目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第173話 ドッグファイト

 今回の模擬空戦は、空戦とは言うがどちらかというと対艦攻撃の演習であった。

我が部隊は腹に爆弾代わりにペンキを詰めた模擬爆弾を抱き、敵艦に3発命中させれば敵を撃沈した判定に、ルクスタントの翼竜とミトフェーラのガーゴイルは相手の母艦に着艦すると勝利という条件であった。

戦闘機隊などは自分の母艦に敵を近づけないために護衛するのが目的である。


 大空を飛行する零戦隊及び流星隊はF/A18E.Fによる誘導を受けて正確にガーゴイルへと向かっていた。

レーダーに映っているガーゴイルの数は約100騎、零戦隊の4倍の戦力である。

だが時速100kmないほどと飛行速度は遅く、さらに機動性はあまり良くない。


 そんなガーゴイル隊に対し、零戦隊の搭乗員は闘志を燃やしていた。

各機は陣形を組み、敵機に攻撃する準備を整える。

やがて飛行していると、敵ガーゴイルを零戦隊は視認した。


「見えたぞ、あれがガーゴイルか。にしても何だか変な陣形だな」


 零戦隊が見たガーゴイルは、横ではなく縦に陣形を組んでいた。

縦10騎、横10騎の合計100騎が正方形状に並んで飛んでいる。

向こうもこちらを認識したのか針路を零戦隊へと向けた。


「このまま進むとぶつかってしまう。各機左右に散開して横と後ろから攻撃をかけるぞ。流星隊は上昇、ガーゴイルを上から超えて敵母艦に攻撃せよ」


「「「「了解」」」」


 指示と同時に流星隊は一気に高度を6000まで上げる。

零戦隊は左右へと散開し、攻撃せんと敵へと迫った。

その瞬間、ガーゴイルが攻撃準備に入る。


「! 全機ダイブしろ!」


 鷲野大尉の号令に合わせて零戦隊は一気にダイブする。

すると、それぞれのガーゴイルの口から炎の渦が放たれた。

全騎が発射したためその炎は塊となり壁となり直進してくる。


「あっぶねぇ……あんな攻撃があるとは知らんかったな」


 炎の攻撃を急降下で避けた零戦隊は元の水平飛行に戻る。

彼らは第二射を警戒したが、魔力が尽きたのか飛んでくることはなかった。

そして彼らは陣形を崩し、個別個別に零戦隊に向けて降下する。


「よし、増槽投棄。全機かかれ!」


 零戦隊は両翼の増槽を投棄し、一気に上昇する。

下降してきていたガーゴイルはその動きについていけず、各騎バラバラに動き始めた。

隙間が空いたので、零戦隊はその間を縫って上昇する。


「本当に魔物に人間が乗っているんだな」


「あぁ、あれでよく落ちないものだ」


 零戦隊は混乱するガーゴイルたちに高度有利を取り、それらの上方から襲撃する。

弾薬ベルトに搭載された、ゴム製7.7mmの銃弾をガーゴイルに向けて発射した。

銃弾が命中したガーゴイルは痛みで叫び、高度を落としていく。


「いくらかはやっつけたがまだ騎数は残っている、警戒を怠らないように」


「では大尉、格闘戦にでも移りますか?」


「そうだな。まだ零戦とて戦える、ということを見せてやろう」


 その言葉を皮切りに零戦隊は一気に格闘戦の体制に入った。

追いかけられるガーゴイルは逃げ回り、旋回戦に入る。

たまらなくなったガーゴイルは急降下で逃げようとしたが、零戦は左に捻って急降下していく。


『おいスズメバチさんよ、あんたは戦わなくて良いのかい?』


 鷲野大尉は零戦に搭載された無線機に語りかける。

だがF/A18Eのパイロットは「別にいい」と答えた。

そして彼らは言う。


『こっちの戦闘も大事だが、そろそろ艦攻が到着する頃ではないか?』


『そうだな。まぁこっちもさっさと片付けれるよう努力するよ』


 そういって鷲野機は左に旋回しながら降下していく。

その様子を上から眺めた後、F/A18E.Fは機首を北西へと向ける。

彼らはまた別の目標へと向かうのであった。






 空母大鳳より北方100km、敵母艦上空。

流星隊は爆弾を抱えたまま接近していた。

搭乗員の1人が無線で話す。


『母艦が見えてきましたな、いよいよですぞ』


 雲の切れ間から、もうもうと黒煙を吐き出す敵艦を視認する。

直掩のガーゴイルはいないようで、絶好の攻撃チャンスであった。

その時、下で何かが弾け飛ぶのが見える。


『対空砲火だ! でもこの高度なら当たらないだろう』


『そうだな、それに対空砲火と言えどなんということはない。あのときのアメリカのものときたら……』


 1人が今の対空砲火とアメリカの対空砲火を比較する。

5inch,40mm、20mmの三重の対空砲火がない今、突入は容易だ。

流星隊の1人が昔を懐かしんで言う。


『アメリカの対空砲火か……懐かしいなぁ。実は私も特攻のときに体験していまして。もう少しでワスプだったのに……惜しかった』


『あなたも特攻隊だったのかい? 私はヨークタウンだよ。まぁ落とされたがね』


『それに比べたらどうってことはない。さぁ、いくぞ!』


 合図とともに流星隊は急降下を始める。

エンジンが唸りを上げ、機体は急降下で速度を増す。

対空砲火の黒煙がはるか後ろでバッと咲いた。


『今だ、投下、投下!』


 流星隊は下方を航行している敵母艦に対して一気に爆弾を投下し、機首を引き上げる。

数発が海面に着弾して、着色された水柱が上がった。

残りは飛行甲板に命中し、甲板上がイカが潜伏できそうなほどインクで汚れた。


『攻撃成功、撃沈は確実だろう!』


『やったぞ! 母艦を撃沈したんだ! 大本営発表じゃないぞ!』


『後で司令に褒めてもらわねばな。さぁ、帰るぞ』


 流星隊は大鳳へと針路を取って帰投する。

その頃、F/A18E.F隊はと言うと……


『ふむ、こちらも撃沈だな』


 ルクスタント王国の翼竜母艦を標的とし、攻撃を行った。

道中道に迷っていた翼竜部隊と遭遇するが、フル無視で母艦へと接近し爆弾を投下した。

爆弾は見事命中し、甲板がペンキだらけになる。


 結局今回の模擬空戦も我が国の圧勝で終わった。

ミトフェーラとルクスタントの母艦乗員は頑張ってモップでペンキを落としている。

艦はセクター港へと帰投していく。






 夜中、ミトフェーラ魔王国の飛行場に一機のB-36Jが着陸した。

これはデチューンされた試製迅雷を運んできた機体である。

ビニールシートに包まれた状態で分解されてでてきた試製迅雷は、密かに空母大鳳へと運び込まれた。


 大鳳の格納庫内で組み立てられた機体は、各種検査が行われた後、飛行甲板上へと運び出される。

甲板上で試験的にエンジンの始動が行われたが、その音はデチューンのために気筒を減らされたため、か細いものであった。

こんな機体で良いのかと思うが、これが明日にはミトフェーラ魔王国に納入されるのであった。


 その頃のイレーネ島工廠では、さらなる試作戦闘機、攻撃機が開発、初飛行を迎えようとしていた。

試製迅雷のそれとは異なり、R3350サイクロンや、R4360ワスプメジャーを搭載した大型機体が、格納庫内で翼を伸ばしていた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?