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第250話 レッツ・ダンス!

「皆様方、今宵はお集まりいただき誠にありがとうございます。本パーティーが皆様の良き出会いの場となりますようお祈りさせていただきます。では乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 俺たちはグレースの乾杯の合図とともに、用意されたグラスでベアトリーチェと乾杯する。

乾杯した後俺は白ワインを一口含み、グラスを机においた。

乾杯と同時にどこからか音楽が奏でられ始め、若き貴族たちは踊り相手を探しに出る。


「ふむ、もうペアが出来始めたか。最近の若いものは早いのう」


「ベアトリーチェ、それは年寄――」


「何か言ったか?」


「何も言っていません」


 危うく地雷を踏み抜くところだった……気をつけよう。

そんなことはおいておいて、ダンスのやり方を盗み見ないと。

じっと見ていると、ところどころ角の生えた魔族が混じっているのが見えた。


「ベアトリーチェ、あれは……」


「あれは戦争にはでていない貴族の子息たちじゃ。場馴れさせるためにと思って連れてきておる」


 親が皆して投獄されていて生活も大変だろうな。

この場だけでも笑って踊って楽しんでほしい。

……そんなことを思っていると、俺たちの周りに何やら人だかりができ始めていた。


「ルフレイ陛下、ぜひ私と一緒に踊っていただけませんか?」


「ベアトリーチェ陛下、ぜひ私と一緒に――」


「ルフレイ陛下!」


「ベアトリーチェ陛下!」


 俺とベアトリーチェをダンスに誘いにこんな人だかりができているのか。

こういう時はどう対応すれば良いのかよくわからないな。

ベアトリーチェはどうするんだ……


「すまんのう。妾はこれと決めた殿方がおるのでな」


「そうでしたか。それは大変失礼いたしました」


 ベアトリーチェはそれだけ言って誘いを断り、男貴族たちはささっと次の目当てへと移動していった。

さて、全く持って何の参考にもならなかったな。

仕方がない、まだあまり準備ができていないが強硬手段に出よう。


「ベアトリーチェ、俺と踊ってくれないか?」


「なんじゃ、申し出を断るのが煩わしくなったか?」


「……言うな」


「まぁ良い。それは妾とて本望じゃ。では行こうか」


 俺はイズンに王笏とシルクハットを預け、ベアトリーチェはオリビアに王笏を預けた。

俺たちは大ホールの中央へと歩み進んでいくが、踊れるかどうかだんだん不安になってきた。

するとその時、何かの重みを肩に感じた。


(! 君はたしか天使の……)


(ええ、あの中のひとりです。ルフレイ様が上手に踊れるようにサポートしろとイズン様から命令を受けまして。私どもが上手に操りますのでルフレイ様は身を任せておいてください)


(分かった、そうしよう。あとイズン、ありがとう)


(どういたしまして)


 なんとかこれで踊りの問題は解決できそうだ。

俺たちは大ホールの真ん中に立ち、お互いの手を取る。

だが天使たちが上手いことやってくれるそうなので……あとは任せた。


「ほう……なかなか上手いではないか」


「ベアトリーチェこそ上手いね」


「そうか? それは嬉しいのう」


 俺たちが真ん中で踊っていると、自然と周りで踊っていた者たちの視線が集まりだした。

彼らは踊ることも止めて俺たちの方を見る。

だが一組だけ踊り続けるペアがあった。


(グレースとロイド=ゼーブリック。そういえば居たな……)


 ゼーブリックの革命にて捕らえられたロイドたちゼーブリック王家一家はイレーネ島での治療を受けた後、再びゼーブリックの王家として返り咲いていた。

今は祖父のオラニア大公が国王をしているがもう先は長くないだろう、次期王妃探しといったところかな?


 だが対抗戦での一件があった2人が踊るというのはなんだか不思議な感じだ。

まぁ統合された以上、過去は水に流して関係改善を進める必要があるのか。

グレースとロイドが共に白の服をまとっていることもあり、黒の俺たちとは対象的になっていた。


 周りの視線は、2組のペアを見比べるように交互に動いていた。

そんな彼らの視線を気にするように、ベアトリーチェは一段とキレを増した動きをする。

天使たちもそれに合わせて体を操る。


「ルフレイ、なにか大技をできんか?」


「大技? ちょっとまってくれ」


(大技であれば、飛べば良いんじゃないですか?)


(飛ぶ? それだ! 頼んだぞ!)


 天使たちはタイミングを見計らい、俺の背中から翼を生やす。

ベアトリーチェを抱きかかえ、俺は羽を羽ばたかせて宙へと飛んだ。

この行為は完全に会場の全員、グレースとロイドの目と心さえも掴んだ。


「これが神の使徒……」


「羽を生やして飛ぶなんて……なんて幻想的で神秘的なの」


「皇帝陛下万歳! 国王陛下万歳!」


「「「「万歳! 万歳!」」」」


 多くのものから感嘆の声が上がり、一部ミトフェーラ貴族からは万歳の声が上がる。

俺たちはふわりと地面に降り立ち、ペコリと頭を下げた。

音楽を演奏することを忘れた演奏者たち含め、全員からの大きな拍手とともに俺たちは席に戻った。


「ダンスの中で空を飛ぶとはな……妾も飛べるがそれとは違う、なんというか神秘さを感じたのじゃ」


「気に入ってくれたようで何より」


「じゃが少しつかれたわい」


「俺もだ。少し休もうか」


 俺は机の上に置いた、飲みかけの白ワインに口をつける。

ワインで口を潤し一息つこうと思っていると、後ろからメイドたちがずいっとやってきた。

ふと彼女たちの方を向くと、一緒に踊ってほしいという目で俺の方を見てくる。


「……順番は決まったのか?」


「えぇ。私オリビアが1番、イレーナが2番、その後は――」


「分かった。ではとりあえずオリビア、踊るか」


「不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」


 なんだか使う場面が違うような、と思いつつも俺はオリビアと一緒に踊りに行こうかとする。

だが俺たちの周りにできている群衆をかき分けて、白いドレスを来たグレースがやってくる。

立ち上がろうとする俺の手を取り、彼女は言った。


「ルフレイ、次は私と踊らないかしら?」


「いや、でも次はオリビアと踊ると……」


「構わないかしら、オリビア?」


「……構いません」


 オリビアと踊るはずであったが、急遽グレースへと変更された。

オリビアはなんだか不満そうな顔をしているが、国の君主たるグレースには流石に逆らえないようである。

絶対に後で踊ると言わんばかりの彼女をとりあえず置いて、俺はグレースとともに中心へと歩いていく。


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