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第40話 罠と貝殻

「…なぁ…セオリク、神の怒りがなんとかの話してくれよ、途中までだったし、今暇ではあるから。」


 静まり返った部屋に、ガルシドュースの言葉が響く。


「……ふむ、話しても良いが、しかし。逸話ぞ、手がかりがこうも運良く出るのか?」


「いい。聞かせてくれ。でなきゃ、気が気じゃなくて大変だ。」


「……よかろう。」


セオリクは一度、額に手を当てる。


やがて彼は、囁くような声で語り始めた。


(おおお、なんかあれだな..没入感がある。)


 「これ帝国よりも昔、かの厄災の始まり以前の話であり──

 星たちは今よりも明るく、魔が海の底から風吹く空の頂点まで遍き生きし時代のこと。高き塔が連なり、街を築き上げたと言う」


 「塔ぉ?」


 「そう、帝国より前に存在した魔法なるもので築き上げたと言う。」


「ほん..塔ぉ?で。」


 「塔の周りには魔獣が、空を泳ぎ、見張り、また戻り……。」


 「……魔獣……?」


「ああ、いろいろと空を飛んだり、街にいたりするあれだ...ところで貴殿はどこから来るものか?なぜこのことを知らぬと?」


「まぁ..いろいろあって、大冒険してここきた。説明長いし、この話の後でどうかなぁ。」


「では、そうだな、そうか、有名なのだと頭が多いやつだ。」


 「...覚えがあるようでないようで...」


 「まぁ忘れろと言わない、しかし、友よ、かつてそこは魔獣がいたのさ。今や思えない、魔獣がいて、城塞を守護していたさ。」


 「……つまり?」



「あとは、一瞬で滅んだと言う記載しかない、帝国が志高神の法劫帝が所以そうだ。」



「なんだそのおち?もっと過程はないのか?」


 「これと、幾ばくは、と要点をまとめたものにして、結末はそうである。すまない。」

 「...まぁ、話聞けてよかった。」


 「では詳しくと行くぞ。ガルシドュースよ。」


(おおお。)


 「……むかしむかし。」


塔の者たちは、その身に流れる悪魔の力で、高き塔を築いた。

 塔は空を貫き、理をねじ曲げ、ひとつの塔がひとつの法則を支配する。あるものは雷を止め、あるものは時間を縫い、あるものは死者を喚び、あるものに至ってはそれらを模倣する。


それら全てにして。万能に相応しくあった。

由一足りないものと言うと、儀式なるものを要として、仕切りにそぐわねばならず、誰しもが、魔法を追い求めては追求することにあった。


 光景からして世界は彼らによって成り立っていた。

 海の底にも塔は築かれ、空を飛ぶ魔獣はその尖塔を回り、地には魔の理が満ちていた。


自在に何処もかしこも旅をしては、嗚呼、なんたる軟弱なる肉体。されど彼ら偉業をなさんと。


 けれど、ある時


「我らが魔法の果てに、“神”は座すのか?」


 それは、この世の禁忌だった。


 魔なるものは問いを求め。

無意味な知恵を授ける。

 問いが“上”に届き、呼びたくもないものを呼んでしまう。


 そして、“それ”は来た。



「それ何処で知った?なんとか帝が至高神ならそんなの流していいのか?」


ガルシドュース呟きつつも、ぼんやりと天井を見つめた。


「聖環連会によるものぞ、かの神の偉業に畏怖したまえ。」


「くだらねぇ〜どうせそいつも殺されたら死ぬし。」


 しばしの沈黙。



「故こそ死の神が至高なり。」


「は?不滅の龍だろうが!?」






 「……よし。ならば、続きといこうではないか。」


 「ああ、あれか、中断したもんね、戦いを。」


「ではまいろう。」


「拳を交わし」

「殴り合い」


「私か」

「お前か」


「貴殿か」

「俺か」


 「行くぞ!」


「しゃあっ!」


ボコボこになったセオリクであった。


「結果は百も承知。良い戦いであった。」


「ああああ、すっきりした、龍が最強だ。」


 ガルシドュースは笑った。


セオリクもまた笑い返す。


「とても、古き神々の逸話に酷似するな。」


「言葉を交わさずに拳を交わすとは...しかし、死の神こそ最強ぞ。」


 「龍の神だ。」

「死の神。」

「龍神。」

「死神。」

「龍神龍神龍神龍神。」

「死の神。」

「は?龍神。」





 時経て



 「...しかし、そろそろ進まないとまずいな、ここを破れば一気に謎が解ける予感はしているが...」



「無限に繰り返されし...回廊と...」


 セオリクとガルシドュースは顎に手を当てながら首を捻らせては悩んでいる。


(印が...意味なく...ひとりがその場に残っても違いはわからない...とすると?わからん...出口でもあるのか?)


「試してみよう。」


 「ん?」


 「大変だが、背中合わせで、回って進もう、瞬きの感覚も違いに気をつけて。二人なら死角も防げるはずだ。」


「そうか、では頼むぞ。」

そうしてセオリクの返事に対してガルシドュースは互いの体に腕から肉の芽を伸ばして背中合わせになった。


「凹凸や感覚を探してみよう、違いがあるはずだ。」


 「何処かで、間違いが起こったを探ってみよう。」


二人は歩調を合わせ、変化を捉えようとした。

 七十二歩ごとに床がわずかに沈み、百八歩で元の高さに戻る─その繰り返し。


生き物的にしては設計されている凹凸さ

(俺の推理に間違いか...しかしこの歩数のうちに何かがあるはずだ。何処を節目に戻しているんだろうか。)


繰り返していくうちに窪みがある場所が固定しているように見えた。ガルシドュースたちが踏みつけたと言うより、窪みが近づくてきた感覚に近い。



「沈んでいる場所を避けてみよう。」


スタ、スタ。


(変化は...これは!?場所が変わっているが、また窪みが...こちらに近づいているようだ、まるでこれは捕食のように!)


 「...捕食..取り込み...」

(まさか、一体になっているのではなく、あの傭兵たちのように...何か他の生き物を取り込んだ...塔...魔獣...時を操る魔獣か?でもなんで攻めてこない。)


思いを共に互いの背を、肉芽でがっちりと固定する。

確かにしないといけなかった。

 セオリクとガルシドュースは逸れないようにして、一歩ごとに呼吸と鼓動までを感じ合わせ、視線を四方に散らしながら進んだ。

 繰り返しの中で感じたのは壁は均一な石組みにして

いや、均一すぎた。目を凝らせば石のひび割れまでが左右対称、刻まれた紋様かのようにそて、それが寸分違わぬ位置に揃っている。

(まるで幻覚だ...)


 「……七十二歩だな」

 セオリクが低く呟く。

 「ん?」

 「床の沈み込みだ。七十二歩ごとに、わずかに沈む、これは罠だな。」

 そう言って、ガルシドュースは鼻を鳴らした。

 「百八で戻る……そうだったな。感じた、計算した。だが、戻っても元に戻った感じがしない。同じ場所に戻されたと言うより。」


「さっきまでいた同じ場所へ戻された気分だ。」

(そうだ。元に戻っているようで……戻っていない、戻されているんだ。)


 二人は背中を合わせ、互いの死角を補って、見失うことがない。

そして脈拍とかにも確実に変化はない。


とすればあるのは一つ。


何かが、この場所を動くようにして、あるいは戻している。


確信に至るまでに、これには数十周を費やした気がする。

 同じ場所にある窪みが、歩みを進めるたびに近づいてくるような感覚。避けても、背後から回り込むような感覚で踏んでしまう。

場所ごと移転している、気分だった。


 「...壁が同じすぎる...そして戻る..おそらく、敵がいて、能力を二つ、だ。」


「...幻覚か...あるいは...セオリク、罠で獲物を取るのは聞いたことあるか?」


 「答えなくてもいい、俺は今までに見た。こいつもそのはずだ、俺たちに合わせて、環境に適したように隠れているはずだ。」


 聞いて、何かを思いついたか、セオリクはしばらく息が少し乱れる。


 「...幻覚?偽装..?問おう。」


 「ああ、問題はどうや...特定して殺す...どう...」


(待て、取り込み...?...魔獣...?うっ!記憶がある、あまり賢いとは言えない、しかし、しかし、信じていいか....んん、記憶で何度も行けた。信じる。)


 「俺はこいつを知っているはずだ、だから見つけやすいはず。」


「....」


 「こいつは恐ろしいような貝に似た見た目をした、時間を操作するそんな...魔獣のはずだ。」


「いきなりではあるが、手立てはあるはずか、ガルシドュースよ。」



(思い出せ、思い出す。)

外殻は巨大な二枚貝状

開閉の度に異様な金属音が響く。


証である。

内部は貝の柔らかさはない、筋肉のような小さな骨格がまるで鱗のように組み合うようにして並んでいる。

人として例えればまるで鎧そのものが動いている。

自分の中だけを動かせる、自在に時間を操作できる...


(俺の最初の二つ以上のやつから外れるが...記憶はこれが正しくあると言っている。けれど問題がある...私の知る限りこいつが、外の環境に影響を与えるなんて有り得ぬ。なぜだ!なぜだ!我はいかなる魔をも極めし...んん?なんだ?!)


 「ガルシドュース!息が荒くなっている!」


「...ん!?す、すまない。」


 (落ち着かないと....待て、待てそうか、待て。)


「取り込んでいるんだ...塔が生きている、こいつは、貝は自分しかいじれない。塔の一部とすればどうだ?」


 「その言葉?わかったかガルシドュースよ!?」


「ああああ、偽装は塔の中に入り込んで...そして、その中で自分の肉体に属する部分を操れるんだ、きっと。」


 「ではいかに」


「違うんだ、手強い、見つけるよりも、強さがあるんだ。」

「ん」

「倒し方も必要だ。遮って悪いが。倒さないといけない。」


ガルシドュースは険しい顔で言う。

言うぞ。

「塔の中に入り込んでいるとなると、たいへん、大変なんだ…あの生物は自分の肉体の一部を自在に操り、時間を操作している。攻撃の時間を、攻撃される部分の時間をずらされたら、こちらの攻撃は意味をなさない。勝手に回復をする。」


 「本体を叩けばいける。あいつは、貝に似た見た目の通りで、体の奥に柔らかい部分が小さくあった、たとえこの塔を体にしてもそのはずだ。」


「もしかしたら、もしだ、こいつは塔を貝殻にして、さらに元の体をその中に埋めた。」


 「然りとして...硬い中にされに固く、そして隠蔽であるもの...故に手強くあろう...」


「一撃だ、柔らかい部分を反応できる時間をなく殺す。」


「至近距離で俺の義手を、反応できないように差し込む。」

 「...よかろうぞ。」


「しかし待て、至近距離で反応できないとなれば。差し込んだ後に神術を流し込むには遅い。」


 「では?」

「止める、ギリギリまで溜め込む...爆発寸前にだ、今にもだの時まで...だから、ギリギリだ。溜め込むとすぎに撃たないといけない、中心を、弱点を見つけないといけない。」


 「承知。」


「頼むぞ、そうしないと、すぐに俺の義手は壊れる...神術を抑えていけずに暴走だ、手が千切れて体も粉々だ。」


 言う事して、時は経過し、合間合間に息をして二人は回転などをしながら周囲を注意深く観察していた。


(かのガルシドュースよ、君が言うことを全て確実にして、我すなわち、瞬間を捉えるぞ。転倒をして、悪敵、滅殺に在らんことを、ここにて秘めて誓う。)


「頼むぞセオリク。」


 「承知。」


(あとは見つけるだけだ。)

(敵が姿を現す所にいかに認めんとも。我すなわち立ち向かうべきにして。)


「罠を張る相手にどう警戒すればいい...簡単だ、もはや動きはわかった。そう言っているぞセオリク、罠だ。」


観察をする。


 壁は相変わらず、均一すぎた。

 七十二歩目の沈み込み、その後の百八歩目での「元に戻る感覚」──場所をこちらに移している。

その証拠に高速移動するたびに少しだけ戻るには間があった。

試していくうち数十回も繰り返される、そんなうちに、感覚の奥底で何かが歪み始める。


(本当に進んでいるのか?それとも……俺の時間だけが、巻き戻されているのか?)


 ガルシドュースの脳でも、こうした感覚の処理には大変な目を負わされる。



 「……今、何か動いたな。」

 「見たか、ガルシドュース?」

 「いや……慎重すぎる、おそらくは、かなりの待ちで獲物を狩る生物だ。」


 二人はさらに歩調を合わせる。



 まだ、決定的な証拠は掴めない。

 視界に入れたつもりの壁が、瞬きを挟んだ次の瞬間には、彫り込みの深さが違っている。見覚えのある深さへと変化する。

今までに見た紋様の一部がほんの一刻、別の模様に変わっていれば、見ているうちにまた揃う。



 「……時間だけじゃないな。おそらく自身で塔という外殻すらも動かしてはいる。」

 「さすれば、予測しても...」


「能力の発動だけじゃなく、常に移動させている。」

 二人の推測は一致していた。

 それは、罠の主が自らの行動を隠すための二重の防御──動かし、そして誤魔化す。

 まるで海底で貝が砂を巻き上げ、泥水と化したそれで姿を隠すように。


「しかし、しかしだ、こんだけ待つってことはこいつ自身は動くのに適していないということだ。いくら周りを変えていていも、本体は変わらず隠れているはずだ。」



(貝殻相手にいいことを...例えばここを広い海とすれば反射があるはずだ、水に月の光が映るように、だ。)


誘いに出る、待つ、探す、どれだ。


疾ッ!


 突如として背中合わせと形をやめてガルシドュースは突進する!

彼は全部を選んだ。観測で得た結果は何だというんだ!ガルシドュースよ!


 「戻れッ!」


戻る、何度も戻される。

(まさかガルシドュースよ、貴公はは彼奴が疲労を目指し、果敢にはいくか!?しかし、ダメだ、ダメだ。嗚呼神よ、あそこまでしては待っているのには、きっとあれはきっと、消耗がもっとも小さくあり、磨耗させられるのは我が友のみぞ。)


「ガルシドュース!今ゆ」


 「来るなッ!戻れ!戻れと言ったはずだ!」


戻る、また戻る、戻るには早すぎて、そのまま走っているガルシドュースはやがて地形の大規模な変動に速度を乗らせては浮かび出す。初めての現象であった。


ゴーーーーー


突風だった。



 まだ戻る


風に当たる。

周りは戻り続けているからだ。


しかし空気の抵抗には限界があった。

ガルシドュースはそれを破るようにして、久方と燃え出しては、大気を燃料と言わんばかりに滑空し出す。



 ザッ!

壁が捲れる音。予測外の事象に魔物は本能的に勝手に動き出す。もう隠れている場合じゃないと。

急ぎで行動に出る。

速い、けれど超常な力を持ち合わせているガルシドュースには、神術持ちにとってはあまりにも遅かった。


 (所詮は獣!想定外のことに恐れをしては逃げ出したか、勝った!この勝利は私がもらう!)


「うぉおおおおお、ああああ!」


だが──貝は反応した。反応できた

壁の奥部から、刺々しい貝のような存在が現れた。そしてそれは殻を開いた、いや、殻そのものを変化させた。殻から鱗のような紋様が出て骨のような感覚の触手のようなそんなものが一斉に牙を向く。


 空中で不利益な姿勢でいるガルシドュースはそんな魔物の攻撃を受けるしかない!


 そう見えたが!


「事実お前の負けだ!悪敵よ!」


 「うーおおお」


そう二人の猛りと共にして、壁が動き出した。

ガルシドュースが選んでいたように、突進と罠を両方挟んだ計画。

魔物が油断した隙に、セオリクが神術に似たその力で転倒させる。

神術と何ら変わらないそれをまだうまく扱えていないのは両者共に気づいている、かけの部分もあった。

しかしどうやら、注意しない魔物が防げるほどではなかった。

神術と他の力の境目を体現したとでも言うべきだろうか。


 そうしていくうちに魔物は壁から落ちていく。

当然時間を戻せばいいはずだが、焦りか、または取り込まれていない状態では、壁を殻として扱えないのか、貝殻に似た姿の魔物は落ちていく。

ガルシドュースはそれを見ては、魔物の落下で力が緩んだ触手を掴んで、本体へ飛んだ。

 燃えながらに、風の抵抗を遮る、そしてそれだけでなく力を貯めることも目的になっていたみたく、神術が確実に腕の部分に集まろうとしていた、これにより義手は激しく振動して、変形し出す。


「ミルグドラス=マカエル!!!(血葬棘衝)」

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