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第187話 サンタより、愛を込めて

 赤城は続々と新たな移民を島へと運んでき、島の中は一気に活気に包まれてきた。

今までも少数は生活していたが、町の中央通りで盛んに市が行われる程ではなかった。

そんな今日このごろ、陸軍、空軍内では共同である計画が練られていた。


 その計画の名は『クリスマス作戦』、つまり地球ではもうすぐにやってくるクリスマスを俺たちで盛大に、勝手に祝おうという計画だ。

陸軍と空軍が協力して空から大量のプレゼントをばら撒くのが今回の目標だ。

その一環で、空軍に機体にはあるユニークな塗装が施されていた。


 そのユニークな塗装の名は『トナカイ塗装』。

その名の通りサンタのソリを曳くトナカイをイメージたカラーリングであった。

中でもこの作戦のためだけに新たに召喚された輸送機の中で最大のものであるC-5ギャラクシーの機首部は、他の機とは異なり真っ赤に塗られていた。


「おーいトマス、もうプレゼントの準備は済んでいるか?」


「はい、司令。もうバッチリですよ」


 トマスは工廠の一角に山積みにされたプレゼントの山を指差した。

あの箱一つ一つに工廠員が手作業で作り上げたおもちゃが入っている。

彼らは自分の作らなければならない兵器で手一杯なのだが、なんとかスキマ時間を縫って作ってくれたそうだ。


「にしてもクリスマスを知らない彼らにとって、急に空からプレゼントが降ってきたら驚くでしょうね」


「この世界の宗教はキリスト教ではないから当たり前だがな。まぁ俺たちの自己満足でやっている側面もあるしな」


「それもそうですね。楽しければ問題ないでしょう」


 トマスはそう言ってプレゼントの山を見る。

今日は12月の24日、クリスマスイブだ。

『クリスマス作戦』は今夜に発動される予定だ。


「このまま何もなければ良いんですけどね。夜にはローストチキンを食べ、ビールを飲み……」


「おい、やめてくれよ。フラグが立つじゃないか」


「聖夜ですよ? 流石にそんな事ありませんって」


 トマスはそう言いながら笑い飛ばす。

こんなの典型的なフラグじゃないか、やめてくれよ全く……

と思った矢先、バタバタと走ってくる音が聞こえた。


「司令、ここにおられましたか!」


「どうしたそんなに慌てて、なにか問題でもあったのか?」


「はい、大問題です! 先ほどヴェルデンブラント王国において武装蜂起が発生、ヴォイドリアと名乗る武装勢力はヴェルデンブラント、ゼーブリック及びイレーネ帝国に対して宣戦を布告しました!」


 その報告を聞いて俺はため息を付く。

だから言ったんだよ、フラグは立てちゃダメだって。

にしても武装蜂起って、また鎮圧が面倒くさそうな事をしてくれるな。


「ヴェルデンブラントの兵士だけでは何とかならんのか?」


「どうやら敵はヴェルデンブラントの秘密兵器が彼らの敗戦により放置されていたものを取得しているようで、ほとんど存在していないに等しいヴェルデンブラントの守備隊だけでは防ぎきれないとのことです」


「……致し方がない、出撃準備を」


「わかりました。すぐに通達します」


 はぁ……武装蜂起って一体どこの誰だよ。

俺はせっかくのクリスマスムードを台無しにされてちょっとがっかりしていた。

先程まではのんびりしていた基地内も急に慌ただしく動き始める。


「まずは現地の偵察だ。その後に爆撃隊が行き……そうだ、良いことを考えた」


 俺はこのクリスマスに相応しい討伐方法を思いついた。

俺は急いで部隊をかき集めるために動き始める。

さぁヴォイドリアとやら、いざ勝負だ。





 数時間後、空軍基地に俺と陸軍兵士合計200名が集合した。

彼らは俺の命令でかつてのイギリス軍のような真っ赤な軍服に身を包んでいる。

これは儀式用の軍服として最近制定されたものだ。


「えー、皆聞いたとは思うがヴェルデンブラントの領土内で武装蜂起がおきた。ヴェルデンブラントからの救援要請を下に我々が動くこととなった」


 集まった兵士たちは真剣な顔で聞く。

俺はそんな彼らに向かって喋りながら、後ろにおいてある機体を指さした。

それはこの空気とは似ても似つかないトナカイ柄の輸送機だった。


「俺たちはこれらか輸送機に便乗して敵の本拠地へと向かう。目的地の上空に付いたら簡単だ。やることはたった一つ、敵兵を殲滅することだ。残念ながらこの世界にクリスマス休戦は存在しない。よって我々は全力を尽くして戦う必要がある!」


 俺は拳を掲げながら言う。

兵士たちはそんな俺の言葉に拍手を送ってくれた。

少しテレつつも、俺は写真を引っ張り出してくる。


「これが先行した偵察機、ドラゴン・レディが撮影してきた写真だ。ここに見えると思うが城壁のようなものが張り巡らされ、兵士や対空砲も確認できた。そこで先にB-52Hにより先行で攻撃を行ってもらい、その後に俺たちが突入する、いいな?」


 兵士たちは親指を立ててそれに応えた。

さてと、ここまでまとまったことだし早速戦闘に向かおうか。

そして俺がトナカイ塗装のC-5ギャラクシーに乗り込もうとしたときであった。


「あなた、ちょっと待ちなさい」


 イズンがどこからともなくやってきて言う。

俺は振り返ってイズンの方を向いた。

俺に追いついたイズンは、俺に向かってこう言った。


「なに、空挺投下で敵地に潜入するそうね」


「な、なぜ知っているんだ?」


「私はなんでもおも通しよ、お・見・通・し」


 イズンは手を丸型にして目に当てる。

にしても流石に創造神であるイズンには叶わないな……

で、それが何のようであろうか。


「確かに空挺投下するが、それがどうしたんだ?」


「ならば私も連れていきなさい」


「いや、だがしかし……」


「いやもどうもこうもないわ。さぁ、行くわよ」


 イズンに背中を押され、俺は無理やり機内に入れられた。

なぜか知らないがイズンも付いてくることになったが……まぁ良いか。

トナカイ柄のC-5はその他輸送機のC-130を引き連れ、基地を飛び立った。





 一方その頃ゼーブリック王国近辺の飛行場に滞在する機体全機が離陸した。

目標は砦の周りに侵攻を始めているヴォイドリアの部隊だ。

空中に上がった彼らは機銃の試射を行い、その後ヴォイドリアの根拠地まで飛行していく。


 砦にたどり着いた基地航空隊の各機は個別に攻撃を開始した。

AU-1は地上で逃げ惑う兵たちに機銃やロケット弾を浴びせかけて制圧する。

一方で高空にいるDo-217はフリッツXでもHs293でもなく、通常の爆弾を撒き散らしていた。


 森にばらまかれた爆弾は森に火災を発生させる。

そしてそのまま兵装が尽きた彼らは基地へと帰投していくのであった。

そんな時、森の中でなにか大きな者が蠢いていたことに彼らは気がついていない。


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