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第175話 燃え落ちる飛行機

 セクター軍港、ルクスタント王国海軍旗艦『カイザー』艦上。

俺は久しぶりに艦隊司令のルドルフに会いに言っていた。

しばらく待っていると彼は甲板下から顔をのぞかせる。


「これはルフレイさん、お久しぶりです」


「久しぶりだねルドルフ。あっちでの生活はどうだい?」


「はっ、何不自由なく暮らさせてもらっています」


 良かった、と俺は思う。

かつての敵国の艦隊司令だ、ひどい扱いを受けているのではないかと心配だったのだ。

だが見る限り他の乗組員たちも元気そうだし、心配することはなかったな。


「にしてもやはりイレーネの船はすごいですね。模擬砲戦でも余裕の一位だったし、模擬空戦でも二カ国の母艦を撃沈していたではないですか」


「確かに船はすごい、だがうちの乗員たちの練度あってこその戦果だよ」


「うちも練度はあるんですけどねぇ……どうも鋼鉄艦には性能で勝てません。うちもあんな船が欲しいなぁ……」


 ルドルフはそう呟く。

その言葉を聞いて俺はふっと笑った。

俺は懐から手紙を取り出し、ルドルフに渡す。


「これは……?」


「それはグレースに宛てた手紙だ。悪いが渡してもらえないか?」


「わかりました」


「では、そういうことで」


 俺はそれだけ言って船をさっさと立ち去る。

ルドルフはもう帰るとは思っていなかったのか、驚いた様子だった。

あ、そう言えば1つ言うことがあったな、と思い俺は振り返っていう。


「あーあ、そう言えば印籠をつけ忘れていたなー、これじゃあ中身が丸見えだなー、あー、中身見ちゃうのかなー」


 俺はわざとそんなふうに言う。

ルドルフは最初不思議に思って首をひねっていた。

だが彼は俺が言いたいことを汲み取り、手紙を開けた。


「!! こ、これは……ちょと待ってください!」


 だがその頃には俺はもう船を降りていた。

ルドルフが見た手紙の中身。

そこには『新型艦供与に関する提案』と書かれていた。





 場所は変わってミトフェーラ魔王国空港格納庫。

エーリヒと技術者たちは分解された翼の一部を見て頭を捻っていた。

彼らはかれこれ2時間ほどこの体勢で考え事をしている。


「うーん」


「うーん」


 全員が唸り声をあげて翼の一部を睨みつける。

そして彼らの1人がしびれを切らしたように言った。


「だーっ、この金属がなにか分からん! こんな軽くて強い金属など見たことがないぞ!」


 ミトフェーラの技術者たちは機体に使われている超々ジュラルミンを知らなかった。

彼らから見ると耐久性が高く軽く加工が容易なその金属はまるで夢の金属であった。

だが実際問題、こちらの世界にも似たような金属があることは知っている。


「軽くて強度の高い金属と言えば1つ思い当たりはあるが……」


「ミスリルか、でもアレはダメだ。あまりにも生産量が少なすぎる。それにこの金属とは全く性質が異なるし、あれは魔力をよく通してしまう」


「魔石を使った魔道具を組み込むうえで機体全体に魔力がいきわたるのは問題だからねぇ、魔力の消費も大きくなっちゃうし……」


 彼らは機体を何の金属で作るのか、必死に考えた。

だが彼らは結局最適な金属を見つけることはできなかった。

そのとき、誰かがぼそっと呟く。


「もはや木製で良いのでは……」


「「「「そ・れ・だ!」」」」


 全員の反応に言った本人すら困惑している。

たしかに木製にすれば軽く、加工も容易で、魔力を通さない。

それに魔王国には木工職人がたくさんいる。


「今すぐに木工職人たちを招集して、作業に取り掛かってぇー!」


「了解!」


「それとぉ、我々は……」


 エーリヒは机の上においてある本を取ってくる。

そしてその本を開き、他の技術者に見せつける。

彼らはその本に書かれているものをじっくりと見つめた。


「それは……古代文明の本ですか」


「そうだよぉ、その中でも航空機に関して書かれたものだ」


「しかし……我々には文字が解読できていないのでいくら航空機が手に入ったからと入って再現は不可能……」


「なーに、文字は分からなくても図面は分かる。これの再現は可能だよぉ!」


 そしてエーリヒは本に挟まれた1枚の紙を取り出す。

それは彼らの規格に合わせて書き換えられた航空機の図面であった。

おぉ! と声を上げて他の技術者たちはその図面を見る。


「早速試作機の製造を、IS-1の製造と並行して始めるよぉ! 目標は1機目の完成まで2週間以内だねぇ」


「了解! すぐに作業を分担して製造を開始します!」


 彼らは夜中にも関わらず作業を開始するのであった。





 2週間後、再び飛行場にて。

完成した2機の飛行機が飛行場に並べられていた。

それぞれに輸入したIS-1と同じくオリーブドラフにオリーブ色の迷彩が施されている。


 片方はIS-1を木製胴体に変更したモデル、これはA型と呼ばれている。

もう1つはエンジンを翼に2つ付けて双発仕様としたもの、これはB型と呼ばれている。

木製のため表面は非常に滑らかで、芸術品のような美しさを放っていた。


「それでは、只今より飛行試験を始めます。全機エンジン始動」


 合図とともに地上整備員がエンジンを指導させる。

数度泊まった後、遂にエンジンが回り始めた。

それを確認した技術者たちはわっと歓声を上げる。


「エンジンが付くことは実験済みだから当たり前だよぉ。問題は飛行だねぇ」


 機体はタキシングを始め、滑走路へと進入していく。

一旦機体は滑走路で停止し、離陸許可を待った。

離陸許可が出ると、まずはA型から離陸を始めた。


『A型、無事に離陸成功、これより性能試験に入ります』


 エーリヒたちは空を舞うA型を下から眺めた。

地上からは届くことはないはるかな高み、空の世界。

エーリヒはその世界に魅了されていた。


 その後、A型は各種試験を行った。

評価は超々ジュラルミン製の原型機と同じ性能を出し、申し分はないと評価された。

だが最高高度試験を行おうとした時、悲劇は起こった。


『高度6600、6700、6800……7000突破、まだ昇ります。7100……』


 エーリヒたちは地上に置かれた通信珠から、パイロットの読み上げる高度をじっと聞く。

高度は順調に上がっていき、8000に到達した。

その時だった。


『! エンジン停止! 繰り返す、エンジン停止!』


 高度8000で、A型のエンジンが急に停止した。

パイロットは何とか再始動しようと試みるものの、エンジンが動くことはなかった。

機はコントロールを失って錐揉み状に落ちていく。


「テストパイロット、今すぐ脱出しろ! 今すぐだ!」


『しかし……それでは大事な試作の機体が!』


「機体などどうにでもなるよぉ、今すぐに脱出してぇ!」


 エーリヒが叫ぶと同時に、エンジンが黒煙を吹いて燃え上がる。

パイロットは脱出せざるを得なかった。

パイロットは手元にある脱出レバーを引き、引いた瞬間キャノピーが脱落し、パイロットがシートごと射出された。


「あぁ……射出座席があってよかったぁ。パイロットが死んでたら耐えられなかったよぉ」


「あの射出座席、エンジンより部品点数多かったですもんね。複製中にその他の部位は『あぁ、きっといろんな物がオリジナルの状態から外されてるんだろなぁ』と思いましたが、唯一あの座席だけは完璧な状態で輸出したな、とも思いましたもの」


「安全は犠牲になっていなくてよかったよぉ」


 機体は炎に包まれて落下し、やがて空中でバラバラに分解した。

破片が地上に向かって次々に落下していく。

こうしてA型は事故で失われた。


 結論から言うと、本来タービンを回すための高圧スチームが高空の冷気にさらされて液体化してタービンに付着、それがさらに凍結したことによってタービンが破壊され、結果的にエンジンが停止したのであった。

これは魔石式エンジンにとって、最も致命的な欠陥となった。


 この影響で、同時に試験を行っていたB型も、一旦着陸させられた。

射出された座席は無事パラシュートを開き、ふわふわと地面に落ちていく。

だがパイロットはその衝撃で気を失っていた。


 そしてその時、ちょうど上空を飛行していた機体があった。

それこそ偵察型のRB-36である。

RB-36は墜落していくA型を見て驚いたが、冷静に写真を撮影した。


「この写真は本島へ持ち帰るとして……よし、今からあの落下していく座席を追いかけて落下地点を割り出すぞ。割り出したら空港に着陸し、報告だ。いいな?」


「おう、任せとけ!」


 着陸したRB-36のパイロットは、その場にいたエーリヒたちにその事を報告した。

こうしてパイロットは落下場所を正確に報告され、無事救助されたのであった。

ミトフェーラの航空機計画はまだまだかかるのであった。





 交流演習終了後、艦隊はイレーネ湾に帰投した。

そして大和から退艦した瞬間、俺は先に帰っていた子どもたちに取り囲まれた。

そんな俺をイズンや大和の乗組員たちは笑って見ているのであった。



――――

最後まで読んでいただきありがとうございました!

これにて第四章完結、明日より第五章となります。

これからもどうぞよろしくお願いします。


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