社長室での提案から数日後。
社内掲示板には、社長からのメッセージが大きく掲示されていた。
『社内版 絆の連携作戦』の始動。
そして、その推進役として、佐藤ハルカ、佐々木リョウ、新しく加わったミサキ、
そして情報戦の要であるユウトが指名されていることが記されていた。
ミサキは、その通知を見て、一瞬目を見開いた後、静かに、しかし深く頷いた。
ミサキの瞳には、以前のような迷いはなく、確かな光が宿っている。
「私の失敗は、誰かの役に立てるはず。皆さんの『絆』を、私が守ります」
ミサキの決意に満ちた言葉が、私の直感センサーに、温かい光を放った。
スターライト企画に、新たな活力が生まれようとしていた。
これは、まだ始まりに過ぎない。
私たち「絆」チームは、早速、社内版「絆の連携作戦」の具体的な企画会議に取り掛かった。リョウ先輩が中心となり、ホワイトボードには私たちのチームの得意不得意リストが貼り出されている。
ハルカ: 直感センサー(人の感情の機微を察知)、共感力、柔軟な発想
リョウ: 論理的思考、データ分析、冷静な判断力、戦略立案
ミサキ: 危機管理、組織論、効率的な業務遂行、過去の失敗からの学び
ユウト: 情報収集(SNS含む)、デジタルツール活用、コミュニケーション能力、ムードメーカー
「まずは、部署間のコミュニケーションを活性化させることから始めよう」
リョウ先輩が口火を切った。
「特に、今回の予算会議で意見の対立があった営業部と企画部の間に、ポジティブな交流を生み出す必要がある」
ユウトが腕を組み、考え込んだ。
「営業部の田中部長とか、ああいう人たちって、成果を数字で出すことにプライド持ってるから、フワッとした『交流会』とかじゃ響かないっすよねー」
「そうね」ミサキが頷く。
「形だけのイベントでは、かえって溝が深まる可能性もあるわ。彼らが納得し、参加する意味を見出せる企画が求められる」
私の直感センサーが“ピピッ”と反応する。田中部長たちの心には、地道な努力が評価されないことへの不満と、新しいことへの不安が渦巻いていた。
彼らが「参加する意味」……。
それは、自分たちの経験や実績が活かされる場、
そして、新しい試みが具体的に会社の利益に繋がるビジョンが見える場なのではないだろうか。
「何か、営業部と企画部が、互いの仕事を知ることで、新しい価値が生まれるような企画はどうだろう?」ハルカが提案すると、リョウ先輩がすぐに反応した。
「なるほど。互いの専門性を理解し、尊重することで、部署間の壁を低くする。具体的な成果にも繋がりやすい。例えば……部署横断型の『合同提案プロジェクト』を組むのはどうだ?」
リョウ先輩の言葉に、ミサキが深く頷き発言した。
「『部署横断型』……まるで、会社のフロアに引かれた目に見えない横断歩道みたいですね。
私たちは、その上を行き交う人の表情や容姿だけで、相手の価値を決めてしまうことがあるでしょう。
でも、話してみないと、その人の本当のスキルや、秘めた情熱には気づけないと思うの。
だったら、部署の行き来がもっと自然にできるような仕組みも必要かもしれませんね。
極端な話、仕事で関係性の深い部署を同じフロアに配置し直す、なんてことも、将来的には考えるべきなのかも……」
ミサキの言葉に、会議室に一瞬の静寂が訪れた。
物理的な配置にまで踏み込んだ提案に、ユウトは目を丸くし、リョウ先輩もわずかに目を見開いた。
ミサキの提案は、単なる企画の
リョウ先輩はゆっくりとペンを置き、ミサキの目をまっすぐに見つめた。
「ミサキさんの言う通りだ。
最終的には、そういう抜本的な変革も必要になるかもしれない。
だが、まずは、その『目に見えない横断歩道』を、実際に『行き交い、交流する場』へと変えることから始めよう」
リョウ先輩はホワイトボードに改めて目を向け、力強く続けた。
「そのためにも、まずは『合同提案プロジェクト』だ。
営業部と企画部の若手社員を中心に混合チームを作り、既存顧客や新規顧客に対して、部署の垣根を越えた新しいサービスや製品を共同で企画・提案する。
成功すれば、両部署にとって具体的な実績となり、それが評価に繋がる」
「それ、いいっすね!」ユウトが声を上げた。
「普段話さない部署の人と組むのって、最初はギクシャスするけど、一緒に何か作り上げるのって、なんだかんだ楽しいんすよ!
僕が、チームメンバーをSNSの分析とかで、相性良さそうな感じにマッチングしてみましょうか?」
「ユウトの得意分野だな」
リョウ先輩が頷く。
ユウトは早速、社員名簿と過去の社内SNSの活動記録を照らし合わせ、相性の良い組み合わせのリストアップを始めた。
次に私たちは、新入社員や中途社員のためのメンター制度について話し合った。
リョウ先輩がミサキに視線を向けた。
「ミサキさん、この制度では、あなたの経験が最も重要になる」
リョウ先輩の言葉に、ミサキは複雑な表情を浮かべた。
過去の出来事を持ち出されたことに一瞬たじろいだようにも見えたが、それが自身の強みとして評価されていることを理解すると、どこか納得したような、それでいて少し決意を秘めたような眼差しをリョウ先輩に向けた。
「過去に社内で誤解や不信を招いた経験を持つミサキさんが、新しい環境に馴染むことの難しさや、信頼を再構築することの重要性を語ることで、メンティーの心に響くはずだ。
そして、メンターとしても、あなたの危機管理能力や組織を
ミサキは、最初は戸惑いの表情を見せたが、やがて強い決意の光を宿した。
「……はい。
私の失敗は、誰かの役に立つはずです。
新しい社員が私と同じような孤立を感じないよう、全力でサポートします」
ミサキの言葉には、以前のような弱々しさはなく、確かな覚悟が感じられた。
初動の動きは順調だった。
リョウ先輩がプロジェクトの骨子を固め、ユウトが最適な人材マッチングを進め、ミサキがメンター制度の詳細を詰めていく。
私の直感センサーは、チームの誰もが自分の役割を見つけ、前向きに動き出しているのを感じ取っていた。
数日後、「社内版 絆の連携作戦」の始動が全社に発表され、合同提案プロジェクトとメンター制度の参加者募集が始まった。
私の直感センサーは、最初こそ戸惑いや不満の波を感じたが、次第に「面白そう」「やってみようかな」という、かすかな期待の波が社内に広がり始めているのを感じ取った。
特に、合同提案プロジェクトでは、普段は部署間の壁に阻まれていた社員たちが、新しい挑戦に目を輝かせているのが見て取れた。
メンター制度でも、新入社員たちが不安な表情から、少しずつ希望の光を宿していくのが感じられた。
これは、スターライト企画の「絆」が、外に向けてだけでなく、内側から、静かに、
しかし確実に育まれ始めている証拠だ。
(つづく)