大空を飛行する烈風と天山の編隊。
烈風は胴体下部に、天山は主翼下部にそれぞれ対空噴進弾を抱いていた。
俺は窓の外の景色を眺めていると、左から東海が接近してくるのが見えた。
「おや、もう合流の時間ですか。これからはあの東海が誘導してくれますよ」
東海は背中に積んだ皿を忘れたように翼を左右にバンクさせ、その後編隊の前についた。
編隊は東海の誘導を受けて目標のドラゴンの群れへと向かっていく。
すると先行していたF-15、及びF-16の部隊から無線が飛んできた。
『司令、第一次攻撃の結果を報告いたします』
「どうだ、攻撃は成功したか?」
『はい、我が隊は目標に対しAMRAAMを発射し、目標のうち20騎を撃破することに成功しました』
『よくやった。また島の基地で会おう』
俺はそう言って通信を切る。
にしても撃破したのは20騎……残り40機か。
この隊が運んでいる対空噴進弾の数が全部で45発、外れる物があることを考えるとギリ足りるかどうかの瀬戸際だな。
1発でも外せばドラゴンを取り逃す可能性がぐんと上がる。
ここは慎重に、的確に狙っていかないとな。
俺は手元のレーダーリンクスイッチを押した。
「よし、ちゃんと東海からデータは送られてきているな」
レーダーのHUD上に輝点が浮かび上がる。
残りの輝点は40コ、つまりドラゴンが後40匹いるということだ。
さぁ、勝負と以降じゃないかドラゴンさんよ。
「司令、これから我が隊はドラゴンたちの後方に付きます。ドラゴンと射線が重なったときにいつでも撃てるよう兵装を選択しておいてください」
「了解だ。5番の対空噴進弾を選択、完了した」
「では行きますよ、まだ絶対に発射しないでくださいね」
パイロットはそう言うと、機体を降下させた。
他の機たちも順次降下し、ドラゴンの後ろにつく。
ドラゴンは近づいてくる俺たちはものともせず、そのままの進路で飛ぶ。
「さて……こんなものかな……今です、発射してください!」
「おう、任せておけ」
俺は発射レバーを引く。
すると右主翼から対空噴進弾が発射された。
発射の衝撃で機体が左にずれるが、パイロットは即座に修正した。
放たれた噴進弾はそのまま真っすぐ飛翔し、ドラゴンの胴体へと急接近する。
ドラゴンの背中に噴進弾は命中し、大爆発を引き起こした。
命中したドラゴンはそのまま地面へと落ちていく。
「命中です司令、やりましたね!」
「あぁ、やったぞ! でもまだ敵はいる、もう1発もきちんと当てるぞ」
「その意気です。……といきたいですが、まずは僚機の皆さんにも撃ってもらいましょう」
一旦俺を載せた天山は上昇し、他の機たちを引き入れる。
それらの機も俺たちのようにドラゴンの後ろにへばりつき、対空噴進弾を発射した。
だが3発は外れて地面に命中、地面で大爆発をおこした。
「うーん、3発外れたか。でも仕方がない、今回は初実戦かつ初空中発射なんだからな」
さて、気を取り直して次の対空噴進弾を打ち込もうか。
既に噴進弾を使い切った烈風たちは上昇し、俺たちの邪魔にならない位置で見守っていた。
俺は7番の兵装を選択し、レバーに手をかける。
「よーく狙って……よし、今だ!」
俺は狙いをつけてレバーを引く。
だがその時、急に左から天山が接近してきた。
パイロットは驚き、避けるために機を傾けた。
「あっ、しまった!」
崩れた姿勢で発射された対空噴進弾はあらぬ方向へと飛んでいった。
あちゃー、外してしまったか……
まぁ外れたものは仕方がない、取り敢えずは他の気が撃てるように上空へ退避しようか。
パイロットも同じ考えで、直ぐに機は高度を上げた。
俺たちのいなくなった隙間に新たに天山が入ってき、次々と対空噴進弾を放った。
なすすべなく命中させられるドラゴンは、次々とその巨躯を地面へと落とした。
だが……
「しまった、1騎残ってしまったな……」
対空噴進弾を交わし続け、生き残ったドラゴンが1騎残っていた。
そのドラゴンは仲間を失った事にようやく怒っているようで、口から炎を上げながらこちらを振り向く。
これはかなり怒っているな……何としてでも倒さないと暴れ出すだろう。
「よし、全機固定武装の30mm機関砲で袋叩きにするぞ」
「了解しました。では武装を選択してください」
俺は兵装で30mm機関砲を選択する。
残弾数は4門合計で1200発、まだ1発も使用しておらず満タンだった。
機関砲の発射は前部座席に乗っているパイロットが行うことになる。
「全機、突撃!」
合図とともに全機が機関砲をドラゴンに浴びせかける。
さすがのドラゴンと言えど30mm機関砲の嵐、無傷ではいられないだろう。
烈風隊は翼下ハードポイントに7.62mm機関砲ポッドも取り付けていたので、一気に恐ろしい数の銃弾を撒き散らしていた。
各機第一降下で攻撃を行い、再び高度を上げる。
ドラゴンはそうして飛び回る機体に向けて炎を放った。
だが炎の速度が遅いので全く当たりはしない。
そしてそのまま第二降下、第三降下と行い、遂にドラゴンの討伐に成功した。
もはや機銃弾の残数も300発で、後一回の降下分しか残っていなかった。
ギリギリのところで勝利した編隊は、信濃へと帰投する。
◇
編隊は東海に引き連れられ洋上に浮かぶ砦、信濃へと戻ってきた。
順番にフックをアレスティング・ワイヤーに引っ掛け、甲板上に静止する。
着艦に成功した機体は格納庫へと運び込まれた。
「おかえりなさいませ司令。艦内で茶でもどうですか」
「お、いいね。では頂こうか」
俺は甲板作業員に連れられて艦橋内部に入る。
するとそこで信濃の艦長、阿部大佐にあった。
彼は俺に敬礼をし、話しかけてくる。
「まさか司令本人が飛んでいくとは思っていませんでしたよ。あの時の宇垣中将じゃあるまいし」
「一応司令官として実際の戦闘は知っておかなければならないだろう?」
「まぁそれもそうですか」
甲板整備員はその場を離れ、あとは阿部大佐が俺を案内することになった。
信濃の艦内を歩きながら俺は思う。
そう言えば今信濃はどこに向かっているのか、と。
「阿部大佐、信濃は今どこに向かっているんだ?」
「はい、現在我が信濃以下機動部隊はハイリッヒ聖王国に向かっています」
「……もう一回」
「はい、ですので現在我が機動部隊はハイリッヒ聖王国に向かっています」
やはり聞き間違えではなかったようだ。
にしても何故ハイリッヒ聖王国? 特に用事はないはずだが。
まさかドラゴンを討伐したからそのお礼とか?
「えぇ、そうです。教皇がどうしても会いたいと言っているそうで」
どうやら俺の予想はあっていたようだ。
俺たちが討伐したという知らせは東海を通してイレーネ島に送信された。
その知らせを今度はヴェルデンブラントとハイリッヒ聖王国に転送したようだ。
「にしてもハイリッヒ聖王国にいくのであればイレーナを連れてくればよかったな」
「イレーナさんですか? 先ほどオスプレイに乗ってきましたが」
「……は?」
俺は呆れた顔でそう言いながら艦長室のドアを開ける。
するとそこには茶を飲んでいるイズンの姿があった。
彼女は俺を見ると、笑顔で手を降った。