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第261話 フライコーア、再び

「そう言えば前線で、見た目は違うが似たような乗り物を見たな」


「え、この装甲戦闘車に?」


「あぁ。鉄ち◯この大きさ的にはあっちのほうが大きかったがな」


「その呼び方やめてくれ……」


 俺はM2ブラッドレーの車長用ハッチから顔を出し、並走するマックスと言葉を交える。

だが主砲を装備した乗り物なんて輸出した思い出がないんだがな……

いや、1つあったな。


「ヴェルデンブラントかゼーブリックの義勇軍か」


「彼らは装甲師団と名乗っていたが、確か掲げられていた旗的にはヴェルデンブラント、ゼーブリック両国の部隊共に展開していたな」


「ということは前線ではⅠ号、Ⅱ号戦車が活躍しているのか」


 義勇軍は戦争終了後に解散されたが、その一部は各国の特殊軍として装備とともに引き継がれた。

MP40やSTG44などの小火器からパンツァーファウストなどの対戦車兵器、Ⅰ号戦車、Ⅱ号戦車、あとは少数のⅤ号戦車、加えて1両のⅥ号戦車が引き渡されていた。


 弾薬の製造は、B-36Jの改造時に機械作業の腕を磨いたゼーブリックの国民が、自らの土地に工場を立てて行っている。

戦車や銃器の設計図なども引き渡したため、自己で修理や、少数ではあるが国産化が進められているらしい。

燃料に関しても、ブルネイ泊地に建設した魔石油の製造施設から必要量購入して使用しているようだ。


「さぁ、陣地に付いたぞ」


「おぉ、ここが……」


 少し開けた小高い丘の上に出ると、そこには大勢の冒険者たちがいた。

その冒険者たちの集まりの中心部には無数の旗が立てられている。

どうやらルクスタントの貴族たちも前線に集まってきているようだ。


 俺たちは車両を冒険者たちの横の、邪魔にならない場所に止めた。

俺はM2ブラッドレーから下車し、冒険者たちの方を見る。

彼らは剣でも持って立ち尽くしているのかと思っていたが、そんなことはなかった。


 彼らは陣地に多連装化された無数のバリスタを一列に並べており、引き金を握ってじっとしている。

彼らの目線の先には、ウロウロしているダークウルフの群れがあった。

だがここは高台に位置しているので、ダークウルフが急に襲いかかってくることはない。


 そのダークウルフの群れの前面、高台の下には、ヴェルデンブラント、ゼーブリックの装甲師団が展開してダークウルフを牽制していた。

時折近づいてくるダークウルフに対してⅠ号、Ⅱ号戦車がその車載機銃で追い払っている。

対戦車戦では役に立たない機銃も、魔物に対しては絶大な威力を発揮するようだ。


「あんな軽戦車が活躍できるもんなんだな。対戦車ミサイルをくらえばイチコロだが、魔物に対しては優位に立てている」


「魔物も所詮は獣だ。自分より体格の大きな戦車には迂闊に近寄りたくないんだろう」


「我々もあっちに降りますか?」


「そうだな。カールに挨拶した後に行こうか」


 俺はイズンに預けていたケラウノスを受け取り、トライデントを持ったイズンとともにカールたちのいる陣地中央へと歩いていく。

バリスタを握っている冒険者たちも、俺とイズンの方へと目を移した。

そうして歩く俺を、集まっていた貴族たちは複雑そうな目で見てくる。


「なんだか睨まれているわね、私たち」


「なにかしたっけ、俺たち」


「いや、特に何もしてはいないと思うわ。でもルクスタントの貴族である以上、イレーネの繁栄にはなにか思うところがあるのじゃないかしら」


 なんだか微妙な空気の中、俺たちは貴族たちの前を通っていく。

すると中から1人の貴族が前に出てきて、俺の前でしゃがみ込んだ。

誰かと思って見ると、元宰相で今は下級貴族として働いているオイラー=ライヒハルトであった。


「お久しぶりにございます。戴冠式以来でしょうか? イレーネ島は随分と繁栄されているようで」


「貴殿は……宰相か。久しぶりだな。元気にしていたか?」


「もう宰相ではございませんよ。ただの下っ端貴族です。体調の方は、おかげさまで元気にやらせていただいております」


 ライヒハルトは顔をゆっくりと上げ、こちらを見た。

前よりも老けたように見えるが、心無しか嬉しそうではあった。

彼は周りの貴族たちの方へと顔を動かすと、大声で言い放った。


「貴様ら! 他国の皇帝陛下の面前だぞ! せめて頭は下げんかっ!!」


 今はそうではないとはいえ、かつて宰相であったライヒハルトの一喝は空気を揺らした。

驚いた他の貴族たちは慌てて深々と頭を下げる。

それを見た彼は満足そうな顔を浮かべ、立ち上がった。


「貴族たちの非礼をどうかお許しください。では私はこれにて失礼いたします」


 ライヒハルトはそう言うと自分の立ち位置に戻り、他の貴族と同じように頭を下げた。

俺とイズンはその横を抜け、カールたちのもとへと再び歩き出す。

貴族たちの間を抜けてカールのもとに行くと、横に控えていた軍務卿が馬から降りてきた。


「ルフレイ陛下! 陛下も魔物の討伐に?」


「あぁ。ギルドから招集されたんでな」


「なるほど、そうでしたか。では一応現在の戦況を伝えておきますね。現在我々はダークウルフの大群とにらみ合いを続けており、戦線は膠着状態にあります。近寄ってきた敵もヴェルデンブラント、ゼーブリックの装甲師団が追い払ってくれていますが、数が数ですので押し返すまでには至っておりません」


「了解した。では俺も彼らの方に合流することとしようか」


 俺はカールに手を振り、自軍の車両群の方へと引き返す。

車両群のもとへと帰ると、マックスが剣を携えた状態で待っていた。

彼は俺が帰ってくるのを見ると、近寄ってきて言った。


「ルフレイ、おそらくあそこにいるダークウルフは問題ないだろう。だが……」


「だが?」


「デカいバッタを見かけたら気をつけろ。もしかしたら近代兵装であろうと倒せないかもしれないからな」


「バッタ? あぁ、分かった。見かけたら気をつけることにするよ」


 なぜバッタなのだろうか?

仮にでてきたとしてもバッタなんぞすぐに倒せる気がするのだが。

だがSランク冒険者のマックスの言うことだ、きっとなにか意味があるのだろう。


 俺はマックスに別れを告げ、車両群に守られながら丘を駆け下りる。

先に陣を構えていたヴェルデン、ゼーブリック装甲師団の兵士が1人、車両から降りてきた。

彼は俺の前に直立すると、敬礼した。


「ん? 君は誰だい?」


「私はヴェルデンブラント装甲師団の師団長のゲオルグと申します。かつては『フロリアン・ガイエル』にて義勇兵をしておりました」


「義勇兵……ロンメル元帥指揮下の部隊だったな。そしてその数の勲章を見るに、かなり活躍したようだな」


「はい。ですがこれらの勲章は全てロンメル大将の素晴らしい作戦のおかげです」


 今はもう元帥なんだけれどな……

彼は俺に握手を求めてきたので、俺は彼の手を握り返した。

ダークウルフたちは、こちらを興味ありげに眺めていた。


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