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第174話 新しいペット?

 ミトフェーラ魔王国飛行場上空。

ここでは試製迅雷の納入タイプの飛行テストが行われていた。

試製迅雷は機体をオリーブドラフに濃い緑色の迷彩に塗装し、国籍マークを外して飛行する。


「あれを輸出してくれるのぉ? あんな早い飛行機出して大丈夫?」


「あぁ、あれは輸出しても何の問題もないよ」


 横に立つエーリヒは、渡された設計図を眺めながら言う。

そこには試製迅雷ではなく、『IS-1』と表記されていた。

ISはイレーネ・スタンダードの略で、今後輸出される場合全航空機にこの名前が振られる。


 デチューン目標は時速430kmであったが、武装やその他飛行に必要ない計器類はすべて外した結果重量が軽くなり、最高速は時速452kmとなっていた。

だがその分機体の中の空洞が多くなり、全体的にもろくなっている。


 ただそんな事を知らないエーリヒは喜んでIS-1の飛行を見ていた。

そして各種試験を終えたIS-1は飛行場へ着陸し、タキシングしてくる。

機体は俺達の目の前に泊まった。


「改めてすごい機体だねぇ。まさに技術の結晶だよぉ」


「ふふ、そうだろう?」


 俺はIS-1のプロペラを撫でる。

このプロペラはハミルトンスタンダードの可変ピッチプロペラだ。

これ1つにもものすごい技術が詰め込まれている。


 その後IS-1は空港に併設されている格納庫へと移動され、俺とエーリヒもそれについて行った。

格納庫に到着したIS-1は早速分解されることになった。

ミトフェーラの熟練の職人が1つずつ沈頭鋲を外すのを見ながら、エーリヒは俺に言う。


「ではこちら側も約束通り魔石油の反応炉を輸出するねぇ。あ、あとオマケなんだけど何が欲しい?」


 オマケか、そう言えばそんな物をくれると言っていたな。

欲しいものねぇ……特にない気がするが……

いや、1つイレーネ帝国にないアレを見学できたら……


「じゃあさ、あのガーゴイルの訓練所とか運用方を見たいんだけど」


「ガーゴイルの? 別にいいけどそんなに面白くないよぉ?」


「構わないさ。ただ少し気になるだけだから」


 ふーんと言いながらエーリヒは紙に紹介状を書いてくれた。

これを持っていけばガーゴイルの厩舎などを見学できるらしい。

エーリヒは機体を分解をするからと言って俺と別れた。


 俺は案内してくれる整備員とともにガーゴイルの厩舎を目指す。

しばらく歩いていると、ガーゴイルの鳴き声が段々と聞こえてきた。

その声は近づくにつれてさらに煩くなっていく。


「すみませんね、あいつら静かにすることができないもので」


 案内する整備員がそう言って謝る。

そしてそのまま歩くと俺たちは厩舎の前にきちんとたどり着いた。

門をくぐって中に入ると、付いてきていたイズンが言う。


『ここもなかなかに侵されているわ。というかここにいるガーゴイル……』


『ガーゴイルがどうしたんだ?』


『皆揃いも揃って【調教】スキルが使われているようね。ガーゴイルは知能が高くない魔物だから翼竜のように使役することは不可能なはずだからおかしいと思っていたけど、【調教】されているなら納得だわ』


 【調教】……いわゆテイムのことか。

俺も正直これだけのガーゴイルをどうやって集めたのか不思議だったが、【調教】スキルが有るとなれば納得だな。

俺がしばらく厩舎内を歩いていると、ガーゴイルに餌をやっている老魔族に出くわした。


「メセルソンさま。エーリヒ様より、客人にガーゴイルについて説明してあげてほしいとのことです」


「分かった。ご苦労さま、下がってよろしい」


「はっ、失礼します」


 案内役の整備員は一礼し、厩舎より立ち去る。

メセルソンと呼ばれた老人は俺のもとにニコニコしながらやってきた。

彼は俺の握手を求めて言う。


「よくいらっしゃった客人よ。私はメセルソン。この国で魔物部隊の指揮官をやらせてもらっていますぞ」


「私はルフレイだ。よろしく頼む」


 俺はメセルソンの手を握り返した。

その時、何だか嫌な予感がして俺は手を引く。

ぱっと横に立つイズンを見ると、「それが正解だ」とばかりに頭を縦に振った。


「あはは、先程まで魔物の世話をしていたわけだし汚いと思われたのですかな? まぁ別に気にしませんがね、ハハハ!」


 違う、別に手が汚いから握手を拒んだのではない。

むしろその汚れは仕事をした証、勲章だから褒めなければいけない。

俺が懸念したのは彼がロキの影響下に入っているのではないかということだ。


 事実イズンは首を縦に振ったし、俺の予想は正しかったのだろう。

握ると何が起こるかわからないし、ここは握らない判断が正解だろう。

当の本人も特に気にはしていないようだし、これで良かった。


「おや、それは紹介状ですか? 少し見せていただいて……」


 メセルソンにエーリヒからの紹介状を渡す。

彼はそれを開けた後、じっくりと眺めた。

読み終わった後彼はそれを再び畳んで上着の内ポケットに入れた。


「なるほど、概ね理解しましたよ。ではこちらへ来てくださいな」


 メセルソンは俺を連れて厩舎の外に出る。

彼に付いていくと、さっきの厩舎とは異なり太い鉄格子の牢に入れられたガーゴイルが見えてきた。

それらは何とか脱出しようと必死に羽ばたき、鉄格子に噛みついている。


「私の固有スキルはもう聞きましたかな? 私の固有スキルは【調教】、その名の通り魔物を手懐けるスキルです。我が一族は代々そのスキルを持ってしてこの国で力をつけてきました」


 メセルソンはそう言いながら、右手を暴れるガーゴイルの頭にかざす。

すると手の甲に小さな魔法陣が浮かび上がり、水色に輝く。

彼はこちらを振り向いていった。


「見ていてくださいな、これからこの暴れるガーゴイルを【調教】しますので」


 そういった後メセルソンは何かをぶつぶつと呟き始めた。

それに合わせて手の甲の魔法陣の輝きも強くなる。

そしてカッと強い光を放った時、彼は言った。


「これで【調教】終了です。さぁ、牢から出てきなさい」


 メセルソンが牢の鍵を開け、ガーゴイルがそこからノッソノッソと出てくる。

先程までの暴れようはなく、黙って地面にちょこんと座った。

そして彼は俺にガーゴイルの頭に触れてみるよう言う。


「いいですか、そのままでいてくださいね」


 メセルソンはそう言い、今度はガーゴイルの手を握って何かを唱える。

またまた彼の手の甲に魔法陣が現れ、強い光を発した。

だが今回は光が収まっても変化はない。


「これでこのガーゴイルの調教主はあなたになりました。これがエーリヒ様からの指示でしたのでね。あとは煮るなり焼くなり生皮剥くなり、好きにしてください」


「えっ、俺のものになったのか?」


「そうですよ。手始めに何か命令してみれば?」


「は、はぁ……じゃあお手」


 俺は半分冗談感覚で手のひらを差し出す。

するとガーゴイルは俺の手に自分の手を乗せてきた。

まじか、他にはどうだろうか……


「おまわり」


 クルクル


「おすわり」


 スッ


「おぉ……できる、できるぞ!」


「気に入りましたかな。そのガーゴイルは調教主の命令に反することは絶対にありませんのでご安心を」


 その後、俺はガーゴイルの生態や運用方法、戦術などの資料を多く見せてもらった。

その中にはいくつか興味を引くものがあったし、なんならその資料の写しもくれたのでウハウハだ。

しばらく団らんした後、俺は厩舎を辞した。






 演習もすべての工程が終わり、早いようだが帰国の時が近づいてきた。

だがその前に俺は再びエーリヒに会いに行った。

なぜなら彼に預けたいものがあったからである。


「ルフレイ! 何か用〜?」


「あぁ、少しな。それにしても……見事に分解したな」


 俺はエーリヒのいる空港の格納庫に赴いていた。

そこには完全に分解されたかつてIS-1だった物の姿があった。

整備員たちはしきりにネジや部品の一つ一つを眺めて絵を描いている。


「もうすぐで全部品の把握が終わるからぁ、複製機は早くて明日から生産に入れるかなぁ」


「すごいな……うちの連中でもそんな事できないぞ」


「えへへ、ありがとぉ〜。で、用って何かなぁ?」


 エーリヒに突っ込まれて思い出す。

俺は手に持っていた紙袋を彼に渡した。

紙袋を渡されて不思議な顔をしているエーリヒに俺は言う。


「それはエーリヒのお姉さん、つまり魔王への贈り物だ。それを渡して欲しいんだが……絶対に開けるんじゃないぞ? 皇帝の印籠を使っているからすぐバレるがな」


「もちろん! ちゃんとベアトリーチェ姉さまには渡すよぉ。きっと喜ぶと思うなぁ」


 エーリヒに紙袋を渡し終えた俺は、格納庫を出て停泊している大和へと戻る。

え、あの紙袋に何が入っていたのかって?

あの中に入っているのはイズンが「渡しておけ」と言って出してくれた指輪だ。


 あの指輪には持ち主の緊急時に非常事態を俺に伝えることができる仕組みになっている。

これはもしもロキによる襲撃が発生したときにベアトリーチェを保護するためだ。

詳しい説明は紙に書いて一緒に紙袋に入れてきた。


「ふむ……渡すのは良いが、指輪だし誤解されないと良いが……」


 そんな事を考えながら俺は帰るのであった。


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