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第181話 大根役者イズン

 教皇ヨーゼフ3世から神官に任命されたミラは、早速神官としての仕事のための準備を始めた。

俺たちは邪魔しないようにそっと大聖堂を離れ、770に戻る。

770に乗り込んだ俺たちは、当初の予定通り宮殿へと向かった。


 宮殿の前に停まった770を降り、俺は階段を上がる。

ヨーゼフたちもその後に続いて階段を上がってきた。

階段を上がりきると近衛隊の警備する門に到着し、彼らは俺が通れるように門を開けれくれる。


 門を過ぎて庭を無視し、俺は一直線に宮殿内へと入った。

その後ろを何とか階段を登り終えたヨーゼフが必死についてくる。

あまり外に出ていなかったエリーもヨーゼフと同じく階段でバテていた。


「おーい、大丈夫かい?」


「だ、大丈夫ですよこれくらい……階段なんてね」


 そうか、そうならば別にいいのだが。

……とは言いつつも疲れているだろうから歩くスピードは少しゆっくりにしようか。

そんな事を考えながら俺は宮殿の扉を開けた。


「お、おかえりなさいませ御主人様……」


 俺の帰りを何だかぎこちない様子で迎えるメイド。

何かあったのだろうか?

そう考えていると、すぐに答えがわかった。


「あ〜御主人様だ〜。ようやく帰ってきたんだ〜。遅かったわね〜」


 フラフラとした足取りでこちらにやってくるメイド。

そのメイドこそ普段はシャキッとしているオリビアであった。

しかし今は何だか酒にでも酔っているように足元がおぼつかないが……


「あの……オリビアさん間違えて御主人様のワインを飲んでしまったようです……」


「ワイン? あの棚においておいたやつをか?」


「えぇ。どうやら疲れていたらしくてその時に少し休憩と飲み物を探そうとしたがそのときになかったのですが、ちょうどその時司令のワインを見つけたようでして……。疲れていたオリビアさんにはぶどうジュースにしか見えていなかったらしくそのまま飲んでしまい、結果あの状態に……」


 なるほど、そんな経緯があったんだな。

にしても普段はシャキッとしているが、すぐに酔ってべろんべろんになるんだな。

これからはあまりオリビアに酒を勧めないようにしよう。


「あー! また女の人なんて連れ込んで〜。私なんかよりもあんな感じのムチムチ僧侶のほうが良いんですか〜! 答えてくださいよ〜」


「まぁまぁ取り敢えず水でも飲んで、その後少し寝てきたほうが良いと思いよ」


「まぁ御主人様が言うなら……」


 オリビアは他のメイドたちに支えられながら寝室へと帰っていった。

俺たちはそんな彼女を見送った後、目的の神殿へと歩いていく。

神殿のある中庭に出た後、俺は扉を引いた。


 ギィィ……


 扉は音を立てて開く。

扉が開くと同時に中には自動的に明かりが灯り、中が照らされた。

神殿の中央にはいつぞやに見た女神像が置いてある。


「おぉ……これが神の与えた神殿……まるで神聖さの塊のようだ……」


 ヨーゼフはゆっくりと歩き、神殿の中に踏み入れる。

絵エリーもそれに続き中へと入ってきた。

あれ、そういえばイズンがいないな……仕掛けに入ったか。


 俺は神殿内に置かれている椅子に腰掛ける。

ヨーゼフたちはゆっくりと女神像の下まで歩いていき、その前でひざまずいた。

ヨーゼフはそのまま祈りを捧げ始める。


「エリー、君も一緒に祈ったらどうだい?」


「でも……本当にイズン様が来てくださるかどうか……」


「大丈夫、きっと願いは届くさ。俺が保証しよう」


 俺に言われてエリーは恐る恐る祈りの体制に入る。

それを確認した俺はイズンに脳内で語りかけた。


『イズン、エリーは祈りの体制に入った。もう出て来ていいぞ』


『了解。じゃあ321の合図で行くわよ』


『分かった。3、2、1……いまだ!』


 その頃のエリーの心の中。


『本当にこれで来てくれるのかしら……いえ、神の使徒様の言う事。きっと来てくれるはず……!』


 そう祈るエリーの背中に突然あたたかい何かが触れる。

彼女はそれを見てはいなかったが、それはまさにイズンそのものだと彼女は確信した。

それを横から見ている俺の視点ではイズンが覆いかぶさっているように見える。


『さぁ、立って私の目をじっと見つめなさい』


 イズンはエリーに起き上がるよう言い、エリーはそれに応えて起き上がる。

そしてイズンとエリーはお互いに見つめ合った。

イズンはエリーの頭に直接語りかける。


『ふふ、本当に出てくるとは思わなかったかしら?』


『えぇ。今まで声は聞いてきましたがまさか本当に降臨されるとは』


『私はこれでも神よ、それぐらいできるわ』


『で、最近お告げをくださらなかったのは……』


『……』


 おい、言い訳考えてなかったのかよ。

エリーが不安になってしまっているじゃないか。

それに気がついたイズンはぎこちない笑顔を浮かべて言う。


『私があなたに天啓をくださなかったのは、そうね……特に下すべきようなことがなかったからよ。あなたが心配することではないわ、むしろ喜ばしいことよ』


『なるほど、そうでしたか』


『えぇ、そうよ』


 えぇ……これで納得してしまうのか。

まぁイズンは神、神の言うことは絶対なのかもしれないな。

その時ふとエリーが気がついたのか、イズンに聞く。


『そう言えばイズン様、初めてお姿を拝見しましたがその、気のせいかもしれませんが……先程までいたメイドの方に凄く似ている気がするのですが……』


『な、何のことかしら? 私は知らないわね〜』


 イズンはエリーから目を逸らして答える。

エリーは一瞬その答えを訝しんだが、特にこれ以上詮索することはなかった。

イズンはふわっと浮き上がり、足元から光の粒子となって消え始めた。


『何かあった時はこちらから天啓を下すから、それ以外の時は何も無いと思って気にしなくてもいいわよ』


 そう言ってイズンは完全に消えた。

エリーは自分の胸に手を当て、自分に問いかける。

そして彼女は心のなかで一つ答えを見つけ、俺に言った。


「使徒様、私をこの島で修行させてください」


「いきなりだな。別に構わないけど……どうして?」


「この島にはこの神殿もあり、使徒様もいます。私が天啓の能力を使う必要が無くなった以上、もう1つの能力を開花させたいのです。迷惑でしょうか?」


「俺は構わないよ。ヨーゼフはどう思う?」


 ヨーゼフは俺の問いかけに頭を縦に振った。

それを見たエリーは喜んで飛び跳ねる。

そんな彼女にヨーゼフは一言言った。


「この島には神官になったばかりのミラ殿がおる。聖女として指導してあげなさい」


「わかりました。全力で務めさせていただきます」


 こうしてエリーの島への居候が決定した。

一方のオリビアは酔いなのか何なのか分からない頭痛を感じ、なかなか寝付けなかった。


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