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第164話 酒の宴、盛也

「ワハハハハ!! いいぞ、もっとやれー!」


 ニミッツの甲板の上では酒に酔った乗員たちのプロレスが行われている。

戦っている2人を俺たちはグルッと囲い、囃し立てる。

彼らのうちの1人が豪快に吹き飛ばされて甲板に叩きつけられた。


 本来空母の甲板は着艦のために鮫肌のようにザラザラとしているのだが、転んでは危ないと俺が薄ーく防御魔法を全体に張っているので問題はない。

俺は手に持っている骨付きのコカトリス肉のローストチキンを頬張る。

そしてもう片方の手に持ったビールでそれを押し流した。


 この世界の肉はその性質上腐敗するということがない。

そのためこうして遠洋に航海する際も美味しいローストチキンが食べれるというわけだ。

その肉の中でもとりわけコカトリス肉は最上のもので、滴るほどの脂を持っているのにくどくなく、その味は牛肉にまさるとも劣らない最強の肉なのだ。


「どうだ〜飲んで食っているか〜?」


 俺は隣で飲んでいるアウグストスの方を向く。

すると彼は既にローストチキンを食べ終え、残った骨に齧りついているではないか。

確かに肉は美味しいが骨は美味しくはないんじゃないかなぁと思い彼を見ていると、ぱっと目があった。


「うーん、骨は別に食べなくてもいいんじゃないかい?」


「あ、いや、その……私は犬型ですから。骨を食べぬ犬は居ぬ!……なんちゃって」


「ダッハッハッ! 何だそれ、腹が捩れるわ! じゃあ今度からは肉じゃなくて骨をボーンと出せばいいかな?」


「ほ、骨でボーン……クックックッ、もうやめてください、お腹が痛いです……フフッ!」


 俺たちはアルコールが回ってきているのかどんどんと陽気になっていく。

大阪人も笑わないレベルのダジャレにも笑えるほど俺たちは打ち解けていた。

本日3杯目のビール缶を手に取りプルタブを開けたところで、艦橋から誰かが出てくるのを見た。


「あら、子どもたちじゃないか。アイオワでじっとしているかと思ったがこっちに来ていたんだな」


 彼女たちはキョロキョロとあたりを見回し、誰かを探す。

そして俺を見つけた瞬間、だっと走り出した。

まずい……と思い俺はビールの缶を一旦机の上に戻る。


「「「「しれーーーー!!!!」」」」


 彼女たちは一斉に俺に向けて飛びかかってくる。

俺は何とか彼女たちを受け止めようと思ったが、受け止めきれず後ろにこけた。

そんな俺の上にドサドサと彼女たちは積み重なってくる。


「す、すまん……助けてくれ……」


 俺は何とか右手を外に出し、アウグストスに助けを求める。

俺の求めに応じて彼は俺の手を引き、なんとか立ち上がることができた。

その後も足元にすり寄ってくる彼女たちの頭を俺は撫でる。


「あの、この子達は一体?」


 アウグストスは不思議そうに聞いてくる。

うーん、なんと説明するべきであろうか。

まぁ歓楽街でとある人から引き取った子たちだという風に言おうか。


「あぁ、この子達は俺が偶然迷い込んだ歓楽街のある店にいた子たちでね。そこで会ったとある人から引き取ってくれないかと言われてね、それで引き取ったんだ」


「……つまりは売春婦の類であると?」


「まぁそうといえばそうだが誰も手を出されていないから売春未遂婦?かな。まぁ誰かに手を出される前に俺がこうして引き取れたから良かったがね」


 俺は再び彼女たちの頭を優しく撫でる。

撫でられた子は嬉しそうに目をつぶった。

あぁ、この笑顔が守れてよかったなと俺は思った。


「ルフレイさんにはどうやらこの国の暗い一面を見せてしまったようですね……」


 アウグストスか顔をうつむかせて言う。


「いや、売春街はどこの国にもできうるものだ。別に君が謝るようなことでもないだろう」


「でも薄々感じられたのではないですか? この国は格差社会であるということに。同じ種族でも毛並みや毛の柄、体格の大きさや力の強さで上下が決まります。その社会からあぶれた人たちの行き着く先があそこなのですよ」


 アウグストスは寂しそうにそういう。

毛並みや体格などで優劣が決まるのは動物にも見られるものだ。

別に見た目が近しいから劣っているよ言うつもりはまったくないが、ある意味動物性に富んだ獣人という人種の性質上DNAからその格差は刻み込まれているのかもな。


「ならば君が変えれば良い。まだ若いんだ、何だってできるさ。君が正しいと思い積極的に動けば国民も自然とそれに追従するだろう。なんたって君は一国の王なんだからな!」


 俺はそう言ってアウグストスの肩をバシッと叩く。

よく考えたら彼よりも若い俺に「まだ若いんだ」と言われる気持ちはどうなんだろうか。

嫌味と捉えられなければいいが……


「そうですね、そのとおりだと思います。……よぉーし、頑張ってみるぞ!」


 そう言ってアウグストスは席を立ち、机においてあったまだ口をつけていない俺のビール缶を手に取る。

そして彼は一気にその中身を飲み干した。

彼は机に空になった缶を置き、俺に向かっていう。


「ありがとうございました。おかげで目が覚めました。私、頑張ってみます。絶対成功すると信じて努力します!」


「そうだ。きっとその気持ちが国を変えていくだろう」


「はい! ……ところで子どもたちはこれで全員ですか? 気持ちとして彼女たちに何かプレゼントを用意したいのですが……」


 俺はそう聞かれたので点呼をする。

するとミラがいないことに気がついた。

俺はアウグストスに伝える。


「1人足りないな。まぁあの子は特殊な毛の色のせいで忌み嫌われていたらしいから、いくら俺たちが安心できるとは言え知らない人たちの前には出てこないだろうな」


「特殊な毛の色……ですか? 一体どんな?」


「えぇと、猫型の獣人で、毛の色は黒だ」


 俺がそう言うと、アウグルトスはハッとした顔になる。

なにか問題でもあるのだろうか? 彼は固まったままだ。

だが固まった彼の代わりに彼の妻のペトラが走ってやってきた。


「はぁ……はぁ……それ、本当ですか!? いたら会えますか!?」


「え、えぇ……多分」


 俺はその場にいた子どもたちにミラはどこかと聞いてみる。

すると格納庫にいるという声を多数もらった。

そこで血相を変えているペトラ王妃のために彼女を連れてくることにした。


「では連れてくるから少し待っていてくれ」


 俺は彼らと一旦別れ、エレベーターに乗って格納庫へと降りる。

格納庫の下では、ミラがボールを使って整備員と遊んでいた。

だが俺が降りてきたことに気がつくと、彼女はこちらへと駆け寄ってくる。


「ルフレーイ、何か用?」


「あぁ、実はミラに会いたいという人がいてね」


「えー、嫌だぁー」


 ミラは持ち前の身体能力で俺の方にヒョイッと乗ってくる。

だが彼女は誰かも知らない人に合うのが嫌なようだ。

あまり嫌がるようであればやめておいたほうが良いかもしれないが……


「ちょっとだけでも会ってくれないか? 俺の後ろに隠れてていいし、嫌になったらすぐに格納庫に帰ってきてもいいから」


「うー……まぁルフレイがそこまで言うなら……」


 ミラは渋々了承してくれた。

俺は足元に転がっていたボールを整備員に投げかえし、エレベーターに戻る。

そのまま俺たちは飛行甲板へと上がっていく。


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