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第260話 『竜討つ剣』、『狼討つ剣』

「『狼討つ剣』が帰ってきたぞ!」


「無事か!? 戦況は!?」


「……なんだかすごい賑わっているな」


「そりゃあそうだ。なんたって『狼討つ剣』はルクスタントのギルド屈指の冒険者で構成されたチームだからな」


 俺は他の冒険者に混じりながら、その『狼討つ剣』の帰還を待った。

しばらく待っていると、轟音を轟かせながら4台のオートバイがやってきた。

それを見た時、全てが俺の中でつながった。


「あぁ、『狼討つ剣』って『竜討つ剣』のことか!」


 先頭を走るバイクに乗っていたのは、『竜討つ剣』のリーダーのマックスであった。

彼らには確か陸王を元にしたパイクを譲渡した思い出がある。

だがあの時にはサイドカーは付いていなかったような……


 バイクから降りた彼は多くの冒険者たちに囲まれた。

その後ろから戻ってきた他のメンバーは馬に乗って戻って来るが、そちらには誰も目を向けていない。

知り合いだとバレると面倒くさそうなので俺は戻ろうとしたのだが、あまりにも目立つピッケルハウベにマックスが気づいてしまったようだ。


「ルフレイじゃないか!? どうしてこんなところに」


「げっ、バレたか。久しぶりだねマックス。バイク弄った?」


「あぁ。燃料が切れかけたからゼーブリックのイレーネ帝国海軍の泊地に給油に行ったら増槽と荷物置きを兼ねたサイドカーを付け足してくれたんだ。これのお陰でかなーり移動距離が伸びて使いやすくなったよ。今は荷物置きと座席後部、車体左側にも燃料を満タンにしたジェリカンを積んでさらに距離が伸びたな」


「サイドカーがあれば安定性も増すしな。増槽に引火したら終わりだがまぁ良い改修じゃないか?」


 俺とマックスが話していると、ゲオルグたち他のメンバーも集まってきた。

久しぶりの再会なのでわちゃわちゃ話していると、周りからは不思議そうな目で見られる。

だがマックスたちは気にもとめずに話を続けた。


「ギルドで会うことはないけど、冒険者は……続けているわけ無いわな。なんてったってこうて――」


「マックス、それ以上は黙ろうか」


「言っていないのか、それはすまん。だがここにいるということはチームを組んでいるということだろう? 組む以上はランクも職業も言う必要があると思うが……」


「それは身内で固めているから大丈夫だ。……少し人が増えてきた、場所を移そう」


 俺はマックスたちを伴って、車両の方へと歩いていく。

付いてこずに待機していた近衛兵たちは、俺が返ってくるのと見てわらわらと集まってきた。

俺たちは、ブラッドレーの後部ハッチにくくりつけてきた折りたたみ式パイプ椅子を展開し、座った。


「これがルフレイのチームか。皆あの時にルフレイが持っていた銃を携行しているのか」


「あれは俺が持っていたものよりもさらに上のものさ。もっと発射速度が早い」


「あれでも大概の強さだとは思っていたが、それ以上とはな。それと聞きたいことがあるんだが……」


「何だい?」


 俺が聞くと、マックスはチラチラと後ろを見た。

他のメンバーも後ろをチラチラと見て、落ち着きがない。

なにかと思ってそっちを見ると、そこにはやはりと言うべきかイズンがいた。


(あの美女どうしたんだよ! あれもルフレイのチームの一員なのか?)


(あぁ。あれはうちのメイドだよ。俺と一緒に普段パーティーを組んでいるから招集されたんだ)


(いーなー。あんな美女、俺にも紹介してくれよ)


(それは出来ない相談だ)


 とまぁそんなことを言い合っていると、今度はトラックの音が響いてきた。

この音は、さっきセロが言っていたフランツ・ヨーゼフ商会の移動販売車だろう。

指示は出していないつもりだが……まぁ良いんだがな。


「お、フランツ・ヨーゼフ商会が来たな。今回は注文しておいたものがあるんだ、よかったら一緒に取りに来ないか?」


「あぁ、構わないぞ」


 俺はマックスと一緒に移動販売車へと向かった。

すでに販売車からは商品が降ろされており、人が群がっていた。

そんな中をかき分けながら俺たちは商品の前に立つ。


「いらっしゃいま〜〜ってるふウグッ!!」


「コンニチワ。少し商品見てもいいですか?」


「え、えぇ……もちろんどうぞ……」


「ありがとう。そうだ、マックスは何か頼んでいたんじゃないか?」


 俺がそう言うと、フランツ・ヨーゼフ商会の店員はトラックの中から何かを降ろした。

なにかと思って中を覗いてみると、そこにあったのはシュタールヘルムであった。

そのうちのひとつを手に取ったマックスは、パッと頭に被った。


「おぉ! 軽量にして頑丈、最高の兜だな!」


「気に入っていただけたようで何よりです。言われました通りチーム全員分を用意してきました」


「それは助かる。おーい、俺の奢りだ。『狼討つ剣』のメンバーは全員1つずつもってけ〜!」


「「「「ありがとうございます!」」」」


 次々にシュタールヘルムを受け取っていった『狼討つ剣』のメンバーはそれを頭に装着する。

胴体と足回りの装備は異世界らしい重装備なのに、頭だけ現代風でなんだか不思議だ。

だが彼らはそんな事を気にすることもなく、嬉しそうに見せ合っている。


「じゃ、代金はこれで」


「はい。確かにいただきました。では購入の御礼としてこちらを……」


「お、良いのか! 助かるよ〜」


 そう言って店員が差し出したのは、防弾盾だった。

覗き穴がついているタイプで、ある程度の銃弾にも耐えることができるレベルのものだ。

マックスはそれを受け取ると、嬉しそうに見せびらかす。


「おい、どうだ俺の新しい盾は! かっこいいだろう!」


「おう、似合っているぞ! 俺にもくれや!」


「ざんね〜ん、ひとつしかありませ〜ん!」


「なんだってぇ〜!!」


 ……マックスたちは無邪気で楽しそうだな。

俺は商店の方へと目を戻すと、さっきセリーヌが言っていた通り多くの治療用具が揃っていた。

他には少量のシュタールヘルムにナイフ、発煙手榴弾などが販売されていた。


 だがよってきた客が買うのは医療用具が大半であった。

数人はシュタールヘルムを買って装備していた。

ナイフ等は売れていなかったが、まぁ別にいいだろう。


「こうて……お客様はなにか買っていかれますか?」


「そうだな、じゃああの対空機関砲をもらおうか」


「ご冗談はよして。あれは護衛に必要ので販売できません」


「分かっているさ。こんなところまでご苦労だな」


 その後、準備を整えた『狼討つ剣』は、再び前線に戻る準備を整えた。

俺たちもそれに同伴するべく出発の準備を整える。

最後に俺はマルセイ商会からもう1本ポーションを仕入れ、フランツ・ヨーゼフ商会の店員伝いでイレーネ島に送って成分検査に掛けることにした。


「では俺たちはお先に」


「あぁ、俺たちももう少ししたら動こうかと思っている。前線であったらよろしくな」


「あぁ。セリーヌさんにもよろしく言っておいておくれ」


 その後俺たちは車列を組んで北上を再開した。

横には『狼討つ剣』が馬やバイクに乗って付いてくる。

このまま北上を続けた俺たちはカールたちの陣地付近に到着し、合流を急いだ。


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