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第242話 二重帝国として

 ドライブ帰りの次の日、俺は少し遅めの朝10時に目を覚ました。

今日は午後からベアトリーチェとの面会が入っているため、急いで朝食を済ませた。

その後は普段着へと着替え、腹ごなしがてらに宮殿裏の庭園を散歩する。


「司令、おはようございます」


 声がしたため振り返ると、そこにはロンメル大将がいた。

彼は他の陸軍部隊よりひと足早く昨日の晩にイレーネ島へと帰還していた。

彼は俺の横に立ち、一緒に庭園を散歩する。


「自由ミトフェーラとの連携、上手くやってくれたようだね。感謝するよ」


「お褒めに預かり光栄です。ですが私は私のやるべきことをやったのみです」


「それをできるのがすごいんだよ」


「ありがとうございます」


 ロンメル大将が上手く立ち回ってくれたおかげで、イレーネ帝国と自由ミトフェーラの間柄は極めて良好な関係になった。

彼の功績がなければ、戦争をしていた2国は合体できなかったかもしれない。

彼こそアウスグライヒを成功に導いた功労者であろう。


「ベアトリーチェ陛下は私と一緒にイレーネ帝国へと移動され、現在はイレーネ鎮守府本庁舎にてご宿泊なさられております」


「ベアトリーチェは何か言っていたか?」


「いえ、特に伝言の類は預かっていません……いえ、そういえば『挙式はいつにするか?』的なことを輸送機内で寝言で呟いておられましたよ?」


「そういうことは忘れてやっておくれ」


 俺達は少し歩いたあと、庭園内の噴水の縁に腰を下ろした。

足元には小鳥が飛んできて、地面の何かをついばんでいる。

非常に平和な、不思議な光景であった。


「司令、そろそろ時間です。準備なさられては?」


「……そうだな、悪いね、付き合ってもらっちゃって」


「構いません。また一緒に散歩しましょう」


 俺たちはそのまま宮殿へと歩いていき、それぞれの準備を行う。

俺はベアトリーチェから貰った勲章などをすべて付け、会議が行われる鏡の間へと向かう。

席に腰を降ろし、俺はベアトリーチェの到着を待った。






 しばらく待っていると鏡の間へとつながるドアが開き、ベアトリーチェが中へと入ってきた。

俺は立ち上がり彼女と握手を交わし、彼女を席までエスコートした。

今回の座席配置は今までとは異なり、2人が一対一で話し合えるような席配置になっている。


「ふむ……ここからの眺めは良いものじゃな」


 ベアトリーチェは窓の外を眺めながらそう言う。

鏡の間からはちょうど町を見下ろすことができ、眺めは良い。

彼女は外の風景からこちらへと目線を移し言う。


「アウスグライヒ案、二重帝国……なんだか不思議な感じじゃな。同じ国家じゃが制度は別、されど分割できず、分かれ難い……」


「分割できず、分かれ難い。二重帝国とはよく言ったものだ」


「こんな国家、前例がないからのう。じゃがルクスタント王国を中心として三冠王国も誕生した今、何も珍しいものではないが」


「だが異種族間という意味では前例がないことは事実だ。しっかりと運営していかないとな」


 そう言う俺の言葉に、ベアトリーチェは頷く。

まだ二重帝国誕生の報は国民には知らされておらず、来週に発表される予定だ。

それに合わせて2人の戴冠式が行われ、正式に国家として成立することになる。


「それで、ミトフェーラの統治に関してじゃが……貴族がほとんど死亡した現状に加え、残っておる貴族もロキへの協力の疑いで裁判にかけられることとなっておる。結果として統治に関与できる人間が殆ど残らないことが問題なのじゃが」


「現状、俺たちの間ではそれら貴族には一律5年の懲役を求刑しようと考えている。その間に帝国大学にて政治を学んでもらい、満期で釈放になる5年後に国会開設、でどうかと思っている」


「貴族の処分に関してはそれで構わんと思う。じゃが問題はそれまでの5年間じゃ。妾が統治するとは言え各地を取りまとめる領主であった貴族がおらねば政治は回らん」


「問題はそこなんだよな……。今のところは打開策として各地に帝国の軍人を中央官僚として派遣し、同氏を中心にベアトリーチェからの命令の遂行、同地の治安維持、税の徴収と中央への送付を行ってもらおうとは考えているが……」


 今のミトフェーラにおいて、イレーネ帝国軍といえばフライコーア、『フロリアン=ガイエル』であった。

そのため同地の統治には彼らが適当であると考えるが……如何せん武装親衛隊では、と思ってしまう部分もある。

ただし信頼があるという点が大きな利点であるということは見過ごせない。


「妾も国民も、義勇軍であれば快く迎え入れると思うぞ? それに一時的な軍政には目を瞑らねばならんじゃろ。何と言っても政治基盤が崩壊しておるのじゃから」


「……じゃあ軍政ということで」


「あぁ。決まりじゃ」


 俺とベアトリーチェはミトフェーラの統治において、国家成立より5年はイレーネ帝国の武装親衛隊がベアトリーチェを支えるという軍政が取られることが決定した。

指導者としてはロンメル大将が良いとされるが、彼はイレーネ帝国の陸軍大臣であるためにそう簡単には送ることができない。

だがそれはグデーリアン上級大将を陸軍大臣に据えれば済む話でもあるので、そこはまた後ほどの調整となった。


「次にミトフェーラの復興計画じゃな。現状工場は壊滅状態、操業ができない状態にあるのじゃ」


「それに関してはイレーネからの復興支援でまずはインフラの整備を進めていくつもりだ。そのうえで住民を作業員として雇うことで彼らに職を与えようと考えている。その後工場の操業を再開してはどうかと」


「確かにインフラの整備は肝心じゃな。因みに国家の中心たる王都はどこにするつもりじゃ?」


「王都については現状のフランハイムで良いと思っている。なにせ元の王都は焼け野原だからな。そういえばフランハイムの改造計画があるんだ」


 俺は一旦席を立ち、あらかじめ用意させておいたフランハイム改造計画の模型を運び入れさせる。

あまりに模型が大きいため、三分割した状態のものを中で組み合わせて1つの模型とした。

ベアトリーチェはそんな模型を真剣に眺める。


「これがフランハイム……にわかには信じられんが」


「城壁を撤去して市街地エリアを拡大、そうして空いた内側の土地を活用して宮殿や官庁などを立てる計画だ。もちろんミトフェーラの負担はなくこちら側の事業としてやらせてもらうぞ」


「何から何まですまんのう。妾も新たな王都として、これはふさわしいものじゃと思う」


「それは良かった。このフランハイムを中心に各地に交通網を張り巡らせることによってミトフェーラ全体の活性化を目指したいと思う」


「完成の時が楽しみじゃな」


 その後俺たちは両国共通の憲法制定や、再軍備に向けた準備などについて話し合った。

そして日もくれてきたので本日の会談はこれで終了とした。

今後はまだまだ忙しくなるな、と言い俺たちは別れた。


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