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第233話 蜜蝋の翼を持ちしモノ

『飛翔体の発射を検知。あれは……』


『砲弾。どうやら間に合わなかったようね』


 王都上空を飛行するリリスとイヴは、放たれた砲弾を検知する。

砲弾を搭載しているレーダーで追跡しつつ、その情報をリリスはイレーネ島上空を飛んでいるアダムに転送した。

改造型X-36を切り離した後、リリスとイヴは共にチェレンコフ1を全開し、砲弾の飛翔する向きに沿って飛行する。


 非常時に備えて上空で待機していたルーデル大将とアダムは、砲弾発射の報を聞いて直ぐに迎撃体制を整える。

このようなことも想定はされていたので、迎撃体制は二重三重に敷かれていた。

第一段階としてアダムのLDWSの直接射撃による迎撃、第二段階にはイレーネ湾に停泊していたイージス艦たちによるSM-6を用いての迎撃網、最後に本土配備のパトリオットによる迎撃網だ。


 だがこれで本当に迎撃が可能なのかは疑問が残っていた。

そこでトマスはまだ開発段階であった最新兵器を投入することを決心していた。

その最新兵器は既にアダムよりはるか上空で待機状態に入っている。


 その最新兵器とは、ある意味旧時代の兵器とも言える代物である阻塞気球であった。

強度を上げた材質で作った気嚢内にヘリウムガスを詰め、戦闘機の到達できない高高度に多数配備してある。

それらにはXDWP-02製造時に培った自動防御システム『ADS』が組み込まれており、砲弾や弾道ミサイル接近時に防御壁を展開、飛翔物体の妨害効果が期待されていた。


 上空に展開した阻塞気球は、地上の管制室からの指示を受けてADSを展開、砲弾の飛来に備える。

イレーネ島とその近辺の領海の上空には瞬く間にADSが展開された。

そうしている間にも砲弾は迫ってくる。





 大気圏を脱出し宇宙空間に到達した砲弾は底の蓋を分離、ブースターを露出させた。

ブースターを始動させて砲弾は加速を始め、またスラスターを用いて弾道を安定させる。

弾道ミサイルのような軌道を描いて砲弾は宇宙空間を突き進む。


 だがイレーネ島=ミトフェーラ王都間の距離は実に5600kmも離れており、着弾までにはどうしても時間がかかる。

そのおかげで砲弾迎撃までの準備の時間が稼げた。

そんな砲弾もいよいよ大気圏への再突入の姿勢に入り、スラスターで砲弾をスクリューのように回転させた状態で再突入姿勢を安定させた。


 再突入時の熱で真っ赤になりながらも砲弾は再突入に成功する。

惑星の重力に引っ張られて砲弾は速度を上げながら、イレーネ島を正確に狙う。

そんな砲弾に第一の壁が立ちふさがった。


「イカロス砲弾、ADS展開空域に侵入します!」


「ついに来たか……どう転ぶのやら……」


 グデーリアン上級大将はモニターを眺めながら言う。

モニターにはリリス、イヴ及びイレーネ島防空レーダーから送られてくる情報を照合して逐一イカロス砲弾の位置が示されていた。

まずはイカロス砲弾はADSを展開した阻塞気球の層へと侵入する。


「イカロス砲弾、ADS接触まで10、9、8……3、2、1……接触!」


「結果は!? どうなった!」


「駄目です! 目標の速度は減衰するも砲弾は依然健在!」


 展開されたADSに接触したイカロス砲弾は、その驚異的な質量と速度に任せてADSの防御網を突破した。

突破時に姿勢が若干崩れたが、スラスターによってその歪みも修正される。

だが速度自体は大幅に落ちた。


「第二段階はアダムのLDWSによる迎撃です。LDWSの射程に入るまであと12秒!」


「ルーデル、頼んだぞ……魔王の意地を見せてくれよ……」


 その頃のアダムは、砲弾の落角に対して機首を向け、LDWSを露出させる。

リリスとイヴの計算情報から推察される通りに自動で偏差を修正し、ルーデル大将は発射ボタンに手を添える。

彼は久しぶりの緊迫した状況に心を踊らせていた。


「この一撃ですべてが決まるだろう。そう思わないかガーデルマン? いや、今はもういないか……」


 いるはずのない過去の後部銃座手に話しかけたことに気が付き、ルーデル大将は頭をかく。


(そんな事を言っている暇があれば操縦桿を引け! 狙いを定めろ!)


「幻聴……ガーデルマン、その通りだ。君にはいつも助けてもらった。感謝している」


 ルーデル大将はヘッドアップディスプレイに表示されている、イカロス砲弾との距離の数値を見つめる。

その数字はものすごいスピードで縮まっていき、ついにはLDWSの射程内に収まった。

その瞬間、イカロス砲弾は完璧にロックオンされた。


「今だ! 発射!」


 ルーデル大将は発射ボタンを思いっきり押した。

同時にLDWSが発射され、機体の前後に青白い光が放出される。

放出されたエネルギー波は、イカロス砲弾へと迫っていく。


「「「「当たれぇぇぇぇ!」」」」


 LDWSの発射と同時に、地上管制員もルーデル大将も全員がそう叫んだ。

次の瞬間、アダムの前方で強烈な光を伴う大爆発が起こった。

それと同時に各機が捉えていた砲弾の反応も消失する。


「墜とした……のか?」


 グデーリアン上級大将も、他のクルーも全員が間抜けな顔をしてそういう。

だが撃墜したと理解した瞬間、管制室内は歓喜の渦に包まれた。

階級も何も関係なく、全員が喜びを分かち合う。


「やったぞガーデルマン。戦果に新たに砲弾が追加されてしまったな」


 ルーデル大将はそう言い、アダムを水平飛行に戻す。

そして基地に帰った彼は、駆け寄ってきた全員から祝福の言葉を投げかけられた。

またその知らせをリリスとイヴ経由で聞いたトーチ作戦参加部隊、ノルン島の整備士達、ブルネイ泊地の兵も全員が歓喜した。


 特に、砲弾撃墜の報を聞いた、王都を包囲しているイレーネ帝国陸軍の兵たちはその知らせに歓喜し、その勢いで一気に王都を制圧しにかかった。

彼らは勝利を確信し、王都内へとなだれ込んでいく。


――――

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