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第184話 不意打ちにはご用心

 イレーネ島南端、民間港。

新規で帝国大学に入学する生徒が空母赤城に乗艦して到着した。

これらの生徒は新しい学びへの期待に胸を含まれている。


 四カ国戦争が終了した後、密かに進められていた帝国への国民の誘致。

その魁として、今回の大学開設が行われた。

開設に関する一期生の募集は、ルクスタント王国、ゼーブリック王国、ヴェルデンブラント王国の人間を対象に行われた。


 どうやら学びたい生徒は多くいたようで、予想以上の応募があったため試験を実施することになった。

その試験の問題は俺がこの世界の教科書をもとに作成したもので、全国で同時に試験が行われた。

各会場での受験者は人にも上ったため、会場は受験者で溢れたそうだ。


 彼らは列車に乗り、大学目指して移動を始める。





 第一帝国大学、中央大講堂。

全生徒を収容することのできるこの講堂で、まさに入学式が行われようとしていた。

生徒たちはそれぞれの科に分かれ、支給された制服を着て式の開始を待つ。


『これより、第一帝国大学の入学式を始めます。全員ご起立ください』


 講義堂内にアナウンスがなされ、生徒とその他出席者は全員立ち上がった。

俺は講堂の演壇の裏にある部屋にて待機していた。

講堂内にはファンファーレが響き、ゆっくりと扉が開く。


『イレーネ帝国皇帝ルフレイ=フォン=チェスター陛下の入場です。大きな拍手でお迎えください』


 俺は近衛兵たちに扉を開けられ、大きな拍手の下大講堂内に入る。

拍手が鳴り止むのを少し待ち、俺はイレーネ帝国の国章の付いた講壇の前に立つ。

拍手が鳴り止むと、俺は息を軽く吸い、そして話し始める。


「生徒の諸君、入学おめでとう。本日をもって君たちは正式に我が大学の学生だ。我が校はできたばかりであるが、その他学校にも負けないよう努力してくれることを願う。君たちの学生生活に幸多からんことを」


 俺はそう言ってマイクから離れた。

講堂内には再び拍手が巻き起こる。

また拍手が鳴り止むのを待ち、次は生徒代表による宣誓が行われる。


『次に、生徒代表による宣誓です。代表のカール=デ=ルクスタントさん、よろしくお願いします』


 うん? カール=デ=ルクスタント?

まさかとは思うが……

いや、この世にルクスタントの名がつく人間は限られている、そして何よりも壇上に上がってきた彼の姿を見て確信した。


「お久しぶりですね。ルフレイさん」


「おぉ、あの時のカールか! 懐かしいなぁ〜。大きくなったか?」


「初めてあったときから2年経っていますからね。もう僕も11歳ですよ」


 そうかー、もう11歳かー。

……ん、11歳だって?

なんで11歳の子どもがこんなところに、しかも生徒としているんだ?


「私、カール=デ=ルクスタントはこの学校で学べる喜びを胸に、日々勉学に勤しみつつ、時には親友と遊んだりと充実した学生生活を送れるよう努力することを誓います」


 カールは右手を上げてそう宣言する。

だが俺の頭にはなぜ11歳の子どもが大学にいるのかということをずっと考えていた。

まぁ飛び級でもしてきたのだろう……うん、そういうことにしておこうか。


 その後も色々と儀式めいた入学式を終え、生徒は各自の教室へと足を踏み入れた。

そこでこれから教えることになるであろう教師と初めて面会する。

今からは恒例の自己紹介大会でもやるのかな?


 そんなこんなで入学初日はすんなりと終わった。

生徒たちは寮に住むものは寮に、島の中心部に物件を借りて住むのであれば電車で帰宅し始めた。

こうして第一帝国大学は島への国民受け入れの第一歩として始まったのであった。





 場所はうってかわってミトフェーラ魔王国。

エーリヒたちは試行錯誤を重ねて機体を制作していたが、遂に実用に耐えうるであろう機体が完成した。

最初はほとんど木であった機体を胴体は木、翼は金属フレームに金属製の補強桁を入れ、薄い金属製外板を巻くことにした。


 この改修により機体は重量はあがったが、その分強度は増した。

翼内には彼らが苦心の上開発に成功した7.7mmリヴォルヴァーカノンが搭載された。

これは発掘品の中にあったものをコピー、改修したものである。


 エンジン自体もかなりチューニングされており、供与されたものと比べては出力はあがっている。

だが依然として高空でのエンジンの耐寒性の問題は改善されなかった。

結局機体の上昇限度は5500mが限界高度であるとされた。


「何とか安定して飛ぶようになったねぇー」


 エーリヒは飛んでいる『IS-1 Mk.Ⅱ』を眺めて言う。

他の整備員たちも空を飛んでいるその機体を見て喜んでいた。

B型の複葉機の方にも装用の改修が施され、A型とB型は既に量産段階に入っていた。


「にしてもあのリヴォルヴァーカノン、よくウチが入手できましたね。陸の将軍と取り合いになったんじゃないですか?」


「陸のお偉いさんにはねぇ、僕が開発した別の兵器を渡していたから大丈夫大丈夫」


「別の兵器? 何を渡したんですか?」


 エーリヒはちょっとまってくれと言い、部屋の隅に何かを取りに行く。

そして帰ってきた彼の手には何かが握られていた。

それは滑空式の小銃、マスケット銃であった。


「これは僕が学校に通っていた時、クラスメイトが使っていた兵器をヒントに作ったものだよぉ。でも完全再現とはいかず本物以上には遠く及ばないんだけどねぇ。陸のお偉いさんは生産性に優れるこれを受け取ったら喜んでリヴォルヴァーカノンを渡してくれたよぉ」


 エーリヒの開発したマスケット銃は、グリップの部分が内側に折れ、そこから装弾する後装式の銃であった。

だが雷管は開発されていないため、紙製の薬莢を使用している。

装弾数も1発しかないため、連射性能は高くない。


 ミトフェーラの陸軍では、このマスケット銃を短期間に大量に製造し、横一列に並べて運用する戦列歩兵的な部隊が早くも編成された。

これは従来の剣で突入する歩兵よりも画期的な部隊運用法だとミトフェーラのお偉方は評価していた。

軍服も歴史は同じ道をたどるのか派手な原色の軍服が採用された。


「陸軍も大幅に強化されたようだねぇ」


「そうですね。もはや我が国家はどの国に負けることもないでしょう」


「戦争は起こらないほうが良いけどねぇ……」


 そう言った後、エーリヒは城へと戻った。

その廊下の最中、ユグナーの部屋の前を通り過ぎようとしたときのこと。

彼は急に部屋の中へと引きずり込まれた。


「! に、兄様……何を!」


 ユグナーは無言でエーリヒの口に何かを突っ込む。

エーリヒは吐き出そうとしたが、ユグナーが口を塞いでいたため吐き出せなかった。

エーリヒは遂にそれを飲み込んだ。


『よい、これで良い。あと少しだ……』


 ユグナーは倒れるエーリヒの顔を覗きながら微笑んだ。

その後エーリヒは部屋の外に放置され、しばらくそこで倒れたままでいた。

だが彼は急にすっくと起き上がり、虚ろな目で自分の部屋へと戻っていった。


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