場所は変わって旧式艦隊、空母大鳳艦上。
アイオワからのクラーケン発見の報を受け、艦載機の彩雲と流星が対潜哨戒のために発艦した。
各機体は艦隊の四方に展開し、敵を確認するが……
「駄目だ、大戦中の潜水艦は基本浮上しているから見つけられが、海底生物となると発見などできるはずもない」
対潜ソナーを持たない彩雲や流星では深海に潜む敵を補足することはできない。
そのためこの索敵は無意味なものであった。
だが何か他の敵がいるかも知れないので、各機哨戒行動は続ける。
「敵らしきものはいないなぁ――。何とも平和なもんだ」
「間違いない。俺たちを追ってくるグラマンもいないしよ」
「おいおい、グラマンがやってきても大丈夫だろう?『ワレニオイツクグラマンナシ』だぞ!」
「それもそうだ、ハハハッ!」
彩雲の搭乗員の3人はそんな冗談を言いながらも索敵を続ける。
そして彩雲は雲の影へと回り込み、一時海面が見えなくなった。
そして再び海面が見えるようになったとき、彼らは不思議なものを見た。
「おい、あれ……船か?」
「間違いない、それもかなり大きいぞ……」
彼らの眼下、海の上には1隻の大型船が航行していた。
だがそのあたりを今航行しているイレーネ帝国の軍艦はない。
となると一体どこの船であろうか。
「急ぎ大鳳に打電、『ワレ、フメイカントセッショクス』。平文で構わん」
「了解、打電する」
-・- --- --・・ -・・・- ・- ・-・・ ・-・-・ ・・-・・ ・---・ --・-・ ・・・- ---・-
旗艦の大鳳あてに電文が飛ばされる。
電文を打ち終えた後、彩雲は不明艦を確認するために 高度を下げた。
彩雲は高度200Mで不明艦の上空を通過する。
「写真、バッチリ撮影したぞ」
「よし、因みに艦に特徴のようなものはあったか?」
「そうだな、まずは旗だが掲げられていなかったため国籍は不明。大型のクレーンが複数搭載されているため工作船やサルベージ船の類だな」
そのまま彩雲はふたたび不明艦の上空を通過する。
座標も伝えたため、大鳳たち水上艦艇が当該海域へと駆けつけることになる。
それまでの間彩雲は上空で偵察を続行する。
「にしてもさっきから何度も通過しているが、誰一人として人間が居ないのだが……」
「それもそうだな、船があるのに人が居ないというのはおかしな話だ」
そんな話がコックピット内で交わされる。
エンジン音が聞こえたら1人ぐらいでてきそうなものだがおかしな話だ。
そんな中、真ん中に座っていた搭乗員がとんでもないものを言い出す。
「まさかとは思うが、乗員が全員死んで今は幽霊船として彷徨っている……とか?」
「そんな恐ろしいことを言うなよ。操縦の手が狂っちまう」
そんな冗談を言いながらも、彼らの心のなかにはもしかしたらそうなんじゃないかという思いが芽生えていた。
そんなことを思いながらも艦隊到着までの間、不明艦の上空を飛び続けた。
そして遂に艦隊が当該海域に到着し、彩雲は大鳳へと帰還した。
◇
「おーい、誰も居ないのかー。居たら返事してくれー」
海をまっすぐに突き進む不明艦。
その横を高雄が並走し、不明艦に対して呼びかける。
だがいくら呼びかけを行っても返事は帰ってこなかった。
「うーん、やはり偵察機の報告通り人が居ないのであろうか……?」
高雄の艦橋、艦長の森下大佐はどうするべきか困惑していた。
どうにかして国籍だけでも知りたかったのだが、結局近づいても何も書かれていなかった。
代わりに分かったのは船が上から見るよりも遥かにボロボロであったということだ。
「艦上構造物が所々ひしゃげたり、ガラスが粉々に吹き飛んだりしている。まるで核実験にでもあったような無惨な姿だ。そういえばこの前新型爆弾の実験をしたと聞いたが、その実験の結果であったりして」
森下大佐がそう考えている頃、高雄の甲板では強行突入の準備が行われていた。
あまりにも応答がないのは不自然だし、もし艦内で人が全滅しかけていたりするのであればすぐに治療が必要だからだ。
彼らはもし白兵戦になったときのために軍刀と拳銃を携え、高雄と不明艦に掛けられた板に足を乗せる。
「よし、突撃だ! 恐れず進めぇー!」
号令と同時に高雄の乗員が不明艦へと乗り移っていく。
だが人が乗り込んでも誰も何の反応もなかった。
取り敢えず彼らは艦橋の扉を開け、中に入る。
「うっ! こ、これは……」
そこには血を流して絶命している複数の人間の姿があった。
この世界で遺体が腐ることはないが、その遺体は艦内に忍び込んでいるネズミなどによってかじられ、所々穴が空いていた。
「なんてひどい状態なんだ、この船で一体何があったというのだ……」
「取り敢えず舵輪はどこだ、この艦の制御を行わなくては。遺体はその後だ」
彼らは舵輪を探して駆け回る。
すると乗り込んだうちの1人が、床に折れて転がっている舵輪を見つけた。
他の装置も軒並み壊れており、舵を取れないことを察した彼らは仕方がなく機関を停止させることにして、機関室へと向かった。
機関室へ向かう道中、艦内では多数の首吊り自殺をした遺体が見つかった。
みな空腹に耐えかねて自殺したようで、ガリガリになっているものがほとんどであった。
中には血文字で『お腹が空いた』『助けてくれ』などとなぐり書きされていた。
「見つけた、機関室だ。この機関の止め方は……こうか」
彼らのうちの1人がレバーを引いて機関を停止させる。
大きな音を立てていた機関はエネルギーの供給を絶たれ、停止した。
その様子に他のものは驚く。
「お前、この機関の止め方を知っているのか?」
「あぁ、何しろうちの国が作った魔石式蒸気タービンにそっくりだ。一度いじったことがあるからよく分かる。そしてこの機関を提供した国家で実用化できているのはただ1つ、ミトフェーラ魔王国だ」
「ミトフェーラ……この艦の調査が必要かもな」
その後、調査が必要と判断された不明艦は自力航行が不能なため高雄によってイレーネ湾へと曳航されることが決まった。
高雄の後部にワイヤーを設置し、それで不明艦を曳いて曳航する。
そして抜ける高雄の代わりに、定期メンテナンスを終えてブルネイ泊地に帰投しようとしていた大和が担当することとなる。
この不明艦は後に工廠部によってネジの1つまで検査にかけられるのであった。