「ここに来てウガリスラ持ちか。」
「ウガリスラ...」
(まさかこいつも...しかし、ウガリスラ、まさか帝国に仇をなすもの)
「ここで死ぬとしよう。」
「それはもちろん君のことであるね。私はセオリク、
決して下郎になど負けん。」
剣撃は依然として飛び交う。
(しかし...ウガリスラ呼び、珍しい。私もそう呼んでいるがほとんどは爵銀と呼んでいた...今思い返すと言うべきか。)
「なぁ、爵銀さえあれば」
「よ、爵銀さん。」
(共に修行したものたちに、同事したものからもウガリスラは全てそう呼ばれていたなぁ。)
「なったってこれさえあれば、俺たちは貴族、爵位だって夢じゃない、そうすれば金銀財宝たくさんだ。だから昔からみんなこう呼んでるんだよセオリク。」
「爵銀てな。」
ウガリスラこと、普遍的な呼称は爵銀
誰しもが持ち物ではないし、それを覚醒させるのも命懸け、さらにそれを駆使するとなるともはや、ただの人が自力で天を登るよりも難しくある。
爵銀が修行法
得るのにまずは八が試練を合格しなければならない。
まずは折骨なるもの。全身三十二所余りにして、関節という関節を打ち抜かれ、肋は蟹を取る籠のように割れ裂かれた。気絶が許されず、嘆きな叫びなど当然許されない。これが第一の試練。
そこで終わらせない。動けないままに砂漠に放られる。靴も衣もない。焼けた砂に足裏が焦げ、血が蒸気になって立つ。掌で砂を握り、血で泥にして、砕けた指骨を仮に固める。
これを血干と呼ぶ。
乾きを越え、血を練り糊とし、己の骨を砂で接ぐ術を共にして第二が試練を乗り越える。
乾ききる前に運ばれるのは氷の世界。極北の白。凍る風が肺を削る。そこでは砂が代わりに霜が降り注がれている。ここでは陸もなく、体温を保つとなれば氷が溶けて、極寒の海で泳ぐしかない。
血に氷粒を混ぜ、死んでなおも這い回る死刑囚どもの生きる死体を撃ち倒しては、凍てつく添え木にして粗塩混じりの氷で骨をさらに固定する。指が黒く死に、感覚が消えたとき、ひとの内に潜む熱を呼ぶ術を学ぶ氷咬は、寒さを敵でなく燃料に変える。
体がいかなる環境においても熱を持てるようにする第三の試練。
そして海。折れた肋のまま、縄も浮き具もなく強制的に鼻や口を塞がれては沈められる。肺を剣で貫かれては、心拍を落とすように薬草を飲まされて。、塩水を強制的に吐くほどに飲まされる。
こうした人からくる極刑を受けてなおも海は奪い、また返す。波が返したのは、呼吸の奪い方と、ぎりぎりで取り戻す勘。
これぞ息絶。すなわち死の間際における最後の力、目指すは広き海渡りて陸へと、第四の試練。
岸に上がれば毒。腐った肉、苦い草。吐く、痙攣する、なお咀嚼する。胃は火鉢となり、毒は火種になる。こちらが焼いた後に噛み砕いても時たま口内で噛み付く毒餌を越えた者は、戦場の瘴気も糧にできる。これぞ火胃。第五の試練。
次には、ひとを絶ち、光を絶つ穴に落とされる。
目や耳を潰されては声の届かぬ闇に七日。
幻覚の瘴気が舞う底にて。
己が弱音よりも狂気が先に喋り出す。幻覚を打ち破らん限りただ死のみ。これを孤影と呼ぶ。
孤影は刃物より鋭い。やがて。心の中の騒ぎを一本の思いにして串刺しする術を覚える。第六の試練
穴から引きずり出されると、今度は空だ。荷車の後の縄で引きずられては血だらけのままに高山からに無理矢理と天から落とされるほど。
折れの残る足で壁の岩を蹴り返し、衝撃を三度に分けて逃がす。
この天墜に生き残る者は、落下の途中で自分の重さを味方にできる者だけにして、体の動きや力量だけでなく、外の力も思うがままにできるであろう、これぞ重身。第七の試練
最後に剣が降る。人の手から放られたものだけでなく、神術持ちの神術すらもあり、風が矢、氷の刃、砂の針この世すべてが刃に見えるよう、視を鍛える。
剣嵐を、形なき剣の嵐の中ですら視界を見失わないと、これが総仕上げ、世界を見分ける稽古だった。第八の試練
(むぅ!早く!)
ガルシドュースの声が聞こえてから、急にあたりの環境が変わる。
まるで夢の中のようだ。
(夢みたいで急に場面が変わりやがって、俺がやる、もう思い出の中で思い出すな。)
(ガルシドュース..?)
(ガルシでいい、言い忘れたな、ここを出れば伝える。いろいろと。)
(だから思い出は今のままでじっとさせていろ)
折骨━━壊身を思い出せ。
砂漠━━血干を思い出せ。
氷海━━氷咬を思い出せ。
海底━━息絶を思い出せ。
毒草━━火胃を思い出せ。
闇穴━━孤影を思い出せ。
天墜━━重身を思い出せ。
剣嵐━━視刃を思い出せ。
(魔法と引き合わせる。この修行を体験したことを、俺が全て、俺の体験に記憶して、空想する。
思い出す。
思い出せ。
(俺が求めるのは十あれば十全、百ならばそれ。)
目指すは万能。
━━思いは現実につながるか。━━
「ミルグドラス=マカエル!!!(血葬棘衝)」
思考が現実に戻される。
先ほどまでガルシドュースを地に叩き付け、セオリクを死にかけまで追い詰める、そんな魔女と思わしき存在が口を開く。
「舐めた真似だね。ふふ、同じ技などこの荊鵝闇蘭姫(ゼレヴェナフィヴァン姫)に通じるものですか!」
「連打に再生、攻防一体、ここで効く技こそが一番の技!ミルグドラス=マカエル!!!(血葬棘衝)」
するとガルシドュースはなんと血葬棘衝を止めどなく連打により殴りかかっていく。
その圧で周り全てのものが蒸発されて魔法の儀式の贄が一部となる。
神術をついに掴み取ったと言わんばかりに、今度はどれだけ技を使っても腕が千切れることはない、傷はあるが、未だに砕けることもない。
「...この力...ただの儀式の宣言や唱えでは無理ね...お前...まさか。」
「再生しろ!俺がすでに命じる!神術よ!血葬棘衝!内部に反転して俺の体を繋げ!」
なんとそう宣言すると己が命を削るはずだった技が彼の肉体を見るうちに修善回復させていく。
この力、まさに強大で巨大で!クソガァ!誰がこの男に今勝てる!
解体人史上最大もあり得るほどの勢いに成長!邪魔すれば誰も骨すら削り取ってくれるだけだ!
「殺す!」
「...名を聞かせろ、おまえ」
「お前を殺すものだ!解体する人、解体人と覚えておけ!」
言葉の音が無くなる前に黒い影がガルシドュースに襲いかかる。
「うっ。」
ガルシドュースの勝利宣言も虚しく、男は姫に飛ばされては地面に叩きつけられるのを、またかと繰り返されはじめる。
しかし!
しかしどうだ、この硬い骨格を身に纏った男を、こんな攻撃で倒せるか。いいや、いいや、もう無理だ。こいつは強くなった。
(お前の攻撃など時間稼ぎにしかならない!このまま疲れるのを待って引き摺り下ろしてやる!)
(いまだ!)
少しだけ攻撃が緩んだ隙にガルシドュースは手を引くと、その勢いのままの筋肉が圧縮するから、大気も引きずられて反動する。
それを発弾として、まるで筋肉がそれほどにまであり。
これが殴り飛ばれ続けた大男一人を飛ばせるか、それほどのすでに弾性を持つか。
してガルシドュースは腕を、そう、彼が両の腕をそのまま握りしめたままにして、拳を突き出した姿勢で飛ぶ。
飛んだ瞬間に感じるのは、両腕が金属梁のように固定され、背後に全身が一本の槍と化した気分。
ゴォおおおお
「はっ」
(速い!硬い!体がッッ!)
筋肉の収縮は尋常でなく、弓の、そうすでにギリギリの弓の、そう、束ねられた縄が千切れる寸前の弓のように、強力な筋肉が結束して束になり、皮膚の下でうねり、体内の血流すら押し出されているのかこれは?
ごぉお....無音ッ
気がつけば飛んでいる中でも静かだった。
音速を超えた噴流と化したんだ。
(音がない。)
一息、胸腔が沈み込んで、次の瞬間には肺が炸裂せんばかりに衝撃音を鳴らし、彼を空でもさらに弾き飛ばした。
第三者が見れば腕二つが真っ直ぐに体の前にあり、その後ろに頭、次に体、最後に脚と全てが直線になっていて、一直線となって飛び出して行った。
高速での飛行はもはや大量な衝撃波を過ぎ去る道に起こしさらに、余震すらも目的地に与えて、一面大爆発状態へと変わる。
爆ぜたことで瓦礫や血肉などが霧や灰になり、それすらも沸騰し、真空の筒状の地帯ができて、ガルシドュースがそこにいる。
さらに彼が進むたびに大気を抉るため、全てが彼へと引き寄せられて破壊される。
理由は簡単。
飛び立つ軌跡がただの直線ではないからだ。
衝撃波が連続して生まれ、空気そのものが彼の形を模して抉られた真空の管をつくりあげることを見る。
耳を劈く轟音が一度ではなく、三度、四度と続けて起こるのは、体の各関節が弾丸のように次々に爆ぜて推進を重ねている。
結果、爆ぜる推進から来るのは衝撃波、その音も耳を突き破るほどの轟音であり、それが幾重にも重なり、最終的に戦場は直線に貫かれる。
驚愕と言わざるを得ないだろう!仮にただの人が見てもそうだが、博識なものであれば尚更なこと!
嗚呼なんたる剛力にしてある!なんたる肉体ぞ!
「ああああ!ミルグドラス=マカエル!!!」
ガルシドュースはが矢よりも速く、裁断榴よりも速く、風、否、光のごとく飛翔していた時。
その直線の先に待ち構えていたのは、空を覆うほどの巨躯、ただの触手が恐ろしい大きく、まるで神話の生物に見違うとある触手。
故にミルグドラス=マカエルで迎撃。速度はさらに高まる。
目指すは一本一本が塔のように太く、鋼鉄の橋よりも長いその触手。
大きくあるそれは、揺らぐたびに風圧が荒波を呼び、地平線までも覆う。
触手が襲いかかる。
空を裂く巨木の鞭打ち。
それを迎え撃つのは、ただの肉体。ただの男。
衝突
瞬間、耳は雷鳴のような音に破られ、視界は白光に灼かれた。
触手の表皮が砕け、肉と骨が深い渓谷の裂け目のように千切れ飛ぶ。
鱗じみた皮膚は弾丸の雨を浴びせられたかのように剥がれ、赤黒い体液が噴泉のように空に舞い散った。
ガルシドュースは止まらない。
触手の一撃を粉砕した勢いのまま、さらに二本、三本と――突き抜けるごとに爆音が連鎖し、空は千切れ、地は割れる。
その飛翔はただの攻撃ではない。
巨大な怪物をも、一本の直線で貫き焼き払う、災害の槍だった。
ドーン!
鳴り響く轟音
砂塵飛び交う。破片飛び交う。恐ろしいぞ。
掠めるだけで石壁は瓦礫と化し、地面は泥のようにめくれ上がる。
余りの熱気に捲られた泥などは液体のように沸騰し、飛沫となって宙を舞った。
恐ろしい。なんたる恐ろしさ。
砂塵。閃光。爆風。
視界が塗り潰され、衝撃だけが残るあと。
そこはなんと赤い海、いや、溶岩にすでになっていた。
誰が見てもきっときっと恐ろしいぞ。誰
(俺はそんなこと微塵もない、今非常に愉快だからだ、だから少しの間黙ってくれ、頭の中のうるさい音。)
(.....ガルシドュース....)
「ん?セオリク、今助ける。」
「ふふ、哀れだね、思い出せば強くなる、絆で人は強いなんて、面白いね。思い出させてくれるじゃない。
「は?え?俺のあれで死んでいない!?」
跳ッッ!突ッッ!飛ッッ!
ガルシドュースはすぐさまに接近するように飛び出す。
「ヴァアヴァヴィ!!!!」
奇声と呼ぶべき怒号。ガルシドュースは今とても興奮している。怒りだ。怒りで興奮している。
(邪魔だぁ!)
鳴り止まない音、それは怒号だ。
怒りを持ってして大気を裂く。
血走った瞳、肉体は災害の槍と化す、そんなガルシドュースが、またや突き進む。
だが。
対するはゼレヴェナフィヴァン姫。
闇のようなドレスが風に靡き、周囲の影をも吸い込むかのごとき存在感を放っていた。
「ふふふ、これでどうかしらね。」
ゼレヴェナフィヴァン姫が指を鳴らした瞬間、
彼女の両手には、既に幾本もの箒らしきものが握られている。普通の箒ではない。
柄は漆黒の鉄ででき、毛先には毒針のような無数の棘が逆立っている。
「は?掃除?」
「我が百箒の舞、まだ見せてなかったわね。」
その声と同時に――周囲の影が揺らぎ、地平の果てから箒が集い始める。
一本、二本……十、二十……やがて百本を超える。
空を埋め尽くす箒が旋回し、魔女の指揮に合わせて一斉に放たれる。
「飛べ、ズ・ゲベルド!(天籟冠)」
黒き箒の群れが散開して、矢となり、雨のように降り注いだ。
一つ一つが鋼槍の突進に匹敵する速度と質量を持つ。
ガルシドュースは咆哮し、両腕を顔の前に置いて、盾にして立ち向かう。
「ぐぬゥゥッ!!!」
衝撃が雨霰のごとく叩き込まれる。皮膚が裂け、血が飛び散る。
防ぎきれずに肩へ、腹へ、足へと突き刺さる。
箒の先が乱れ、雨のようにばらけて降り注がれる。
だが彼は倒れない。
倒れぬどころか、その衝撃を逆に筋肉へと取り込み、膨張させる。
全身の血管が浮かび、爆ぜるように鼓動を打つ。
「……まだだ!まだ、折れんッ!」
その叫びを嘲るように、魔女は笑った。
「ならば……もう一手。箒は掃くもの。掃き清めるもの。穢らわしき異形にあるこそ、お前は倒れる。
カルグ・ニリマ・グレナ=マウグ=ラ(汝の肉を灰とせよ。)ゲブハウスレルビガン!!!(聖槍殺魔臓解)」
突き刺さった箒が、突如として爆ぜる。
毛先が逆立ち、細針が数百本の毒矢となって内部から拡散した。
血管を流れて、内部を突き壊して、ガルシドュースの肉体を内側から穿ち、臓腑すら抉る。
「ぐああああああああ!!!」
血飛沫が雨となり、戦場を真紅に染めた。
セオリクはその光景を見つめながら、歯を噛み締めた。
「……ガルシドュース……っ!」
しかし彼はまだ立っていた。
全身を針で貫かれながらも、拳を振り上げる。
その姿はまるで串刺しの巨像。
倒れるはずの肉体を、意志だけで無理矢理立たせているのか。
いな、彼は貫かれた破片や血を儀式のものにして魔法を発動して、体内にある全てを消し炭にして、自身を癒した。敵が攻撃すらも自身を癒す、彼が神術の燃料にした。
これぞ、ミルグドラス=マカエル(血葬棘衝)だ。
魔女の瞳が細められる。
「ならば、もう一つ見せてあげる……甘美なる絶望を。」
大地が震えた。
ガルシドュースの足元から、粘ついた匂いが立ち上がる。
彼の体にある全ての糖分が。いやそれ以上だ。彼にそんな糖分はなし、全ての血液から胆液までもが飴細工にされた気分だ。
「ぐっ!」
(あれは毒か、いや消しきれない!毒ではない!?)
体を突き破って現れたのは巨大な飴細工の柱。
力できた紅の飴にとほかの体液からの白砂糖など、様々な色の縞模様をしたそれは、ねじれた塔のように天へ伸びていく。
やがて塔はねじれを解き、口を開いた。
まるで巨大な蛇。
だが牙は氷砂糖の刃であり、牙の奥にある舌はガルシドュースの神術の影響からか焦げている、形は鞭である。
「ゲドビガス……甘き牢獄の蛇よ。」
その巨蛇がガルシドュースへと襲いかかる。
飴の牙が肩に突き立ち、鞭のしたが腕を絡め取る。ベタつく感覚が体を這いずり回る。まるで奥深くからあるその感覚。
殴っても、筋肉を膨らませて拘束する蛇の舌や体を砕いても砕いても終わらない。
砂糖の結晶は砕けるごとに再生し、無限の拘束を与える。
「ぐぅ……おぉぉぉぉぉッ!!!」
ガルシドュースはなおも筋肉を爆ぜさせ、必死に抵抗する。
だが拘束は増える一方だ。
一本が砕ければ、二本三本と増殖する。
飴の鎖が絡みつき、彼の巨躯を地へと引きずり倒していく。
「もう終わりよ。力だけでは抜け出せない甘美の牢獄。 あなたはここで溶かされる。おまえは消える。」
ゼレヴェナフィヴァン姫の指が軽く動いた。
その瞬間、甘き牢獄の蛇の体表から熱が走り、
飴の牙がガルシドュースの体を溶かし始める。
焼け爛れた皮膚が泡立ち、肉が飴に融け込んでいく。
「ぐ、ああああああああッ!!!」
苦しむガルシドュース。
セオリクの叫び声が轟く。
「....ガルシドュースッ!!!」
惨劇に瀕死なセオリクも最後の力を振り絞ろうとする。
「惨めね、熱い火を使う男がぐつぐつに溶かされて、熱されるなんて。哀れねおまえ。」
戦場の空気が、死と甘味の匂いで満ちていた。