目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第155話 轟く汽笛

 いろいろなことがありすぎた結果、本日の会議は一旦中断という流れになった。

ベオルトらは半ば放心しており、すごすごと割り振られている部屋へと帰っていった。

明日は気分転換もかねてみんなで島内を散策することになっている。


 俺は人がいなくなった後の鏡の間を片付け始めた。

だがすぐにメイドたちがそれに気が付き、俺が片づけをすることを止めた。

鏡の間から彼女らに締め出された俺は、仕方がなく廊下を歩く。


「ルフレイ」


 後ろから聞こえてきたのはイズンの声だった。

彼女は俺の隣につき、俺と一緒に歩く。

イズンは片付けをしなくてもいいのだろうか? まぁ神様が片付けをするほうがおかしいのだが。


「どうしたんだイズン、片付けはしなくてもいいのか?」


「誰かに聞かれる可能性のある場所ではイズンじゃなくてイレーナと呼んで頂戴、誰かが聞いていたら困るわ。それと私はあなた専属のメイドだから、掃除よりもあなたの近くにいることのほうが大事なのよ」


 そう言ってイズンはメイド服の袖につけている袖章を見せてきた。

オリビアと同じく金色の刺繍であるが、デザインが若干オリビアのものと変更されている。

にしてもよくオリビアが専属メイドの座を譲ったなぁ。


「それは良いとして、少しあなたに話があるの」


「何だい?」


 イズンはぴたっと足を止める。

俺もまた彼女に合わせて足を止めた。

俺はイズンの方を向き直り、彼女の顔をじっと見つめる。


「あなた、あれは少しやりすぎよ」


「あれって、どれのことだい?」


「あなたが使節の人たちに見せた映像よ、あれではあなたが武器を背景に恐怖で政治をする人間に見えてしまうじゃない。たしかに私は軍事力で世界に安全をもたらしてほしいとは言ったわ、でも決して恐怖政治をしてほしいという意味ではないの」


 俺はイズンの言葉に衝撃を受けた。

まさかそのように捉えられるとは、露ほども思っていなかった。

何ならむしろ素晴らしい交渉カードだと喜んで使用していた。


「そうも捉えられる可能性があるのか……失念していた、すまん」


「今回は私が壮大な演出で別の印象を与えて有耶無耶にしてあげたけれども、今後は気をつけることね」


 そう言いつつイズンは歩き始める。

……まさかあの『歓喜の歌』のときの演出はイズンからのフォローだったとは。

俺ももっとよく考えて行動しなければいけないな。


「助かったよ、ありがとう」


「……どういたしまして」


 俺もイズンの後を追って歩き始めた。





 ――翌日の朝、王都の大通りにて。

俺とイズン、それに使節団の全員で散策がてら通りを歩いていた。

道の脇には荘厳かつ華麗な装飾の施された建物が立ち並ぶ。


 そのまま歩いていくと、だんだんと町の中心に差し掛かってきた。

町の中心、かつ大通りの中心にはフランスをイメージした放射状に伸びる道の中央には凱旋門が置かれている。

最初期には景観だけの目的で作られようとしていたが、今は三カ国戦争での勝利を称えるための門へと切り替わっている。


 使節団はいちいちいろんなことに驚きながらも進んでいく。

少し進むと、急に目の前に泊地と大海原が広がった。

俺達が今目指しているのはあそこだ。


「よく見えるな、イレーネ湾泊地」


 昨日のこともあったので今日は軍事的なものからは距離を置こうと思っていたのだが、どうやらべオルトたちは泊地をどうしても見たいようで結局泊地見学という流れになった。

別に泊地を見られたところで技術が流出するとかはないから別にいいのだが。


「えぇ、もう楽しみになってきましたよ」


 横でべオルトが楽しそうに目を輝かせる。

だが目を輝かせていたのはべオルトだけではなく、ヴィロンもであった。

ユリウスは顔に出さないからわからないが、歩く速さがさっきよりも早くなっているのでもしかしたら楽しみなのかもしれない。


 そのまま俺達はまっすぐ泊地へと歩みを進める。





「総員、敬礼!」


 大和艦長山下大佐の号令で、大和の乗組員が敬礼で俺達を出迎える。

本来大和はブルネイ泊地を母港としているのだが、今日は塗装の塗替えなどでこちらの泊地のドックにたまたま入港していたため今日は彼らが案内役を請け負ってくれた。


「彼は山下大佐だ。あそこに見える大和の艦長をしている」


 俺はそういいながら大和の方を指差す。

大和は少し離れたドックに入渠していたが、その存在感は圧倒的であった。

そして今日は戦艦の定期検診の日なのであろうか、横には大和以外にも武蔵、陸奥、長門、扶桑の順番にドックに入っていた。


「あれが船ですか……海に浮かぶ鉄の城にしか見えません」


 ヴィロンはそういって溜息を漏らす。

彼が戦艦を鉄の城と呼ぶのもよく分かる。

特にミトフェーラは鋼鉄艦を持っているからこそ、その技術力の差により驚くのであろう。


「あれが気になるかい? あれは戦艦大和だ。だがあれの見学はまた後でするとして……まずはこちらだ」


 俺は大和とは反対側を指差す。

その方向にはドックではなく桟橋があり、多数の艦艇が停泊していた。

特に奥に控えている空母4隻が頭一つ抜けて大きな艦艇となっている。


「では行きましょうか」


 山下大佐は俺達の先に立って歩き始める。

他の大和の乗組員たちは使節の人間一人ひとりに解説役としてついた。

そのまま俺たちは潮風香る浜辺を歩いていく。


 ボォォォォ――ッ


 俺たちが近づくと、停泊中の各艦が一斉に汽笛を鳴らした。

汽笛に慣れていないべオルトたちはその音に驚きビクッと体を震わせる。

そんな彼らに山下大佐は笑いながら言った。


「あれは汽笛と言います。今は皆さんの来訪を歓迎しているから鳴らしているのですよ」


 敵意はないと知ったべオルトたちはほっと胸をなでおろす。

彼らの一部はその声をクジラ型の魔物の鳴き声か何かだと思っていたようだった。

そんな事がありながらも、俺たちは最初に観覧するイージス艦、アーレイ・バークの下までやってきた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?