あの日、カリヨンはひとつの条件を付けた。
「私の紹介で王室の審査会に提出は可能です。ただし、その代わりに一筆書いていただきます。すべての利益と責任はレナ嬢とグロリハレル伯爵に帰属し、私カリヨンは内容・品質に一切関与していないと宣誓供述してください」
父がせかすように言い放つ。
「いいだろう、書けばいい! 早くしろ!」
怒号の裏には、余裕のなさが透けて見えた。
聡いレナは、カリヨンの言葉に潜む危険に気づいたかもしれない。
しかし、レナも……人生の大逆転の望みを審査会に託していた。
カリヨンはアレッシャンに書類の用意と審査日程の取り付けを指示する。
「……これで、よろしいですか?」
席を立ちかけると、父が手を振って追い払うように言う。
「もう用はない。出て行け」
カリヨンは静かに頭を下げた。