「機種判明!該当の航空機は”F/A18F”が2機、”Zero”が24機、”Grace”が30機、”Myrt”が3機です」
「”Zero”に”Grace”に”Myrt”? 聞いたことのない名だが、どこの機体だ?」
「Zeroはそのままゼロ・ファイター、Graceはリュウセイ、Myrtはサイウンだ。どれも大日本帝国の骨董品だよ」
「タイホウの攻撃隊か……まさか骨董品の部隊がこれほど頼もしく思えるとはな」
E-2Cホークアイの乗員たちはそう言って笑う。
大戦中の自国の敵国の兵器が、今や頼もしい味方であることを嬉しく思っていた。
彼らは近づいてくる頼もしき味方を迎える準備をする。
一方の六〇一航空隊の各機は皆高度を上げ、急降下爆撃の準備へと入った。
彩雲はそのままの高度を維持し、キングワームの上空へと侵入する。
そして翼下に急遽搭載されたとある兵器を投下した。
パァァァァ!
夜の闇は取り除かれ、まるで昼間のような明るさになる。
その明るさにキングワームの動きが鈍った。
好機だと捉えた六〇一空の各機は次々に急降下していく。
オオオオオオ……
急降下していく機体が風を切り裂く音が山間に響き渡る。
そして狙いをつけた流星と爆戦たちは抱えた爆弾を切り離した。
爆弾は自由に落下し、キングワームを襲う。
ヒュルルルル……
「さて……どうかな?」
機首を起こして急降下姿勢から回復した流星の搭乗員は、戦果を確認せんと後ろを向く。
すると800kg、500kg爆弾系54発が一気に炸裂し、辺りには爆音とともに爆炎が立ち上った。
立ち上る土煙のせいでキングワームがどうなっているのかはよく見えない。
「!」
土煙の間から、暴れまわるキングワームの姿が目に入った。
キングワームは何を思っているのかグルグルと回り続けている。
何が会ったのかと搭乗員は目を凝らすが、やがてその理由が判明した。
「ムカデの左側の触肢と目が潰れている……方向感覚が失われているのか」
搭乗員の考える通り、キングワームは方向感覚を失い、さらに爆音で動揺していた。
右にしかない触肢を頼りにそれは右旋回をずっと繰り返す。
暴れるように頭ももたげるが、流星たちに当たることはない。
その他にも先程のF/A18Eたちの攻撃により多少損壊していた装甲部にもヒビが入り、内側が露出していた。
また足も数本失われており、動きも鈍くなっている。
そんな状態でも動き回ろうともがくので……
ブチッ!
キングワームの胴体より半分が、傷の蓄積により千切れた。
体が半分になった状態でキングワームはまだ動こうとする。
だが内蔵類と頭部が隔離されたため、その動きは徐々に弱くなっていった。
「よし、かなり弱らせることができたな。大鳳と大和に打電、『ワレ、コウゲキニセイコウセリ』」
打電を終えた六〇一空は機首を南へと向け、母艦へと帰投していくのであった。
◇
その後、活動再開の可能性を払拭するべくニミッツとドワイト・D・アイゼンハワー所属のスーパーホーネットたちによって第二次攻撃がかけられ、キングワームの頭部が集中攻撃にさらされた結果、最早その体は原型を留めないまでに破壊された。
これによりキングワーム討伐作戦は成功したのだが……
「な ぜ こ う な っ た」
俺は今、イーデ獣王国の王城にて、多数の獣人の戦士たちに祝福されていた。
俺はアウグストスから感謝状と勲章をもらい、握手をしている。
こうなったのにはこんな経緯があった……
『はい、べオレトですが……』
「やぁ、キングワームの討伐、終わったよ」
「そうですか、お疲れ様です……って今なんと?」
「キングワームの討伐、終わったよ」
その後、べオレトは一旦通信を切った。
俺はキングワームへの第二次攻撃終了の報を受けると、彼に報告を入れたのであった。
しばらくした後、彼から折り返しで通信が飛んでくる。
「あの……ルフレイ陛下、それは本当ですか?」
「あぁ、今亡骸の回収に向かわせているよ。とは言っても全体は無理だろうけどね」
「ほ、本当ですか!? あわわ、取り敢えずアウグストス様に報告してきます……」
べオレトはそう言って再び通信を切った。
その後はアウグストスからや彼らを経由してギルドやらなど様々な場所から通信が来た。
で、俺は結果的に王都への呼び出しを食らったのであった。
出港の日を1日延期し、俺たちは再びイーデ獣王国の土地へと足を踏み入れた。
この前までと違うのは、アウグストスから港湾施設の全面利用の許可と一帯への一般人の侵入の禁止を約束され、タグボートを湾内に置いておくことも許可されたので、全艦桟橋へと接岸し、乗組員は半舷上陸を許された。
湾内はこの前までの第一機動部隊に加えて大和や大鳳ら旧式艦隊も合流したので賑わっていた。
各艦の乗員は砂浜でビーチバレーやら相撲やらを楽しんでいる。
本当は俺もそれに混ざりたいのだが、残念ながら迎えが来たようだ。
「ルフレイ陛下、お迎えに上がりました」
俺の前に綺羅びやかな馬車が4台止まり、中からべオレトが降りてくる。
そして1台目には俺とイズンが、2台目にはガルーダ隊、3台目にはスコーピオン隊、4台目には六〇一空の隊長が乗った。
俺たちを乗せた馬車は王城へと移動する。
王城に行く道でまず俺たちを出迎えたのは、沿道からかけられる歓声であった。
俺は馬車のから彼らに手を降る。
ガルーダ隊とスコーピオン隊の連中はこの馬車がオープン仕様であることを良いことに立ち上がって手を降っている。
六〇一空の隊長らはぎこちない笑顔で手を降っていた。
この列は馬車が王城の門をくぐるまで続いた。
だが門をくぐって王城の中に入ってからも大変であった。
中ではまた恐ろしいものが俺を待ち受ける。
中に入るとまず目に入ったのは、でかでかと飾られたキングワームの頭であった。
豪華な台座に乗せられてはいるが、顔面は度重なる攻撃により破壊され、原型をとどめていない。
だがそれでもこの巨大な虫の亡骸を恐ろしいと感じずにはいられなかった。
「やあルフレイさん! やってくれましたね〜」
アウグストスが満面の笑みで奥からやってくる。
俺は彼と挨拶を交わし、一緒に奥の部屋へと進んでいった。
イズンたちもその後ろについて奥の部屋へと入っていく。
パチパチパチパチパチ!!
俺が部屋に入った途端、大きな拍手で迎え入れられた。
左右に軍人らしき人や貴族らしき人がずらーっと並んで拍手している。
俺はその拍手の波の中を歩き、玉座があるところまでやってきた。
「皆のもの、静粛に」
アウグストスの一言で、場がしんと静まり返る。
彼の隣に控えている老獣人が、紫の布が被せられたお盆を持ってくる。
アウグストスはその布を取り払うと、中からは木箱がでてきた。
「私はキングワーム討伐の功績をたたえ、私の名のもとにイレーネ帝国皇帝ルフレイ=フォン=チェスター殿に大十字騎士団黄金勲章を、ガルーダ隊、スコーピオン隊、六〇一航空隊の全隊員に十字騎士団勲章を授ける!」
アウグストスはそう言うと、箱から勲章を取り出し俺の服につけた。
他の者達にも同様に1人ずつ勲章を取り付けていく。
いつの間にか俺の持っている勲章の数は3つになっていた。
「そしてガルーダ、スコーピオン、六〇一航空隊には部隊マークとして我が家の象徴である狼を入れることを許可する!」
パチパチパチパチ……!!
またまた拍手が巻き起こり、現在に至る。
感謝状も受取り、俺は貴族や軍人に手を降る。
その後少しパーティーを行い、俺たちは船へと戻った。
◇
「おかえりなさいませ御主人様。おや、また勲章が増えたのですね」
戦艦アイオワの艦長室、オリビアは俺の服をたたみながら言った。
俺は新しい軍服に着替え、自分の引き出しをゴソゴソと漁る。
その様子を不思議そうにオリビアは眺めていた。
「確かに俺の勲章は増えた。だが……」
俺は引き出しから出した紙包みを持ってオリビアのもとに行く。
そして俺は彼女に目を瞑っているように言った。
彼女は言われたとおりに目をつむる。
「ちょ、御主人様……そんなお腹の辺りを触らないでください……」
オリビアはあまりのくすぐったさに思わずをを開ける。
すると彼女は目に飛び込んできたものを見て驚いた。
しまったな、もう少し優しくやるべきであった。
「え……これって……」
「あぁ、どうにか君に感謝を伝えようと思ってね」
俺がオリビアの服につけたもの、それはこの前に買ったピンクの薔薇のブローチであった。
あの時は1つのブローチを買うのに小一時間ぐらいかかってイズンに呆れられたなぁ。
ピンクの薔薇の花言葉は「感謝、幸福、上品さ」などがある。
「勲章ではないが、どうか受け取ってほしい」
「もちろんです! 一生大切にします!」
そういってオリビアはブローチを大切そうに撫でるのであった。