床を蹴ったガルシドュースの足元が逆跳ねし、剣を突き刺した場所からが火柱が噴き上がる。
火柱の推力と、そう伴い、これ以上の推進がないほどに進んで、壁にぶつかりそうだが。
ガルシドュースは一瞬だけ燃えていた。
同時に神術があった一瞬だけの時にセオリクの力が止められて、そしてセオリクの転ばせる力が遅れてきては、これによって、角度制御ができて、二つが合わさり、塔の天井を真横にえぐるように━━爆速の一閃となって突き抜けた!
地面が風圧と衝撃で砕け散る。
その爆風の中、ガルシドュースは回転しながらも体勢を制御し、敵がいないセオリクを目指して加速する。
そうしてセオリクの体抱えた。
「もう敵が来てんだろ!ぼさっとするな!逃げる!」
「ガルシドュース!」
セオリクが掴まれて風圧に顔は歪み。銀髪が揺れ、疲れ切った顔だったのが恐怖の色が浮かぶ。
それにガルシドュースは顔を顰めて。
「お前……無茶しやがって……」
ガタガタとする歯軋りの音を背景にしながらガルシドュースに言った。
「ぅっ、我は騎士...」
いつも通りのセオリクの宣言を聞いたガルシドュースは笑みを浮かべ、こう言う
「へっ……加速だ!」
二人は空中を滑空しながら遠くまでいく。
しばらくして
髪は崩れたようにある、そんな変な髪型をした二人。
「...いつ見ても不気味だな、無限に同じことやっているぞ。」
ガルシドュースが声を小さくして話す。
(しかしあれだ、戦いをやめてしばらく経つと思うが、こいつら戻っている、顔とか、実力とか...いや正確的には、弱くなったのが回復した。と言うべきだろうか。)
「見ろよ、ぞろぞろとバカが来ているが、こんな禁足地であんな雑魚どもが生きれるわけないだろ。」
「まったくだ、まぁ全員くたばってくれれば、全部俺らのもんだ。」
(ん?禁足地?)
「お前ら、働け、俺ちゃん怒るよ。」
(ッ!あれはハヒュ・バ!)
「神術使いがいろいろ来てるし、俺ちゃまはやくお宝手に入れて帰りたいの、だからここ選んだだよ、衛兵とかめんどいのが来ないし、それに、それに、ここが一番弱いし、それに、それに、ここ一番弱いし。あっ、ごめん一回言ったなこれ、何見てんだ!その目!殺すぞ!」
「..へぇ」
(...よく喋るなこいつら...)
「いいか、噂にしかないが、龍の地とか、九つの首を持つ鳥のいる禁足地とかあるんだぜ〜」
「なんで嬉しいそうなんすか?」
「そりゃ、嬉しいもん、お宝が手に入るし。」
そうして、ここからは雑談や旅に関する煩雑なものだった。
(興味ないね。しかし禁足地か、龍か、俺がいた場所か?または別の場所か...)
スタ ガシャ
「ってセオリクもっと体縮めろ、お前の鎧はただでさえうるさいんだから。」
「承知、としたいはずが、いやはや、狭くて。」
二人を見るにどこか岩場の狭い場所に入り込んで観察していた。
そして二人はいま狭さに喧嘩していた。
そんな二人の揉める音も大きな轟音で消される
「きしゃー!」
「あっ、まただ。」
囲まれていて暴れていた時のガルシドュースが出した音は、どうやらほかの階層の怪物たちも呼び寄せたか、敵はもう人の形だけではなかった。
「くるのに時間はかかったみたいだが...」
そうすると彼らは、人と怪物を相手にしながら、どのようにすれば次へ行けるか、復活できる敵を倒せるか、と言う謎たちを紐解かなくてはならなかった。
幸いにして、ハヒュ・バが少し前に言ったように、どれも競争相手だったり、あるいは人の敵であるような怪物だったりと、乱戦になる陣営の配置ではあった。
「どやらこのからは生き残りをかけたの乱戦になるだろう。相手は不死身だがな。」
「嗚呼、行こう、友よ。」