「ここを落とせば俺たちの勝ちだ! 前に進め!」
「「「「Ураaaaaaaaaa!!!!」」」」
最後の攻勢に出るイレーネ=ソビエト軍団の兵士たち。
王都の南半分を担当していた彼らは、ジェリコの壁が崩れると同時に王都へと進軍を開始する。
彼らの目には、ゆっくりと仰角を下げていくイカロス砲台の砲身が見えていた。
西部、北西部に展開していたイレーネ=ドイツ軍団、東部、北東部に展開していたイレーネ=アメリカ軍団の兵士たちも同時に王都への進軍を開始した。
一気に包囲網を縮めていく彼らの上を、なけなしのIS-1Aを全機撃墜した烈風隊が掠めていく。
彼らは王都内にまだ少数残存している対空砲を破壊しに向かっていた。
『上空の偵察機型B-36から情報が入った。どうやら王城の中庭に数基の対空砲が残存しているようだ』
『王都の城壁上にはロケット砲が残存している。そちらも破壊しに行こうか』
『いや、あっちはメザシが対応してくれるようだ。我々は中庭の方に注力しよう。それと一般市民は殺さないようにな』
『『『『了解!』』』』
王都上空にて待機している偵察機型B-36が得た情報をもとにして、彼らは効率よく目標物を破壊していく。
一基、また一基と対空砲やロケット砲は破壊されていき、地上部隊の脅威は無くなっていった。
そのおかげもあって地上部隊は王都への距離を縮めることができる……はずであった。
「おい、何だあれ?」
「うん? あぁ、王都から退避してくる住民じゃないか?」
「それにしては鬼気迫る表情で近づいてくるが……」
そのままの勢いで進軍してしまっては住民を轢き殺すことになってしまうので、彼らは一旦進撃の足を止めた。
だが彼らはそんなことはお構いなしに、イレーネ=アメリカ軍団の最前列を形成しているエイブラムスの車列へと突っ込んでくる。
そんな彼らの手には、よく見ると剣や斧が握られていた。
「あっ! あいつら武装してるぞ!」
「じゃああいつらは逃げてきているのではなく、俺達に攻撃を仕掛けてきているのか!」
「しかたがない、発砲するぞ!」
「女子供にもか!? 馬鹿、そんなことができるか!」
ソビエト軍の兵士たちは動揺していた。
彼らは頭の中では確かにそれが敵兵であると認識している。
だが心では女子供にも発砲することに対する躊躇があった。
「どうやらソビエトとドイツの連中も同じような敵と接敵したようだぞ!」
「あいつらはどうしているんだ!?」
「ドイツの連中は我々と同じように一旦待機、ソビエトの連中はもう発砲したようだ」
「あいつらイカれてるのか!?」
そんな事を言っている間にも、どんどんと住民は迫ってきている。
彼らは決断をするしかなかった。
戦車長のジョンがハッチを開けて戦車の上部に出て、ブローニングのトリガーに手を掛けたときであった。
「まずい! 魔法が来るぞ!」
ジョンが前を見ると、住民たちは魔法を放とうとしていた。
直ぐに戦車の中に戻ろうとした時、レシプロエンジンの鈍い音が頭の上を掠めていく。
それと同時に大量の銃弾が地面に降り注ぎ、魔法を放とうとしていた者たちは皆倒れた。
『ボーっとしているからそうなるんだ。気をつけろよ』
「すまない、助かった」
『良いってことよ』
航空支援を終えて飛び去っていく天山の下では、まだまだ後続の兵が湧いてきていた。
王都というだけあって人口は多く、また有力な家系の人間が多く住んでいたので徴兵されている人数も少なくその戦力はかなりのものであった。
「この量を全部殺せというのか……?」
「仕方がないだろう。俺だってやりたくはないさ……」
「……分かった。じゃあ行くか」
彼らはついに意を決して、住民を殺戮することにした。
安全を確認したうえでジョンは再びハッチを開け、ブローニングのトリガーに手をかける。
だがもうすぐで射程内に入るという時、今度は住民たちがバタバタと倒れ始めた。
「え……? 転けた?」
「そんなわけ……いや、本当に転けたのか?」
「全員転けるってどんな状況だよ。それよりも俺は何か操られていたものがぷつんと切れたような転けかただなと思ったが」
そんな事を言っていると、転けた住民の背中から何やら黒い靄が出てきた。
その靄はすうっと空中に浮くと、王都の中心部へとふわふわと集まっていく。
それが全員の背中から出てきているので、空は一瞬で黒く染め上げられた。
「何だこれは!? どうなっているんだ!」
「俺、ちょっと見てくる!」
「おい待てジョン! おい!」
ジョンはエイブラムスから飛び出すと、倒れている住民のもとに駆け寄る。
何度か揺さぶってみたが反応はなく、ひっくり返してみると顔が溶けていた。
顔以外にも全身の崩壊が始まっており、彼は気持ち悪さのあまりにすぐにその場を離れて車内へと戻る。
「全軍後退だ! 早くしろ!」
「一体何を見てきて――」
「そんな事を言っている暇があったら早く後退しろ! つべこべ言うな!」
「あぁもう分かった! 全速力で脱出するぞ!」
幸いにも自走砲や歩兵は連れてきていない機甲師団なので、撤退は容易であった。
その間にジョンは他の部隊にも自分が見たものを伝え、後退するように促す。
それを聞いたイレーネ=ソビエト、ドイツ軍団も退却を始めた。
退却中に後ろを見てみると、王都の中心部には紫色の光の柱が立っていた。
そしてそれを取り巻くようにして黒雲が広がっており、不吉な予感を漂わせる。
全速力で後退を完了させた彼らは、どうするべきか頭を悩ませる。
◇
「……!! あの光は!」
王都郊外の廃屋内。
俺とイズンはもしものときに備えて待機していた。
ジェリコの壁が破壊され、イカロス砲台も破壊され安心していたのもつかの間、王都に紫色の光の柱がたった。
「あれってもしや……?」
「えぇ。間違いなくロキが復活したようね。あたりを漂っている靄を見る限り、強制的に自分の支配下にあった人間の魔力を吸い取っての復活ね」
「吸い取られた人間はどうなるんだ?」
「……体を維持できなくなって崩壊するわ」
イズンは険しい顔で光を見つめながらそういう。
その顔は今まで見てきたどんな顔よりも恐ろしく、思わず震えた。
彼女は俺の方を向きなおり、手を差し出す。
「私達の出番よ。さぁ、行きましょう」
「分かった」
頷くと同時に胸元の勲章が光を発し、背中から光の羽が生えてくる。
そして俺達は羽を羽ばたかせ、王都の光へ向けて飛んでいく。