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第176話 美しき空冷星型エンジン

 俺がイレーネ島に帰還した翌日。

俺はトマスに呼び出され、空軍基地に赴いていた。

到着するとすぐに、そこには布を被さられた航空機があった。


「司令、お久しぶりです。今日はこちらを見ていただきたいと思いまして」


「これは一体何だ?」


「まぁまぁそう焦らずに、では布を外しますよ」


 そう言ってトマスは機体を覆っている布を取り外す。

するとそこからは3種類の機体が姿を表した。

全機旧帝国陸海軍航空隊のような濃い緑色に塗装されている。


「どうですか? 我々の開発した新型機です。右から順に艦上戦闘機『烈風』、艦上攻撃機『天山』、艦上哨戒機『東海』です」


「『烈風』に『天山』に『東海』……全部存在する機体の名だが?」


「えぇ、名前は著名な航空機の名を借りたので。ですが中身は別物ですよ」


 ややこしいな……まぁしっくり来るから良いか。

烈風と天山は単発機、東海は双発機だ。

烈風は天山よりもひと回り小さなエンジンを搭載し、天山と東海は同じエンジンを搭載しているようだ。


「トマス、説明を頼む」


「わかりました。まずは『烈風』ですが、エンジンにR3350サイクロン18を搭載、高速性と高高度まで上がれるようになっています。『天山』はエンジンにR4360ワスプメジャーを搭載、機体の大型化に対応するとともに非常に大きな兵装搭載量を持ちます。『東海』は天山と同じくR4360ワスプメジャーを2つ搭載した双発機で、対潜、対空索敵に大いに役立つ多用途哨戒機となるでしょう」


 R3350サイクロン18にR4360ワスプメジャー。

これらはレシプロエンジンの中でもエンジンだ。

以下に詳しい各機の仕様を掲示する。


 ・艦上戦闘機 烈風

   全長 11.72m

   全幅 14.62m

   全高 5.05m

   乗員 1名

  最高速 690km/h

 最高高度 11500m

 航続距離 3560km

 エンジン  R3350サイクロン18

   武装 エリコンKCA 30mm機関砲4門(固定武装)

      SUU-11/A 7.62mmミニガンガンポッド(翼下)

      SUU-16/A 20mmバルカンガンポッド(胴体下部)

      LAU-61C/A ハイドラロケットポッド(翼下)

      GBU-32 1000ポンド誘導爆弾(胴体下部、1発まで)

      試製460mm広範囲対空噴進弾(胴体下部)など


・艦上攻撃機 天山

   全長 12.75m

   全幅 15.83m

   全高 5.16m

   乗員 2名

  最高速 580km/h

 最高高度 10230m

 航続距離 3320km

 エンジン R4360ワスプメジャー

   武装 エリコンKCA 30mm機関砲2門(固定武装)

      SUU-16/A 20mmバルカンガンポッド(翼下)

      GBU-32 1000ポンド誘導爆弾(翼下、爆弾倉)

      Mk.54短魚雷(翼下、爆弾倉、3発まで)

      航空機投下用改造型MK.48重魚雷(爆弾倉、半埋込式)

      LAU-61C/A ハイドラロケットポッド(翼下)

      AGM-154 JSOW 滑空爆弾(翼下)

      GBU-28 バンカーバスター(翼下、2発まで)など


・艦上哨戒機 東海

   全長 18.23m

   全幅 24.83m

   全高 5.64m

   乗員 6名

  最高速 620km/h

 最高高度 11300m

 航続距離 3600km

 エンジン R4360ワスプメジャー 2基

   武装 MK.54短魚雷(爆弾倉、2発まで)


 などなどである。

その他にももちろん搭載されている兵装類はある。

例えば『東海』には対空、対艦索敵用の大型レーダーや、対潜水艦用の磁気探知機を搭載している。


 そして烈風と天山には特徴的な翼が採用されていた。

それはいわゆる逆ガル翼と言われる翼の構造で、翼の中心手前ぐらいで上へと折り曲がっている不思議な翼だ。

烈風には名前の元となった機体のようなゆるい逆ガル、天山には流星とコルセアの間ぐらいの角度の逆ガル翼が採用されている。


 これらの機体は見た目こそ旧式だが、中身は一転とても現代的である。

艦戦艦攻共通のフレームレスのバブルキャノピーの内側には、大型のディスプレイがあり、情報が集約されている。

それに操作もフライ・バイ・ワイヤを採用し、大型機でも扱いやすいようになっていた。


 これらの機体だが、ジェットを差し置いてレシプロ機が作られているのには意味がある。

前の観艦式でガーゴイルを初めて見た時、「遅いな」というのが第一印象であったからだ。

あんな遅い速度ではジェット機であればまともに戦うことができない。


 それに加え、ガーゴイルは数が多くいると予想されていたからだ。

結論として多かったのだが、これだけの数を全部ミサイルで叩き落とすのは非効率的だと考えた。

そこで足もあまり速くなく、ミサイルではなく機関砲が主力なレシプロ機が最良の選択肢と判断されたのだ。


 だがそれではただ戦闘機だけレシプロ化すればいいじゃないかという話になる。

だがこれにもちゃんとした理由がある。

それはジェットエンジンとレシプロエンジンの燃料の違いだ。


 ジェットエンジンを動かすときの燃料はジェット燃料と呼ばれ、レシプロエンジンを動かすときの燃料は航空機用ガソリンと呼ばれる。

もしもジェット機とレシプロ機が共存していたら空母には2種類の燃料を載せなくてはならなくなる。


 ならばいっそのこと全部レシプロにしましょうということで開発されたのがこの三機種だ。

え、レシプロじゃなくて全部ターボプロップでよくないかって?

甘いな、そう思った君は星型エンジンの素晴らしさを理解していない。


 まぁとにかく、そういうわけでこれらが作られたのだ。

だがこれらの機体にももちろん問題点はあった。

その問題とは……


「この飛行機は素晴らしい機体だと思う。だが……」


「だが?」


「空母に載るのか? ウチの赤城や大鳳に」


「……」


 トマスは俺の質問に黙りこくる。

やっぱりか、あまりにもでかすぎると思ったよ。

また倉庫番かなぁ……と思っていると、トマスが口を開いた。


「司令、これらの航空機が運用可能な母艦があります」


「なんだい? ニミッツ級ならいけるだろうが、それ以外だぞ?」


「分かっております。私が言いたい空母はミッドウェイ、大戦型空母の最終形であり、アングルドデッキを持つ大型空母です」


 ミッドウェイを新規で召喚してくれということか。

まぁ確かにミッドウェイにはレシプロ機の運用実績があるしできるかもしれないが。

でもミッドウェイを使うというのは割とありかもしれない。


「まぁとにかく性能試験をしてみよう」


「承知しております。既に兵装を搭載した試験機を用意しておりますので」


 トマスが手元のボタンを押すと、奥の格納庫がガーッと開いた。

中からは兵装を満載した烈風らが……ん?

なんだか天山に変なものが積んである気がするのだが……


「なぁ、トマス」


「はい?」


「アレは何だ?」


「あぁ、アレですか。あれは洋式便器とバスタブですよ」


 天山の翼下パイロンには洋式便器が、胴体下部にはバスタブがそれぞれ搭載されていた。

……洋式便器は確かAー1スカイレーダーに搭載されたが、バスタブは上官に見つかって投下に失敗したはずだ。

というかこんな物搭載してどうするつもりなんだよ。


「流石に冗談です。本物はあちらですよ」


 バスタブたちを搭載した天山の後ろから、ちゃんとした武装を搭載した天山が姿を表した。

この天山は最大重量での離陸試験のため、MK.48改造型航空魚雷を1本ずつ左右の翼に搭載していた。

残りのハードポイントにはGBU-32が搭載され、胴体下部には20mmガンポッドが搭載されていた。


 烈風には魔石式爆弾を小型化、1t爆弾級の威力を持つ対空ロケット弾へと仕上げた試製460mm広範囲対空噴進弾が搭載されている。

翼下ハードポイントにはミニガンガンポッドが搭載され、高い対空射撃能力を有している。

おそらくこの兵装が一番ガーゴイルの編隊には有効だろう。


「では早速試験といこうか」


「わかりました。ではミッドウェイを召喚するかどうかは後回しにして今は陸上基地から離陸といきましょう」


「あ、そうだ、俺も天山の後ろに乗って試験に参加するぞ」


「えっ!」


 トマスが驚いている間に、俺は天山にヒョイッと乗り込んだ。

実はこういうこともあろうかと軍服の下に飛行服を着ていたんだよねー。

俺を載せた天山は、滑走路へと移動するのであった。


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