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第153話 圧力外交

「こ、国際連盟とは一体……?」


 俺の大陸国家合同会議廃止の宣言を受け、一同驚愕する。

彼らは俺が何を考えているのかよくわかっていないようであった。

俺はそんな彼らに俺の考えを説明する。


「先ほども言いましたが、国際連盟とは大陸国家合同会議よりもより強固に国家同士が結びつく組織です。加盟国同士はお互いを助け合い、ともに発展していくことを目標にします」


「で、でもそれではいまの大陸国家合同会議と何も変わらないのでは?」


 ベオルトとは意味が分からないとばかりに聞いてくる。

他の面々も腕を組んで首を傾げている。

俺はさらに説明を進める。


「その大陸国家合同会議に足らないものを足したものが国際連盟です。具体的にはそうですね……戦争を起こした国家への他の加盟国による軍事的制裁などですかね」


「それでは大陸における全面戦争を助長することになりませんか?」


 ヴィロンはそう言う。

だが俺はこれが全面戦争を助長することにはつながらないと思う。

むしろ戦争を回避できると思っている。


「いや、むしろ逆です。こうすることによって戦争は回避できるでしょう。もしどこかの国が戦争を始めれば加盟国全国家を敵に回すことになりますからね。そうなれば当然当事国は滅びることになるでしょう。ならば戦争を起こすメリットが全くないと思いませんか?」


「た、たしかに……」


「それに、もしどこかの国が戦争を起こせば我が国はその国を全力で潰します。その先に待っているものをいまお見せせましょう」


 俺は両隣に控えていたイズンとオリビアに指示を出す。

しばらくして彼女らはこの前と同じくテレビを持ってきてパソコンに繋ぐ。

その場の使節団はぜーブリンク王国のときのそれと同じ反応をテレビに示す。


「今からある映像を見ていただきます。これはもし戦争が起こった時には、あなたが他の国に起こり得ることですのでよく見ておいてください」


 俺はパソコンの再生ボタンを押した。

最初のテロップが流れ、その後映像に切り替わる。

それはこの前の魔石爆弾の実験時にRC-135から撮られた映像だ。


 真っ暗な画面の中央に突如巨大な火球が現れ、あっという間に拡大する。

火球が収まった後、画面の中には巨大なキノコ雲が形成されていた。

べオルトらはその映像を前に開いた口が閉まらなかった。


「こ、これは一体……?」


「どんなものかを言うことはできませんが、我が国が保有している兵器です。あの攻撃一回で町を丸ごと1つたやすく吹き飛ばすことができます」


「何だと!? 町を丸ごと1つ破壊可能だって!?」


 ヴィロンが大声を上げて立ち上がる。

周りの視線を感じて彼は座ったが、周りの人間も同じく叫びたい気持ちに駆られていた。

彼らは未知の威力を持った兵器に理解が追いつかないのだ。


「あまりこういう事を言うのは脅迫じみて好きではないですが、我が国はいつでもどこでもこの兵器を投下することが可能です。私がやれと言ったらあなたがたの国の首都にも落とすことが可能です。あなたがたの国と国民の運命は私が握っているのですよ?」


「っつ……!!」


 ヴィロンは言葉に詰まる。

彼は自国の運命が他国の皇帝に握られているということを知り、無力感を覚えていた。

だが俺はそんなことをするつもりはもちろん微塵もない。


「もちろんそんなことをするつもりは微塵もないですが、それだけのことが可能である力を持っているということだけは覚えていてください」


「抑止力、それも我々の軍事行動を制限して平和を維持し続くることができるほどの強大な抑止力ということですか」


「そうです。この抑止力を用いて大陸から戦争をなくす、これが国際連盟の機能であります」


 べオルトらは頭を抱えて机に肘をつく。

彼らには相当ショックなことであったようだ。

だがもうこれで安易に戦争を起こすことはできなくなるはずだ。


「…他には」


「?」


「他には国際連盟の機能はないのでしょうか? ただ軍事力で抑圧するだけの存在なのですか?」


 ユリウスがそう聞いてくる。

俺は前に言った気がするが、あくまでも国際連盟は各国とのつながりを強めるための存在だ。

その中の1つに軍事制裁があるに過ぎない。


「いえ、その他に平和的な活動も行っていこうと思っています。今考えているもので言うと『教育の拡大のための学校建設』『教職員の確保』『各国の道路整備、および商業の活発化』などです。これらのことを我々は進めていかねばならないと思います。というかむしろこれらがが一番の機能ですよ」


「なるほど、戦争をなくし、さらに戦争のない平和な世界での子どもたちの生き方を教える。素晴らしい考えだと思います。ルフレイさん、私は国際連盟制に賛成します!」


 俺とユリウスはお互い固い握手を交わした。

その様子を見ていた軍務卿もまた国際連盟制に賛成する。

残った二カ国の代表も唸り声をあげつつも、遂に答えを出したようだ。


「我が国は、大陸国家合同会議制を廃止して国際連盟制へと切り替えます!」


「我が国も、その案に賛成します」


 こうして満場一致で大陸国家合同が異議を廃し、あらたに国際連盟が発足された。

俺があらかじめ用意しておいた国際連盟設立の共同宣言に全国家がサインをする。

これにより正式に国際連盟体勢が始まった。


「では、国際連盟の設立を祝して一曲お送りしたいと思います」


 俺は手をパンパンと二回叩き、合図を送る。

するとその合図に反応して部屋の中に着飾った人たちが入ってきた。

彼らはクラウスの指揮する音楽隊であった。


「ではお聞きください。交響曲第9番より、『歓喜の歌』」


 有名な第九の譜に歌詞を乗せた『歓喜の歌』を彼らは演奏せんとする。

『歓喜の歌』は欧州連合の歌としても使われているので、国際連盟でも連盟歌として採用しようと思ったのである。

だがそれに聞き耳を立てていたイズンが『歓喜の歌』を聞いてやらかすとは、このとき想像もつかなかった。


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