イカロス砲台の発覚から1日後の12月8日。
既に西海には連合艦隊機動部隊が集結しており、各機は発艦の時間を待っていた。
信濃、ミッドウェイ艦上の天山の翼下部にはレーザー目標指示装置が取り付けられ、B-52Hの搭載する、弾頭部の強度を上げて貫通力を高めたMOPを誘導できるようになっている。
また烈風、天山共にGBU-32誘導爆弾を搭載し、ジェリコの壁内に侵入した後に発電施設を破壊できるようになっていた。
第一、第二航空戦所属のF/A18Eはジェリコの壁の外に待機しておき、MOPによって制御装置を破壊してジェリコの壁が崩れた後に内部に侵入、砲台を直接破壊する計画だ。
また地上部隊も王都周辺を取り囲み、ジェリコの壁破壊と同時に王都内へとなだれ込み、そのまま同地を占領する手筈となっている。
だがこれには王都の住民が邪魔になる可能性が極めて高く、占領には時間がかかるとされた。
また王都にて待っているはずのロキは力は落ちているとはいえ仮にも神であるため、通常兵器での撃破は困難なのではないかと推察された。
そのため秘密裏に俺とイズンは移動を開始、ロキと兵器ではなく能力で戦うことを決意した。
だがその上で俺がどれほどの働きをできるのかは未知数である。
午前1時30分、空母信濃、ミッドウェイから合計170機にも昇る攻撃隊が発艦した。
同時刻、第一、第二機動部隊の各空母からもF/A18Eが発艦する。
また戦艦部隊は陽動的な意味での艦砲射撃を実施するためにセクター軍港付近の海域に集結した。
ワスプを旗艦とした強襲上陸部隊も配備され、敵の最後の軍事拠点であるセクター軍港への強襲上陸も計画されている。
戦艦部隊の艦砲射撃で敵兵を一掃した後に突入する予定だ。
さらにノルン島からは駐在しているB-29及びP-38が出撃する。
これらに機体にはどうしても王都住民の抵抗が激しかった際に空から蹂躙するという目的で無誘導爆弾、ロケット弾が搭載されている。
またリリスとイヴも出撃、爆撃機隊の護衛のために出撃した。
これら攻撃隊よりも先に、ブルネイ泊地を出撃したB-52H及びB-36J部隊はホーヘンシュタット上空で最後の転進をし、王都へと進路を取った。
最後に俺とイズンはオスプレイにて王都郊外の山間部へと移動、同地にあった廃屋を仮の指揮所として攻撃の動向を見守ることにした。
王都攻略『トーチ作戦』の火蓋は響く戦艦の砲撃音で始まった。
◇
「攻撃予定時刻になりました。山下大佐、号令をお願いします」
「うむ……」
大和の艦橋で山下大佐は懐中時計で時刻を確認する。
既に艦隊はセクター軍港を射程内に収めており、いつでも攻撃が可能であった。
山下大佐はすうと息を吸い、言った。
「全艦、攻撃開始!」
「了解! 目標セクター軍港、攻撃始め!」
深夜の海原に、戦艦の砲撃音が激しく響き渡る。
主砲発射の衝撃波で海面は少し凹み、闇に沈んでいた海は発砲炎で明るく照らされる。
発射された砲弾は空気を切り裂いてセクター軍港向けて飛翔する。
ドォォン!
セクター軍港上空に到達したマ号弾は空中で炸裂、激しい熱と爆風を放った。
だが軍港内の艦艇は既に全て擱座しており、またそれは山下大佐も承知していた。
ただ自沈した艦艇とはいえ砲台が動いては上陸部隊の脅威となりえるので破壊する、という選択であった。
マ号弾の炸裂時の炎によって燃え盛るセクター軍港の上空を烈風、天山航空隊は飛行する。
燃え盛る炎が機体の主翼に反射し、空中に機影を映し出す。
だがどれほど機影が見えようと、追撃してくる敵機はいない。
『セクター軍港の破壊を確認した。そのまま王都へと向かう』
『報告感謝する。では強襲上陸部隊に上陸命令をだそう』
『上陸命令の件、了解した。エアクッション型揚陸艇に乗り換えて出撃する』
セクター軍港壊滅の報告を聞いたワスプの特戦隊員は、チハを乗せたエアクッション型揚陸艇に乗り込んで発進の機会を伺う。
これらの部隊はノルン島上陸部隊を転用した部隊だ。
ワスプを発進したエアクッション型揚陸艇は、そのまま海岸に乗り上げて同地を占領した。
◇
セクター軍港の上空を飛び越えて王都上空に侵入した烈風・天山航空隊は、かつてMOPが開けた穴への侵入のため低空で飛行する。
その時、ジェリコの壁の穴を通って内側から出てくるものがあった。
それは王都に多量に配備されていたIS-1A、および在庫が残っていたガーゴイルであった。
『迎撃隊だ! 相手さんも同じく穴から出てくるとはな!』
『だが壁内に敵機がいなくなるのは好都合。ここは我々が相手している間に中に突入しろ!』
『了解! 背後の守りは頼んだぞ!』
IS-1Aと接敵した烈風隊の各機は増槽を投棄、左右に主翼を揺らした後戦闘態勢に入った。
烈風隊がやってくるのに合わせてIS-1A隊も上昇、烈風隊と交戦状態に入った。
その隙に天山隊は一直線に並び、穴の中へと侵入していく。
『あっぶねぇ! こんな危険な穴くぐりなど二度としたくないな!』
『翼を擦っただけでも終わりだぞ! 後続の機体は気をつけろ!』
『十三番機突入成功! 発電施設の破壊に向かいます!』
ジェリコの壁内部に侵入した天山隊は、ほぼ透明の壁面に衝突しないように細心の注意をはらいながら各々の攻撃目標に向かって飛行する。
一部の天山はレーザー目標指示装置を起動し、破壊するべき制御装置の捜索に乗り出す。
また他の天山は爆弾槽を開き、抱えた1000ポンドGBU-32誘導爆弾を露出させる。
『投下! 投下! 投下!』
砲台中心に展開した発電装置がまず狙われ、天山に搭載されたGBU-32が投下される。
目標に対して正確に誘導された誘導爆弾は、次々と発電装置を破壊した。
また壁内を飛行して制御装置を発見した天山は目標に対しレーザーを照射、上空のB-52Hにその情報は転送される。
『データが来たぞ! MOP投下! 投下!』
『了解! 投下! 投下!』
B-52Hは爆弾倉を開き、そこからMOPを投下する。
レーザー目標指示装置で完璧に誘導されたMOPは、壁を見事に貫通、目標の制御装置を破壊した。
弾着を確認したことを、レーザーを照射していた天山は確認した。
『やったぞ! 破壊だ!』
『まずは1基目! 残りも片付けるぞ!』
『僚機がデータを受信、投下しました!』
再び放たれたMOPはまたもやジェリコの壁を貫通、2基目の制御装置を破壊した。
2基目の破壊を確認したことで機内はまたもや歓声の渦に包まれる。
そして最後の制御装置の位置が発覚、その情報に従いMOPが投下された。
ヒュルルルル……ドォォン!!
ついに最後の制御装置が破壊された。
最後の制御装置の破壊と同時に王都を包んでいたジェリコの壁が中心部から崩壊していく。
そしてついに壁はなくなった。
『おぉ……壁が消えた!』
『ヒャッホーイ! お前ら、突入するぞ!』
ジェリコの壁が崩れたことを確認したF/A18Eの各機は、砲台に機首を向け、そして搭載していたSLAM-ER(ハープーン)を一斉発射した。
放たれたハープーンは、勝利への喜びをのせた白煙を引きながらイカロス砲台にむけて飛翔する。
◇
「なんだ、敵航空機が侵入してきている?」
イカロス砲台地下の制御室で砲台の再起動を待っていたロキは、突如侵入してきた天山隊を感知した。
まだ砲台の再起動が終わっていないため、ロキは面倒くさいときに……と舌打ちした。
だが砲台自体かなりの強度を持っている上、ジェリコの壁もあるのでそこまでの効果的な攻撃は不可能だと判断した。
『Alert Alert』
突如制御室のコンピューターが危機を伝えるアラートを発する。
ロキは何事かと思ってパネルを見ると、発電装置が1基破壊されたという表示が出ていた。
そしてその表示は徐々に増え続け、ついには半数の発電装置が破壊された。
「発電装置を狙われたか……あれが破壊されてしまっては再起動までに必要な電力が稼げないな」
画面には再起動まで残り1%、充電完了までの予想時間15分と表示されていた。
するとその時、今度は制御装置が破壊されたというアラートが表示された。
制御装置が3基とも破壊されればジェリコの壁の維持は不可能となり、再起動までの時間が稼げなくなってしまう。
「どうするべきか……私の力を使うか、いや……」
ロキは葛藤していた。
彼自身の力はまだ復活しておらず、また彼がもし力を使えば、イズンがそれを知覚して制圧しにかかってくるであろうと思っていた。
この時彼自身はまだイズンは感づいてはいないと思っていたが、実際は既にバレている。
ロキはどうしようかと思い、操作盤のアクリルで覆われたボタンとコードを見つめる。
それは非常用電源のコードであり、そのコードに繋いだ物、人から強制的に魔力を奪って電気に変換し充電を行うというものだ。
すぐに彼は決心し、アクリルを手で叩いて破壊した。
ロキはコードを引っ張って自身の右腕に括りつけ、そして左手でボタンを勢いよく押した。
ボタンが押されると同時に警報音が作動して赤色灯が点灯し、彼の体から魔力が流出した。
それと同時に再起動に必要な電力が確保され、イカロス砲台は再び動き出した。
「よし、照準完了。発射!」
砲台が旋回を完了すると同時に、ロキは発射ボタンを押す。
その瞬間、砲身が大きく後退すると同時に砲弾が発射された。
直後、F/A18E隊の放ったハープーンがイカロス砲台に着弾する。
「砲弾は放たれた! これであの島も終わりだな」
ハープーンによって破壊された砲台の砲身が市街地へと崩れ落ちる中、ロキは静かに笑った。
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