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第156話 通信傍受

 アーレイ・バーク級駆逐艦1番艦、アーレイ・バーク。

合衆国海軍の基幹戦力を勤める駆逐艦であり、我がイレーネ帝国海軍の新型艦隊の基幹戦力を勤める駆逐艦でもある。

イージスシステムを搭載し、艦隊の防空のかなめとなる頼もしい存在だ。


「これはアーレイ・バーク級駆逐艦です。多数の防空ミサイルを有していて、非常に高い防空性能を誇ります」


 とは言っても彼らにはミサイルが何だかわからない。

彼らに説明するべきかどうか迷っていると、アーレイ・バークから人が降りてきた。

彼はサッチャー中佐、このアーレイ・バークの艦長である。


「アーレイ・バークにようこそ、私は艦長のサッチャーです。今日は皆様にミサイルの実演をしたいと思います」


「サッチャー中佐、停泊しながら発射しても問題ないのかい?」


「問題ございません、それにもう標的機も飛ばしていますしね」


 そう言ってサッチャー中佐は空を指差す。

おそらくそこには高速標的機が飛んでいるのであろうが、残念ながら肉眼で確認することはできなかった。

彼は右手を上げて、左右に三回ずつ振る。


 それがミサイル発射の合図だったのだろう。

アーレイ・バークのVLSが開放され、中からSM-6が飛び出す。

飛び出したSM-6は弧を描きながら空の彼方へと飛んでいった。


「これがミサイルです。今発射したSM-6は艦対空ミサイルとなっており、接近する敵機を確実に迎撃することが可能です」


「空を飛ぶものを確実に撃墜だって? そんな夢のような兵器があるのか……」


 ヴィロンはそういいながら空を眺める。

彼の国、ミトフェーラはガーゴイルを運用するための母艦を保有しているが、対空ミサイルが存在する以上海上戦力としての優位性は失われる。

彼の中ではガーゴイル母艦は最強という自負があったが、完全に打ち砕かれた。


「そういえばミトフェ―ラ魔王国にはガーゴイルという航空戦力を運用することができるという船が存在するらしいですね」


 突然サッチャー中佐はそう聞く。

ちょうどガーゴイルのことを考えていたヴィロンは顔を上げてサッチャー中佐の顔を見る。

ヴィロンは彼に返事を返した。


「えぇ、たしかにありますが……それがどうか?」


「この国の海軍にも航空戦力を運用することができる艦艇が存在しています。ぜひご覧になってください」


 そういった後、サッチャー中佐はペコリと一礼して艦内へと戻っていった。

俺たちはせっかくサッチャー中佐が言ったことだしと、揚陸艦と巡洋艦を飛ばして空母へと向かう。

空母用の桟橋では、ニミッツ級の四隻がその巨体を休めている。


「これがその艦、なんて大きいんだ!」


 べオルトが桟橋に立って空母を見上げる。

すると空母のサイドエレベーターが下がってき、さらに下がってきたエレベーターからラッタルが降りてくる。

艦に乗れという意味なのだろう、俺たちはラッタルを登ってエレベーターの上へと移動した。


「おぉ! 登っているぞ!」


 ユリウスは上昇を始めたエレベーターにテンションが上っているようだ。

そのテンションに答えるようにエレベーターも上がっていく。

そのまま俺たちは飛行甲板まで上がってきた。


「これが我が国の母艦と同じ働きを持つ艦……いや違う、大きさも搭載しているものも何もかも桁違いだ」


 ヴィロンは空母を見て頭がさらにくらくらし、よろよろとよろける。

何とか立ち直った彼は、その後唐突に何かを考え始めた。

考えがまとまったのか彼は頭を上げ、俺の方へと歩いてくる。


「ルフレイさん、いや、ルフレイ陛下」


「どうしたんだい? 急にそんなかしこまって」


「お渡ししたいものがございます」


 ヴィロンはそう言って1枚の封筒を取り出して俺に渡す。

どうやら手紙のようだが、差出人は書かれていなかった。

俺は印籠を外し、中の手紙を取り出す。


「ふむふむ……」


 その手紙には、ミトフェーラ魔王国へ俺を招待する旨が書かれていた。

別に俺がミトフェーラに行くのは良いんだが……

問題はなぜ今俺にこの手紙を渡してきたかだ。


「言いたいことは分かった。で、なぜ今このタイミングで渡そうと? 昨日でも別に良かったんじゃないか?」


「それには理由がございまして……」


 理由? ただの招待状を渡すための?

俺にはどんな理由なのか想像もつかなかった。

ヴィロンは俺に理由を伝える。


「お恥ずかしい話なのですが、私がこの国に来るまではまだあなたの国のことを疑っていました。観艦式の話を聞いた後でも」


「うん、それで?」


「で、この招待状なのですが、ミトフェーラに呼ぶに足りうる軍事力を持っていると判断した場合にのみ渡してこいと言われていたのです」


 ミトフェーラに呼ぶに足りうる軍事力を持っていると判断したとき……か。

どうも上から目線な考え方な気がするな。

それほど舐められていたということであろうか、ならば今回の会議はその考えをへし折るいい機会だったのかもしれないな。


「言いたいことは分かったが、何だか無礼な気がするんだがな」


「その点は申し訳ございません。我々の驕りでした」


 そう言って彼は頭を下げる。

だが俺もミトフェーラの内情は気になるし。

行ってみるのもありかもしれないな。


「無礼だという件のことは水に流そう。そして魔王国への訪問の件は検討させてもらう」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 ヴィロンはそう言って手を握ってきた。

喜び過ぎなのか、彼の手を握る力は相当のものであった。

その後、俺たちは空母を降りて他の艦の視察へと動く。





『で、例の国の軍事力はどんなものなのだ?』


『はい、かなりのもの、それも我が国を凌ぐものであるかもしれません』


 先日の夜、イレーネ島にある魔導通信の傍受施設。

島の外への通信が引っかかったので、盗聴の体制に入っていた。

スピーカーを通して聞こえてくる声に、盗聴要員たちは耳を傾ける。


『そうか、ならば例の手紙を渡してこい』


『わかりました。我が王』


 その声から発信側がヴィロンであることは突き止めたが、もう片方が誰かはわからない。

それよりも頭頂葉員の頭には1つの疑問符が浮かんでいた。

それは……


「我が王? ミトフェーラの魔王は女じゃないのか?」


 彼らは疑問に思い、話し合うが答えは勿論出てこない。

その後すぐに通信は終わり、同時に盗聴も終わった。

盗聴要員は後で俺に伝えねばと思うのであった。


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