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第189話 学生の奮闘

 クリスマスも明け、俺たちは新しい年を迎えた。

宮殿の入り口には鉄パイプを切って作った門松が申し訳程度に飾られている。

鏡の間では長机がずらりと並べられ、参加者たちは席について待機していた。


 全員がそわそわしながら待っていると、扉が開いてワゴンが次々と現れた。

ワゴンの上に載っているのはそう、重箱に盛り付けられたおせちだ。

メイドたちはワゴンに置かれた重箱を一人一人の前に置いた。


 このおせちは大晦日の朝から大和や武蔵などの艦内の調理員が必死に作ってくれたものだ。

鏡の間は狭いので全員を収容することは出来ず、入れていない兵士たちは皆それぞれの基地や艦内で俺たちと同じおせちを用意されている。

さて、配膳も終わったことだ、食べようじゃないか。


「あけましておめでとう。長い話もなんだからな、では早速……乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 俺たちは机の上に置いてある食前酒を手に取り、杯を交わした。

ちびっと口に流し込んだ後、俺は置いてある箸を手に取る。

だが箸を使えない人もいるため、そういう人にはスプーンとフォーク、そしてナイフが支給されていた。


 このおせちは日本の物とは少しだけ中身が違う。

この世界では伊勢エビなどは存在しないため、その部分は別の食材で補っている。

特に一段目に入っている様々な魔物肉のステーキは絶品だろう。


 だがせめて海産物を1種だけは入れたいということで、わざわざ駆逐艦を動員して釣りを行ったので、おせちの二段目には立派な赤魚の塩焼きが入っていた。

乗員たちにもいいリフレッシュになったようで、今後も釣り大会は定期的に開くつもりだ。


 おせちを食べ終わった後、俺たちは大聖堂に行き祈りを捧げ、夜には劇場で音楽鑑賞もした。

街中の人は正月のお祝いで夜まで騒ぎ倒し、この騒ぎは三日三晩続いた。

祭が終わると島は何もなかったかのようにいつも通りの生活に戻った。





 月日が経って同年5月も前半。

俺は第一帝国大学の陸軍科、海軍科、空軍科の演習を見学しに来ていた。

彼らは教員やその他指導員らによって現代式の訓練を受けていた。


 陸軍科には旧時代の物ではあるが教官であるロンメル大将の使い慣れたⅡ号戦車、Ⅳ号戦車、Ⅵ号戦車などの戦車やナースホルン自走砲、アハトアハト、小火器ではMP44などのドイツ兵器が採用されている。

海軍科は前と同じくビスマルクとプリンツオイゲンが使用されている。


 空軍科には練習機として九三式練習用戦闘機、零式練習用戦闘機、機上作業練習機の白菊が運用されている。

だがより実践的な訓練を行うため、Bf109とJu87Cもルーデル大将の要請により配備されていた。

だがまだ基礎訓練を行っているので、空を飛んでいるのは練習機ばかりだ。


「まだ練習が始まって5ヶ月だろう? それなのにもうあそこまで飛べるなんて驚きだな」


 俺は隣に立っているグデーリアンに話しかける。

彼はなかなかよく教えていると生徒から評判の様だ。

そのことをさっき本人に伝えると、彼は少しうれしそうに笑っていた。


「あのルーデルが教えているんです。ルフトヴァッフェもそのうち追い抜かされるかもしれませんね」


 グデーリアンはそう言って笑った。

まぁ流石に彼らが栄光のルフトヴァッフェを超えるのはかなり厳しい気がするが……

そんなことを言っていると、空に特徴的なサイレン音が響いた。


「! あれは37mm砲搭載型のJu87G-1、ルーデルか!」


 グデーリアンは空を見上げて言う。

俺も空を見ると、そこには急降下してくるスツーカの姿があった。

それが降下していく先には、演習を行っているティーガーたち機甲部隊の姿があった。


 ティーガーたちは慌てふためいてあっちこっちへと逃げ惑う。

その様子を面白がったルーデルは、笑いながら操縦桿を引き戻した。

飛んでいくルーデル機を見て地上の兵士は安堵する。


「流石はルーデル、空の魔王の異名は伊達じゃないな」


「当たり前ですよ。彼一人でどれだけ敵が被害を被ったと思っているんですか」


「戦車 519輌、装甲車・トラック 800台以上、火砲 150門以上、装甲列車 4両、戦艦 1隻、嚮導駆逐艦 1隻、駆逐艦 1隻、上陸用舟艇 70隻以上、航空機 9機……だな?」


「そうです。でなければ空の魔王などと呼ばれていませんよ」


 改めて考えるとすごい戦果だな。

だがそれと同時に被撃墜の数も相当のものだが。

あんな彼にA-10を渡したらどうなることやら……


「そういえば司令、ルーデルがA-10を貸してほしいと言っていましたよ」


「やっぱりか!」


「やっぱりって何ですか、知っていたのですか?」


「いや、そんな気がしただけだ。彼には考えておくと伝えておいてくれ」


 ルーデルにA-10を渡すと所かまわず暴れだす気がするな……

A-1スカイレーダーでは我慢してもらえないであろうか?

とりあえず一旦置いておこう。


 陸軍科は陸軍科で、戦車や歩兵を入り交えた戦闘の練習を行っていた。

練習場には着弾する砲弾により砂煙が立ち上り、その中を歩兵が突撃する。

この音がうるさいと民間科の一部の生徒たちが反発しているようだが、仕方がないがな。


 今の計画では、この学校の卒業者を下に新設軍をゼーブリックとヴェルデンブラントに設立するつもりだ。

ここで学んだ生徒は皆教員として本国で新兵の訓練にあたってもらうことになる。

そのためいくらかの兵器の提供は行うつもりだ。


 一方のルクスタント王国軍はどうするか不明だが、要請されればティーガーなどは輸出するつもりである。

ミトフェーラと戦争になった際でもある程度の戦果はあげられるはずだ。

まぁこの平和な時間が後どれだけ続くかは分からないが。


 一方の海軍科はというと、初の長距離航海練習に出ようとしていた。

これは各国の港湾都市を巡りながら大陸を一周するというものである。

各乗組員は最後の一週間の休暇を終え、艦に乗り込み始めた。


 今海軍科専用の湾にはビスマルク、プリンツ・オイゲンに加えて空母ミッドウェイが停泊していた。

結局新規で召喚されたミッドウェイは最新鋭の艦上機を搭載し、その搭載機数は115機に上った。

ミッドウェイはブルネイ泊地への回航のついでにしばらく練習艦隊に随伴して航行することになっていた。


 艦隊は錨を上げ、煙突から煙を吐きながら出港する。

艦隊は出港した後針路を北に取り、その後北西へと転進してブルネイ泊地を目指した。

このまま様々な国を艦隊は数ヶ月をかけて回ることになるのであった。


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