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第243話 神による戴冠、人間による戴冠

 ベアトリーチェとの会談から1週間後、俺と彼女は帝国宮殿内の神殿の裏、かつて俺が転生してきた転生の間にて控えていた。

本日ついに戴冠式が行われ、正式にイレーネ=ミトフェーラ二重帝国として国民に発布される。

国民はそのことを知らず、凱旋門広場に設置されたモニターを眺めていた。


「何が始まるんだろうか?」


「さぁ? でもこうして中継されている以上、何かが行われることは間違いないだろう」


「それにしてもこの装置、中の様子がよく見えていいわねぇ」


「本当ね、我が家にも1台ほしいわぁ」


 外のモニターで眺めている人はみな、モニターに関心を示しながらワイワイと談笑していた。

この中継はここだけではなくイレーネ島とミトフェーラの各町の広場などにも設置され、生中継で誰もが見ることができるようになっていた。

そんな神殿内の椅子には、戴冠式の参列者が続々と座り始める。


「おや、始まるようね」


「こんな厳かな雰囲気で……何が始まるんだ?」


 神殿内の中に座る面々は、緊張した表情で開始を待つ。

参列者はイレーネ帝国軍の主要人物が多くを占めるが、中には外国の元首であるアウグストスもいた。

だが彼は妻であるペトラは伴っていない。


 ペトラはその頃、ハインリヒ聖王国の大聖堂にいた。

示し合わせた訳では無いが本日のハインリヒ聖王国大聖堂において、三冠王国の戴冠式が行われる。

まさかかぶるとは思っていなかったが、全国家に通達してしまった以上変更することは出来なかった。


 これにおいて一番苦心したのは、フリーデン連立王朝とイーデ獣王国であった。

両国はどちらに誰を派遣するべきか悩み、結局二重帝国側に元首を、三冠王国側に元首の妻、もしくは後継者を派遣することとなった。

そのため珍しいことに、今の神殿内にはフリーデン連立王朝の王たちが集結している。


 このため三冠王国側の参列者は、二重帝国側と比べると少し見劣りするものであった。

しかし彼らも軍事力にまさるイレーネ帝国との関係をつなぎたいため、このような形を取った。

だがこの判断は今後、国家間に亀裂を生むことにもつながる。


「両陛下、準備が整いました」


「分かった。では行こうか、ベアトリーチェ」


「そうじゃな、ルフレイ」


 俺とベアトリーチェは、工廠に頼んで作ってもらったインペリアルレガリアに身を包んでいる。

オーストリア帝国のものを模した宝珠、帝笏、そして神聖ローマ帝国のものを模した金細工のローブに緋色のマントを纏い、宝飾の散りばめられた手袋と靴を身につけ、腰には金細工の剣を挿している。


 俺たちが神殿へと足を進めると参列者は立ち上がり、直立不動で戴冠式の開始を待つ。

しばらくするとミラがオーストリア帝国のものを模した帝冠を載せた、エリーが神聖ローマ皇帝のものを模した帝冠を載せた紫の布をかけた盆を持って神殿内へと入ってくる。

それを2人は所定の位置に恭しく起き、そして神殿内の女神像に向かって祈り始めた。


 すると神殿内をまばゆい光が包み込み、ゆっくりとイズンが姿を表す。

それと同時にその場の全員が膝を折ってひざまずく。

イズンは真剣な顔でミラが持ってきた帝冠を持ち上げ、俺の頭の上にすっと捧げる。


「この場に集っている全てものよ、面をあげよ。これより創造神イズンがルフレイ=フォン=チェスターに冠を授ける。全てのものはその光景を目に焼き付けよ」


 あぁ、あの時と同じだ。

かつて突然行われた俺の戴冠式。

あの時は何の準備もしていなかったためあまり実感がわかなかったが、こうして準備したうえでの戴冠であればなんだか込み上げてくるものがある。


「祝福を受けしイレーネ島の帝冠領トランスライタニエンの皇帝として、安寧をもたらすことを期待する」


「はっ」


「次にベアトリーチェ=フォン=ミトフェーラ、尊大なるミトフェーラの王冠領ツィスライタニエンの国王として、この冠のもとに国民に安寧をもたらすことを期待する」


「はっ」


 俺とベアトリーチェはイズンに手を引かれ立ち上がる。

そして参列者の方を見ると、彼らからは盛大な拍手が送られた。

その様子はもちろん中継されており、各広場からは驚きの声と盛大なる拍手と歓声が送られた。


「「この戴冠により我々は祝福を受けしイレーネ島の帝冠領トランスライタニエンおよび尊大なるミトフェーラの王冠領ツィスライタニエンの成立を宣言する!」」


 俺たちの宣言と同時に、各地にあらかじめ用意されていた黒白旗が黒金旗と同列に掲げられる。

それを見た国民は、二重帝国の成立に改めて盛大なる拍手と歓声を送る。

その後はスピーカー越しにイレーネ帝国の国歌であり、祝福を受けしイレーネ島の帝冠領トランスライタニエンの国歌でもある『神よ、皇帝フランツを守り給え』が流された。


「「「「   我らが皇帝よ 神の愛し子よ  


    神に与えられし 御旗を掲げ


   はためくその旗は 我が誇りなれ


       我が君は 我が国は


     平和を世界に 与えん


       我が君は 我が国は


     平和を世界に 与えん     」」」」


 国歌を練習していたイレーネ島の国民は、流れる歌に合わせて盛大に歌声をあげた。

ミトフェーラの国民は知らない国歌であったが、そこに神秘性を見出していた。

その後尊大なるミトフェーラの王冠領ツィスライタニエンの国家である『国王陛下万歳』が流され、誰も知らない歌であったが全員に受け入れられた。


 こうして二重帝国の戴冠式は祝福のうちに幕を閉じた。





 一方の三冠王国側の戴冠式では、教皇ヨーゼフ13世が三冠王国の王たち、つまりルクスタント王国女王グレース=デ=ルクスタント、ゼーブリック王国国王オラニア=ゼーブリック、ヴェルデンブラント王国国王オスカー=フィリップ=パルマの3人に王冠が戴冠された。


 三冠王国の盟主たるルクスタント王国に与えられた王冠は他の2つと比べて大きく飾りも豪華であり、次いでゼーブリック王国のものが大きく、最後のヴェルデンブラント王国のものが一番小さい。

これは対等で平等であるとした二重帝国のものとは対照的で、三冠王国のものは構成国家に優劣をはっきりと目に見える形つけたことになる。


 これはヴェルデンブラント王であるオスカーが提案したものであり、ただの貴族出身の自分が他国と対等な冠を受けるのはおかしいと判断してのことであった。

ゼーブリック王国もこれに同調し、敗戦国である自国を次点に置くことを提案した。

グレースは同率でありたいと願っていたが、結局2人に押し切られて優劣をつけることを承認した。


 このような形で統合された三冠王国は、かつて同地を統合していた国家になぞらえた統一国旗を採用した。

この戴冠もまた参列者により祝福され、三冠王国の戴冠式も無事に幕を閉じた。


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