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第169話 いざ、ミトフェーラ魔王国へ

 イーデ獣王国の港を出港して2日後、艦隊はミトフェーラ近海を航行していた。

艦隊は単縦陣を組み、目標の港であるセクター軍港を目指す。

だが僚艦から、水上レーダーに反応があるとの報告を受けていた。


「水上レーダーだからクラーケンではない……そろそろ反応の近くのはずだがな」


 索敵機は飛ばしていないのでそれの正体はまだ分からない。

俺は胸元にかけている双眼鏡を覗いた。

すると、当該の反応の正体が何か分かった。


「あれは……軍艦か」


 空にもうもうと立ち上る黒煙。

その下には煙を吐いている張本人である多数の軍艦があった。

姿はまだよく見えないが、煙が出ていることを考えると内燃機関を積んでいる船であることはわかる。


「凄い隻数だな……あれ、なんで黒煙が立ち上っているんだ?」


 この前観艦式でミトフェーラの艦を見たが、その時には黒煙は立ち上っていなかった。

当たり前だ、あの機関は俺がエーリヒに譲渡したものをコピーした魔石式蒸気タービンだから。

魔石式蒸気タービンは物を燃やしていないため、排煙が発生することはない。


 あの煙の黒さを見るに石炭のような気がするが、どうなのだろうか?

それとも石炭とは違うまた別の燃料のようなものなのだろうか。

まぁエーリヒに会えたら聞いてみるとするか。


「司令、敵さんの艦影が見えてきますよ」


 俺の横に立った山下大佐が、目に当てていた双眼鏡を下ろして俺に言う。

俺はそう言われて一度おろしていた双眼鏡を再び目に当てた。

すると、先ほどまでは見えなかった艦影が段々と見えてくる。


「前部甲板に連装砲が1基……まるで最初期の戦艦を見ているようであるな」


 艦隊は徐々にそれらの艦へと接近していく。

そして複縦陣に展開しているそれらの間を航行して艦隊はすれ違う。

その間俺は艦橋から観察していたが、ミトフェーラの艦に乗る乗組員全員が俺たちに敬礼していることに気が付いた。


「おい山下大佐。大和の乗員と後続の艦の乗員に敬礼を返すよう伝えてくれ」


「大丈夫ですよ司令、もうやっています」


 俺は山下大佐に言われて下を見る。

すると大和の乗組員たちはちゃんと敬礼で返していた。

俺が言うまでもなかったな。


 その後艦隊はミトフェーラの軍艦の間を抜け、セクター軍港が目視できる距離まで近づいた。

軍港内には俺たちよりも先に着いていた他国の艦艇の姿があった。

その後、艦艇はミトフェーラのタグボートに押され、桟橋へと横付けされた。


「ここがミトフェーラ魔王国か……」


 俺はラッタルを降り、ミトフェーラの土地に足をつける。

魔王国だから空が真っ赤とかそういうことはなく、他の国と何ら変わらない姿であった。

海鳥たちが鳴きながら俺たちの頭上を飛んでいく。


 俺は少しの間セクター軍港を散歩した。

港には大勢の艦艇が泊まっており、ただ見ているだけでも楽しい。

一周グルっと回ったところで、俺は大和の前へと戻った。


「お、戻ってこられましたか。私はモレル、ミトフェーラで提督をしております」


 俺が帰ると、大和の前で1人の老人が待っていた。

彼は自身をモレルと名乗り、俺に頭を下げる。

彼いわく、魔王の勅命を受けて俺を迎えに来たのだという。


「ご苦労さま、だが少し待ってくれ」


「はい、もちろんでございます」


 俺は少し時間をもらい、大和の艦内へと戻る。

そしてイズンとオリビア、そして山下少佐を連れて外に出た。

他の艦には、連れて行く人物は大和の前に集合するようにと司令を出した。


 俺たちは再び外に出て、今回一緒に行動する人物を待つ。

しばらくすると他の艦からも呼ばれた人が出てきた。

呼ばれてでてきたのは近衛隊の隊員、すなわち第1小隊の面々であった。


「よし、これで全員揃ったな。では連れて行ってもらおうか」


「了解いたしました。ではこちらに」


 俺はモレルに連れられて送迎の馬車まで移動した。

俺の両隣にイズンとオリビアが座り、前には山下大佐が座る。

当のモレルは御者の席に座り、鞭を手に取った。


「大丈夫ですか? では出発いたしますね」


 そう言ってモレルは馬に鞭を打つ。

それと同時に馬はゆっくりと歩きだした。

その馬車の横と後ろを近衛隊がガッチリとガードしている。


「ねぇねぇルフレイ」


 イズンが俺の耳に囁いてくる。

そして彼女は俺の頭をぐいっと引いた。

そして彼女の口を耳に当てて言う。


「あの男……黒よ」


「黒って……そういうことか?」


「えぇ、微量だけれどもロキの残滓を感じる……あの人ももうダメでしょうね」


 そうか……やはりそうであったか。

この国、ミトフェーラにはロキが潜伏している可能性が大いに高まった。

一度影響下に入れば抜け出すことはできないのであろうか……


「ルフレイ様、これから魔王城にお連れしますがよろしいでしょうか」


「魔王城か……うん、何の問題もない」


「わかりました。ではこのままで行きますね」


 魔王城はロキのテリトリーであろう。

だが今回はイズンも伴っているし、何よりも内情を見ておきたい。

馬車はガラガラと車輪を鳴らしながら、ミトフェーラの町中を進んでいく。


『……先程よりも強いロキの残滓を感じるわ。でもロキ本体ほどの強い反応は見受けられないわね。まだ復活せずに何処かに潜伏しているのかしら』


 イズンが頭の中に直接語りかけてくる。

俺たちは魔王城の中を案内されていた。

中では両脇に魔王城のメイドが頭を下げて俺たちを出迎える。


『残滓が見られるって、個々の人間全員にか?』


『いいえ、メイドたちなどには見受けられない。でもたまに見える高官らしき魔族からは残滓が感じられるわね』


 たしかに先程からいくらかいい服を着た魔族を見てきたが、俺は特に何も感じなかったな。

やはり神である彼女にしかわからないことがあるのだろう。

オリビアたちはそんな事を考えることはなく俺たちのあとに付いてくる。


「こちらで魔王様がお待ちになられています」


 案内のモレルは大きな扉の前で停まる。

威圧感を感じる、非常に大きくて重厚な扉だ。

この先にもしかすると魔王にロキが憑依して待っているかもしれない、気を引き締めないと。


『ルフレイ、この奥、変よ』


『何が変なんだい?』


『まったくロキの残滓を感じない。魔王と言うからには高官中の高官のはずなのに不思議ね』


『まぁ取り敢えず入ってみんと分からんだろう』


 モレルが大きな扉を引いて開ける。

扉はゆっくりと開き、室内の光が漏れ出してくる。

そしてその先にいる、魔王の姿が見えてきた。


「おー! よく来たのじゃ。まぁ取り敢えずそこに座れい」


 中にいたのは、大きな角の生えた身長の低い女の子であった。

これが魔王なのであろうか? 想像していたのと違う……

俺は不思議に思いながらも、室内に入るのであった。


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