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第16話:社内版「絆の連携作戦」の胎動

社内に漂う微かな不協和音。

その奥に潜んでいたのは、社員たちの孤独や不安だった。


ハルカの直感センサーが捉えた感情のざわめきは、リョウの冷静な分析とユウトの情報収集、そしてナツミ姉の温かい言葉によって、徐々に輪郭を現し始めていた。



朝、いつものように通勤ラッシュの電車を降りてオフィスへ向かう。人波をすり抜けながら、今日の会議のことを考えていた。


今日は、社長が提唱する「絆」プロジェクトの説明会。各部署から具体的な提案を募るためのものだ。




会議室に入ると、すでに多くの社員が集まっていた。


やがて社長が登壇し、穏やかで熱のこもった声で語り始める。




「スターライト企画が利益だけを追う企業ではなく、“絆”を通じて社会に貢献できる存在になる。

私はそう信じています。

そしてまず、その第一歩は、私たち自身の内側から始めるべきだと考えます」




社員たちの表情は真剣そのもの。

しかし、ハルカの直感センサーは、その奥に潜む戸惑いや迷いを感じ取っていた。


「どうすれば“絆”が生まれるのか?」という疑問。

それを、あえて明確に語らない社長の姿勢には、

“社員たちに自ら考えさせたい”という深い意図が感じられた。




昨日、予算案に異議を唱えた田中部長も、険しい表情で社長を見つめている。

その視線の奥には、「絵空事ではないか」という疑念と、

「本当にこれを実現できるのか」という探るような想いが読み取れた。




説明会が終わると、各チームは社内版プロジェクトの企画に向けて動き出した。

ハルカたちのチームも、会議室でブレインストーミングを開始する。




「社長の言いたいことは分かるけど、具体的に何をすれば“絆”って深まるんだ?」


ユウトが頭を掻きながら言う。




リョウはホワイトボードに次々とキーワードを書き出していく。


「コミュニケーション不足」

「部署間の壁」

「貢献実感の希薄化」

「変化への適応不安」




そこにユウトが続けた。


「価値観のギャップとか、世代間のズレもあると思いますよ」


その言葉に、リョウも「なるほど」と頷き、項目を追加した。




「まずはお互いを知るところからだな。

それぞれの得意・不得意を共有してみよう」


そうして、チームの特性がホワイトボードに書き出されていく。




ハルカ

得意:直感センサー、共感力、柔軟な発想

不得意:論理的説明、数値分析、事務作業


リョウ

得意:論理的思考、データ分析、冷静な判断、戦略立案

不得意:感情表現、和ませ力、突発対応


ミサキ

得意:危機管理、組織運営、効率化、反省からの学び

不得意:人間関係の再構築、自己肯定、感情表出


ユウト

得意:情報収集、SNS活用、コミュ力、ムードづくり

不得意:長期計画、深刻な話、重責ある局面


社長

得意:ビジョン提示、決断、人を鼓舞する

不得意:現場の細かい感情ケア


ナツミ姉

得意:傾聴、癒し、現実的視点、コミュニティづくり

不得意:戦略設計、デジタル技術


「ナツミ姉、社内じゃないのに入ってるのウケますね」


ユウトの一言に、自然と笑いが起きる。


それだけ、彼女が皆にとって支えになっているということだ。




その日の午後、ハルカは給湯室でコーヒーを淹れるミサキを見つけた。

背中にはどこか寂しさが滲んでいた。




「ミサキさん、お疲れ様です」


「……あ、ハルカさん。お疲れ様です」




笑顔を浮かべたミサキだったが、その瞳にはわずかに涙の光が宿っていた。




「最近、大変じゃないですか?」




問いかけにミサキは一瞬戸惑ったが、静かにうつむいた。




「……いえ、大丈夫です。自分で選んだ道ですから」




言葉は力強かったが、胸の内にはまだ罪悪感と孤独が渦巻いている。




「でも、私は知っています。

ミサキさんが本気で向き合っているって」




完璧な慰めではなかったかもしれない。

でも、ハルカの直感は、“理解”を求める心の声を感じ取っていた。




「……ありがとう。

でも、私をまだ信用していない人がいることも、分かってます。

当然のこと。過去に私が、酷いことをしたのだから」




その表情には、以前よりもわずかに穏やかさが戻っていた。




「ミサキさん。私たちには“絆の連携作戦”があります。

一人じゃありません」




ハルカの言葉に、ミサキは黙って、深く頷いた。




夜、喫茶店ルナでナツミ姉と話をしていたときのこと。




「ミサキさん、すごく頑張ってるのに、

まだ社内では受け入れきれない人もいるんです。

見てて、辛くて……」




ナツミ姉は静かに頷き、お茶を差し出した。




「人間関係って、簡単には変わらないのよ。

でも、ハルカが信じてるなら、きっとその想いは届くわ。

絆って、そうやって少しずつ育っていくものだから」




そして、ふと思い出したように言った。




「この前、ルナに来た常連のおじいちゃんが言ってたの。

“昔は自然と助け合えたのに、今はどうすればいいか分からない”って。

でもね、みんな繋がりたい気持ちはあるのよ。

ただ、その“きっかけ”がないだけなの」




(きっかけ……!)




ハルカの直感センサーが、“ピピッ”と反応した。




翌日。ハルカ、リョウ、ユウトの三人は社長室を訪ねた。




「社長、ご提案があります。

“社内版・絆の連携作戦”の立ち上げです」




社員たちの声、直感の気付き、データ分析、そして水面下の情報。

三つの視点を組み合わせて、具体的な施策を提案する。




「部署横断型のランチ会、自由なワークショップ、

そして新入社員や中途社員のためのメンター制度の導入を——」




リョウが補足する。




「特に、ミサキのような中途社員が活躍できる体制が必要です」




社長は静かに聞き入り、そして頷いた。




「なるほど……素晴らしい提案だ。

プロジェクトの実行と共に、“足元の絆”も強化していく。

ハルカ君、リョウ君、ユウト君——ありがとう」




その日の夕方。社内掲示板に新たな通知が張り出された。




『社内版・絆の連携作戦』始動。

推進メンバー:ハルカ、リョウ、ユウト、ミサキ。




通知を見たミサキは驚き、そしてゆっくりと頷いた。




「私の失敗は、誰かの役に立てる。

皆さんの“絆”を、私が守ります」




その言葉に、ハルカの直感センサーが、確かな希望の光を捉えた。


スターライト企画に、新たな風が吹き始めていた。


これはまだ、小さな始まりに過ぎない。


(つづく)

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