軍事裁判が終わり、世界は戦争からの復興に向けて動き始めた。
イレーネ指導のもとミトフェーラには復興庁が設立され、そこを起点とした復興計画が始まる。
擱座している旧海軍の軍艦の間を縫うように、召喚された多数の輸送船がセクター軍港へと入港して荷物の陸揚げを行う。
「おーらい! おーらい!」
「どんどん降ろせ! そこ、遅れているぞ!」
「それはこっちだ! それは……あっちへ!」
ブルネイ泊地に帰投した各軍団の兵士たちは軍備を解き、再びミトフェーラの地に展開した。
彼らは復興支援員として技術の指導に当たり、また各復興現場の監督及び治安維持の役目を負っていた。
その中核ともなるイレーネ工兵部隊は、フランハイムの拡張工事に駆り出された。
また戦争帰りのミトフェーラ国民も復興に参加し、給料が払われることとなった。
そのため復興作業員は男女総勢で190万を数えるほどの規模にまで膨れ上がった。
彼らは給料という点にも惹かれていたが、何よりも自国の復興に尽力できることに喜びを感じていた。
復興計画は概ね3段階のプロセスから成っている。
①道路、電気、水道などインフラの整備
②工場などの産業設備の整備
③各都市の近代化に合わせた改造(フランハイムを除く)
まずはインフラ整備だが、190万人が24時間体制で働いたとしても1年はかかるとの見通しが立てられた。
そのため最重要都市であるフランハイム及び四大都市の周りのインフラ整備を最優先とし、その他は後々ということになった。
計画では、フランハイムと四大都市をつなぐ道路の完成に2ヶ月とされた。
また②に関しては、新たに工場を作ることは後回しとする一方、既存の秘密工場を民間の工場として再稼働させるという案が出てきた。
しかし秘密工場は山中に存在するため、そこまで通じる道を作るには時間がかかるとされた。
だが秘密工場にはほとんどの機材が揃っており、また巨大であることを考えると、再稼働するとかなりの産業の振興が期待された。
よって秘密工場の再稼働に向けた整備も始まり、山の斜面の掘削による道の造成、周囲に工業団地の形成などが企画された。
これもインフラ整備と同時並行で進められることとなる。
最後にフランハイムの改造については、シュペー設計の改造案が全面的に採用されることとなった。
それは現在のフランハイムの殆どを変更することになるため、住民は同地からの退去を余儀なくされた。
退去した住民は近くに建てられた仮設住宅群へと引っ越し、改造終了後は自由に住居を選択することが可能であった。
「少し不便になったけれども、私達の人生からすればほんの一部だけだものね」
「そうよ。数カ月後には前とは比べ物にならないぐらいの豪勢な家が待っているわ」
「それまでの我慢ね!」
この復興計画は反対に合うのではなかとも思われたが、そんなことはなかった。
むしろ住民は今まで以上の生活を送れるようになることを期待し、計画を支持した。
そのおかげで、こういった思い切ったこともできる。
「持ち上げるぞー、これで最後だから気を抜くなー!」
『了解! 思いっきり行くぞ!』
フランハイムの仮宮殿は、その建築の美しさに俺が魅せられたことと市民からの保存の声を受け、いくつかのブロックに細分化されたうえで移築されることとなった。
部屋ごとに切り分けられた宮殿はMi-26やCH-53Eなどの機体下部に吊り下げられ、フランハイム郊外へと運び出された。
運び出されたブロックは同地で仮組みされ、再び移送される時を待つことになる。
その他にも教会や広場の噴水、ミトフェーラの初代国王の銅像などが移動された。
個人的な荷物も同様に保管されており、家が立ち次第運び込まれることとなっている。
「必要なものは全部持ち出したな!」
「バッチリ完了しました! 爆薬のセットも完了です!」
「よし、いくぞ、点火!」
瞬間、フランハイムは轟音に包まれた。
町内のあらゆる場所に仕掛けられた爆薬が起爆され、町は跡形もなく消え去る。
あまりにも解体するべきものが多く、爆破解体が一番手っ取り早かったのだ。
「せっかくの建築物が……なんだか勿体ない気がしますね」
「でもこれから王都となる以上、拡張することは避けることが出来なかった。だから仕方あるまい」
「まぁそうなんですけどね」
爆破後には大量の瓦礫が残っているため、搬入されたM9ASE装甲ブルドーザーによって瓦礫の撤去が始まる。
撤去された瓦礫は金属やレンガなどに分類され、金属であれば再利用、レンガであれば形が残っているものは記念碑に使用するために分別、砕けたものは埋め立てすることとなっている。
昼夜問わず進められた作業のお陰で瓦礫撤去は1週間ほどで終わり、それと並行してインフラ整備が始まった。
まずは中央に大通りが整備され、その横を8階建ての歴史主義のアパートが連続して立てられる。
その先には官庁の建物が建設され、さらにその先には宮殿の基礎が作られ始める。
電線は景観に配慮して、水道管と同じく地下への埋込式とされた。
水道に必要な水は近くを流れる川から引かれ、電気は同河川の水量調節のために建設されるダムを用いた水力発電を持って供給される。
都市には多数の木が植樹され、景観も美しく整えられていった。
建物の外観は歴史主義であるが、建築方法には最新のものが導入された。
基礎は鉄筋とコンクリートで作られ、その上にあらかじめイレーネ島もしくはブルネイの工廠にて整形した外壁材をはめ込んで形を整える。
こうすることで効率化と強度の両方の確保に成功した。
また一度移築した仮宮殿も所定の位置へと再度移築された。
初代国王の銅像も街の中心部に置かれ、教会も配置され直す。
フランハイムに割かれていた20万の工兵、兵たちと30万のミトフェーラ工員の24時間体制での労働により、フランハイム改造計画は着工から2ヶ月と少しで完了した。