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第220話 敵地脱出大作戦

 生存者発見の報が入り、ノルン島では大急ぎで救助に向けた準備が行われていた。

あらかじめに立案しておいた救助作戦を元に、各機が救助に向けて最終の離陸準備などを行っていた。

救助作戦の概要は以下の通りだ。


・B-29は1機補充し、合計60機を15機単位に分けて4つの部隊を編成。それらでミトフェーラの4つの工場地帯へ夜間に同時に爆撃を敢行、敵の注意を引く。その際には高度は上昇限界の12000mから爆撃を敢行、コンバットボックスは組まずに容易に噴進弾の回避が行えるようにする。また爆弾投下後は敵の都市部の上空を飛行、敵の部隊を爆撃機に集中させて救助部隊には目がいかないようにする。


・爆撃隊が敵の目をひいいている間に、改造を施したC-130が目標の村の上空を飛行、便乗している20人の完全武装の兵士が空挺降下して周囲の安全を確保、無事にターゲットを保護する。その後上空を旋回していたC-130は近くの未舗装の道路に、増設されたJATO、ロケット推進装置を逆噴射して短距離で着陸、兵士とターゲットを確保した後にJATOを後ろと下に噴射、短距離で離陸する。――というものだ。


 決行は本日の朝2時、全員が深く寝静まった時間だ。

作戦決行までにあまり時間はなく、支度が整ったB-29から順々に離陸が行われる。

今回護衛のP-38はつかず、爆撃機単独での出撃となった。


 俺は管制塔から、夜間発進するB-29の隊列を眺める。

滑走路はサーチライトで照らされ、その光の上を滑るようにしてB-29は離陸していった。

俺は離陸していく機体に手を振りながら見送る。


 最後には改造され、真っ黒に塗装されたC-130と護衛のXDWP-02が離陸、C-130はXDWP-02に先導されて村を目指した。

ここに救助作戦の火蓋が切って落とされた。





「敵の爆撃機編隊だって! 将軍、敵の爆撃機体を捉えたと報告が!」


「こんな夜中に!? こちらに向かっているのか?」


「いえ、どうやらここに向かっているのではなく工場地帯へと向かっているようです」


「まずいぞ、そっちには対空砲が少量しか配備されていない……」


 魔王国王都の総司令部。

敵爆撃機の夜間来襲を聞いた総司令部勤務の貴族たちは、眠い目をこすりながら情報を集めに走り回る。

先程の爆撃機の捕捉情報以外にもさらに3箇所からの爆撃機の侵入も確認され、司令部内は大混乱に陥った。


「迎撃機を上げろ! 届かなくてもいいから取り敢えず上げるんだ!」


「分かりました! 迎撃機隊に発進を要請します!」


「にしてもこのタイミングで4箇所に同時攻撃……何か意味があるのか?」


 司令部内で地図を見下ろしている貴族は、突然の本土内奥への爆撃機隊の侵入に違和感を感じる。

そもそもこんな時間での爆撃も初めてなので、それもまた彼らの違和感に拍車をかけた。

その事を別の貴族に報告すると、他の貴族たちも同じく違和感を感じた。


「これは……何かの前フリのような気がするな」


 1人の貴族が思いついたように言う。

その意見に他の貴族たちも同調した。

だが一体何の前フリなのかは分からず、彼らは考えを巡らせる。


「近々大規模な侵攻作戦が予定されているとか……?」


「それはあり得る。現在進行系で領土内には進行しているがまだ進行速度は遅いらしい。ここから一気に攻勢をかけてくる前フリなのかもしれん」


「それならば急いで防衛線を完成させねばならんな」


「だがわざわざ侵攻作戦のためにこんな前フリをするか? 私にはこれは何か大々的なものではなく、何か秘密裏に事を行うために視線を移すためのカモフラージュのように思われる」


 そう言って彼は手に持っていたペンをマジックの要領で手から消した。

それを見ていた他の貴族たちは、突然ペンが消えたことに驚く。

ペンを消した貴族は再びペンを取り出し、彼らに説明する。


「これは簡単なマジックだが、視線というのは簡単に誘導できるものだ。現に君たちも私の視線誘導によってこのペンを隠した事実に気づいていない。それと同じで敵は私達の視線を空に釘付けにして地上でなにか起こそうとしているに違いない」


 その話を聞いた貴族たちは、実際に自分の視線が誘導されたこともありその説こそが正しいと信じた。

また追加の報告により、爆撃機隊が向かっているのが南部の工場に固まっているということも判明し、ますます視線を釘付けさせようとしているのだと信じた。


「敵がカモフラージュを仕掛けるのは、我が国の領土内で何かを北で回収しようとしているのだろう。回収しようとするような敵のものといえば――」


「この前落ちた敵爆撃機の生存者か機体の残骸か!」


「あの高度から落ちたんだ、それに敵爆撃機は巨大だから回収しに来たという線は低いだろう。やったとしても破壊だけだ。ならば生存者という線が一番濃厚であろう」


「となると我々のするべきことは――」


「あの爆撃機の落ちた周囲に森、もしくは村に敵が潜んでいる可能性が高い。それを近くの部隊を動員して敵よりも早く確保に動くぞ!」


 その一言で、墜落地点周辺の兵たちには敵生存者の捕獲の命令が下された。

兵舎で寝ていた兵士たちも全員叩き起こされ、マスケット銃を持って軍服を着て捜索のために走り出す。

ウィルソンたちのいる村もまた捜索の対象となっていた。





「あと少しで迎えの輸送機が来るぞ」


「この村ともお別れか。短かったが何だか名残惜しいな」


 ウィルソンとティベッツは、C-130の着陸予定の未舗装の道路で到着を待っていた。

テイラーは無理をしないようにと近くの小屋の中で待機している。

ウィルソンとティベッツは万が一のためにもらったマスケット銃を、テイラーはコルトM1911を護身用に持っていた。


「あら皆さん、こんなところで何を?」


 声をかけられたことにどきりとし、ウィルソンは後ろを振り向く。

するとクラウディアが月光を浴びながらそこに佇んでいた。

ウィルソンはぎこちない笑顔を浮かべ、彼女に語りかける。


「こんばんはクラウディアさん。少し夜風に当たりたくてですね」


「銃を持って?」


「……」


 テイラーとティベッツは銃を持ちながらうつむく。

何だか空気が悪くなったことに気がついたクラウディアは、なんとか話をつなげようと試みた。

彼女は月をみて、思いついたように言う。


「何だかこんなきれいな月の夜には皆さんがここを離れてしまうそうで寂しくなります」


「……」


「あら……もしかして当たっていました?」


 まさか当たるとは思っていなかったクラウディアは、さらに空気を悪化させたことを気まずく思った。

せっかく村に新しい人がやってきたと思ったのに、急に出ていくことになり彼女は悲しむ。

だが彼女もなにか湧き上がるものがあることを押し殺して、最後には笑って送ろうとした。


「私の一生の中ではとても短かったですが、皆さんと暮らした時間は楽しかったです。またいつでも帰ってきてくださいね」


「えぇ……戦争が終わったときに」


 ウィリアムはそう言ってテイラーの様子を見に行こうとする。

その時、森の中から松明を持ったミトフェーラの兵士が現れた。

彼らはウィリアムたちを見つけるなり、銃を構えて走ってくる。


「まずい、クラウディアはあの小屋の中に逃げろ! 中ではテイラーが中を持って待機している。足を悪くしているとはいえあいつもなかなか射撃が上手なはずだ!」


 ティベッツはクラウディアを説得し、小屋へと走らせる。

残った2人は物陰に一旦姿を隠し、敵兵を迎え撃たんとするのであった。


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