「ハァ……ハァ……なんとか脱出に成功した……」
地面に横たわり、空を見上げる撃墜されたB-29の乗組員。
彼、テイラーは運良く機体から脱出することができ、パラシュートで落下した。
そのパラシュートは木に引っかかり、ロープを切って彼は地に降り立ち、そのまま寝転がった。
テイラーは着地時に足をくじき、その痛みで暫く歩くことができなかった。
だが残っているロープとそこら辺に落ちていた木で足を固定し、またまた落ちていた太い枝を杖代わりにして立ち上がった。
彼は仲間に合流するため、墜落したB-29の残骸があるであろう方角へと歩きはじめた。
「開いたパラシュートは3つ。残りは……」
テイラーは顔色を曇らせながら機体の方へと歩いていく。
しばらく歩いていくと、森の中に墜落したB-29の残骸が見えてきた。
機体はもはや原型がわからないほど破壊されており、随所から白煙を上げていた。
「とりあえずは生存者の確認……それと機密機器の破壊か」
テイラーは杖を頼りに機内へと潜り込み、機密機器を破壊しようと試みる。
その過程で仲間の遺体を探すが、ついぞその遺体が出てくることはなかった。
召喚されたものは死んだ後、跡形もなく消え去ってしまっていたのであった。
「誰の遺体もない。遺品もない。これほど悲しいことがあるだろうか……」
テイラーは機密機器をあらかた破壊すると、B-29の残骸の上に座り込んだ。
中から回収したパンを齧りながら、今後どうするべきかを考える。
彼はまた、機内から回収した無線機を使っての通信を試みたが、残念ながら無線機は壊れており仕様は不可能であった。
彼は遺品代わりに機体の残骸の一部をポケットにしまい込む。
彼は心の奥底から湧き上がってくる寂しさ、そして自分が生き残ったことへの後悔に苛まれた。
手で顔を覆い、必死に涙をこらえていると、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「おーい!」
「? 何だか人声が……」
「おーいテイラー、生きていたのか!」
「! その声はウィルソン、それにティベッツもいるじゃないか!」
テイラーは木の枝を支えにして立ち上がり、合流した2人のクルーと抱きしめあった。
2人はテイラーとは別の場所にパラシュートで着陸してきており、合流できる可能性にかけて残骸の方にやってきたのであった。
テイラーは感動のあまりにこらえていた涙を流した。
ウィルソンはテイラー抱きしめあった後、手に持っていた花束をB-29の残骸においた。
テイラーは目からあふれる涙を拭い、ぴしっとまっすぐに立つ。
彼らは散っていった仲間に対して敬礼を行う。
「さて、ここからどうしようか」
「ここは墜落地点だ、きっといずれ敵が調査に来るだろう。それまでになんとか脱出しよう」
「そうは言ったって、ここは敵国の中だぞ? どこに行くんだ」
「わからない。でも動かないことには始まらないだろう」
ウィルソンはそう言い、先立って歩き始めた。
残された2人もウィルソンに続いて森の中を歩いていく。
そういえばと、テイラーはポケットから拳銃を取り出した。
「テイラー、それは?」
「見た通り拳銃さ。こういう事があるかもって冗談半分に司令に言ったときに下賜されたものだ。まさか本当にそうなるとは思っていなかったがな」
「お前は足を怪我して杖をついている。その状態で拳銃を撃つのは無理じゃないか?」
「だからティベッツ、お前に渡そうと思ったんだ。たしか陸軍の射撃テストで優秀な成績を取っていただろう?」
テイラーはティベッツに、持っていたコルトM1911を手渡す。
ティベッツはそれを受け取った後残弾数を確認し、同時に渡されたホルダーに拳銃を直した。
ウィルソンには壊れた無線機を手渡し、3人は森を歩く。
◇
歩き続けること8時間、日は暮れようとしていた。
彼らはどうにかして森を脱出しようとしていた。
そんな彼らの前に突如開けた場所が見えてくる。
「なんだ、急に開けた場所に出たな」
「どうやら森を脱出したようだ」
「それは良かった。ってあれ、まさか村じゃないか!?」
ウィルソンは前方に小さく見える光を指さして言う。
テイラーはその光を見て喜び、ティベッツは嫌な顔をした。
彼は人と関わると捕虜になるのではないかと疑っていたのだ。
「村か……あまり関わりたくはないが」
「だがテイラーの状態が想像以上に悪い。すぐに手当をしたほうが良いだろう」
「俺たち疲れも空腹も感じないのに、なぜか痛みは感じるんだよな」
「そりゃあ召喚された身とはいえ元は人間。いや、この痛みこそが俺たちを人間たらしめる残った唯一の証拠かもな」
彼らはそんな事を言いながら、結局村を訪問することにした。
村を囲う杭の壁を見た時彼らは一瞬入ることを戸惑ったが、決心して村の中に足を踏み入れる。
だが村の中には誰もおらず、仕方なくウィルソンが光のついている家をノックした。
「はい、どちらさま?」
家の中からは若い女性の声が聞こえ、その女性はパタパタと扉に近づいてきてそれを開けた。
彼女は外に立つボロボロの3人を見て驚いた。
だが彼女はテイラーの足を見てすぐに治療が必要だと判断し、3人を家へと招き入れた。
「そこのお方、まずはベッドに横になっておいてください。立っているだけで足が辛いでしょう」
「良いのですか、すみません。では横にならせていただきます」
「貴方たちは……大丈夫そうですがその格好、もしかして森を抜けてきたのでは? さぞ疲れたでしょう、そこに座っていてください。すぐに紅茶を沸かしますので」
「いえいえ奥さん、お構いなく……」
ウィルソンとティベッツの2人は断るが、家主の女性によって無理やり座らされた。
その後彼女はテキパキと紅茶を入れ、彼らに差し出した。
だが毒や薬が入っていてはと彼らは訝しんで口をつけなかった。
「あ、毒や薬が入っているとお思いですか? それならば大丈夫ですよ」
そう言って彼女はティースプーンで2杯から少しずつ紅茶をすくい、口に含んだ。
それを見たウィルソンとティベッツは安心して紅茶に口をつけた。
それは砂糖も何も入っていない、ストレートティーであった。
「すみませんね。前まではお砂糖を入れていたのですが……最近の戦争のせいで手に入らなくなってしまっていて」
「いえいえ、お構いなく」
「そういえば皆さんはどこからおいでに……というのは野暮な質問でしょうか。皆様の種族を見るに……いえ、やめておきましょう」
「……」
2人は何とも言えない表情をした。
その空気感を壊そうと、家主は何かアテがないかと調理場に探しに行った。
だが何も見つからず、彼女は肩を落として帰ってき、その様子を見た2人は少し笑った。
「私、クラウディアと言います。皆さんは?」
「私はウィルソン、隣はティベッツ。あそこで寝ているのがテイラーです」
「よろしく」
「はい。ウィルソンさん、ティベッツさん、そしてテイラーさん。よろしくお願いしますね」
その後、怪我をしていない2人は使われていない家畜小屋を提供された。
だが彼らが疲れることはないので、眠ることはなく今後どうするかを模索していた。
ウィルソンは話しがてら受け取った無線機をそこら辺に落ちてた金属片でこじ開け、中身を修理していた。
ゴォォォォ――
「何だ、今なにか聞こえなかったか?」
「ジェット音に聞こえたが……まさかもう味方が?」
「それはないだろう。現にまだ無線機は治っていないのだろう?」
「あぁ。残念ながらな」
彼らはそんな事を言いながら、一晩中今後どうするのかを思案するのであった。