12月13日 朝10時、イレーネ島帝国宮殿にて。
宮殿の中にある鏡の間に、帝国の関係者全員が集合していた。
鏡の間の中は綺羅びやかな装飾で彩られ、参加者も皆美しい服に包まれて立っていた。
参加しているのは以下の人物だ。
・ルフレイ=フォン=チェスター【イレーネ帝国皇帝】
・エルヴィン=ロンメル【陸軍大臣・教員】
・ウィリアム=ハルゼー【海軍大臣・教員】
・ハンス=ウルリッヒ=ルーデル【空軍大臣・教員】
・ウィンストン=チャーチル【内務大臣・教員】
・ハインツ=グデーリアン【帝国軍参謀総長・教員】
・山下大佐【戦艦大和艦長】
・櫂野大佐【戦艦比叡艦長】
・阿部大佐【空母信濃艦長】
・有田2等海佐【ミサイル艇はやぶさ艦長】
・ロバート【帝国近衛隊隊長】
・トマス【技術中佐】
・オリビア=ハート【外務大臣・メイド長】
・イズン(イレーナ)【創造神・皇帝秘書官】
・エルシェリア=テオドール【聖女・教員】
・ミラ=ペトラローズ【イレーネ帝国神官・飼い猫】
・メリル=シュミット【教員】
・その他帝国陸海空軍100名、メイドなど
彼らは鏡の間の左右に立ち、来る時をじっと待つ。
そして鏡の間においてある玉座の後ろに立っていた軍楽隊がファンファーレを鳴らす。
その音と共にゆっくりと玉座を覆う赤い幕が開けられていった。
その幕が開くのを俺は玉座に座り、内側から眺める。
俺は儀式用に重たい帝冠を被り、豪華な服に身を包んでいた。
やはりこういう服装は性に合わないな……
湧き上がる拍手とともに俺は玉座から立ち上がり、段を一段降りる。
横に控えていたイズンが俺にすっと黒に帝国国章の入った黒い箱を渡してきた。
俺はそれを受け取り、前を向く。
前を向くと鏡の間の横に立っていたチャーチル卿が俺の前へ出てきた。
彼は我が国にはまだいなかった内務大臣となっていた。
彼は俺の前で一礼し、真っ直ぐ立つ。
「……イレーネ帝国皇帝である朕は、この場において我が国を象徴する憲法、『大帝国憲法』を制定する旨をここに宣言し、諸君らにこれを授与す」
俺はそう言い、内務大臣のチャーチル卿に手に持っている憲法原本の入った箱を渡した。
彼はその箱を両手で受け取り脇に抱えて一礼した。
その瞬間参列者全員から大きな拍手が巻き起こった。
この憲法はチャーチル卿を中心に編纂されたもので、この国の国民のあり方を定めたものとなった。
主権は国民と皇帝両方にあり、国民は皇帝を尊敬し、皇帝は国民を慈愛しなければならないと定められていた。
皇帝絶対専政でもなく、『君臨すれども統治せず』状態にもならないようになっている。
軍については完全に国家運営から分離しており、皇帝直属であり国民は干渉できなくなっている。
代わりに国民は皆兵役を免除されている。
まぁ集める必要もないからね。
税金は基本的には土地にかかる土地税だけしか徴収する気はない。
農作物やその他収入には税金をかけたほうが良いという意見もあったが、結果的には否決された。
というのも、軍の維持には金はかからないし、兵器やその他物資を輸出すれば金など簡単に稼げるからであった。
また議会も枢密院と庶民院の二院の開設が1年後に約束された。
平等選挙で庶民院の議員は決定され、これにより国民全員が政治に参加できるようになった。
だが皇帝が必要と判断した場合には皇帝による一時的な臨時独裁が可能になるという権利も保有していた。
この憲法の制定によりついに国民受け入れの準備が完全に整った。
その後祝賀会が開かれ、飛行隊による展示や祝砲の発射などが行われ、その後晩餐会をへて祝賀会は終了した。
我が国はゼーブリック王国に続く第二の立憲君主国家となった。
◇
イレーネ島南端、民間港。
ここにはルクスタント、ゼーブリック、ヴェルデンブラントから募集された移民希望者の第一団1万人が到着、イレーネ島の土を踏んだ。
これらの移民は全て事前に提出された戸籍をメイドたちが必死に精査し、残酷な話だが犯罪者は入国前に弾かれている。
これまた少し酷な話ではあるが、希望者全員を一度に国民として受け入れるのは不可能であった。
なにしろ島自体があまり大きくなく、さらに軍用地が三分の一以上を占めているため住宅にできる場所が少ない。
人口も100万人が限界かな、と思っている。
だがこの島に引っ越してくるにあたって、人々は最初から格安で住居を手に入れることができた。
というのも、シュペーの都市設計によって島の全区画が整備され、家も全部建て終わっていたのだ。
その出来上がった家を移民用のカタログに載せておき、それらの建物にあらかじめ決められた金額を払うことで住宅を手に入れることができた。
これらの住宅はかなりの数があったのだが、各国に移民受け入れのカタログを配布するとそれらは飛ぶように売れた。
特に中心通りに面しているアパートと、郊外の豪邸がよく売れた。
これらの住宅は我が国に莫大な収入をもたらした。
◇
「お父さん、ここが新しい国?」
「そうだよ。祖国は戦後のゴタゴタで大変なことになっていたけど、この国なら……」
赤城から子供の手を繋いで夫婦らしき人が降りてくるのを俺は遠目から見つけた。
移民してくる人がどんな顔をしてやってくるのか気になったのでこうしてみていたのだが、案外皆元気そうな顔をしていて安心した。
俺は手に持っていた双眼鏡を下ろし、手すりに手を置く。
「まさか奴さんたちも皇帝が見ているとは思っていないでしょうな」
俺の隣に立つロンメル大将が言う。
俺が今立っているのはイレーネ島要塞の南部方面司令部のバルコニーだ。
すぐ横を見ると、島の周囲に整然と敷かれた列車砲用のレールが見える。
この防衛戦の設計はシュペーだが、建設に関してはロンメル大将も参加した。
彼は過去に大西洋の壁建設にも関与したことがあるため、的確なアドバイスを行うことができた。
結果島をぐるっと一周囲む、火砲の壁が完成したのであった。
「せっかく新しい国民となったのです。彼らには戦火が降りかからないように、また降り掛かっても追い払えるぐらいにはなっておかなければいけないですね」
「そうだな。そろそろ戦争が始まるだろうし、彼らを絶対に守らねば」
俺はそう言い、バルコニーを去った。