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第262話 防衛線を押し上げろ!

「司令、報告だ。先程イレーネ湾を派遣部隊が出発、現在はブルネイ泊地に向かって航行中だ。だが部隊は優先的にイーデ獣王国側に割かれるから、こっちにいつ来るかはわからない」


「分かった。ありがとうロバート」


「構わないさ。それよりも俺達は動かないのか?」


「もうそろそろ動いてもいいとは思うが、他の防衛陣地とも連携を取って攻撃せよとギルドから達しが出ているからなぁ。勝手に動くのもどうかと思ってな……」


 もうこの位置に布陣してから数時間が経過した。

そろそろ動いてもいいとは思うのだが、装甲師団はまだ動く気ではないらしい。

俺たちだけでも先に動こうか……どうしようか……


「ルフレイ、そろそろ動いても良いんじゃないかしら? 今前面にいるぐらいのダークウルフであれば私たち2人いれば十分よ」


「というか装甲師団が突き進むだけでも十分だとは思うがな。それに大陸中央の霧の拡大も懸念点だ。早く調査したいという気持ちはある」


「じゃあ決まりじゃない。さぁ、行くわよ」


「いや、ここはやはりロバートたちに行ってもらおう」


 俺はロバートに手を降ると、彼は直ぐにこちらに走ってやってきた。

俺は彼に進撃するように命じ、彼は他の兵士たちにそのことを伝達しにいった。

俺たちが動きを見せてると、ゲオルグは俺のもとにやってきていった。


「まだ他方面の反抗の情報が入ってきておりませんが、もう進撃するのですか?」


「あぁ。こちらの戦線だけでも先に押し上げておきたい。それにこの大量発生の原因も探りたいからな」


「なるほど。では私たちも部隊を動かしましょう……と言いたいところですが、もう少しだけ待っていただけますか? アレが来ますので」


「アレってなんだ?」


 俺がそう聞いた途端、空になんだか聞き覚えのある音が響いてきた。

その音は段々と近づいてきて、俺たちの頭上を通り抜けようとしている。

まさかこの音は……


 ウォォ――ォォン……!!


「この悪魔のサイレンは……」


「えぇ。我々の同級生が駆けつけてくれたようです」


 空を見上げると、大きな音を響かせてJu-87Cが急降下してきていた。

垂直尾翼にマークされた部隊章から察するに、帝国大学の空軍科の機体だ。

陸軍科は実地演習が出来て羨ましいとルーデル元帥が言っていたが、まさかここで投入してくるとはな……


『しくじるんじゃねぇぞ! 陸軍科の連中の鼻を明かしてやれ!』


『おう! 言われなくともやってるわ!』


『急降下爆撃隊が侵入し終えたら次は俺たちだぞ! 対地攻撃の練習などしていないがまぁ大丈夫だろう!』


『目標を捉えた! 投下! 投下!』


 大空から急降下してきたJu-87Cはダークウルフの群れの中に爆弾を投下し、その音と爆発でダークウルフの注意を引き、また群れをバラけさせた。

そこにBf-109Tが来襲し、その機関砲で対地攻撃を実施した。


「……対地支援って大事だな」


「間違いない。俺たちも呼ぼうか? 島で格納庫の倉庫番になっているA-10Cを」


「それは明らかにオーバーキルだろう……これだけの戦力で十分だ」


「お、対地攻撃が終わったな。よし……全車前進!」


 対地攻撃の雨が一旦止んだところで、大鷲小隊の全車両および装甲師団の全車両が、ダークウルフの割拠する谷間へと進撃を始める。

爆弾の音に怯えていたダークウルフたちも車両の進撃に気がつくと体制を立て直し、こちらに飛びかかってこようとする。


「ストライカー各車は一旦停止、M2ブラッドレーと残りの装甲部隊は前進を続けろ!」


「「「「了解!」」」」


 ストライカーは一旦進撃を停止、ストライカーMGSは搭載されている主砲の射撃姿勢を取り、ストライカーMCは車体を反転させて、後部に搭載されている120mm迫撃砲の発射準備を整える。

先に準備を終えたストライカーMGSは、挨拶代わりに砲弾を敵の群れに向けて発射した。


 それに続いてストライカーMCは車体後部の迫撃砲で攻撃を開始、120mmという大型の迫撃砲弾をダークウルフたちにお見舞いする。

その後方支援の中残りの車両は果敢に突撃し、ブラッドレーとⅠ号、Ⅱ号戦車はそれぞれの車載機銃をダークウルフの群れに向けて発射した。


「目に入った敵は全員撃ち殺せ! あまりに近いものはそのまま轢いてしまえば良い! いちいち律儀に攻撃する必要はないぞ!」


「主砲の発射は控えろ! 踏み潰すだけで十分だ!」


「パンターを先にいかせろ! 俺たちは残った敵を掃討する!」


 狭い谷に逃げ道はなく、最前面に展開したパンターによってダークウルフはなすすべもなく轢き殺されていく。

一部の敵は防御魔法を展開したり魔法を放ってこようとするが、パンターの同軸機銃で殲滅されていく。

運良く生き残った個体も第二陣で控えているⅠ号、Ⅱ号戦車やM2ブラッドレーの機関砲で駆逐されていった。


「なんだか呆気ないな……」


「スタンピードと言っても大したものではないなぁ」


「そうやって油断しているとやられるわよ。油断大敵、ね?」


「そうだな。慢心してはいけないな」


 そうは言っても特に苦戦することはなく、俺たちは谷の終わりまで戦線を上げることに成功した。

だが高所で陣を構えていた冒険者たちがわらわらとこちらへと移動してきており、後退することが出来ない状況になってしまった。

仕方がなく俺たちはさらに前進していくが、その先は森であり移動が難しい。


「なんだか誘い込まれているような……」


「とりあえず森に逃げ込まれる前に殲滅するぞ!」


 勢いに乗ってダークウルフは次々に撃破されていくが、いくらか残党が森の中へと逃げ込んでしまった。

そのため森の中へと進撃せざるを得なくなり、先頭車両は小回りの効かないパンターから、Ⅰ号、Ⅱ号戦車やM2ブラッドレーに引き継がれた。


「この先は森だ。何が待ち構えているかわからない以上慎重に進んでいくぞ!」


「「「「了解!」」」」


 そんな森の先には、黒い霧が蠢きながら広がっていた。


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