「ハハハハ! 久しぶりだな、この湧き上がる力!」
王都の中心に立ち上る紫色の光の柱。
その中には、王都の住民から吸い取った魔力で復活を果たしたロキがいた。
体はユグナーのものを流用しているが顔面はロキのものに変わっている。
そしてロキの復活とともにユグナーはその体を捧げたため、存在として消滅した。
僅か半年余りの、魔族としては塵にも等しい期間だけ、彼は王であった。
そんなことをロキは気に留めず、身の回りにまとっている紫の光を弾き飛ばした。
「ふむ、雑多な人間の魔力を集めたせいで力が不均一になっている……あまりこの手は使いたくなかったが、まぁ仕方あるまい」
ロキは自身の中を駆け巡る魔力に違和感を覚えつつも、その魔力量には満足していた。
手始めに彼は右手に力を込め、魔力の塊を作り上げた。
それを彼は下に見える市街地へと投げつけ、それが着弾すると轟音とともに大爆発を起こした。
「威力は全盛期と比べると落ちたな。まぁあのときとは体の大きさも何もかも違うからな。バスタール大陸での素体回収が成功すればこんなことにはなっていなかっただろう。ユグナーめ、つくづく使えないやつだったな」
ロキは文句を言いつつも、体を提供してくれたユグナーには感謝している。
するとその時、彼の後ろの方からキラキラと輝く何かが近づいてきた。
それに気がついたロキは、ゆっくりとそちらの方を振り向く。
「……イズン姉さん、随分と早いですな」
「ロキ」
「姉さん、俺を殺しに来たのかい?」
「……」
向かい合うロキとイズン。
言葉は尖っていないが、2人の間に漂う空気は、触れたら切り刻まれそうなほど鋭く張り詰めている。
見つめ合ったあと、イズンが先に口を開いた。
「この世界が誕生した時から私達は争っているわ。数十万年前の大陸戦争のときもそう、私とあなたとで熾烈な戦いが繰り広げられ、その過程でこの世界のありとあらゆる生命体が死滅したわ。そこからここまでなんとか復興させたというのに、あなたは何をしたいの? 私を困らせたいの?」
「姉さんを困らせたい……残念ながら俺にそんな趣味はないよ」
「じゃあなんで、何がしたいの?」
「さぁ……もう最初にどう思ったかは忘れてしまった。でもなぜか姉さんへの復讐に対する気持ちは忘れていないんだよね。つまりはそれだけ復讐したいってことさ」
ロキはそう言って左手を下に向け、どす黒い槍を創造する。
それは神殺しの槍、ロンギヌスの槍であった。
イズンもまたケラウノスを構え、ロキとの戦闘に備える。
「おや? なんだか知らない男がいるな。あれは誰だ……いや、聞くまでもないか。イズン姉さん、あなたはまたあの時と同じ過ちを犯すつもりかい?」
「……」
「異世界の力による影響は我々の想像できる範疇にはない。たとえ神であろうと。それは姉さんが一番良く知っているだろう? なぜ大陸間戦争は起きたのか。なぜあの時全ての国家が消滅しなければならなかったか。なぜ俺があの時復活しかけるに至ったか。非文明化社会において行き過ぎた技術の流入がもたらすものはなにか。全部知っているだろう?」
「あの時と同じことにはならない、いや、ならせないわ。もう二度と……」
イズンはそう言ってケラウノスをぐっと握る。
力強く握ったことによってケラウノスが刺激され、あたりに雷を巻き起こす。
ケラウノスの放つ金色の雷は、ロキの紫色のそれと激しく混じり合った。
そのまま雷の渦は拡大していき、外界と隔てる幕を形成する。
中には俺とイズン、そしてロキのみが取り残された。
ロキは不敵に笑い、イズンは怒りに眉間にシワを寄せる。
「「神の裁き!」」
イズンとロキは同時に手に持っているそれぞれの武器を振りかざして魔法を放つ。
一斉に現れた無数の紫、黄金の魔力が束となってお互いを打ち消し合う。
それと同時に両者は急速に接近、ケラウノスとロンギヌスの槍を激しくぶつかり合わせた。
「ぬぬ、さすが姉さん。威力は全く衰えていないね」
「そういうあなたはどうかしら? かなり力が落ちているみたいね?」
イズンはそう言ってケラウノスを振るい、ロキを弾き飛ばす。
ロキは弾かれた衝撃で雷の渦の外に出て、まだなお吹き飛んでいく。
吹き飛んでいくロキに対してイズンは再び「神の裁き」を発動、ロキは防御魔法を展開した。
ドドドドドドッッ!
防御魔法に無数の「神の裁き」が命中、防御魔法を破壊する。
その衝撃で溜まっていた雷が吹き飛ばされ、イズンも外へと躍り出た。
ロキはロキで体制を立て直し、直ぐに再攻撃の体制に入る。
(速すぎる! 俺は一体何をするべきなのだ!?)
あまりにも速すぎるイズンとロキの戦闘に俺は全くついていけていなかった。
それもそのはず、これまではまともな対人戦などしてきたことがなかったのだ。
一度瞬きをしている間にイズンとロキの立ち位置が入れ替わっており、さらに2、3もの技の応酬が行われていた。
この中に入っていく機会は見つからない上、下手に入り込んでも戦闘の邪魔になるだけであることは重々理解している。
ならば俺は何をするべきなのであろうか?
そう思っていると、南西の空からなにか音が聞こえてくる。
「まずい、回避!」
俺は羽を急いで動かし、元いた場所から退いた。
次の瞬間、先程まで俺がいた机の当たりに巨大な火球が出現、あたりの空気ごと空間を切り取った。
この爆発は、セクター軍港付近の戦艦群から発射されたマ号弾によるものであった。
「あっつい!! 一体どこから……」
ロキが気づいたときにはもう遅かった。
彼はマ号弾の火球の中に包まれている。
その火球もロキは振り払い、片羽根を熱で溶かしながらも彼は笑っていう。
「良いね良いね! 素晴らしい攻撃であった」
「あなたの相手はっ! こっちよ!」
イズンはそう言ってケラウノスをロキの頭に叩きつける。
頭を打たれたロキはそのまま地面へと落下していき、地面に激突した。
そのまま彼は地面からイズンに向かって魔法を放つ。
「ハハハハ! 楽しくなってきたな!」
ロキはそう言って再び飛び上がる。
それに対してイズンは再度攻撃をしようとする。
神々の戦いは終わりを知らない。