（今か、くそ、また入れない……あの２人の世界にはっ！）

　俺の眼の前では、ずっと止まること無く激しい攻防が繰り広げられている。

そこには一片の隙もなく、２人だけの世界が形成されている。

俺はどうにかそこに食い込もうと思っていたが、全く入り込むタイミングを見つけることができなかった。

（！　また来るな！）

　俺は再び飛んでくる砲弾を知覚し、回避運動に入る。

最初こそロキにダメージを与えたマ号弾であったが、２回目以降はロキが回避する、もしくは防御魔法で防ぐようになった。

それでも強制的に回避運動に入らせるか、もしくは魔法を講師させることができるので、役には立っている。

（ん？　ロキが回避も防御魔法の展開もしない……これは気がついていないのか！？）

　イズンは気がついて上空へと回避していくが、ロキは気にすること無く魔法を放とうとする。

ロキが油断している今こそがチャンスだ！

俺はマ号弾の爆炎の後ろからロキに襲いかかることができるよう、位置を調整する。

　ドォォン！

　いつの間にか夜になっていた王都上空に、炎の華が咲く。

俺はロキの後ろに咲く火球を影に接近する……はずであった。

だがその部分だけ爆発が起こらず、俺は光に照らされて丸見えの状態となる。

「ざんねーん、気づいていないと思ったでしょ？　でもそんなわけ無いじゃん？」

　ロキは宙返りして逆さの状態でこちらを見て言う。

そんな彼の左手には、鷲掴みにされたマ号弾の砲弾があった。

彼はそれをヒョイッと上に投げると、右手で持っていたロンギヌスの槍で砲弾を打ち返してきた。

「しまった！　最初から狙いは俺だったか！」

　高速で接近する砲弾を避けるべく、俺は上方へと急上昇する。

先程まで俺がいた位置で大爆発が起き、俺はあまりの明るさに目を瞑った。

その時、俺はロキの位置を完全に見失った。

「異世界の人間よ、不意打ちとはこうするんだぞ♪」

　俺が目を開けると、眼の前には魔力の弾を握ったロキが満面の笑みを浮かべていた。

ロキは俺の顔めがけてその弾を投げつけようとするが、何とか体を捻って回避、俺はロキの胴体を踏み台として下方へと飛んだ。

ロキは下降する俺を見つめるが、その瞬間、彼の頭にイズンのケラウノスが命中した。

「ガッ、ガアアッ！！」

　ロキの頭と接触した瞬間、ケラウノスはありったけの電撃をロキへと浴びせかける。

脳へとダメージを与えられたロキはたまらず後退、同時にイズンは距離を詰めた。

ロキはロンギヌスの槍を両手で持ち、イズンへと突進する。

「「おらぁぁぁぁ！　くたばれぇぇ！」」

　イズンのケラウノスと、ロキのロンギヌスの槍が激しくぶつかり合う。

両者は一旦距離を取り、再び突撃の姿勢を整える。

だがその時、先程の電撃の影響なのかロキが体制を崩した。

「！　今度こそはっ！」

　ロキが再びイズンへと突撃する頃合いを見計らい、俺は再度攻撃を試みる。

俺は手元にパンツァーファウスト３を召喚し、成形炸薬弾の対戦車榴弾を装填する。

パンツァーファウスト３を抱えたままロキたちの下へと降下し、そこから一気に突き上げる。

「ハハッ、やはり姉さんは強いな……ってうおっ！」

「すまんな。くたばれ」

　俺はパンツァーファウスト３を、ロキの股のところに押し当てて発射する。

超至近距離で発射されたそれは股を貫通し、内蔵までぶち破って炸裂する。

ロキの体内でそれは大爆発を起こし、頭より下がミンチとなって地面へと落下した。

「よし！　やったか！」

　俺は発射し終えたパンツァーファウスト３の発射筒を放棄し、頭だけになって落ちていくロキを見る。

ロキの口からは血がたれており、目は動いていなかった。

イズンもそのまま降りていくが、その時、ロキの口がニヤッと動いた。

「まだ生きているのか！　なんてしぶといやつなんだ！」

　そう思っていると、ロキの口が大きく開裂、そしてそこに紫色の弾が形成された。

そのままそれは紫色のビームとなってこちらへと襲いかかってくる。

俺は回避しようとしたがその時、胸元の勲章が発光して天使たちが現れた。

「すみません、遅れてしまいました」

　天使らはそう言うと、俺の周りに防御壁を形成する。

防御壁にビームが命中したが破られることはなく、攻撃を耐え凌ぐことに成功した。

ロキは現れた天使を見て、あからさまに面倒くさそうな顔をする。

「天使が来たか……俺のところの悪魔たちも来てくれたらなぁ、でもあいつらまだ封印状態だし……」

「知らないわよ。それよりそんな事を言っていて良いのかしら？」

　イズンはケラウノスでロキの後頭部を殴りつけ、ロキを吹き飛ばす。

吹き飛ばされたロキは頭だけでこちらへと飛んできたがすかさず天使たちがそれを迎撃、ロキの頭は上空へと打ち上げられた。

だが頭だけになったロキは非常に見つけにくく、またもや見失いそうになったが何とか目で追い続けていた。

「えぇい……ならばこうしてやろう！」

　ロキは何かをブツブツとつぶやき始める。

イズンはそれを止めようと攻撃を放つが、それよりも早くにロキの詠唱が完了した。

それと同時に急に空の月を雲が覆い始め、あっという間に隠されてしまう。

「しまった！　これでは暗くて頭の在処がわからない！」

　先程から砲撃が止んでいるがこれは残弾が尽きたからであり、艦砲射撃によるマ号弾で照らされることも期待できないようになっていた。

明かりがない以上俺は魔力波を飛ばしてロキを探さざるを得なくなる。

だがその時、空にレシプロエンジンの音が響き渡った。

「！　この音はまさか！」

『編隊長、急に暗くなりましたね』

『あぁ。だが俺たちには魔法の道具があるから大丈夫だろう？』

『電探ですね。なんだかでーたりんくとか言う不思議な仕組み、未だに理解していませんがこれのおかげで戦えそうです』

　帰ってきていたリリスとイヴからの情報を頼りに飛んできた天山航空隊。

各機の胴体下には対空噴進弾が１発、20ｍｍバルカンのガンポッドををそれぞれ主翼下に２基ずつ取り付けていた。

まず彼らは噴進弾を一斉射、それによって空は明るく照らされる。

「なぜ天山部隊がここに……」

『ト連送送れ！　終わったら一気に撃ち尽くすぞ！』

　光によってあぶり出されたロキの頭部に向かって、彼らはバルカンを発射する。

だがそれらが小さいロキの頭に命中することはなかった。

しかし回避行動に気を取られたロキの頭にイズンの「神の裁き」が命中、ロキの頭部は地面に叩き落された。

　俺はレシプロエンジンの音が聞こえたあと一旦地上へと降り、あるものを回収しておいた。

それはロキが落としたロンギヌスの槍であった。

槍を回収した俺はロキの頭部が落ちてくるのを発見、落下地点に急いだ。

　ドンッ！　ゴトッ、ゴロゴロ……

「くそっ、頭だけしかないせいで思うようにに動けん！　あの異世界人のせいだ……」

　ロキは歯ぎしりをしながら、再び飛び立とうと試みる。

だがその時、彼の顔の上に俺が足を乗せた。

それによってロキは飛び立てず、地面でジタバタともがく。

「くっそ、面倒な！　お前の足なんざこうしてやる！」

　ロキは口に再び魔力を貯め、俺の足ごと消し飛ばそうとする。

そうして彼が口を開いた瞬間俺は足をどけ、代わりに口にロンギヌスの槍を差し込んだ。

貯められていた魔力はかき消され、急速にロキの力が落ちていく。

「お……まえ……何をした……」

「何って、貴様の槍を口に差し込んだだけだ」

「槍……そうか、あの時落とした……」

　そう言ってロキはこちらを見つめる。

だがもう力はなく、何もできない状況であった。

そんな時、横にイズンが降りてきた。

「よくロンギヌスの槍を刺そうという発想に至れたわね」

「神の武器だし、もしかしたらと思ってね」

「大正解よ。ロンギヌスの槍は神殺しの槍。刺した相手の魔力回路を無条件で遮断する恐ろしい武器よ」

「……で、ロキはどうやったら死ぬんだい？」

　俺達が喋っている間にも、ロキは目をキョロキョロと動かしたり、顔を回転させて逃げようとしたりする。

でもそんなロキの頭に俺は足をおいたので、ロキは動けなくなった。

そんなロキを見ながらイズンは残念そうに言う。

「残念ながら……ロキを死滅させることは不可能よ」

「えっ！？　なぜ？」

「ロキは世界創生と同時に生まれた私の双子の弟。光なくして影はなく、影なくして光はない。つまりわたしたちのどちらかが欠けたらこの世界は消滅するし、それが分かっているからこそ私も何億年もロキを処分できなかったの……」

「……」

　俺は足を少しずらしてロキを見る。

彼は首から下がなかろうが、口元にロンギヌスの槍が刺さっていようがお構いなしに元気そうであった。

今すぐにでも殺したいが、そんなことをすると世界が崩壊してしまうのでできない……。

「幸い槍が刺さっている間は力を行使することはできないわ。前も刺していたんだけれど、何かの拍子で抜けたのかしら……」

「ではこの状態であれば大丈夫なんだな？」

「えぇ。このままの状態でコンクリ詰めにして海に沈めれば、それこそ何もできなくなるわよ」

「またエグいことを考えるなぁ……」

　とりあえずロキの処分は後回しにして、イズンの防御魔法でくるんで保管することにした。

そのまま俺たちは飛び上がり、再び戻ってきた月光を浴びながらノルン島へと帰還する。

下には、戦闘にて破壊され尽くした王都の廃墟が広がっていた。