目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第257話 出撃、ギルド連合軍

「なんですって!? あちらこちらで魔物の被害が急増!?」


「はい! 急に現れたダークウルフやデスホーンラビット、果てはコカトリスなどの高ランクの魔物による被害が急増しています。しかも数も尋常じゃないんです! ゲキヤバです!」


 ルクスタント王都のギルドでは、各地に急遽現れ始めた高ランクの魔物への対処に追われていた。

被害は一刻にとどまらず、発生源である大陸中央部を起点に全国家に拡大している。

少しずつ徴候が現れ始めていたとは言え、あまりにも突然に跳ね上がった脅威度への対処が追いついていない。


 王都のギルドに戻ってきていた受付嬢であるエミリーもまた、その対応に追われている。

だがあまりの情報量と援護の要請で窓口はパンパンであり、彼女はギルドマスターであるシュタインの元へと走っていった。


「ギルドマスター! もう窓口がひっ迫していてどうしようもありません……って会議中でしたか! 大変失礼しました!」


「エミリー、入ってくるときぐらいはノックぐらいしなさい……」


「あっ! すみません!」


 エミリーがギルドマスターの部屋へと駆け込むと、そこでは他の国家の主要ギルドのギルドマスターが集まって会議をしていた。

そんなところに突入した彼女には皆が苦笑を漏らした。


「あ、そうだエミリー。1つ大事なことをフロントにいる冒険者たちに伝えてきてほしいんだ」


「大事なこと、ですか?」


「あぁ。今丁度話し合いで決定したんだが、今回の大規模発生……スタンピードへの対抗措置としてギルド連合軍を招集することにした。これよりギルドに徴収された冒険者は皆対スタンピード戦を行ってもらうことになる」


「ギルド連合軍って、創設以来一度も招集されていないあのギルド連合軍ですか!?」


 エミリーの言葉にシュタインは深く頷く。

ギルド連合軍とは、ギルドがそれに所属する冒険者たちを強制的に招集して編成する超国家的軍隊であり、それの全指揮権限は各ギルドマスターに委ねられていた。


 招集されたものは拒否することが出来ず、強制的に前線で戦わなければならないため被害も膨大になる。

だがそれの必要があるほどの非常事態においてのみ発動される、リーサル・ウェポンであった。

それを切らなければならないほど事態は深刻であった。


 それだけに指揮権は強大であり、各国家の保有する兵器を徴収することすら可能である。

またそれぞれの軍隊にギルド連合軍とは別に派兵を求めることも可能であった。

この指揮権に、連合軍の決定した要項に国家は一切介入することが出来ない。


 だがその招集には、3つ以上の国家の元首からの要請が必要であったが、今回はイーデ獣王国、フリーデン連立王朝、ヴェルデンブラント王国の3カ国から出たため招集が可能であった。

それらを考慮してエミリーは驚いていたが、驚いている場合ではないと直ぐにその場にいた冒険者たちに伝えに走った。


「発表! 今回のスタンピードの現状を鑑み、ギルドマスターたちはギルド連合軍の召集を決定! これは決定事項です! 招集された場合は速やかに前線へと向かってください! 招集されているかの確認はそれぞれの冒険者カードの左縁が発光しているかで確認できます! 繰り返します! ギルド連合軍の招集が決定しました! 招集された場合は一度ギルドのカウンターに寄ってください! 数人でまとまったグループを作って出発してもらいます! 招集されているかの確認はそれぞれの冒険者カードの左縁が発光しているかで確認できます!」


「は!? ギルド連合軍だって!?」


「そこまでやばかったのか!?」


「うわっ! 俺のカードの左縁、光ってるぞ!」


「俺もだ! と言うかこのパーティー全員で出兵か!」


 ギルド内は混乱の渦に巻き込まれた。

前例のないギルド連合軍の招集の話はギルドを越えて瞬く間に広がり、招集された人間は困惑しつつも武器を手に取り王都ギルドへと向かった。

家族と引き剥がされたものも多く、夫のみが、あるいは妻のみが出兵したものもいた。


 武器を持たないものには、王国の武器庫から徴収された武器を持って出撃していく。

だが多くのものは自前で作って貰った武器を担いで出撃していく。

他の国の冒険者たちも次々に招集されてグループ分けされ、出来たグループから前線へと送られていく。





「うん? なんだこれ?」


 宮殿の執務室で書類作業をこなしていると、突然俺の持つ冒険者カードの左縁が光りだした。

今までこんなことはなかったが、最近相次いで入ってきている高ランクモンスターの出現を鑑みて、なにか緊急事態であることは理解した。


 俺は書類をしまってペンを置き、机の上においてあった帽子を被り、立てかけてあった剣を携えて部屋を出る。

するとそこには、同じく左縁が発光した冒険者カードを持ったイズンが立ち尽くしていた。


「何だ、イズンも同じく光っているのか。何かこれについて説明されたっけ?」


「いや、聞いた思い出はないわ。とりあえずギルドに行ってみましょう」


「そうだな。それが手っ取り早いだろう」


 イズンと俺はグロッサー770に乗ってギルドに赴くと、既に前は同様の冒険者で溢れかえっていた。

俺がやってくると彼らは親切にも道を開けてくれ、なんとかギルド内に入る。

だが入ったギルド内も冒険者で溢れかえっており、人をかき分けて受付へと行った。


「陛下! どうかなさいましたか?」


「いや、なんだか知らないんだが冒険者カードの左縁が光っていてね……」


「なるほど。ここではなんですし、一旦別室に行きましょうか」


「あ、あぁ。分かった」


 俺たちは受付嬢に連れられて別室へと移動し、椅子に腰掛ける。

そこで俺たちは彼女から、ギルド連合軍に関する書類を見せられた。

……やはり予感は的中したようだ。


「申し訳ございませんが、陛下であろうとギルドの規則に則って出陣して頂く必要がございます。連合軍は超国家的な軍でありどの国家の介入も受け付けませんので、陛下もいち兵士として他と同列に扱われます」


「元首でもか。まぁ俺は構わないが他の国家の元首も同様に出陣するのか?」


「招集された方は参加していただきますが、他の方は個人の自由に任せる、ということになります」


「それで元首が死ぬようなことがあったら大問題じゃないか?」


 だが規則は規則だということで、元首クラスでも出陣させられるようだ。

今回が初めての招集ということもあって、いろいろ手探りなのだろうが。

……せめて軍を引き連れて行くべきであろうか?


「軍を応援として派兵することはできるのか?」


「軍隊の展開につきましては特に規則はありませんので、展開しても構わないと思います。ただ他国に展開することを良しとするか否かについては国家間で折り合いをつけて貰う必要がございます」


「分かった。とりあえずは俺たちだけが先行して、軍には後で来てもらおう」


「お気をつけて。あと前線に向かう前には一度ルクスタント王都のギルドによってくださいね」


 俺たちは一旦ギルドを出て宮殿に戻り、必要な装備を整える。

イズンは前に着ていた鎧を引っ張り出してきて着用し、俺は軍服に着替えようとする。

だが着替えようとしたところでイズンに止められた。


「待ちなさい、せめて防弾チョッキぐらいは中に仕込んでおきなさい。あと白い軍服は汚れが目立つから黒いものにしておきなさい」


「確かにそうだな。ありがとう」


「別に構わないわよ。それよりも早く着替えなさい」


「あ、あぁ」


 俺は結局内側に防弾チョッキを着込んだあとプロイセンの軍服へと着替え、翼天勲章のみを佩用する。

頭にはピッケルハウベを被り、仕立ててもらっていたものの使っていなかった、内側を黄色に染めた黒のオーバーコートを着用し、元帥刀を下げた。


「仕度は整ったようね。でも武器はどうするのかしら?」


「武器にはM4カービンを使おうと思っているが?」


「銃もいいけれど、魔物の群れ相手にはもっと効果のある武器があるわ。せっかくだからかしてあげるわよ」


 そう言ってイズンは手をかざし、輝きとともに1本の槍を取り出す。

それは三叉に先端の割れた槍、トライデントであった。

彼女はそれを渡そうとしたが、少し考え、結局彼女の愛武器であるケラウノスの方を渡してきた。


「えっ、これはイズンの武器じゃないのか?」


「別に使っていいわよ。本当はトライデントを貸そうかと思ったのだけれど、これってロンギヌスの槍と対を成す『創生の槍』なのよね。だから扱いを間違ったら大変なことになるから私が使ったほうが安全だと思ったのよ」


「なるほどね。ではありがたく借りさせていただくよ」


「大切に使いなさいね。壊したりしたら承知しないわよ」


 その後イズンは女神アテナのものと同じ兜を被り、イレーネ帝国の紋章の刻まれた楯を装備した。

準備を整えた俺達は宮殿の庭にて待っていたCH-53Eに搭乗、同伴する第一近衛隊50名とともにルクスタント王都のギルドを目指した。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?