敵を求めて北上していく大鷲部隊は途中で先行していた冒険者たちと合流した。
彼らは一時的な陣地を構築しており、そこで食料の配分や情報の交換などを行っているようだ。
俺たちも一旦北上を停止し、彼らから情報を集めることにした。
「おぉ、すごい賑わいだなぁ。ざっと200人位いるんじゃないか?」
「200人ということは4チーム分か。そう考えるとなかなかだな」
「なんだか浮いているな、俺たち」
「すごい稀有なものを見る目で見られていますよ……」
俺たちは車両護衛のための人員を残して車両から降り、彼らの方へと近づいてくる。
彼らも歓迎の印なのか、近寄りながら手を差し出してきた。
俺の代わりにロバートが彼の手を握り返し、その状態で彼は俺に声をかけてきた。
「ようこそ『キャンプ・ルクスタント』へ。ここはお前さんたちと同じく招集されたものが集まっている休息地帯だ。ここでは物の交換や情報の交換ができるぞ」
「あなたは誰で?」
「俺はチーム『黄昏の狼』リーダーのセロというものだ。使用武器は斧、お前さんは?」
「俺はルフレイだ。使用武器は……槍だな。仲良く頼む」
「槍か、それは珍しいな。まぁよろしくな」
俺もセロと握手し、彼に導かれてあるき出す。
すると、出迎えに来たセロ以外にも多くの冒険者がわらわらと近寄ってきた。
そんな彼らのうちの1人が、後ろのストライカーMGSを見て言った。
「なんだあの馬なし馬車は? しかも鉄ち◯こが付いている」
「あぁ、あれは……って鉄ち◯こぉ!? 何じゃそれ!?」
「いや、鉄ち◯こじゃないか明らかに。それ以外何なんだ?」
「えぇ……鉄ち◯こ……」
その鉄ち◯こ発言は、その場にいた全員の笑いを誘った。
だがそう馬鹿にする彼らは、それに乗っている俺たちを受け入れてくれたようだ。
そんな中、1人の冒険者がブラッドレーに掲げてある旗を見ていった。
「あんたら、ルクスタントじゃなくてイレーネの人間か」
「あぁ。そうだが?」
「残念ながらイレーネから来たチームはちょっと前に前線に出ていったよ。今頃はカール陛下の隷下の部隊に入っているはずだ」
「もうカールたちは前線に展開しているのか。俺たちも少し休憩したら動かないとな」
どうやら俺が皇帝であることはバレていないようだな。
ならばもう少しここに滞在して、前線の様子などを聞いておきたいな。
俺たちはキャンプを歩き回っていると、馬車で何かを売っている人を見つけた。
「あれは?」
「あぁ、あれはマルセイ商会の移動商店だよ。武器や回復用のアイテムなんかを売ったりしているのさ」
「なるほど……武器は分かるが回復用のアイテムってなんだ?」
「なんだあんた知らないのかい? よくそれで冒険者をやっていけているな」
セロはそう言うと、腰の小さなカバンから色のついた液体の入った瓶を取り出した。
俺はそれをセロから受け取り、光にかざしながら見る。
よく異世界モノで見るポーションのようだが、今までこの世界で生きてきてこんなモノ見たことがないのだが。
「これは……所謂ポーションというやつか?」
「そうだ。安全になった不落宮の探索中に大量に見つかったらしくてな。値は張るがこれを飲めばどんな怪我でも治るそうだぞ。まだ飲んだことないが」
「へぇ〜、1つ買ってみようかな」
「おいおい、ポーションは1つ金貨1枚の超高級品だ。お前さんに買えるのか?」
俺は後ろでポーションを見せびらかすセロをおいて、マルセイ商会の移動商店へと行く。
俺は店主のもとに行くと、おいてあったポーションを手にとって店主に金貨とともに渡した。
躊躇いもなく金貨を出す俺に店主は驚きながらも、ポーションを包んで渡してくれた。
「えぇ……貯めに貯めた金をはたいて1本買ったのに……あんたの財力化け物かよ、貴族レベルじゃないか……」
セロは若干引きながらも、案内を続けてくれるようだ。
彼の率いる『黄昏の狼』のメンバーにも挨拶回りをした。
男の冒険者は、俺の後ろに付いて来ているイズンを見てよだれを垂らし、女の冒険者は彼女の美貌を羨ましがっていた。
「……ねぇルフレイ、なんだかずっと見られている気がするんだけれど」
「さぁ? 君が美しすぎるせいじゃないか?」
「そういうものかしら? まぁ良く思われているのならば良いんだけれど」
そしてしばらく歩いていると、怪我をしたものを集めている治療所を紹介された。
俺は人で溢れているのかと思っていたが、案外そうではないようだ。
思ったより少ないな、と言うと、セロは少し複雑そうな顔をして言った。
「今は敵の動きがあまりないから戦闘もあまり起きず負傷者は少ないんだが、少し前の戦闘では防衛線の維持と引き換えに多くの死傷者がでたんだ。その者たちはこっちに運ばれてきたんだが、多くは輸送中に死に絶え、生き延びた者も怪我が災いして死んでいったよ。今残っているのはその生き残りさ」
セロはそう言うと、治療所から出てそこの裏手を指さした。
俺も出てそこを見ると、多くの十字架が、死んだものの墓標として立っていた。
俺は十字架に手を合わせ、再び治療所へと入る。
「やぁセリーヌ、いるか?」
「あらセロ、新しい負傷者かしら?」
「いや、新たにこっちに合流してきた者を案内しているんだ」
「なるほどね。はじめまして、私はセリーヌ。ここで負傷者の手当をしているわ。何かあったら寄って頂戴ね」
俺もセリーヌに簡単に自己紹介を済ませ、治療所の中を見て回る。
驚いたことに、よく見るとしっかりと包帯が巻かれており、傷口は洗浄されているようだ。
だが痛み止めなどは勿論ないので、痛みでうめき声を挙げているものもいる。
「この包帯はどこから仕入れているんだい?」
「包帯ですか? それはこちらに最近やってくるようになった『フランツ・ヨーゼフ商会』という商会から仕入れています。ミトフェーラの商会らしいですが、マルセイ商会では手に入らない治療用具を売ってくださるので重宝しています」
「気になるんだったらもう少ししたら馬なし馬車に乗って来るはずだ。まぁあれとは違って鉄ち◯こは付いていないが」
「その鉄ち◯こ呼び、何とかならないのかなぁ……」
まぁフランツ・ヨーゼフ商会に特に用事はないのでそのままスルーでいいか。
そう思っていると、俺の目に片腕を無くして苦しんでいる冒険者が飛び込んできた。
彼女を見た時、俺は良いことを思いついた。
「君、ぜひこれを飲んでくれ」
「え……でもそれはポーションじゃ……? そんな高いもの……」
「良いんだ。困った時はお互い様、だろ?」
「はぁ……ではいただきます」
彼女は俺からポーションを受け取ると、蓋を外して飲み込んだ。
このポーションの効果も知りたかったので、人体実験チックではあるがまぁ効果が本物であれば問題ないだろう。
ポーションを飲んだ後しばらくは何もなかったが、急に彼女は大声を出して呻いた。
「? 何だ!?」
しばらくは彼女は呻きながら苦しそうにしていたが、やがてそれもピタッと止まった。
冷静になった彼女は、腕に巻かれていた包帯をバッと取った。
すると、開いていた傷口は閉じ、出血も止まっていた。
「痛くない……痛くないわ! わーいっ!!」
「ほ、本当に治るのか……はえー」
俺は正直あまりポーションの効果を信じていなかった。
そんなものは前世では見たことも聞いたこともなかったからだ。
だがこれを見ると、その考えは覆された。
「こんな物があれば、医療は進歩する? いや、現代において発達した医療が全てこの薬で無意味になる……? そんなものが存在するとはな……」
ポーションを飲んだ女は、嬉しそうに残っている右腕をぐるぐると振り回しながら立ち上がる。
呻き声に驚いたセリーヌも見に来たが、彼女も驚きの声を上げて女を見ていた。
彼女はニコっと笑うと、俺の方を見ていった。
「私、サラと言います。本当にありがとうございました! 良ければお名前を聞いてもいいですか?」
「俺はルフレイだ。『大鷲小隊』の隊長をやっている。ポーションのことは別に気にしなくていいぞ」
「そうは言っても高いものですし……そうだ、何ができるかわかりませんが恩返しにチームに入れてもらえませんか?」
「えぇっと、それは……」
俺はちらっとイズンの方を見ると、とても不機嫌な顔をしていた。
これはまずい……こんな顔のイズンを見たことがないぞ。
何としても丁重にお断りせねば。
「すまないが、うちのチームは少し特殊なんだ。申し出は嬉しいが断らさせてほしい」
「そうですか、残念です。でもこの恩は忘れません! 私はこれから元の前線に戻りますので、その時に何かあったら言ってくださいね」
「おぉ……分かったが今から行って大丈夫か?」
「はい、問題ありません! ではまた〜」
サラはそう言うと、風のように治療所を去っていった。
俺たちは呆気にとられながら彼女を見るが、直ぐに視界から消えた。
彼女を見送った俺たちは、目を合わせて首をかしげる。
「そんなにポーションは効くのか」
「おぉ……買っておいて正解だったな」
「数があれば良いんですがねぇ……」
俺たちは思い思いの感想を口にする。
もう1本追加で買って解析に回すことにしようか……
俺がそんなことを思っていると、外が騒がしくなってきた。
「おーい!『狼討つ剣』が帰還したぞー!」
「おぉ、それは出迎えないとな。ルフレイ、さぁ行こう」
「? あ、あぁ」
俺はなんだか良くわからないが、セロに連れられて外に出る。
なんだか聞き覚えのある名前な気がするんだが……思い出せないなぁ。
だが俺はその後、馴染み深い人間と出会うことになる。