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第21話:広がる波紋、そして予期せぬ摩擦

ユウトの情報戦と明るい推進力によって、スターライト企画の社内には、確かに新しい風が吹き始めていた。


合同提案プロジェクトは各チームが着実に形になり始め、メンター制度も、ミサキの尽力によって心の絆を深めていた。


しかし、変化の波が大きくなればなるほど、それに抵抗しようとする力もまた、大きくなっていくものだ。


ある日の午後、私は社内カフェテリアで、普段あまり見かけない顔ぶれがテーブルを囲んでいるのを見かけた。


彼らは、主に経理部と人事部のベテラン社員たちで、いつもは滅多に部署を超えて交流することのない面々だ。


私の直感センサーは、彼らの間に、警戒心と、どこか不満げな感情が渦巻いているのを捉えた。


彼らの会話に、思わず耳を傾けてしまう。

「最近、社内が妙に騒がしいと思わないか?

『絆プロジェクト』とやらで、やたらと人が動き回って、業務に支障が出ているという話も聞くが」

経理部のベテラン社員、ヤマモト部長が腕を組みながら言った。


彼の声には、変化を好まない、根深い保守的な感情が滲んでいた。


人事部のタナカ部長も、眉間に皺を寄せながら頷いた。

「ああ。

特にあの『合同提案プロジェクト』だ。

若手社員ばかり好き勝手やらせて、現場の負担が増えていると、営業部からも不満の声が上がっている。

しかも、あのミサキとかいう女性も、社内を好き放題歩き回って、社員のプライベートにまで踏み込んでいるらしいじゃないか」


タナカ部長の言葉には、強い不信感と、以前からミサキに向けている批判的な視線が混じっていた。


私の直感センサーは、彼らがミサキの過去のスキャンダルを未だに引きずり、それを今回のプロジェクトと結びつけて、否定的な評価を下していることを告げていた。


彼らは、目に見える変化を好まず、会社の秩序や伝統を重んじるタイプだ。

新しい試みが既存の業務プロセスを乱し、自分たちの管轄外のことにまで影響を及ぼすことを嫌悪しているようだった。


彼らの心のセンサーからは、「余計なことをするな」「秩序を乱すな」という、強い排他的な感情が伝わってきた。


その日の夕方、私たちは「絆」チームの定例会議を開いていた。


リョウ先輩が、合同提案プロジェクトの順調な進捗と、メンター制度の具体的な成功事例を報告した。

ユウトも社内SNSでのポジティブな反応を共有し、ミサキもメンティーたちの心の変化を嬉しそうに語っていた。


「順調に進んでいるようだな。

社員たちの意識も少しずつ変わってきている」

リョウ先輩が満足げに頷いた。


しかし、私は昼間のカフェテリアでの会話が頭から離れなかった。


「あの……リョウ先輩。

少し気になることがあるんですけど」


私は意を決して、カフェテリアでのヤマモト部長たちの会話をチームに共有した。

彼らの言葉が、まるで冷たい水を浴びせられたかのように、会議室の熱気を一瞬で冷ました。


「経理部と人事部か……。

確かに、彼らは変化を最も嫌う部署だ。

特にタナカ部長は、ミサキさんの件で根に持っている部分もある」

リョウ先輩の表情がわずかに硬くなる。


ユウトも真顔になった。

「そうっすか……やっぱり、ああいう空気って、一部では燻ってたんすね。

ポジティブな情報ばかり追ってたんで、見落としてました」

ミサキは、タナカ部長からの視線を敏感に感じ取っていたようで、静かに俯いた。


「このままでは、せっかく動き出した歯車が、また止まってしまうかもしれません。

彼らの不満が大きくなれば、社長の耳にも入るでしょうし……」

私の言葉に、会議室に重い空気が満ちた。


「そうだな。この壁を乗り越えなければ、真の『絆』は築けない」

リョウ先輩はそう言って、ホワイトボードに新しい課題として「抵抗勢力への対応」と書き加えた。リョウ先輩の表情は、これまで以上に真剣だった。


「どうすれば、彼らにこの作戦の意義を理解してもらえるだろう?

一度根付いた不信感を払拭するのは、容易ではない」

ユウトが頭を掻き、ミサキも難しい顔で考え込んでいる。


「まずは、彼らが何を最も懸念しているのか、正確に把握する必要がある」

リョウ先輩が口火を切った。


「経理部なら予算や効率、人事部なら制度の公平性や社員の規律か。

彼らが納得する『数字』や『論理』で、プロジェクトのメリットを示す必要があるだろう」


「僕、社内の非公式な情報網を使って、彼らの本音をもう少し深く探ってみますよ」

ユウトがすかさず提案した。


「表面的な不満じゃなくて、本当に何が彼らを不安にさせてるのか、そこを探らないと。

私も、メンター制度が社員のプライバシーを侵害しているという誤解があるなら、その透明性を高める方法を考えます。

あるいは、彼らが懸念する『業務への支障』を具体的にどう軽減できるか、具体的な改善策を提示する必要があるかもしれません」

ミサキが顔を上げた。


「ハルカの直感センサーも、彼らの心の奥底にある『変化への恐れ』や『過去への執着』を読み解くのに役立つはずだ」

リョウ先輩が私に視線を向けた。


スターライト企画に広がり始めた「絆」の波紋は、同時に、予期せぬ摩擦を生み出していた。


私たちは、新たな、そしてより強固な壁に直面していたが、その壁を乗り越えるための具体的な一歩を、確かに踏み出そうとしていた。



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