大陸国家合同会議はその後2日の会議を終え、正式に終了した。
今後は大陸国家合同会議に変わり国際連盟が発足される。
最後の会議では以下のようなことが決定された。
①国際連盟発足における加盟国家の選定
大陸国家合同会議に参加しているルクスタント王国、イレーネ帝国、ミトフェーラ魔王国、イーデ獣王国、フリーデン連立王朝はそのまま引き継ぎを、敗戦によって離脱していたゼーブリック王国、ヴェルデンブラント第二帝国改めヴェルデンブラント王国の復帰が承認された。
②国際連盟の議場に関する選定
大陸国家合同会議は散発的に開催されており、そのせいで国家間の連携が弱かったことにより戦争を止められなかったことへの反省として、国際連盟は常設の会議を設置することとした。そのうえで議場にはイレーネ帝国が選定され、議場を設置することが決まった。そのためイレーネ帝国は議長国として国際連盟の盟主となる。
③ゼーブリック王国、ヴェルデンブラント王国への援助
敗戦し困窮している両国に最大二年間の援助を行う条約を締結した。そのうえで両国に内政干渉しないよう、各国間で相互に確認した。なお、輸送に関してはイレーネ帝国の航空機が担当する代わりに各国は空港の新規建設、その空港の使用権をイレーネ帝国に与えることとされた。
④国際銀行の設立
各国にて個別個別に管理されている金貨などを一括して管理する国際銀行を設立することが決定された。全国家でどれだけの硬貨が発行されているのかを確認するとともに、今後の単一通貨の紙幣への変更などを足並みをそろえてできるようにすることを目的としている。
⑤国連軍(UN)の設立
戦争を起こした当事国への報復攻撃を行うための国連軍を非常時に設立できるよう常日頃から各国家が少数の軍隊を国連軍として派遣し、共同で演習を行うことが決定された。国連軍は非常時には各国家の港などの施設を無条件で使用することが可能となっている。
⑥教育施設の充実
これまでは限られた人間のみが学園にて教育を受けてきたが、これからはどんな子どもでも教育を受けることができるように学校を建て、またそこで教えるための教師の育成を行うことを決定した。それに合わせて勉強したい人をイレーネ島に集めて教える大学を設立することとした。
……以上のようなことを決定、共同宣言として各国の代表が署名した。
会議の終了を受けて各人はルクスタント王国の軍艦『カイザー』に乗艦して、イレーネ等を去った。
俺は会議の終了に一安心し、椅子に腰掛ける。
「お疲れ様です。紅茶でもどうぞ」
皇帝執務室の書斎机の上にオリビアが紅茶を置いた。
俺はカップの持ち手を掴み、紅茶を口にいれる。
その後俺の机の上に追加で彼女は1枚の紙を置く。
「一体何だこの紙は?」
俺は紙を手にとって読む。
その紙には、盗聴部隊が傍受した通信に関する報告が書かれていた。
読み進めていくうちに、俺は会話内容の違和感に気がついた。
「この通信の発信源はヴィロンとのことだが、通信相手は不明な男か……だが我が王と呼んでいるあたり相手は魔王のようだが、魔王は女のはずだしな……」
俺にはどうもよく分からなかった。
もしかしてこの男こそが冥界神のロキなのか……?
そう考えていると、後ろに立っていたイズンが紙を覗いてくる。
「なぁイレーナ、この男ってロキだと思うか?」
「さぁね、声を聞いてみないことにはわからないわ。でも声を聞いたとしても変えている可能性もあるしなんとも言い難いわね」
たしかに文面だけではよく分からないわな。
そう思っていると、紙の下の方に『音声データあり』と書かれていた。
ならば一度聞いてみるのもありかもしれないな、ということで俺たちはその音声を聞くために椅子から立ち上がった。
◇
イレーネ帝国陸軍省。
王都の一等地に存在するこの建物の中に通信隊は存在した。
俺は陸軍省の中に入り、通信隊の部屋を開ける。
「ようこそお越しくださいました司令官」
彼らは早速俺を当該の音声が入っているパソコンへと案内する。
だが俺が聞いても仕方がないので、代わりにイズンに聞いてもらう。
彼女がヘッドフォンを装着したことを確認した後、通信隊は音声を再生し始めた。
「……なるほど、なるほどね」
イズンは音声を聞き終えた後、ヘッドフォンを外して机の上に置く。
俺は結果的にロキの声なのかどうかを聞いた。
だが彼女から帰ってきた答えは曖昧なものであった。
「うーん、なんとも言えないのよねぇ。声はロキのものじゃないんだけれど、その中にロキの残滓を感じると言うか……言うならばロキが何者かに寄生しているって感じな気がするわね。勿論証拠はないのだけれどもね」
ロキが何者かに寄生しているような感じがする……
俺も聞いてみたらなにか分かるかと思って聞いてみたが、特に何も分からなかった。
ただ唯一言えるのはその声がエーリヒのものではないということだ。
「今度招かれたのでしょう? その時に危険かもしれないけれど直接確認したほうが良いと思うわ。もちろん私が護衛としてついていくから安心しなさい」
「そうだな、まぁ今はそういう可能性があるということを頭の片隅に入れておくしかないな」
そういって俺たちは陸軍省の建物を後にするのであった。
◇
「ロキ様、良かったのですか?」
暗闇の中、誰もいない部屋でユグナーは呟く。
すると彼の顔の左半分だけがニヤッと笑った。
その様子はとても気味が悪いものである。
「何がだい? ユグナー」
ユグナーの顔の左半分だけがケタケタと笑いながらそういう。
だが右半分は一切笑っておらず、逆に不安な顔をしていた。
これはユグナーの顔の左半分にロキが寄生しているために起こっていることだ。
「イレーネ帝国のルフレイとやらをこの国に呼ぶことですよ。戴冠式に参列した時に神が現れたとかで専ら神の使徒だと言われておりますが」
「あー、イズンの使徒ねぇー。まぁ大丈夫っしょ、バレないようにすれば何ともないって」
「そうですか、それならばよいのですが……」
ユグナーは不安そうに言うが、相変わらずロキはケタケタと笑っている。
だが急にロキがケタケタ笑うのをやめた。
その代わりに彼の顔はニタっと、何かを企むような顔に変わった。
「それに……私の第一の復活まであと少しだ。ここを乗り越えれば私は力を使えるようになる。そうなった時には……」
「世界征服の始まり、ですね」
顔の右半分もニタっと怪しげな顔つきをする。
先ほどまで別れていた二人の顔は、今や1つの顔つきになっていた。
ユグナーの心はロキに同化しつつあった。