目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第237話 最後の抵抗

 時は少し遡り、王都北方山中の秘密工場。

数日間に渡ってイレーネ=ドイツ軍団の一部と、合流したフロリアン=ガイエル軍団が山ごと包囲しているが、そこから進展はなかった。

というのも、王都方面の攻略に手間取った場合、即座に助けにいけるようにと進撃を躊躇していたからだ。


 だがジェリコの壁への攻撃が成功したという報を受け取ると、部隊は山中への進軍を開始した。

山道は狭いため大型のティーガーやパンター、レオパルトは通ることができないので、代わりにⅠ号、Ⅱ号戦車が先頭に立って進軍を始める。

その後ろに歩兵が続き、自走砲とロケット砲がその支援を行う。


「進め! 進め! 敵は目前だ!」


「敵兵がでてきたら躊躇なく攻撃しろ! いいな!」


 ドイツ連邦陸軍と武装親衛隊の共同戦線という非常に不思議な部隊ではあるが、特に問題はなく山の奥深くへと入り込んでいく。

しばらく進んでいくと、突然目の前に銃弾が多数浴びせかけられた。

それによって1両のⅠ号戦車が被弾、放棄を余儀なくされた。


「なんだ、あの発射間隔は……機関銃か?」


「だろうな。この位置だと完全に打ち下ろされてしまう」


「今はとりあえず木陰に隠れていようか」


 一旦部隊は後退、機関銃からの射線を切った。

同時に連邦陸軍の兵士がH&K G36を片手に偵察を実施、機関銃陣地の在処を確かめに行った。

そんなことを知らない機関銃手は……


「さっき敵が来たのに、どこかに行ってしまったな」


「攻撃が命中しているのが見えたから、一時後退したんだろう。おそらくそう遠くないうちに戻ってくるはずだ」


「にしてもこの新型機関銃、すごい性能だな」


「あぁ。だが重量ゆえ持ち運べないのが難点だとエーリヒ様は言っていたな」


 防衛陣地に据え付けられている機関銃は、IS-1A用の7.7mm機銃を地上用に転用したものであった。

ここ秘密工場にはエーリヒの作成した最新兵器が多数配備されているため、防御力は一段と高くなっている。

だがそれを運用する人間は……その限りではなかった。


「そろそろかな?」


 パスッ


「じっとしていろ……ってうおっ!」


 突然頭から血を吹き出して倒れる機関銃手。

もう一人の機関銃手が抱え上げたが、既に男は事切れていた。

どこからの攻撃かとキョロキョロしていると、もう1人も撃ち抜かれた。


 ドサッ


「機関銃陣地の制圧を完了。部隊は前進しろ」


『すまない、助かったよ』


「どうということはない。私はこのまま別行動で進軍、障害となりそうなものを破壊していく」


『頼んだ。頼りにしているよ』


 機関銃陣地の脅威がなくなり、Ⅰ、Ⅱ号戦車を先頭に再び部隊は進撃を始める。

その先にも機関銃陣地があったがそれも排除され、部隊は滞り無く進撃を続ける。

ちょうど山の中腹あたりに差し掛かった時、戦車隊の前に開放的な空間が現れる。


「工場についたぞ! 一気に全部破壊しろ!」


「特にあのレールの破壊が最優先だ! 二度とカミカゼロケットを打ち上げることができないようにしてやれ!」


「残っている兵器は鹵獲するから壊すなよ! 兵士や労働者は少しでも抵抗すれば撃ち殺して構わん!」


「行け! 行け!」


 突入に成功した兵士たちは、まずは工場の入口を守っている兵士から片付ける。

自動小銃とマスケット銃ではまったくもって刃が立たず、守備をしていた兵士たちは次々とやられていった。

同時に外に配置されていたカタパルトを破壊、有人ミサイルを発射できないようにする。


 工場の入口は薄い木製のシャッターであり、それを突き破りながらⅠ号、Ⅱ号戦車は工場内へ突入する。

ここでも戦闘が起きるかと思われたが、案外作業員たちは無抵抗で投降した。

投降したものは外の広場に集められ、兵士たちは奥へ奥へと進んでいく。


「これは何だ、戦車……か?」


「こっちには重爆もあるぞ。一体どんな技術力をしてやがんだ」


「それに量産力もだ。この工場内でいくつの兵器が同時に製造されていることやら……」


 彼らは秘密工場の生産能力に驚きつつ、奥へと進んでいく。

途中物陰に隠れたままの作業員を見つけて銃を向けるが、その殆どは大人しく投降した。

若干手応えのなさを感じながら進んでいくと、奥へと続く扉を見つけた。


「あの奥……怪しいな」


「あぁ……気を付けて行くぞ」


 ドアを物陰に隠れながらそーっと開け、一気に中へと突入する。

そこには、IS-1Bを弄くっているエーリヒの姿があった。

彼は兵士たちがやってきたことにも気が付かず、油で汚れながら熱心に翼下にエンジンを据え付けていた。


「手を上げろ! 無駄な抵抗はするんじゃない!」


「……うん、誰だい? 今忙しいの」


「私たちはイレーネ=ドイツ軍団のものだ。大人しく投降してもらおう。そうすれば命は助けてやる」


「……興味ないかなー。お好きにどうぞ」


 エーリヒの返答に兵士たちは戸惑う。

そんな彼らのことなど気にもせずに、エーリヒはレンチに持ち変える。

彼のマイペースぶりに我慢の限界が来た兵士の一人が、エーリヒの頭に銃口を突きつけた。


「殺されたくなかったら今すぐそれを置いて手を上げろ!」


「ちょ、お前……」


「……はぁ、面倒くさいなぁ」


 エーリヒはそう言いながらもレンチを床に置き、手を上げた。

そしてすっくと立ち上がると、銃口をおでこにピタリと付けたまま兵士の方を向いた。

だがその目に光はなく、死んだ人間の目をしていた。


「これで文句はないかい?」


「あ、あぁ……」


 兵士たちは、その目の虚無さに驚きながらも、投降したエーリヒを外に連れ出そうとする。

だがその時、思い出したようにエーリヒがどこかへとあるき出した。

兵士は銃口を突きつけたまま歩いていくと、彼は置いてあった瓶から飴を取り出した。


「食べるかい?」


「いや、結構だ」


「そう。じゃあいただきまーす」


 ダァァン!


 そう言ってエーリヒが飴を口にふくもうとした瞬間。

その場にいた兵士の一人がとっさに飴を持った手に向かって発砲した。

銃弾によってエーリヒは手のひらを撃ち抜かれ、持っていた飴を落とした。


「何をするんだ!」


「その飴には見覚えがある。確かロキによる洗脳のための触媒か何かだったはずだ」


「だ、だが確証はないのだろう?」


「あぁ。だがもしかすると毒か何かを含んでいて自殺するつもりだったかもしれない。そうなっては元も子もないからな。何も食べさせないのが適切だ」


 そうはいっても撃つかよ……と連邦陸軍の兵士は驚いた。

だが武装親衛隊のことだ、不思議ではないと自分で自分に言い聞かせた。

その後撃たれた手に応急処置を施されたエーリヒは、外へと連れ出された。


―――――

これにて第5章も終了、明日からは第6章に突入です。

一体あと何章あるんだこれ……?

とにかく明日からもよろしくお願いします!


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?