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第158話 イカれた敵

 イレーネ泊地沖。

ミトフェーラ魔王国へと出港する第一機動部隊が朝日を浴びながら停泊していた。

俺は艦隊旗艦のアイオワに乗艦し、艦橋に立っている。


「司令、出港の準備が整いました。いつでもいけます」


「了解、ありがとう」


 今回は俺のミトフェーラ魔王国訪問に合わせて第一回国連軍の演習が行われることとなった。

その道中でイーデ獣王国にも寄港するスケジュールとなっている。

今回の参加艦艇は以下に記す。


・空母  ニミッツ

・空母  ドワイト・D・アイゼンハワー

・揚陸艦 サン・アントニオ

・揚陸艦 アメリカ

・戦艦  アイオワ

・巡洋艦 バンカーヒル

・巡洋艦 モービル・ベイ

・駆逐艦 アーレイ・バーク

・駆逐艦 バリー

・駆逐艦 ジョン・ポール・ジョーンズ

・駆逐艦 カーティス・ウィルバー

・駆逐艦 スタウト    

・駆逐艦 ジョン・S・マイケン

・潜水艦 バージニア

・空母  大鳳

・重巡  高雄

・重巡  愛宕

・軽巡  阿賀野

・軽巡  矢矧

・駆逐艦 秋月

・駆逐艦 照月


 今回は通常の第一機動部隊に加え、旧式艦隊の一部も参加する。

なぜなら相手の装甲艦に対しては砲撃かミサイルかどちらが効率が良いのかを知りたいからだ。

これらの艦艇はブルネイ泊地を出発し、道中のイーデ獣王国の港で合流する。


「司令、ブルネイ泊地の大鳳より打電です。『ワレ、ブルネイヲシュツゲキセリ』」


「ふむ、旧式艦隊はもう出港したのか。了解した、我が艦隊も出港と行こうか」


「出港よーい! 錨あげー!」


 艦隊に出港の号令が出される。

アイオワは錨を巻き上げ、出港の準備を整えた。

出港の準備ができ次第、タグボートにより湾外へと運び出される。


 イレーネ湾を出港した各艦は空母を中心に輪形陣を取り、アルマーニ海を突き進む。

航海に特に支障はなく、予定通り艦隊はイーデ獣王国を目指して進む。





「司令、僚艦より通信です。『ワレ、センスイカンラシキモノヲホソクス』。それも一隻だけからではなく全艦から報告が上がっています」


 潜水艦? いや、そんな物があるはずがない。

やっと動力船を作れるようになった程度の技術力で潜水艦が作れるはずがない。

となると、相手は深海生物だろうか……。


「相手の全長はどれぐらいだ?」


「えぇっと……全長200M程度とのことです」


 200Mだって!?

我が国の海軍の保有するバージニア級潜水艦よりも大きいじゃないか。

何ならオハイオ級よりも大きいぞ。


 そんな潜水艦がこの世界に存在するはずがない。

やはりクラーケンとか、リヴァイアサンとか、その類の深海の魔物だろう。

襲ってこなければいいが、襲ってきた場合はしっかりと対処しないとな――


「大変です司令! 先程捉えたものが突如後方を航行しているバージニアへ急接近を始めたとのことです!


「何だって!? 到達まで後どれぐらいだ!?」


「後15分かと!」


「えぇい、全火器の使用を許可する! 攻撃始め! バージニアを守れ!」


 水深約300Mの海底を猛スピードで泳ぐ魔物。

それは海に巣食う巨大な魔物、クラーケンであった。

長い眠りからさめたそれは付近を航行していたバージニアを餌だと思い込み、襲おうとしたのだ。


「Mk.54短魚雷を使用する。深度調停、300。魚雷発射管準備完了、いつでも撃てます!」


「よし、発射!」


 俺の合図とともに、アーレイ・バーク級の1隻からMk.54短魚雷が発射された。

発射された短魚雷は海面に着水し、そのまま目標へと向かう。

一方その頃深海のバージニアの艦内では……


「目標、依然として接近中!」


「えぇい、司令はなんと言っているのだ!」


「たった今全火器の使用許可が出されました! 迎撃しましょう!」


「了解、1番魚雷発射管、注水始め!」


 艦内はクラーケンの接近を受けて大騒ぎであった。

各員はそれぞれの持場につき、それぞれのやるべき仕事を行う。

そうこうしているうちに、魚雷発射管への注水が終わったようだ。


「注水終了、いつでも撃てます」


「よし、重魚雷発射! その後深度400まで急速潜航する!」


 魚雷発射管より、Mk.48重魚雷が発射された。

発射し終えたことを確認するとバージニアは魚雷艦を閉じ、急速潜航を行う。

今クラーケンには2つの魚雷が別々に迫っていた。


 場所は戻ってアイオワ艦橋内。

未知の生物の襲来に備えて艦隊は対潜陣形を取っていた。

両空母からは万が一に備えMH-60Rシーホーク艦上対潜哨戒機がMk.50短魚雷を抱えて飛び立った。


「司令、もうすぐで短魚雷が目標に到達します」


「そうか……」


 俺はアイオワの進行方向より左に45度、10時と11時の間を見つめる。

そして着弾の時間がついに訪れた。

海面が隆起し、黒いものを含んだ水柱が立ち上がる。


「命中を確認しました」


「やったか!?」


 俺は命中したと聞いて喜んだ。

だが海の中ではまだクラーケンは生き延びていた。

体の半分近くを失いながらも、まだなおその驚異的な生命力を発揮している。


「駄目です、目標以前移動を続けています。Mk.48魚雷との接触まであと30秒」


「頼む、どうにか倒れてくれ……」


 3、2、1、着弾……!

海面からまた巨大な水柱が伸びる。

だが今回の水柱は黒ではなく赤色であった。


「今度こそやったか!」


「どうやらそのようです。目標の反応が消滅しました」


 何とか難を逃れることはできたようだ。

俺はほっと胸を撫で下ろす。

しばらくしていると、海面にクラーケンの残骸が浮かんできた


「あれが海底に巣食っていた魔物か……かなりでかいな」


 海がクラーケンの血で赤く染まっている。

死骸の損壊ぐらいから察するに、イカで言うくちばしの部分に重魚雷が命中したようだ。

頭が吹き飛んだせいで足がアチラコチラに散乱している。


「おや、あれは目の玉か。よくぞ壊れなくそのまま残っていたな」


 俺は海面に浮かぶ巨大な黒い球を発見した。

それはあの巨大クラーケンについていた目玉であった。

その目は目とは思えないほどに澄んだ黒をしており、美しさはどんな宝石にも引けを取らないだろう。


「あの目の玉を戦利品代わりに回収しよう。イーデ獣王国へのいい手土産になるはずだ」


 MH-60Rが飛び立ち、4機がかりでクラーケンの目の玉を輸送する。

輸送された目の玉はアメリカの飛行甲板に乗せられ、しっかりと固定された。

艦隊はさらなる敵を警戒しながら海を突き進む。


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