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第239話 ヴェルサイユの悲劇を回避せよ

「えぇと、次はミトフェーラの統治体制ですが……今後は自由ミトフェーラ王国が再び統治、という形でよろしいでしょうか? 何か反対意見のある方はいますか?」


 戦争責任の問題が解消したところで、今度はミトフェーラ王国の統治体制についての議論に移った。

グレースが手を上げて発言し、特に意義はないため他の国も同意の意を示す。

だが、問題は領土をどう切り分けるかであった。


 イレーネ帝国、ルクスタント王国、ゼーブリック王国、ヴェルデンブラント王国、及びハイリッヒ聖王国は現状の領土での維持を主張、しかしイーデ獣王国とフリーデン連立王朝は領土の一部割譲を求めた。

彼らの言い分としては、戦争で被った分の賠償、ということらしい。


 しかしここで領土問題を起こしてしまっては、後々の禍根になるかもしれない。

そのためには賠償金を含めて何も請求するべきではないと思っていた。

それはかつてのヴェルサイユ条約からナチス、そして世界大戦までの流れを見たことがあるからこそ言えることであった。


 しかしこの世界ではそのようなことは誰も知らない。

彼らの考えからすれば、賠償として領土を求めることはあたりまえであった。

だがここはせめて金銭だけの賠償で収めたいところだ。


「俺はイーデ獣王国、フリーデン連立王朝の要求を却下したいと思います」


「なぜですか? 確かにイレーネ帝国は被害を受けていないかもしれませんが、我々は受けました。ですのでこれは当然の権利と考えます。それとルフレイさん、私は個人的にはあなたと仲良くいたいと思っていますが、ここは国を背負っていますので対立してしまいますがお許しください」


「分かっています。ここは国同士の利害をぶつけ合う場ですからね。ですがその要求はやはり受け入れられません。ミトフェーラは魔王国時代から千数百年の間ずっと今の国境を維持していました。それを変更するというのは後に大きな禍根を残しかねません。ここは金銭だけの賠償にするべきかと。それと我が国も戦争の最前線において被害を被っていますが、領土の割譲は求めないつもりです」


「しかし、金銭では支払いが難しいのではないでしょうか? それだけの金が残っているのですか? 支払いが滞ることが無いよう土地で、と考えたのですが」


 そうだ、そこが大きな問題だ。

王都が焼け野原となっている以上、どこにも金銭は残っていない。

残っていても国内での流通が精一杯なぐらいだろう。


「金銭に関しては……我が国が立て替えましょう」


「ルフレイ、これは妾とミトフェーラの問題じゃ。わざわざイレーネ帝国が立て替える必要はないじゃろう」


「ベアトリーチェ、しかし領土割譲ではその土地に住んでいる人を強制退去させる羽目になる。それによる人の恨みとは凄まじいものだ。ならばここは穏便に金で解決するほうが良いじゃないか。大丈夫だ、立て替え分は無利子無担保での借金という形にするから」


「それであれば金銭での支払いでも構いません。フリーデン連立王朝も問題なくて?」


 金銭での賠償という形にはフリーデン連立王朝も賛成の意を示した。

とりあえずいくら欲しいのか紙面に書いてほしいと良い、俺は2人にそれぞれ白紙とペンを渡した。

2人は他人から見えない位置で紙に金額を書き、渡してくる。


(えぇと、イーデ獣王国が大金貨1200枚、フリーデン連立王朝は……8000枚!? ぼったくりすぎだろ……)


 正直、いくらなんでもフリーデン連立王朝のはぼったくり過ぎだと思った。

現在ルクスタント王国への引き渡しを待っている重巡洋艦の売却金額が大金貨40枚だ。

かなり割引はしているが、それでも安い金額ではない。


 大金貨は白金貨の上に相当する金貨で、白金貨1000枚分の価値がある。

白金貨5枚が貴族の月収と言われる世界で、大金貨はもはや国家間の取引レベルの貨幣であった。

大金貨の価値は1枚あたりの価値は計算上は約20億円、よってあの重巡は800億円で売却されたことになる。


 その大金貨を8000枚……紙幣ではないから起きることはないが、紙幣ならばハイパーインフレレベルの金額だ。

16兆円、それだけの金が敗戦国のどこにあるだろうか?

流石に賠償金額は大金貨100枚、2000億円で抑えたい。


「流石にこれは高すぎます……大金貨1000枚で我慢してもらえませんか?」


「大金貨1000枚ですか……まぁ良いでしょう。で、高すぎるって私に言ってますか?」


「いえ、フリーデン連立王朝に言っています」


「え、一体いくらを提示したんですか?」


「大金貨8000枚です」


 その金額を聞いた途端、その場にいた俺とユリウス以外の口が大きく開く。

流石にそこまでの高額だとは思っていなかったようだ。

しかし流石にやりすぎたと思ったのか、ユリウスも1000枚での合意に達した。


「良かったです。で、提案なのですが……この金額の一部はミトフェーラ魔王国から接収した兵器での賠償ということではだめでしょうか? 具体的には200枚分ほどを現物支払いでと」


「兵器……確かにあの兵器群は魅力的です。許可しましょう」


「フリーデン連立王朝もそれに同意します」


「では大金貨200枚分は兵器での支払いで決定ですね?」


 これにて合意が取れたので、あらかじめ作成しておいた紙面に額面を記入、そこにベアトリーチェとアウグストス、そしてユリウスがサインした。

またその他の国家元首は賠償権放棄の書類にサインし、賠償及び領土問題はひとまず解決した。


 だがまだミトフェーラのイレーネ帝国への借金返済方法について何も決まっていない。

現在工場類を根こそぎ破壊され、王都すら失ったミトフェーラに金になるような産業はなかった。

と言うか、そんなことよりも復興に金を使わなければいけない状況であった。


 そこで俺はある提案を持ち込んでいた。

それはミトフェーラの復興、及び産業の育成のために、また裏技的ではあるがミトフェーラの借金を帳消しにもできる方法であった。

あらかじめ作っておいた資料をオリビアが持っているため、彼女に頼んで全席に配布してもらった。


「アウスグライヒ案……これは一体?」


「アウスグライヒ案……これはミトフェーラとイレーネの国家統合案です」


「国家統合!? ルフレイ、何を考えておるんじゃ!?」


「まぁまずは中を見てください」


 全員が頭を打たれた衝撃を受けながらも、彼らは書類を読み進める。

読み進めていくにつれて彼らはなんだか納得したようなそうでないような、不思議な気分に襲われた。

議論はまだ終わる気配がない。


――――――

気がつけばもう31日ですね。

この1年間ありがとうございました!

来年からも『異世界司令官』をどうぞよろしくお願いします!


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