目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第165話 姉妹の絆

 エレベーターは飛行甲板まで登り、再びパーティーの喧騒が耳に入ってくる。

エレベーターの前ではペトラがじっと立って待っていた。

ミラはひょこっと顔を出してペトラを見る。


「ミラ! やっぱりあなたなのね!」


「うげっ、ペトラ姉さまじゃん! なんで来ているの!」


 ミラは再び俺の背中に隠れる。

だがペトラはそんなこと関係ないとばかりにミラへと接近していく。

2人の物言い的に姉妹関係なんだろうか、あまり似ていないから気が付かなかったな。


「あーなーた! 私のために奴隷になったんでしょう!」


 ペトラはさっきまでの静かさはどこに行ったのか、ミラをまくしたてる。

ミラは耳をパタンと閉じてペトラの説教を遮断する。

そんなミラの耳を持ち上げてペトラはさらに話す。


「私の結婚のためになんで、なんであなたが犠牲にならないといけなかったの……」


 ペトラは泣き出してしまい、膝からガクッと崩れ落ちる。

そんな彼女のもとにアウグストスが飛んできて彼女を支える。

彼女の目にはたくさんの涙が溜まっていた。


「別に姉さんのためじゃないよ。私は悪魔の黒猫、名門の我が家の唯一の汚点だと散々お父様とお母様に言われていたし、自分から奴隷にならなくてもいつかはそうなっていたよ」


「だからといって自分からなる必要はないでしょう! 妹が悪魔の毛だから姉の結婚に影響が出るとか考えたんだったら容赦しないわよ!」


 ペトラは泣きながらミラの尻尾を掴む。

ミラは尻尾をひかれたことに驚いて全身の毛を逆立たせた。

するっとペトラの手からしっぽを抜き、俺の頭付近までミラは登ってくる。


「我が家はたしかに名門……アウグストス様との結婚は私が幼い頃から決まっていたわ。でもそんなところにあなたが生まれた。黒い毛を持って。……両親はひどく嫌がったわね、あなたの言う通り『我が家唯一の汚点だ!』ってよく言っていたわ。それでもあなたは私にとって唯一の妹、愛するべき妹なのよ」


「……」


「いいミラ、私はもう結婚したわ。もう何の心配もない。お願いだから、戻ってきて……私の妹でいて」


「姉さま……」


 ミラは俺の方から降り、ペトラのもとに寄り添う。

彼女は妹だが、泣きじゃくる姉の頭をそっと撫でた。

ペトラはハッとして頭を上げる。


「ミラ、あなた……」


「姉さまの言う通り、私は姉さまの結婚の障害になるのが嫌で自ら奴隷になった。そのことは何も後悔していないし、今姉さまが結婚できているのを見て嬉しく思っているわ」


「じゃあ……」


「でも私は戻らないわ、だって……」


 ミラは再び俺の肩に登る。

そして何を思っているのか知らないが彼女は俺の両頬をにょーんと引っ張った。

そしてニシシと笑って言う。


「私は使えるべきご主人を見つけることができたわ。私はこの人に一生ついていく」


 ペトラは少し黙った後、「そう」と小さく笑った。

ミラは再び肩から降り、ペトラの手を取る。

握られた自分の手を見た彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ1つ約束。姉さまは幸せに生きること。いい?」


「……そうね、約束するわ。でもそれはあなたもよ」


 ミラもその言葉に笑って強く手を握る。

少しだけ、彼女たちは他の人の存在しない、姉妹だけの世界にいた。

ミラはすっと手を離し、俺の隣にやってくる。


「そう言えば気になっていたのだけれど、ルフレイ様の何があなたをそこまで引き寄せるの?」


 ペトラはミラにそう質問する。

ミラはその質問にこう答えた。


「神聖な雰囲気がするから……かな? 姉さまも薄々気付いているでしょう? 私たちの家系は代々神官をやってきたことによって神聖なものに人一倍敏感。この人からはそのオーラがプンプンするでしょう?」


「あ、私、さっきからこの人の周りにいると何だか安心するような気がしていたのよね。その答えが神聖さ、か。昔からあなたのほうがそういうものに敏感だったしあなたが引き寄せられるのも納得がいくわね」


 え、俺そんなオーラ出していたの?

自分では全く意識していなかったが、どうやら感じる人には感じるようだ。

まぁともかく姉妹の仲もさらに深まったような気がするし、めでたしめでたしだな。


「ルフレイさん、妻がどうやら元気を取り戻してくれそうです。どうもありがとうございました。それと、妻の妹の主人になるのでしたら、ルフレイさんは実質的に私の義兄弟のようなものですね。何かあったらぜひ頼ってください!」


 アウグストスは俺に拳を突き出してくる。

俺はその拳に自分の拳をぶつけた。

そして彼の肩に手をかけて言う。


「よーし、また飲み直すぞ〜! アウグストスを付き合え〜!」


「勿論です! 骨も食べるぞ〜!」


「いや、食べる場所は骨じゃなくてだな……」


 そう言って楽しそうに料理を取りに行く俺たちをミラとペトラは嬉しそうに見ていた。

彼女たちもご飯を食べに行こうかとあるき出す。

すると後ろの方で大きな音がした。


「うん? なんだぁ?」


 俺は何の音かわからなかったので後ろを向いた。

するとそこには空へと上がっていく光の玉があった。

これはまさか……


 ドォォォォン!! ドォォォォン!!


 空に大きな炎の花が咲いた。

日本でもなかなかお目にかかれないであろうサイズの花火が炸裂する。

赤、緑、黄色……様々な色の花火が少し離れたところに停泊している空母ドワイト・D・アイゼンハワーから打ち上げられていた。


「ハハハッ! 工廠の連中め、またやってくれたな! 花火なんて作っている暇があれば兵器の一個でも作ってろ〜〜!! まぁきれいだから良いんだがな、ワハハッ!」


 俺達は夜空に咲く炎の華をつまみとしてビールを喉に流し込む。

花火は陸上の住民からも見えていて、その日は夜であったにも関わらず多くの人が外に出てきて花火を見ていた。

船上パーティーはまだまだ続く。





「本日はありがとうございました。本当に楽しかったです」


 時間は飛んで夜の11時。

俺たちはようやくパーティーをやめて解散という事になった。

アウグストスたちを送り届けるためのオスプレイが甲板で待機している。


「俺も楽しかったよ。またいつか会おう」


 俺とアウグストスは熱く握手を交わす。

そして次にペトラが俺の前に出てきた。

モジモジしている彼女の背中をアウグストスはそっと押す。


「! その、妹を幸せにしてあげてくださいっ!」


「ペトラ、何だかそれは意味が違うと思うよ」


「はっ! あわわわ……」


 ペトラはアウグストスに指摘されてあわあわしていた。

俺とアウグストスはそんな彼女を見て笑う。

ミラは笑いながら俺のお腹に頭を擦り付けてきた。


「では失礼します」


 アウグストスは右手を振ってオスプレイへと向かう。

ペトラとべオレトもそれに続けて歩き出した。

そしてべオレトが足をオスプレイにかけたときであった。


「? 通信珠が……少し失礼します」


 べオレトは通信珠を取って誰かと話をする。

話をする彼の顔は段々青くなっていった。

何事かと思っていると、彼は通信を切って俺たちに言う。


「その……ヴェルデンブラントとの国境付近の山でキングワームが出現したそうです……」


「キングワームだと!? あの伝説上の生き物がか!?」


 先にオスプレイに乗っていたアウグストスが降りてきてべオレトに言う。

俺にはキングワームは何か全く分かっていないのだが、どうやら事態は深刻そうだな。

全く、せっかく気持ちよく酒を飲んでいたのに空気の読めない魔物だ。


「そのきんぐわーむ?とやらはそんなにヤバいのか?」


「えぇ。非常に硬質な殻で覆われており、撃破は非常に困難です。復活すると国家が転覆するとも言われている魔物で……あぁ、どうしよう。すぐに緊急クエストを発令するか……?」


 どうやら思った以上にヤバい魔物のようだな。

せっかく俺たちがいるんだから助けてあげよう。

俺はそう言おうとしたが、俺よりも先に言った奴らがいた。


「そんな時は」


「俺たちに」


「任せてしまえ! ワッハッハ!」


 乗員たちが不思議なポーズをとってそう宣言する。

突然の出来事にアウグストスは混乱していた。

エレベーターは本来の荷物を積んで飛行甲板へと上がってくる。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?