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第172話 交流演習です!

 翌日朝9:00。

俺はミトフェーラ魔王国海軍所属の装甲戦闘艦アーデルに乗艦していた。

俺は今日はこの艦から演習を見学することになった。


「山下大佐、この船をどう思う?」


「そうですねぇ……搭載されている兵装を見る限り日清戦争時の戦艦……いや、なんならそれよりも古い時代の戦艦に乗っている気分になりますな」


 俺達は船首に立って海面を見下ろす。

するとそこには海面を切って進む出っ張りがあった。

それは衝角、すなわち体当たりで敵艦を撃破するための兵装であった。


「衝角なんて付いているもんな、時代を感じるよ」


「そうですねぇ、でも大和のバルバスバウだって一種の衝角じゃないですか? あれもぶつかれば相手を沈めれそうですし」


「山下大佐、そもそも大和の全備排水量は72000tだ。そんな鋼かの塊がぶつかれば衝角あるなしか変わらず皆沈むよ」


 そう言いって笑いながら俺たちは後ろを向く。

そこには備え付けられた1基の連装砲塔があった。

口径は25口径30cm砲、短砲身で主砲の防盾をかまぼこみたいな形のためなんだか不格好に見える。


「ですがこの船はすごいですよ。ほら、あそこを見てください」


 山下大佐の指さした先には電探があった。

こちらの世界では地球よりも早くに電探が開発されている。

あの装備があれば命中精度も大きく上がるだろう。


「そして何よりも脅威なのはその数です」


 山下大佐は顔をしかめてそういう。

現在ミトフェーラ魔王国海軍に所属している装甲艦の数は合計75隻。

短期間で揃えれるとは思えないほどの大艦隊であった。


 聞いたところによると、魔族は皆長生きで数百年と生きているうちに全員が達人ばりの技能を手に入れると聞く。

そんな彼らが船を作るため短期間での建造が可能だそうだ。

その点は魔族の他の種族に対する大きなアドバンテージだと思う。


「ミトフェーラ魔王国はこの大陸上で二番目の海軍国家だ。我が国に追いつけるほどではないとは言えその他の国との間には大きな差がある。ルクスタントの帆船では厳しいか……?」


「まぁそこら辺は今からの模擬砲戦で分かるというものです」


 そんな話をしていると、艦にラッパの音が響いた。

これは『戦闘準備始め』の合図であり、俺たちは急いで艦内へと戻った。

艦橋に出た俺たちは、艦橋の低さに驚きながら主砲が動いている様子を見る。


「今回の模擬砲戦は三カ国の艦艇がそれぞれ目標から40km離れた位置から攻撃を開始し、最も早く命中させることができたものが優勝とします」


 俺の隣に立つモレル提督が説明する。

彼いわく標的船は大量に用意しているからいくらでも沈めてもらって構わないとのこと。

俺の乗る装甲戦闘艦アーデルは、目標に向けて接近を始めた。


「司令」


「なんだい?」


「もう決着が着いたようですよ」


 山下大佐がそう言って空を指差す。

するとそこには、煙を引きながら飛んでいくハープーンの姿があった。

容赦ないなぁ……大和の主砲でも良かっただろうに、と思いながらその煙を目で追った。


「なに? もう命中弾が現れたって!? どうなってるんだ一体……我々も急ぐぞ!」


 モレル提督は驚いて俺たちの方を見る。

だが俺たちは知らんとばかりにそっぽを向いて口笛を吹いた。

彼は歯をギリリと噛みしめる。


 その後航行すること50分、アーデルは目標まで15kmの地点まで接近していた。

それぐらいの距離になると、いよいよ主砲が届くようになる。

満を持した30cm連装砲は、思いっきり火を吹いて砲弾を発射した。


 発射された砲弾は弧を描いて飛んでいく。

そしてすぐ第2射の準備に入るかと思われたが、特に何も飛んでいかなかった。

どうやらあの主砲は一発撃つごとに冷却と再装填の時間が必要らしい。


「初弾遠! 次弾発射準備完了まで残り5分!」


 艦橋の砲術科の作業員が叫ぶ。

なるほど、一発撃ったら次は5分後か。

これは仮想敵国であるミトフェーラの艦船に関するなかなかいい勉強になるな。


「次、左舷中間砲、てぇーっ!」


 号令とともに、左舷に搭載するには不釣り合いなほど大きな24cm中間砲が発射される。

このような形式の中間砲は前弩級戦艦に見られるものだが、ドレッドノート以降の弩級戦艦では廃止された。

この間にはさらに中間砲も搭載されており、非常に効率が悪い。


「次ぃ、左舷副砲全門てぇーっ!」


 今度は号令とともに副砲が発射された。

だが副砲はこれまでの方とは違い速射砲なので、どんどんと次弾が発射されていく。

そのうちに主砲の再装填が終わったらしく、第二射が行われた。


「主砲弾、夾叉!」


 砲術科の作業員が叫ぶ。

二斉射で夾叉か……なかなかの精度だな。

やはり水上電探の存在が大きいのかな。


 その後射撃を続けると、ようやく目標に命中弾がでたようだ。

結果的に順位は我が国の海軍が1位でタイムは13分、2位がミトフェーラ海軍でタイムが1時間22分、3位以降はあまりタイムが変わらず、3位がルクスタント海軍でタイムは2時間11分、4位がイーデ獣王国海軍でタイムが2時間18分、そして5位がフリーデン海軍でタイムが2時間26分であった。


 我が国の海軍はハープーンを使ったのでそりゃ速いが、まさか2位と3位で49分も差があるとは。

ミトフェーラの艦隊は距離15kmでの射撃を繰り返していたが、ルクスタント以下の艦隊は目標に至近距離まで近づいてからようやく攻撃ができていたのでその差は歴然だ。


 ミトフェーラと戦争になれば我が国以外の艦隊はおそらくなすすべなくやられるだろう。

そういえば前にグレースから軍艦の供与要請があったな。

これは本格的に供与を検討したほうが良いかもしれない。


「これで模擬砲戦を終了し、次は各国の航空戦力による模擬空戦に移ります」


 モレルが俺の隣にやってきて言う。

模擬砲戦をしている間に各国の翼竜、ガーゴイル搭載艦及び空母はそれぞれ分かれて展開し、開始の合図を待っていた。

今回の演習海域の北方に展開している大鳳、ニミッツ、ドワイト・D・アイゼンハワーの各航空隊は全機出撃の準備を整え、今に飛び立たんとしている。


「搭乗員、集合」


 大鳳の飛行甲板上。

航空隊指揮官の鷲野大尉が、各搭乗員を艦橋前に集めた。

彼らの後ろでは零戦六二型、及び模擬爆弾を搭載した流星が発動機を暖機運転して待っている。


「我々の目標は敵ガーゴイルの戦闘データ収集及び敵母艦の対空能力の確認だ。零戦隊は爆弾を搭載せずに純粋に戦闘機として敵を圧倒せよ。流星隊は模擬爆弾で敵母艦の甲板をペンキまみれにしてやれ!」


「「「「はっ!」」」」


「では全機出撃だ!」


 号令とともに搭乗員は愛機に向かって走っていく。

そして各航空機は順々に大空へと飛び立っていった。

同時にニミッツ等からもガルーダ、スコーピオン隊のF/A18E.Fが飛び立ち、敵に向かって飛行していった。


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