タナカ部長たちの組織的な妨害工作と、仕事に飢え、やる気を失っていく若手社員たちの存在。
そんな闇の中でも見え始めた、総務部モリタさんのような小さな変化の兆し。
「絆」チームは、この複雑な状況の中で、次の一手を真に社員の心に響くメッセージを模索していた。
社内に渦巻く様々な感情の波を感じながら、私は私たちのチームが、いよいよ真価を問われる時が来たことを痛感していた。
ミサキは、営業部のサトウとの最後の面談を終えて戻ってきた。
その表情は、以前にも増して真剣で、どこか吹っ切れたような清々しささえ帯びていた。
彼女の目には、単なる業務の報告とは異なる、深い感情が宿っているのが見て取れた。
「サトウ君と話して、わかったの。
彼が求めているのは、具体的な仕事の割り振りだけじゃない。
自分の存在が、この会社で意味があるのか、自分の能力が会社に貢献できるのか、という問いに対する答えなのよ。
そして、それは彼一人だけでなく、多くの若手社員が抱えている、根源的な不安だと」
ミサキの言葉は、私の直感センサーが捉えていたサトウ君の心の奥底からの叫びと完全に一致した。彼女は、社員が本当に求めている「絆」の形を、言葉の裏にある心の声まで深く理解していた。
「だから、私、リョウ先輩に提案したいことがあるの。
年末の全社員発表で、私たちの成果を語るだけじゃなく、彼らのような声、そして彼らが抱える本質的な問いに、私たち自身がどう向き合うかを、もっと具体的に伝えるべきだって」
ミサキの瞳には、迷いのない強い光が宿っていた。
社員一人ひとりの声を聞き、その痛みに寄り添うことこそが「絆」プロジェクトの本質だと。
その痛みを共有することこそが、真の信頼を生むと、改めて確信したようだった。
その日の定例会議で、ミサキは意を決したように口を開いた。
真っ直ぐにリョウ先輩に向けられている。
「リョウ先輩、お願いがあります。
年末の全社員発表の場で、私自身の過去の失敗について、皆さんの前で、隠さずに話させていただけませんか?」
ミサキの突然の提案に、ユウトも私も、そしてリョウ先輩も息を呑んだ。
会議室に静寂が訪れる。
その場の空気が一瞬にして凍りついたかのように重くなる。
ミサキの過去の失敗が、彼女にとってどれほどの重荷だったか、私たちは皆知っていたからだ。
「社長から、全社展開を命じられた今、中途半端な姿勢では、タナカ部長のような人たちの根深い不信感を払拭することはできない。
それに、過去の私のように、会社に居場所を見失いかけている若手社員もいる。
彼らは、私たちにどこまで本気なのか、本当に会社が変わるのか、疑いの目を向けている。
だからこそ、私が、あの時の過ちを隠さずに話すことで、皆さんに真剣にこのプロジェクトに向き合ってもらいたいんです。
私自身が、社員の一人として、彼らと同じ痛みを経験し、それを乗り越えようとしていることを示すことで、彼らの心の扉を開きたい」
ミサキの言葉は、震えていながらも、一点の曇りもなかった。
その声には、過去の自分と決別し、社員たちの信頼を真正面から勝ち取ろうとする、並々ならぬ覚悟が込められていた。
自らの弱さをさらけ出すことで、最も強いメッセージを伝えようとしていたのだ。
リョウ先輩は、ミサキをじっと見つめた。
彼の表情からは、驚きとミサキの真意を深く理解したからこその、複雑な感情が読み取れた。
ミサキがどれほどの勇気を振り絞ってこの提案をしているかを痛感しているようだった。
「ミサキさん……それは、簡単なことではないですよ。
君にとって、とても辛いことだろう。
一度失った信頼を取り戻すことは、想像を絶するほど困難な道だ」
「わかっています。
でも、もう逃げたくないんです。
このプロジェクトをスターライト企画という会社を、本気で成功させたい。
私にできることなら、何でもする覚悟です」
ミサキの決意は固かった。
その瞳の奥には、過去の自分を乗り越えようとする、揺るぎない光が宿っていた。
リョウ先輩は、深く息を吐き、ゆっくりと頷いた。
「わかった。
君の覚悟、確かに受け止めた。
君がそこまで言うのなら、私も全力を尽くそう。
君の勇気は、きっと多くの社員の心に届くだろう。
私も、君が安心して話せるように、万全の準備をしよう」
ミサキの勇気を真正面から受け入れ、共に戦うという強い意志を示していた。
私の直感センサーは、リョウ先輩とミサキの間に、これまで以上に強固な「信頼の絆」が結ばれたのを感じた。
それは、ビジネスパートナーとしての関係を超え、互いの弱さを受け入れ、支え合う、深い繋がりだった。
ユウトも、真剣な表情で言った。
ミサキへの尊敬と、チームへの強い結束が込められている。
「ミサキ先輩がそこまで言うなら、僕も全力でサポートします!
データの分析も、演出も、何でも言ってください!
どんな妨害も、データと事実でぶっ潰してやりますよ!
ミサキ先輩の言葉を、全社員に届けるために、僕にできることは何でもします!」
チームの士気を一気に高めた。
私たちは、互いの強みを信じ、弱みを補い合う、真のチームへと進化していた。
私は、このチームの一員として、ミサキの勇気と、リョウ先輩の深いリーダーシップ、そしてユウトの揺るぎないサポートに深く感動していた。
私の直感センサーは、私たち「絆」チームの「絆」が、今、これまでで最も強固なものへと深化していることを感じ取っていた。
私たちは、一人ではない。この強い「絆」があれば、どんな困難も乗り越えられる。
スターライト企画の「絆」は、内なる妨害と、外からのSOSという二重の試練を前に、チーム全員の覚悟を一つにした。
私たちは、全社員の前で、真実を語り、会社の未来を切り拓くための、最後の準備を始めた。
その発表は、単なる報告ではなく、会社全体を揺り動かす、魂の叫びとなるだろう。
(つづく)